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農林水産省

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日本の篤農家 第2回

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金子美登

地域と一体化した有機農業の確立

自然エネルギーを活用し、理想的な自給自足を実現。


設計図はすべて自然が持っている。そのことを日々研修生に伝えています。
金子美登さん
金子美登さん
かねこ・よしのり
1948年、埼玉県小川町に生まれる。
71年、農林水産省の農業者大学校の第1期生として卒業。
同年当地で有機農業を始める。生産者と消費者の直接提携に尽力し、
有機米を使った酒づくりなど地場産業の発展にも寄与する。
99年、小川町議会議員に当選。
現・小川町議会議員、NPO全国有機農業推進協議会理事長。

腐葉土
白い菌糸のでき具合を見て、腐葉土の熟成度を図る。作物が喜ぶ土づくりには、質のいい腐葉土が欠かせないと金子さんは言う
霜里農場
霜里農場
農林水産省では昨年「農業技術の匠」の選定制度を新設した。選定対象は、「導入効果が地域で認められ、普及することで、地域活性化などに貢献することが期待できる農業技術を自ら開発・改良した農業者」。

第1回目の「農業技術の匠」には全国から28人(1グループ含む)が選ばれた。今回訪ねた金子美登さんもその中のひとりである。金子さんの選定理由は、自然エネルギー循環型の有機農業の技術体系を確立したことだという。

金子さんが運営する農場は埼玉県小川町にある。農場に入るとアイガモの鳴き声が聞こえ、作業着の若者たちが忙しそうに行き交っていた。霜里農場の研修生たちだ。

金子さんは農林水産省が開設した農業者大学校に第1期生として在籍中、地球規模の問題に対処するために設立された民間のシンクタンク「ローマクラブ」の第一報告書『成長の限界』を読み、「国内に豊富に存在する草、森、水、土、太陽などの農的資源を徹底的に活かして食とエネルギーを自給し、限りなく循環する新たな社会をつくるという生き方」を目指す決心をしたという。その拠点として霜里農場を開き、卒業後すぐ有機農業の道を歩み始めたのだ。

ようやくその展望が見え始めた昭和62年、霜里農場のある一帯にゴルフ場開発の話が持ち上がった。ゴルフ場維持に必要な農薬散布によって、有機農法による水田が壊滅的なダメージを受けることは目に見えている。金子さんは反対し続け、開発を断念させた。

その後、有機農業と自然エネルギーを町全体に広めるために小川町議会議員に立候補。今も現役議員である。今では集落10戸すべての農家が有機農業への転換を実現した。全集落が有機農業に転換した例は、日本でも珍しい。

農場には牛やアイガモ、鶏、うさぎが飼われている。「植え付け前に動物たちを田畑に放せば、雑草を食べてくれる。雑草は大事な餌です。農場にとって動物たちは『自動草取り機』なんですよ」 

雑草が生えれば除草剤を、害虫防除には農薬を、肥料には化学肥料を、という考え方はここには微塵もない。草取りには家畜を、害虫防除にはアレロパシー(ある植物が環境中に放出する化学物質によって、他の植物の生育が阻害される現象)を応用し、肥料は家畜の糞や生ごみの堆肥。家畜の糞尿や生ごみはさらに有効活用されている。それらを利用してメタンガスを発生させ、炊事や温水器、ガス灯、ガス冷蔵庫の燃料に使用しているのだ。トラクターや車には廃食油から精製されたVDF燃料を使い、太陽電池もフル活用。食物連鎖のようにエネルギーが循環している。

そんな霜里農場には、これまで世界40カ国から延べ100人を超える研修生が訪れた。現在も韓国からの2人を含め、10人の研修生が寝食を共にしている。

見学に来た小学生がこう言ったそうだ。「金子さんの農場はぐるぐる回っている」。自然のエネルギーが無駄なく循環していることを、小学生でも理解したのだ。

金子さんはもう議員は辞めてもいいと言う。「地域を活性化することができたから、議員の仕事よりも、もっと農業がしたい」。金子さんの霜里農場はこれからも力強く、ぐるぐる回り続けることだろう。

牛
アイガモ
牛やアイガモは、草取りに多大な貢献をしてくれる。霜里農場ではすべての生き物が自然の循環の中で、それぞれの役割をきちんと果たしている