農業を通して地域資源を守っていくこと
西田尚夫さん 一般社団法人 松永あんじょうしょう会代表理事
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営利の農業と地域資源の維持の両立を目指して
土地改良とあわせて2005年に小浜東部営農生産組合を立ち上げた西田さん。しかし10年も経つと再整備した土地以外での荒地が目立ち始めます。よって後継者問題や農地中間管理機構の活用など、2016年に改革のスタートを切りました。その後、地区の耕地面積182haに対して、96ha(53%)だった集積率が135ha(74%)にまで上がったのです。
当初設立した小浜東部営農生産組合を「株式会社永耕農産」に名称変更し、60歳以下の4人に引き継ぎました。また同時期に、水路の維持管理や草刈りなど遊休農地の整備を行う組織として、多面的機能支払交付金を利用して運営する「一般社団法人あんじょうしょう会」を設立しました。
兼業農家が多いこの地域では、60歳の定年後に農業に関わる人が増える背景があります。まずは永耕農産で約10年農業に従事してもらい、体力的にも厳しくなる70歳以降はあんじょうしょう会に入って地域の資源を守っていきます。これには西田さんたちの「水田の外を守るのは大変。営利の農業と両立はできない」という想いがベースとなっています。その想いをかなえるために取り入れたのが長野県で行われていた2階建て方式。1階には「地域の資源を守る団体」、2階には「営利を目的とする会社」というスタイルです。
地域が代替わりしながら守られていくために
2017年に60歳以下のメンバーに代替わりした永耕農産は、同時に2名の若手を採用しました。1人は滋賀県から移住した山元藍さん。もう1人は農業をしたいと戻って来たUターンの岡本竜平さんです。この2人は将来の経営者で、あと数年で引き継ぎたいと西田さんは考えています。今の役員メンバーがまだ並走できるうちに代替わりを実現して、永耕農産を、そして地域の水田を、想いを持って守っていって欲しいのです。そして、もう1つの組織、あんじょうしょう会でも次の地域を守るリーダーの育成を検討しています。「営利ではない組織の場合、初代は想いを持って周りを巻き込んでやっていけるが、それを次に繋ぐのが一番難しい。ただ、あんじょうしょう会には、永耕農産から水田周りの管理の大切さをわかっているみなさんが加わってくるし、地域を大切にしたいという共通の想いがある。だからこそ信頼関係を築ける人を絶え間なく養成していくことができるのです。」
農地だけではなく家、そして集落を守っていく
松永地区の奥に池河内という地区がありますが、ここも土地改良区に入れて西田さんたちが農地を整備してきました。「農地を守るということは家を守るということ。そうしないと帰るところがなくなる」と西田さんは言います。実際に整備を続けて来た池河内は奥地にあるにも関わらず、松永地区の中で一番子どもが多い地区になっています。家が守られていたことで若い世代が帰って来たり、そのまま残っていたりで、子どもが増えてきました。
現在10a以下の水田は採算が取れないので、営利を目的としている永耕農産ではなく、あんじょうしょう会が受け持っています。人が減っていき空き家も増え、高齢化で一人暮らし世帯も増え、管理ができなくなった農地を、あんじょうしょう会が守っているのです。ただ、すべてをあんじょうしょう会で受け持つのではなく、地区内の8つの自治会にも年に2回ほどの草刈りを依頼しています。自分で農業ができる人には、農地を貸し、収穫した農産物の一部を永耕農産が運営している水土里直売所で販売してもらっています。それができない人にも自分たちの農地だと意識してもらうために、あんじょうしょう会から日当を支払って年に2回ほど草刈りなどの作業を依頼しています。
地域の未来のためにできること
数年前に松永地区の小学校が統廃合でなくなり、子どもたちは隣の地区に通うようになりました。地域の未来を担う子どもたちに地区を認識してもらうため、永耕農産の岡本さんを中心に「まつなが里山楽校」を開催し、田植えなど農業に触れる機会をつくっています。
あんじょうしょう会の仕事は多岐にわたります。草刈りなどの整備や水路の維持管理だけでなく、地域の資源を活用したビオトープの整備、地域の食や自然、暮らしなどを体験できる施設の運営、そこで使う農福連携で行っている畑のお手伝いなども行っています。「地域の資源を大事にしていくということは、地域のあらゆるものがつながってきて大事になる。あれやこれやと言わずにすべてをうまいことお手伝いできたら」と話す西田さんが見る先には、「永遠に耕す」ことを誓った「永耕」の石碑がありました。
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