技術が切り拓く、農林水産業の環境イノベーションフォーラム
2019年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」では、2050年までに温室効果ガスの排出を80%削減するという長期的目標の実現に向けて、大胆に施策に取り組むとしております。
農林水産業についても取組を加速化していくことが求められており、本フォーラムでは、脱炭素化社会の構築に向け、農林水産分野の環境イノベーションを創出するための、研究機関や企業による革新的な温暖化対策技術や取組を紹介しました。
(フォーラム概要1:オープニング・第1部「革新的な技術・取組紹介」)(再生時間 5分20秒)
(フォーラム概要2:第2部「質疑応答・意見交換」、クロージング)(再生時間 7分49秒)
1.開催概要
日時:令和元年12月10日(火曜日)14時00分~17時00分(開場13時00分)
会場:農林水産省 本館7階 講堂
所在地:東京都千代田区霞が関1-2-1
出席者数:140名
(会場の様子)
2.内容
オープニング



第1部:革新的な技術・取組紹介
(1)CO2吸収源対策の新たな選択肢 ~ブルーカーボン~(PDF : 3,974KB)
(分割版1(PDF : 1,763KB) 分割版2(PDF : 1,932KB) 分割版3(PDF : 1,708KB) 分割版4(PDF : 1,693KB))
堀 正和 国立研究開発法人水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所主任研究員
CO2吸収源対策の新たな選択肢として、海洋の植物のCO2吸収機能に着目した「ブルーカーボン」の研究について紹介されました。
(2)環境木化都市の実現に向けて W350計画(PDF : 3,703KB)
(分割版1(PDF : 1,801KB) 分割版2(PDF : 1,625KB) 分割版3(PDF : 1,323KB))
中嶋 一郎 住友林業株式会社理事 筑波研究所長
高層建築物等の木造化を通じ、「環境木化都市」の実現に向けた構想について紹介されました。
(3)農山漁村での地産地消型エネルギーシステムの構築 ~ソーラーシェアリング~(PDF : 5,026KB)
(分割版1(PDF : 1,584KB) 分割版2(PDF : 1,957KB) 分割版3(PDF : 1,746KB) 分割版4(PDF : 1,313KB) )
生津 賢也 一般社団法人ソーラーシェアリング協会ビジネスコンサルタント
農山漁村での地産地消型エネルギーシステムの構築につながる取組として、「営農型太陽光発電」の取組について紹介されました。
(4)サーキュラーエコノミーの実現 ~食品ロスに新たな価値を~(PDF : 1,951KB)
髙橋 巧一 株式会社日本フードエコロジーセンター代表取締役
食品廃棄物を再生利用した家畜用飼料「エコフィード」の製造を通じて、廃棄を出さない経済循環の仕組みとして注目を集めている「サーキュラーエコノミー」を実現する取組について紹介されました。
第2部:質疑応答、意見交換

(質疑応答、意見交換の様子)
コーディネーター:

パネリスト:

【ブルーカーボン】
――藻場が消失する原因はなにか。
今は中国四国地方より南の地方の被害が大きい。水温が高くなると、藻の繁殖がうまくいかなくなる。海藻・海草を食べる魚が南の方から上がってきて、藻場が十分な大きさに育つ前に、それらを食べるようになってしまうためだ。
――藻場を増やすための方策として、どんな方法があるか。
藻場を増やすには、良い核(供給源)となる核藻場をつくることが重要だ。例えばアマモは広範囲に分散することが特徴である。例えば、東京湾の富津干潟周辺のアマモの種は静岡あたりまで拡がっていく。
――温暖化進行(気温上昇)時の藻場等の二酸化炭素吸収量の変化はあるか。
水温が1℃上昇するとどれだけ二酸化炭素の吸収量が上がるのかという研究に現在取り組んでいる。今年度末までには、環境変動とブルーカーボンの吸収量の変化についての研究成果が得られる見込みだ。
――吸収源対策としてブルーカーボンをカウントする可能性について、海の中で起こっていることをどのように検証していくかも含めて教えてほしい。
ブルーカーボンが吸収源としてGHGインベントリに入るように、私たちもデータを収集するなど研究に取り組んでいる。
ブルーカーボンの難しい点は、陸上の森林と違って、海の中の様子を目で見るのが大変なことだ。海岸線は文字通り線であって、面的に見ることは難しい。人工衛星を活用して、藻場の面積把握を行っているが、海の中で起こっていることを正確に把握する技術はまだ十分でない。この部分の技術革新について、この数年のうちに到達できるように取り組んでいきたい。
IPCCガイドラインでは、吸収係数と活動量の2つのデータが必要だ。活動量は面積であり、他方、吸収係数をどう上げていくか、どういう環境でどういう吸収係数を得られるのか、環境条件との関係がまだはっきりしていない。その点を明らかにしていかなければならない。
中嶋 一郎 住友林業株式会社理事 筑波研究所長

【環境木化都市】
――鉄筋と比較して木造化のコストはどのくらいかかるか。
コストの問題は建物の性能内容と用途仕様によるため、単純に鉄と木材の差では表せない。仮に性能を問わずに同じプランで建てれば、木材の立米単価は鉄の約1.5倍である。ただし、5階建てクラスの建物で、建物の性能と将来の補充やメンテナンスも含めて考えれば、1.5倍の差をもっと縮められる。5~6階建てクラスの建物の木造化は、コストが一番大きな焦点。そこはカバーできるようにしたい。コストを別の観点で見たときに、例えば、木造ゆえに人のパフォーマンスがよくなるなど、価値の部分に置き換えていけるように研究開発を進めている。
――その価値を上げて、高く買ってくれるように作っていくというのも一つの方策では。
南半球の事例であるが、RCビルから木造ビルに移転した企業の3年後のデータでは、従業員の疾病に伴う休職率が下がったという報告もある。木造ビルで働く人の生産性が上がるといった利点を打ち出していけば、仮に1.5倍高くても、木造ビルへの需要はあると思う。
ESG投資は3千兆円を超えている。日本ではGPIF(年金積立金管理運用独立法人)がESG投資に着目しているが、海外ではそのような内容に拍車がかかっている。環境に貢献する企業とそこに着目して入居する企業の株価が上がっているという事実もある。日本ではまだそこまでではないが、ティッピングポイント(転換点)を迎えつつある。
――木材を燃えにくく加工すると、逆に廃棄コストがかかり、トレードオフの関係があるのでは。
トレードオフの関係は、確かに存在する。高層建築物の材料として木材を使用する場合、メンテナンスをしっかりしていれば、法隆寺のように1300年も存続するものだ。仮に火災が発生しても、核となる木材は残したまま使用し、残りの部分をメンテナンスして新しい木材に変えればよい。
木材を使うということは、単純に今ある木材をそのまま使うということではない。(建築物の)施工方法と木材をどのように構成して使うかということをよく考え、将来的にいかに(その建物を)存続させるかということだ。
そのように考えれば、トレードオフの内容も単純に50-50の話ではなく、その割合も変わってくるように思う。
また、不燃建材や不燃薬剤が環境に及ぼす影響については、少なくとも大型焼却炉で最終的に廃材を処分する場合であっても、いろいろなところで悪さを起こす可能性がある。このため、木材の品質・性能の部分とその燃焼メカニズムを理解し、そこを適切に対処すれば、トレードオフの関係も緩和されると思う。
――リグニン抽出後の廃材利用も考慮していただきたい。改質リグニンのような木材由来の新素材を活用する道筋はあるのか。
木材の組成をどの程度まで分解した上で再生させるかがポイントだと思う。CNFのようなナノレベルでなくても、木材の性質を生かすことで十分に活用できる資材展開があると自負している。そのレベルでの木材の活用を通じ、社会に寄与できる内容を研究している。
――日本は地震多発国であるため、木造超高層ビルは日本よりも海外の方が建てやすいのではないか。
日本でやるべき内容と海外で展開すべき内容は、根源はすべて一緒だ。日本のように基準が厳しい中で技術が確立すれば、海外ではより安価なコストで建築できる可能性がある。
生津 賢也 一般社団法人ソーラーシェアリング協会ビジネスコンサルタント

【営農型太陽光発電】
――FITを卒業した後はどのように事業を行う計画か。
我々の農園に関していえば、FITが終わることを前提に既に事業展開している。
水耕栽培の農家の多くは電気コストの高さに頭を悩ませている。例えば、500平米の温室では年間200万円の電気代がかかる。これを太陽光発電による自家発電・自家消費でまかなうことができれば、コストパフォーマンスは上がる。
資金調達面から、FITが絡むと日本政策金融公庫が提供している低金利での資金を得るのは難しいが、自家発電・自家消費の観点で事業化すれば、そのような資金調達も可能になる。
――その場合、自家発電量と自家消費量はどちらが大きくなるのか。
ケースバイケースである。例えば、パネルを何枚設置するのか、どのくらいの出力が必要とされる農作物を栽培するのか等によるので、一概にはいえない。結論からいえば、営農型太陽光発電は、いかようにも設計可能だ。
――ソーラーパネルは廃棄の環境コストをどのくらいまで考えているか。
現在流通しているソーラーパネルのほとんどは中国製だが、20年保障をつけているものが多い。25年保障のものもある。
環境負荷については、近年、ソーラーパネルを粉々に粉砕して廃棄しやすいようにする技術も出てきている。欧州では、粉々にした廃材を道路に敷くなど、政府主導で、一気通貫で物事を循環させる取組が行われている。日本では、大枠での一気通貫の取組が進みにくい傾向がある。
――パネルの角度は照度に応じて自動で変わるのか。
我々の農園に設置したパネルはまだ固定式タイプである。他方、追尾式タイプもあり、これは太陽の位置をセンサーで感知し、自動的に直射が当たるよう調整可能なタイプで、発電効率が30%アップする。ただし、固定式に比べてイニシャルコストは10~15%ほど高い。発電効率が30%上昇するので、長い目で見れば、例えば20年間の収支を見れば、利回りは格段によくなっている。
――営農型太陽光発電の更なる展開に当たっての課題は何か。
営農型太陽光発電は、誕生して7年ほどになる。現在、国内で1,500~1,600件ほど導入されている。本来ならもっと普及してもよいだろうと思っている。FIT単価14円といったFIT制度をもう数年間継続することができれば、もっと普及できるのではないかと思っている。営農型太陽光発電の取組が広がらないのは、新規性のあるものに対する恐れであるとか、日本人固有の保守的な面に起因するのではないか。
髙橋 巧一 株式会社日本フードエコロジーセンター代表取締役

【エコフィード】
――リサイクルループをまわすことで、リキッド発酵飼料(リキッド・エコフィード)の製造にかかるコストは回収できているのか。
厳密にリサイクルループによって、コストがかかることはほとんどない。単純に物の循環のベクトルを集約しようとするものであり、コストダウンになることはあっても、コストアップになることはほぼないと考える。
――リキッド発酵飼料は、豚の立場から見てどうなのか。
リキッド発酵飼料については、欧州では昔からバターやチーズを作るときのホエイやウイスキー廃液など栄養分が豊富なものを豚に食べさせており、それを応用した技術である。粉のぱさぱさした飼料よりもしっとりしたリキッド発酵飼料の方が、明らかに豚にとっての嗜好性は高い。
――豚の嗜好性には合致しているということであるが、豚の健康管理の面からするとどうか。毎回違う内容の餌では、豚の健康管理が難しくないか。
飼料の成分は毎回違う内容ということはない。タンパクやカロリーが安定した形にした飼料設計をしないといけない。
従って、食品会社と契約する際に、すべての食品廃棄物を当社で受け入れることはしていない。飼料にふさわしい食品廃棄物のみを回収している。塩分の強いものや油の強いものは回収していない。野菜くずを受け入れる場合も、10トンあるから10トンというわけではなく、(全部受け入れるとカロリーの低いえさになってしまうので)栄養バランス的に1トンだったら受け入れたりする。食品会社と農家と当社の間で、コミュニケーションをとって、飼料の品質をお互いに話し合いながら作っている。最後には、一定の品質をキープするために、大豆かす、アミノ酸やカルシウム等を添加するなど、栄養の調整を行っている。
――リキッド発酵飼料は、利用している農家からすれば、飼料コストは安くなると伺ったが、品質面での評価はどうか。
農家によって供給する飼料は異なっている。例えば、農家によっても月齢等でニーズが違うから、5種類の飼料を作っている。
また、健康面でいえば、家畜の世界は病気との闘いであり、病気を防ぐことが大きな課題だ。その中で、豚は肺炎にかかりやすく、世界の豚の9割は肺炎状態だ。豚の肺炎をいかに防ぐか、それが課題になっている。肺炎は、ウィルスや細菌が引き起こすものであるが、病気になったかどうかは環境的な要素が大きい。粉じんを毎日吸っている状態であると豚のみならず人間も肺炎になってしまうため、米国では労働環境の問題になっている。
この点、リキッド発酵飼料は豚舎を湿潤な状態に保つことから、粉じんがなくなり、ウィルスの活性も抑制され、肺炎も少なくなるといわれている。このように、豚の健康維持にも役立つことが、リキッド発酵飼料を採用するところが増えてきている要因だと思う。
――今後、このような取組を日本全国で横展開していくための、人材育成の観点からアドバイスについて。
毎週のように北海道から沖縄まで出張し、その中で多くの失敗事例や成功事例を勉強している。やはり人の存在は非常に大きいと感じている。
そういった中で、今やこの「機械」があれば全国一律でできるという時代ではない。その地域に根ざして歴史や背景がわかる人がいることが重要だ。ただし、地元にいるだけでは地元の良さがわからない場合も多い。私たちから見るといろいろな資源があって、それを活用することでポテンシャルを発揮する可能性がある。
地域の良さに気付きノウハウを有する人材と、地元で意識が高い人材とが交流しながら、地域を活性化していく仕組がこれから重要になると思う。
島田 和彦 農林水産省農林水産技術会議事務局研究総務官
――行政から一言。
本日登壇して頂いた方々はかなり成功している方々であると思う。皆さんの中には、試行錯誤されている方もおられると理解する。こうしたサポートがほしい、国の政策的な後押しがほしいという面はあるだろうと思う。
本日、研究機関から参画した方や、ビジネスで展開している方もいるが、科学的根拠を仲立ちとして、メディエーターとして、研究者が動く点もあると考える。単に技術を開発して、後はお願いしますといったフォアキャスト型の仕事のみならず、しっかりとした目的意識を持って、企業、農業者、行政がタッグを組んで進めていただきたいと考えている。
またこのような機会をもって連携していきたい。
資料展示
同会場において、改質リグニンやセルロースナノファイバー(CNF)等の農林水産分野の革新的な温暖化対策技術や取組を紹介するポスター等の展示を行いました。
機関名 | 展示の内容(資料提供者) |
農林水産省 | ・J-クレジット制度(環境政策室) |
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 |
・アミノ酸バランス飼料 ・土壌炭素吸収量見える化サイト ・水田メタン抑制管理 |
国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター |
・JIRCASの取組 ・途上国支援 |
一般社団法人 農業電化協会 |
・ソーラーシェアリング(ソーラーシェアリング協会) ・Vehicle to Home(V2H)(株式会社東光高岳) ・園芸用ヒートポンプ(農業電化協会) |
株式会社 日本フードエコロジーセンター |
・エコフィード ・エコフィードで育ったブランド豚肉 |
国立研究開発法人 森林研究・整備機構森林総合研究所 |
・改質リグニン(森林総研) ・セルロースナノファイバー(森林総研) ・早生樹(林木育種センター) |
住友林業株式会社 | ・W350計画 |
国立研究開発法人 水産研究・教育機構 |
・ブルーカーボン(瀬戸内海区水産研究所) ・漁船電化(水産工学研究所) |
国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 |
・GCOM衛星利用シンポジウム ・GCOM-C |
(展示の様子)
3.関連情報
「革新的環境イノベーション戦略」(外部サイト)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tougou-innovation/pdf/kankyousenryaku2020.pdf(外部リンク)
「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」の閣議決定について(外部サイト)
https://www.env.go.jp/press/106869.html(外部リンク)
フォーラムパンフレット(PDF : 557KB)
お問合せ先
大臣官房政策課環境政策室
担当者:古藤、寺井、西川
代表:03-3502-8111(内線3296)
ダイヤルイン:03-3502-8056
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