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農林水産省

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特集1 国産ナチュラルチーズの魅力(2)

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「自労自活」の農場で

雪が舞う夜明け前から一日の作業が始まった


国産ナチュラルチーズの約9割が北海道十勝で作られています。
北海道十勝の新得(しんとく)町の牛乳山の麓で、生乳の生産からチーズ作りまで一貫して行っている農事組合法人共働学舎新得農場を訪ねました。

農事組合法人共働学舎新得農場

搾乳室からチーズ工房まで生乳が自然に流れていく自然流下式のパイプラインが敷設されている

生乳の劣化を防ぐために、搾乳室からチーズ工房まで生乳が自然に流れていく自然流下式のパイプラインが敷設されている

熟成庫

宮嶋さんが「床下に炭を埋め、軟石とレンガを使うことで、チーズの熟成に理想的な環境になっています」と教えてくれた熟成庫

ブラウンスイス種

新得農場の乳牛は半数以上がブラウンスイス種。乳たんぱく質が多く、ミネラルの豊富なブラウンスイス種の生乳が新得農場のチーズ作りには欠かせないという

共働学舎新得農場の代表、宮嶋望さん

共働学舎新得農場の代表、宮嶋望さん。十勝ナチュラルチーズ連絡協議会副理事長、北海道ブラウンスイス協議会会長でもある。昨年11月、チーズの製造や流通、熟成など、それぞれの段階でチーズに携わる専門家のみに与えられるフランスの「ギルド・デ・フロマジェ」の称号が、宮嶋さんに授与された。チーズ製造に携わる日本人では初めての快挙だ

共働学舎新得農場
勢いに溢れた工房の中で
外気温がマイナス10℃にもなる真冬の朝4時半、牛たちの吐く息が白い湯気となり、搾乳室がにわかに熱気を帯びてきます。

ここで搾られた生乳がチーズ工房に運ばれ、新得農場のチーズ作りが始まるのです。

この日、仕込むのは「ラクレット」というハードタイプのナチュラルチーズです。担当しているのは百瀬(ももせ)雄二さん。ラクレット作りを担当して1年ちょっとだといいます。先輩についてラクレット作りを学び、ひとりで任されるようになって間もない百瀬さんは、乳の発酵を助ける乳酸菌などの調整を入念に始めました。

道具の洗浄やほかのチーズの世話をするために、ほかの若者たちが狂いのない動線で、きびきびと動き回るなか、百瀬さんは真剣な面持ちで生乳の温度を何度も調べ、正確に時間を計っています。

室内の温度は28℃。外気とは40℃近い差です。湿度も高く、蒸し風呂のようです。作業をしている若者はみな半袖姿で、額に汗して動き回っていました。

じっくりと時間をかけて
共働学舎新得農場の代表である宮嶋望さんは、昭和53年、アメリカ・ウィスコンシン大学畜産学部を卒業後すぐに新得町に入植し、この農場を開きました。

「”競争社会ではなく協力社会を”共働学舎は、点数によって評価される価値観ではなく、人間一人ひとりに必ず与えられていると信ずる固有の命の価値を重んじ、互いに協力することによって、個ではできない更に価値のある社会を造ろうと願うものです」

これは共働学舎の創立者であり宮嶋さんの父である、真一郎さんが掲げた理念です。新得農場はそんな思いが込められた共働学舎の農場のひとつなのです。宮嶋さんは父の掲げた理念に基づいて、心を病んだり、障害をもつ社会的弱者と呼ばれる人たちとともに、経済効率だけに左右されない「自労自活」(自分たちの力を集め、働くことで生活を成り立たせる)の生活を目指して、スローペースでも着実な手仕事で生み出せるハードタイプのナチュラルチーズ作りに着手したのでした。

徐々にチーズの種類を増やし、現在、同農場のチーズ工房ではハードタイプ、白カビタイプ、フレッシュタイプのナチュラルチーズを作っています。

若者たちの夢がチーズとともに熟成する
共働学舎新得農場のラクレットは、平成10年の「第1回オールジャパン・ナチュラルチーズコンテスト」で最優秀賞を、平成22年にアメリカ・ウィスコンシン州で開催された「ワールドチャンピオンチーズコンテスト・ウォッシュしたセミハード部門」で銀賞を受賞するなど、輝かしい成績を収めてきました。

ここには「チーズ作りを学びたい」「ここで働きたい」という若者が全国からやってきます。今回、工程を説明してくれた百瀬さんもそのひとり。大学で酪農を学び、長野県から移住してきました。

ラクレットの場合、生乳がチーズ工房に運ばれてから、その日の午後には型にはめられて成型されます。それから塩漬けして乾燥させるのに3日。さらに熟成庫に運んで表面を磨き液で磨き、反転を繰り返しながら熟成させること3カ月。そうしてやっと商品になるのです。

ハードタイプと白カビタイプのチーズは、日を変えて交互に作るそうですが、白カビタイプの製作はまた別の若者が担当していました。毎日楽しく働いているという百瀬さんは「いつか長野に戻って、チーズ作りができたら、と思っています」と夢を語ってくれました。


ミンタル店内の様子   札幌軟石を積み上げて半地下に造られた熟成庫

ミンタル店内の様子。ミンタルとはアイヌ語で「広場」「人の行き交う場所」という意味だそうだ。チーズやチーズ料理などを楽しめ、販売や展示のほか、チーズ作りなどの体験もできる

 
札幌軟石を積み上げて半地下に造られた熟成庫。中の気温は8℃。湿度95%。それなのに結露は見られず、まったく蒸し蒸ししていない。ひんやりと気持ちいい鍾乳洞のようだ

チーズ(さくら)の写真

塩漬けにした桜の花を乗せたソフトタイプの「さくら」は、国際的なチーズコンテスト「山のチーズオリンピック」で毎回優秀な成績を収め、チーズの本場ヨーロッパでも高い評価を得ている


ナチュラルチーズはこうして作られる 共働学舎ラクレットの場合

乳の発酵と凝固

(1)乳の発酵と凝固

タンクに入った1トンの生乳を低温殺菌し、乳酸菌などのスターター(乳の発酵を助ける乳酸菌やカビのこと)を加えます。さらに生乳の温度を測りながら、乳を固めるためにレンネット(凝乳酵素)を加えます。

  カッティンングと攪拌

(2)カッティンングと攪拌

固まり始めるタイミングを見ながら、ハープのように細い線が張られたカッティング用ナイフでカットし羽根で攪拌し始めます。硬めのチーズを作るときは早めに小さくカッティングします。

  分離

(3)分離

次第にホエイ(乳清)とカード(凝乳)が分離して、カードが小さくなっていきます。チーズ作りに必要のないホエイは取り除かれます。新得農場では栄養素が含まれているホエイを集め、家畜のエサとして有効利用しています。

  攪拌タンクから移す

(4)攪拌タンクから移す

さらにホエイを切ってカードを固めるために、別のタンクに移します。上に板を置き、重石をして約30分。

型詰め

(5)型詰め

ホエイを抜いたカードを、モールド(丸い輪の型)に入る大きさに切り分け、チーズクロスで包み、手早く型に詰めていきます。
  プレス

(6)プレス

型詰めされたカードを積み重ね、さらにホエイが抜けるようにプレス機で圧搾して、形を整えます。時間を計って圧搾しては型から出して裏返します。2人がかりでこの手間のかかる作業を繰り返して初めて、持ち上げても崩れない丸いチーズに成型されていきます。
  塩漬け

(7)塩漬け

圧搾した翌日、成型されたカードは丸1日塩水に漬けられ、加塩した後、3日かけて乾燥させます。
  熟成 ・磨き

(8) 熟成 ・磨き

熟成庫に運ばれ、じっくり寝かせます。表面を磨き液で濡らしたさらしで磨き、水分の偏りをなくすために反転を繰り返すことで、独特の風合いの表皮が作られます。ラクレットは約3カ月、こうして熟成させるのです。


農事組合法人 共働学舎新得農場
〒081-0038 北海道上川郡新得町字新得9-1 電話0156-69-5600
http://www.kyodogakusha.org/index.html 「ミンタル」営業時間:10時00分~17時00分