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連載19 こぐれひでこ の いただきもの絵日記

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卵かけごはん


うど
文・イラスト こぐれひでこ


こぐれひでこ
profile
イラストレーター&エッセイスト。『こぐれひでこのおいしい画帳』(東京書籍)、『こぐれひでこのごはん日記』春夏篇・秋冬篇(早川書房)、『私んちにくる?』(扶桑社)、『こぐれの家にようこそ』(早川書房)ほか、著書は30冊を超える。現在は、女性向けの人気情報サイト『カフェグローブ』で、ごはんをテーマにした『こぐれひでこの毎日ごはん』を、また遊び心をテーマにした情報サイト『あそびすと』でも連載中。
子どもの頃、ほとんどの朝食は納豆と自家製漬け物と味噌汁と生卵と海苔だった。昭和30年代に育った人なら、たいていの人は「ウン、ウン、そうだった」とうなずくだろう。問題は卵がひとり1個許されていたかどうか。そこに育った家の経済状態が見え隠れする。

わが家では1個の卵をふたりで分け合うことになっていて(海苔も一枚を半分に分ける)、毎朝姉妹間での小競り合いがあった(わが家の経済状態は推して知るべし)。

やがて小競り合いを回避すべく、どちらが先に取るかをジャンケンで決めるようになったのだが、ここにも問題は潜んでいた。負けた人が先に半分の卵を取るという決まりだったので、ごはん茶碗に入れようとすると、白身ばかりが流れ込んでしまい、黄色の少ない卵かけごはんになる。しつこいほどに溶き混ぜても流れ込むのはほとんど白身ばかり。勝った人は黄身の多い卵をごはんにのせて誇らしそうに食べた。お醤油を垂らして混ぜ合わせ、海苔で巻いて食べる。白身ばかりだったとしてもおいしかったな、生卵ごはん。

そんな時代を知らない人は、卵なんて安いのにどうして? と不思議な気分になるだろう。しかし、当時の卵はかなり贅沢な食品だったのである。

 国家公務員の初任給が8,700円だった昭和30年、卵の値段は1個14円だったという。それでは現在の給料と卵の関係はどうか。調べてみたら、平成22年度の国家公務員初任給の平均が16万円であるのに対し、卵の値段は1個30円以下……、つまり昭和30年では給料を全部使っても買える卵は621個だったのに、現在では5,333個も買える。つまり昭和30年に於ける卵1個の値段は、いまなら257円ということになる。

50年もの年月が流れたいま、卵は廉価な食品になった。それでも、炊きたてごはんの真ん中に窪みをつけ、生卵を割り入れるとき、子どもの頃の朝食を思い出しながら、ひとり1個食べられるなんて幸せだな、とほくそ笑んでしまう。こんな症状もトラウマと言っていいのだろうか。

最近、居酒屋で「卵かけごはん」が流行っているらしい。特に人気を博しているという店に出かけ、卵かけごはんを食べてみたら、卵と海苔とネギとカツオ節と胡麻がかけられた豪華な卵かけごはんだった。九州の甘い醤油をかけて食べる。とてもおいしかったのだが、これを卵かけごはんと称していいのかどうかと小首をかしげた私。卵かけごはんに郷愁を抱く、老人の言いがかりかもしれないけど……。