お宝!日本の「郷土」食 12 [静岡県沼津市]
地の干物は地の米の酒と
![]() 干物の味を左右する包丁は沼津市の正秀刃物店製「開き包丁」。刃わたり90mm。1日3回研ぐため、1カ月しかもたない
![]() 静岡県産米「誉富士」で酒を醸造。なかでも特別純米酒「白隠正宗 浮島」は沼津市浮島地区の米を全量使用。浮島酒米研究会の3名が栽培を担当し、裏面には名前が入る ![]() ![]() 文・写真 山本洋子 |
「干物にあう酒を造っています」と笑顔で語る高嶋一孝さんは、静岡県沼津市で『白隠正宗』を醸(かも)す社長兼杜氏。富士山の伏流水と、地元の酒造好適米『誉富士』を原料に、スッと軽快でふくらみを残す酒を醸します。 最近「赤ワインには肉料理」と食べ合わせを提案するワインよろしく「この酒には○○があう」という蔵元が急増中。あわせるものは、チーズや流行の洋食名をあげることが多く「地元の干物」というのはハッとする提案。確かに、魚屋には魚種、味つけさまざまな干物が勢ぞろい。まさに沼津は干物天国。 そんな高嶋さんにお勧めの干物をたずねると「製造場が200軒近くあり勉強中ですが、真面目な夫婦が作る金龍丸さんに注目しています」。魚の顔も味も違うと。 そこでマルハチ金龍丸水産の社長兼職人である浜道本臣さんに会いに沼津へ。 「沼津は魚の産地だから干物がおいしいといわれますが、うまさの秘密は風土にあります。日照時間の長さ、浜風。適度な湿気と、干物作りに適した三条件がそろっています」 あとは、当たり前のことをするだけでおいしくなると浜道さん。当たり前とは、干物に適した魚選び、丁寧で清潔な開き方、洗い方。塩は天日塩。干しは夜風、日陰を生かし日焼けさせないこと。とはいえ、そんな当たり前ができるようになるまで10年以上かかったそうです。干物作りも機械化が進み、今は天候に左右されない乾燥機干し、通年入手できる輸入魚が主流。浜道さんもかつてはその道でした。14歳で父親を亡くし、18歳で跡を継いでから干物道一直線。 「安い魚を買って、安い労働力で朝3時から深夜まで、安い干物を大量に作ってました」 不況で売り上げが激減し厳しい現実に直面した時、決意したのが「本物の干物を作ろう!」。乾燥機と輸入魚の干物は全国どこでも作れコスト競争だけ。 「沼津ならではの最高の干物を作って直接お客さんに手渡しで売ろう」と方向転換。 感動する干物作りを目指して試行錯誤。魚を選ぶ眼力を高め、アジなら対馬、豆アジは舞鶴。地元駿河湾なら太刀魚と金目鯛という具合に最高を選択。そんな浜道さんの干物はモチモチ感あり。カチコチに固い干物ではなく、ぐっと押し返してくるような弾力が特徴。干して熟成させることで「生よりうまく!」を追求した結果。 日本酒蔵の高嶋さんは沼津の水と米を使い、地元の干物にあう酒を目指し、浜道さんは酒をうまくする干物を目指します。風土を生かした最上の味づくり、志高いふたりには終わりがありません。 |