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農林水産省

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特集1 食の未来を拓く 品種開発(5)

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一粒に思いを 果樹の品種開発の場合

究極の味を求めて15年の歳月をかける


実をつけるまでに数年かかる果樹の品種開発はどのように行われているのでしょうか。
茨城県つくば市にある独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所を訪ねました。
ナシの選別ほ場。カラスなどの鳥害を防ぐため、ネットで覆われている
ナシの選別ほ場。カラスなどの鳥害を防ぐため、ネットで覆われている

果樹研究所品種育成・病害虫研究領域長の山田昌彦さん

果樹研究所品種育成・病害虫研究領域長の山田昌彦さん。長くブドウとカキの品種開発に携わっていたそうだ



クリの育苗用のほ場。2年目の幼木が植えられていた

クリの育苗用のほ場。2年目の幼木が植えられていた

果樹の品種開発の流れ
普及性の高い果樹の品種開発を目指して
果樹研究所は明治35年に創設されてから100年以上にわたって、わが国の果樹・果物の専門研究機関として、主に柑橘類、リンゴ、ナシ、モモ、クリ、カキ、ブドウ、ウメ、スモモなどの育種や栽培、病虫害などに関する研究を行ってきました。リンゴの「ふじ」、柑橘類では「興津早生(おきつわせ)」「清見(きよみ)」、ナシの「幸水(こうすい)」「豊水(ほうすい)」、モモの「あかつき」、クリの「筑波」「丹沢」「ぽろたん」などは、同研究所で開発された品種です。

同研究所の品種育成・病害虫研究領域長で農学博士の山田昌彦さんは、「品種開発は果樹産業の振興に不可欠です。時代に合った普及性の高い新品種を作り出してきました。近年は消費者のニーズも多様化しましたし、温暖化にも対応しなくてはなりません。果樹の品種開発は、いかにいい親を選んで交配させるかが大事です。究極の味に向かってまだまだ改良できると思っています」と話してくれました。

「幸水」「豊水」は2品種で、日本ナシの栽培面積の約7割を占める食味のよいナシです。「幸水」は昭和16年に「菊水(きくすい)」に「早生幸蔵(わせこうぞう)」を交配して開発を始め、昭和34年に命名登録された品種です。登録から半世紀以上経つ今でも、栽培面積が第1位の日本を代表するナシ品種です。食味のよさだけでなく、栽培のしやすさや収穫量など、長きにわたって受け入れられるだけの性質を備えた品種だという意味で、成功した品種改良の例だといえます。そんな「幸水」は親としても活躍し、「豊水」「長水(ちょうすい)」「多摩」「八幸(はっこう)」「秀玉(しゅうぎょく)」「秀麗(しゅうれい)」「あきづき」など、多くの子どもが作られました。

果樹の品種開発が米や野菜と異なる点
「豊水」の親が「幸水」であることが分かったのは、実は平成15年のことでした。「豊水」は昭和29年に交配され、同47年に命名登録されたのですが、長い間、交配組み合わせが「不明」となっていました。平成15年、果皮の色や自家不和合性(※)、遺伝子型、DNA解析などの鑑定によって、「幸水」と「イ-33」の交配によって育成された可能性が高いことが分かったのです。

近年、果樹研究所では各種DNAマーカーや遺伝子地図の作成など、ゲノム解析研究も先進的に進め、世界に先駆けて主要果樹でDNA品種判別技術を確立しました。こうした技術革新によって「幸水」と「豊水」の親子関係が明らかになりました。

さて、何事も成果を上げるまでには長年かかるということを表す「桃栗三年、柿八年」ということわざがあります。実際に結実するまでの年数とは多少の誤差はありますが、確実にいえることは、モモもクリもカキも1年では実をつけないということです。接ぎ木で増やすことはできても、結実しなければ食味を左右する糖度や硬度などは分かりません。「幸水」も「豊水」も交配から命名登録まで20年近い歳月を経ています。米や野菜と違い、果樹の場合、品種改良には、それだけ年月がかかるのです。

最近は前述したDNAマーカーを活用することによって、幼苗で不良なものを識別できるようになってきましたが、それでも交配から15年近くかけなければ、新品種として世に出すことはできません。

こうして私たちが味わえるようになった果実がたくさんあります。

※)自家不和合性とは、自分の花粉、または遺伝的に近い品種の花粉では受精できない性質のこと。自家不和合性をもった品種は放っておくと結実しないため、栽培する際には人工授粉を行ったり、異なる品種を混栽したりして結実させます。手間や農地利用の観点から、自家不和合性を示さない品種改良も課題となっています。

「ぽろたん」の説明をしてくれたナシ・クリ・核果類生産プロジェクトリーダーの齋藤寿広上席研究員

「ぽろたん」の説明をしてくれたナシ・クリ・核果類生産プロジェクトリーダーの齋藤寿広上席研究員。「ぽろたん」開発の中心人物だ

専用のハサミ「ぽろカット」も販売されている

専用のハサミ「ぽろカット」も販売されている
(長谷川刃物株式会社TEL.0575-22-1511)

側面に切れ目を入れて、オーブントースターなどで加熱すると簡単に渋皮がとれる

側面に切れ目を入れて、オーブントースターなどで加熱すると簡単に渋皮がとれる
注目の新品種3
渋皮が簡単にむける画期的なクリ
大粒で甘い「ぽろたん」
普段私たちが食べているクリは、クリの種子に含まれる子葉(果肉)の部分です。子葉はイガや堅い鬼皮、さらに渋皮に包まれています。鬼皮や渋皮をむくのはひと苦労。でも、「天津甘栗」の渋皮は簡単にむけます。なぜでしょう。それはクリの種類が違うからです。天津甘栗はチュウゴクグリ。国産の大粒のクリはニホングリ。

そこで、渋皮がむけやすいクリの品種開発が始まりました。しかし、渋皮がむけやすいクリを作り出す前に、「クリタマバチ」という害虫に強い品種の開発に取り組む必要がありました。

その過程で生れたのが「丹沢」「筑波」「石鎚」といった品種です。ところがその後、クリタマバチに天敵がいることが判明しました。それが「チュウゴクオナガコバチ」でした。中国から「チュウゴクオナガコバチ」を輸入できるようになり、クリの害虫問題は解消され、いよいよ食味のよさと渋皮のむきやすさを追究した品種改良が本格的に始まったのです。

そして、平成3年に大粒で甘い「丹沢」と「550-40」を交配した結果、同18年に「ぽろたん」が誕生。翌19年に品種登録されました。「ぽろっと皮がむける丹沢の子」だから「ぽろたん」。これからどんどん栽培拡大が期待される新しいブランド品種です。

シャインマスカット
注目の新品種4
皮ごと食べられるブドウの誕生
大粒品種「シャインマスカット」
種なしブドウといえば、なじみ深い品種が小粒の米国ブドウ「デラウェア」でしょう。「デラウェア」は1960年代に植物ホルモン処理による種なし栽培技術が開発されたブドウです。現在では「マスカットベリーA」「ピオーネ」「巨峰」などが、種なし栽培されています。

近年、大粒の種なしブドウの人気が高まり、「甲斐路」や「ロザリオビアンコ」「瀬戸ジャイアンツ」といったブドウを店頭でもよく見かけるようになりました。さらに、需要拡大に必要なブドウの条件として求められるようになったのが、栽培する上では生理障害の発生率が低く、耐病性も高く、栽培しやすい品種であること、消費者のニーズとしては種なしで皮ごと食べられる大粒の品種であることでした。

今、特に注目されているのが、平成18年に品種登録された「シャインマスカット」です。親は「安芸津(あきつ)21号」と「白南(はくなん)」。ヨーロッパブドウの特徴的な香りである「マスカット香」をもち、肉質が噛み切りやすくて硬く、糖度が高い大粒品種で、種なし栽培でき、皮ごと食べられる画期的なブドウです。