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農林水産省

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特集1 食の未来を拓く 品種開発(4)

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バラエティ豊か 野菜の品種開発の場合

時代のニーズを予測した品種作りが鍵


国の主導で品種開発が進められてきた米や麦などと異なり、野菜の品種開発は民間の企業を中心に発展してきました。

ミニトマトの花。

ミニトマトの花。

さまざまなトマトの品種が並ぶタキイ種苗の展示用ハウス

さまざまなトマトの品種が並ぶタキイ種苗の展示用ハウス

「森と芸術」展覧会

トマトの品種改良の説明をする、当時のトマト育成チームリーダー、住田敦常務取締役

トマトの品種改良の説明をする、当時のトマト育成チームリーダー、住田敦常務取締役

新たな品種に何を求めるか
数ある野菜の中でもさまざまな品種が誕生したトマト。現在、日本のトマトの約70%のシェアを誇る「桃太郎」シリーズを開発した大手種苗会社、タキイ種苗株式会社の研究農場を訪ねました。滋賀県湖南市にあるタキイ種苗の研究農場は、東京ドーム15個がすっぽり入る約70ヘクタールという広大な敷地面積があり、見渡す限り展示ほ場や品種開発のための育種ほ場が広がっています。

「桃太郎」の品種開発に取り組んだ当時、トマト育成チームリーダーだった住田敦さん(現・常務取締役)が、開発時の時代背景なども併せて話を聞かせてくれました。

1960年代後半、高度経済成長期を迎えていたわが国では、食生活も向上し消費者のニーズも多様化し始めていました。野菜の嗜好にも変化が見られたといいます。中でもトマトはビニールフィルムの普及によってハウス栽培が可能になり、生産地拡大に伴って土壌病害の被害も発生したことから、耐病性品種の育成も進んでいきました。当時は甘くておいしいトマトとして、ファースト系と呼ばれる品種に人気が集まっていました。

タキイ種苗のトマト育成チームは、消費者のニーズとトマト生産者の志向を読んで、もぎたての甘さが保たれ、完熟してから出荷しても傷まない、輸送に耐えうる硬さをもち、加工用トマトのイメージを払拭するピンク色のトマトで、作型の幅を広げられるような耐病性のある品種を目標に、開発を始めました。

優れた性質の実証には地道な努力が必要
野菜の品種開発は、優れた一代雑種(F1)を作り出すことが非常に重要となります(P11「品種開発こぼれ話(3)」参照)。

まず親となる品種の選抜が重要でした。硬さに関しては、米国で育成された機械収穫用の硬い品種「フロリダMH-1」との出会いが開発に光明を灯しました。色、食味、病害虫耐性などの性質については、何千、何万とある品種の中から親を選び出して交配を重ね、実際に栽培していきました。

「当時、市場を占めていたファースト系は果実の先が尖っていました。いずれ選果の機械化が進むと読んでいた私は、先の尖った品種は避けようと主張しました。機械にかけると先が潰れてしまいますからね。ところが社内からはブームのファースト系に続けとの声が多く、最初は反対されました。でも開発は10年先を見なければ。ファースト系を超える、さまざまな優れた性質をもつトマトを作ってやろうと思いました」

1年に2回栽培をしても結果が出るのはいずれも半年後。その組み合わせがダメなら、また組み合わせからやり直しです。収穫期には1日に100種類以上のトマトを食べたこともあるといいます。

果実の硬さ、形崩れしないぎりぎりの肉厚、糖度6度以上、均一に熟していくこと、酸度とアミノ酸の含有量など、それぞれを実現させるために何百、何千という品種との交配を重ねました。開発から13年目の昭和59年、ついに「桃太郎」が完成したのです(発売は昭和60年)。

「桃太郎」の完成後もハウス栽培専用品種や耐病性品種、家庭菜園用品種など、「桃太郎」シリーズの開発は続いています。現在、兄弟品種は24品種を数えます。

作物研究所のDNAマーカーによる解析作業

品種開発こぼれ話(2)
タキイ研究農場付属園芸専門学校
訪れた研究農場で、タキイ種苗の新しい品種が育種されています。社員とともに作業をしているのは、タキイ研究農場付属園芸専門学校の生徒たち。授業料も寮費も無料ですが、全寮制の厳しい規律の下で農作業を実習しています。広報担当の奥本和夫さんは「農業の基本的な技術や知識を身につけさせ、即戦力になる農業人を育成しています」と話してくれました。同校からもまた品種開発に携わる逸材が巣立っていくことでしょう。

完熟出荷を可能にした甘くておいしい「桃太郎」

完熟出荷を可能にした甘くておいしい「桃太郎」

葉かび病耐病性をもち、ハウス抑制栽培用の「CF桃太郎ヨーク」

葉かび病耐病性をもち、ハウス抑制栽培用の「CF桃太郎ヨーク」

糖度が特に高く、葉かび病耐病性をもつ「CF桃太郎ファイト」

糖度が特に高く、葉かび病耐病性をもつ「CF桃太郎ファイト」

栽培容易な夏秋用完熟トマトで橙黄色の「桃太郎ゴールド」

栽培容易な夏秋用完熟トマトで橙黄色の「桃太郎ゴールド」

夏秋栽培用で、葉かび病に強い「桃太郎なつみ」

夏秋栽培用で、葉かび病に強い「桃太郎なつみ」

品種特性の移り変わり
「桃太郎」の兄弟品種は24品種
1980年代
1985年、甘くておいしい、輸送性に優れた「桃太郎」が登場! 今までの常識をくつがえした完熟タイプの桃太郎は一世を風靡。その後、「桃太郎を周年で栽培したい」という声に応えて、冬季の栽培が可能な「ハウス桃太郎」が登場。



1990年代前半
耐病性を強化した「桃太郎8」や家庭菜園向きの「ホーム桃太郎」が登場。露地やトンネル栽培での栽培性が向上し、「桃太郎」が作りやすくなった。



1990年代後半~2000年代前半
抑制栽培用として、果実の肥大が優れ、草勢がおとなしい画期的な「桃太郎ヨーク」が登場。その後、「桃太郎J」「桃太郎ファイト」「桃太郎コルト」「桃太郎はるか」など、冬春用の新しい品種が次々に誕生した。



2000年代後半
各作型の品種がさらに充実して、葉かびなどの耐病性が向上。橙黄色の「桃太郎ゴールド」も誕生して「桃太郎」の兄弟が一気に増えた。



今後の展望
これからもおいしさを第一に、作りやすさや耐病性などをアップさせ、さらなる進化を続ける。

品種開発こぼれ話(3)
野菜の交配種は1代目に限られている
種苗店や園芸店に行くと袋に交配種(交配品種)と表示された野菜の種を売っています。植物には交配種に対して、固定種(固定品種)という分類があります。交配種は固定種を交配して作られ、それぞれの親がもつ優れた性質を受け継いだ品種です。こうした品種開発によって生まれた交配種に対して、固定種の場合、たくさん種をまいて生育させ、その中の栽培目的に合わないものを取り除き、何世代もかけて選抜淘汰をくり返して作ります。全国各地で栽培されている伝統野菜と呼ばれている在来品種や地方品種の多くが固定種です。

新しい品種を作り出す際、2つの固定種を交配した次の代は雑種第1代ということになります。雑種第1代は「一代雑種」「F1(first filial generationの略)」「ハイブリッド」とも呼ばれています。雑種第1代は、絶妙な組み合わせで母親品種と父親品種を交配させると、両親を超えた能力を発揮するため、収量、品質、耐病性などの向上が期待できます。また、固定種と違って生育がよくそろい、栽培管理が容易になるという利点があります。

種苗会社ではこうして作り出した一代雑種の中から、特に優れた性質のものを選び、交配種として販売しています。

一代雑種の種から育てた雑種第2代は遺伝の法則によって、形や性質にバラつきがでます。主食となる米は何世代もかけて性質を固定させていきますが、野菜の交配種は一代雑種に限られているのです。


注目の新品種2
機能性を付加した色とりどりのカラフルポテト
ジャガイモの品種改良もほかの作物と同じように、違う品種同士の花を受粉させて行います。ジャガイモの花は知られていますが、実をつけているのを見たことがある人は少ないでしょう。ジャガイモにもほかの植物と同じように実ができます。

新たな品種を開発するには、実からとった種を毎年5万粒以上まいて、秋にできたイモを収穫します。翌年以降はイモを畑に植え、株を増やしながら、性質の優れているものを選んでいきます。目的に合った付加価値の高いものを選び出し、性質を固定するまでには時間がかかります。1つの品種をつくるには、ジャガイモでは、10年以上かかるのです。

こうして作られたカラフルポテト。ナチュラル、ヘルシーで魅力的(ファッショナブル)なジャガイモの食用品種を目指して、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センターが開発した新品種です。

色むらの少ないやわらかなピンクの肉色が特徴の赤皮赤肉の「ノーザンルビー」、「インカのめざめ」の後継品種で、赤と黄色のツートンカラーの外観で橙黄肉の「インカのひとみ」、アントシアニン色素が豊富な紫皮紫肉の「シャドークイーン」など、いずれもカラフルな楽しさだけでなく、食味や機能面も優れています。含有するアントシアニン色素やカロチノイド色素は、過剰にあると体内で人体に害を及ぼす活性酸素などを除去するなど、機能性を示すことが知られています。

左から「シャドークイーン」「インカのめざめ」「ノーザンルビー」「インカのひとみ」

左から「シャドークイーン」「インカのめざめ」「ノーザンルビー」「インカのひとみ」