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農林水産省

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朝ごはん風土記 第13回

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向笠千恵子

「三陸・気仙沼大島。長寿の島の朝は海藻と魚たっぷりの食卓から」


わかめをよく食べる地域にはお達者な方が多い。たとえば三陸の漁業基地、気仙沼の沖に浮かぶ大島。気仙沼港から船で二十五分。北限の柚子、びわが栽培され、常緑樹が茂る美しい島である。

住民のほとんどは漁業にたずさわっている。外海は暖流と寒流が入り交じる好漁場で、さんま、かつおなどがよくとれる。一方、気仙沼港側は波穏やかな内湾でプランクトンが豊富だから、かき、帆立貝、ほやなどの養殖にうってつけ。わかめ、昆布なども盛んに生産されている。

それだけに、島の人々の食卓には魚、海藻がふんだん。とくにわかめの使いっぷりはみごとだ。煮物、汁物、酢の物はもちろん、漬け物、しゃぶしゃぶ、炒め物にまで用い、芽株と呼ぶ根の部分や、普通は捨ててしまう茎も大切に賞味する。

わかめにはヨード分、ミネラル、食物繊維が多く、成人病予防にもいい。大島が最近、長寿の島として注目され、島の住人が男女とも八十歳を越えても現役ばりばりなのも、わかめたっぷりの食生活のおかげといわれている。

「だから、観光の方には、自分らが食べるのと同じものを胸はって出してます」
と、言うのは旅館黒潮の主人・堺健さん。島起こし活動の事務局長でもある。都会でのサラリーマン暮らしをやめ、島へ戻って三十一年。堺さんは島の特産食材を見直し、あらためて惚れ込んでいる。

宿の朝ごはんは、奥さんと二人で準備する。定番おかずの筆頭は、さんまの酒漬け焼き。さんまは前夜のうちに丸ごと日本酒に漬け、焼く前に切れ目を入れて再び酒に浸し、深層海洋水の自然塩をふってぱりっと焼く。酒の効果で黄金色に仕上がり、箸を入れるとふわりと海が匂いたつ。気仙沼市羽田の農家から仕入れる、ひとめぼれやコシヒカリのごはんとは、まことにお似合いである。

わかめは葉、茎、芽株を味噌汁、佃煮、とろろに使い分ける。わかめは熱湯に通すと、茶色が鮮やかな緑に変わるから、どの料理も色鮮やか。とりわけ、肉厚なぷりぷりを刻んで熱湯をかけ回し、ポン酢で頬張る芽株とろとろときたら、食べるそばから細胞がうるおってくるようだ。

お膳には、帆立ての殻焼き、ひじきの煮物、卵焼き、自家製野菜の温野菜ドレッシング添え、ぬか漬けも並ぶ。
こんなメニューを見て、いつもは朝食抜きという都会の客たちが目を輝かせる。その一瞬を堺さんは見逃すことなく、旅館のおやじをしてきてよかったと、にんまりする。そして、その晩からもう翌日の朝ごはんの支度に取りかかるのである

向笠千恵子
むかさ・ちえこ/フードジャーナリスト、エッセイスト。東京・日本橋生まれ。慶應義塾大学卒業。日本の本物の味や伝統食品の現場を知る第一人者。志を持った食材の作り手、味、民俗、器、食の伝播の道筋、歴史などを多面的にとらえながら、現代の食を軽快に綴る。主な著書に「日本の朝ごはん」「米ぢから八十八話」「本物にごちそうさま」「ごはんの旅人」など、近著に「すき焼き通」「一食一会」など。