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特集2 食材まるかじり(1)

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日本の冬の郷土食 漬け菜

冷たい水で今年も挑戦 夫婦二人三脚の野沢菜漬け 長野県・野沢温泉村 富井宇内(うない)さん・清子さん


冷たい北風が冬の到来を告げる頃、日本の各地で漬物が作られます。中でも地域特産の青菜を使った漬物は、寒さが増し、新鮮な野菜が不足する季節の貴重な保存食でした。流通が発達した今では、誰もがその独特の風味を楽しめる、豊かな郷土食の1つとなっています。
日本の冬の郷土食 漬け菜

「今年のお菜はよくできた」と喜ぶ宇内さんと清子さん

「今年のお菜はよくできた」と喜ぶ宇内さんと清子さん

冷たい水で、茎の溝に入った泥をていねいにこすり落とす

冷たい水で、茎の溝に入った泥をていねいにこすり落とす

洗ったお菜を、横に置いたすのこに積み上げ、水切りをする

洗ったお菜を、横に置いたすのこに積み上げ、水切りをする
雪になる直前を選んで野沢菜を収穫

長野県の野沢温泉村は、日本3大漬け菜のひとつ「野沢菜漬け」の本場。例年11月の初旬になると、地元の方々がいっせいに「お菜漬け」を始めます。当地では野沢菜のことを「お菜」と呼ぶのです。

「お菜は収穫する前に2回ほど霜に当たるといいの」と話すのは民宿「まるとや」の大女将、富井清子さん。野沢菜を漬けて60年、という地元生まれの名人です。

今年は、なかなか寒さがやってこず、夫の宇内さんと、天気予報や野沢菜の成長を確認しながら11月の第1週に「収穫日」を決定。当日は、1日に約200kgの漬け菜を収穫し、自宅に運び込むと、塩水を張った水槽に漬けて1晩寝かせます。 1株が80cmから1mにもなる大きな野沢菜を10株ずつ束ねて運ぶだけでも相当な重労働。しかも、この量は杉の大樽1台分。これを3日間繰り返し合計3樽分を漬けます。家族と、民宿に泊まるお客さんへのおもてなしに必要な量です。

野沢温泉村では、温泉の湯を使った「お菜洗い」が有名で、清子さんも昔は通っていたのですが、ある時から「この方が体の負担が少なくて済む」と、塩水で一晩寝かせる自宅での作業に切り替えました。これだと、菜がしんなりして、扱いやすく、汚れがすっかりと落とせるそう。一方で、それはとても冷たい水との戦いになる作業でもあります。

翌日は、朝から作業開始。清子さんが塩水に漬かったお菜を洗うと、宇内さんが真水でしっかり仕上げ洗い。手慣れた二人三脚の作業です。水槽の水は手が赤くなるほど冷たいのですが「冷たい時はお湯を入れるよ」と宇内さん。

そして、洗ったお菜の水が切れると、本番のお菜漬け。富井家では、大正3年に先々代の当主が作った杉の大樽を使います。途中で加える塩と唐辛子の量や手際はまさに清子さんの経験値。樽の上までお菜を詰めたら蓋をし、重石(おもし)をのせて完了です。このお菜は2、3週間くらいしたら青々とした「浅漬け」に。その後、少しずつべっこう色に変化し、お正月には見事な「本漬け」がいただけます。

「樽に氷が張ると、お菜が一段とおいしくなります。でもね、空気に触れるとあっという間に色も風味も変わるんだ。だからぜひ、最高においしい野沢菜漬けを野沢温泉村に食べに来てください」とご夫婦は口を揃えて語ります。


取材協力/合同会社 野沢温泉観光協会
TEL:0269-85-3155
http://nozawakanko.jp/


漬け菜名人清子さんの真骨頂!

「お菜は2~3株ずつ扱うといいの」と清子さん

1.「お菜は2~3株ずつ扱うといいの」と清子さん

  焼酎できれいに洗った樽の中に、最初の塩水(呼び水)を入れたら、野沢菜を丸く曲げて投入

2.焼酎できれいに洗った樽の中に、最初の塩水(呼び水)を入れたら、野沢菜を丸く曲げて投入

  長い野沢菜を折らずに、高さも均等に並べていくのが熟練の技

3.長い野沢菜を折らずに、高さも均等に並べていくのが熟練の技

途中数回、塩と唐辛子を振り掛ける。「コンブなど入れる人もいますよ。でも私はこのシンプルな味加減が好き」

4.途中数回、塩と唐辛子を振り掛ける。「コンブなど入れる人もいますよ。でも私はこのシンプルな味加減が好き」

  樽の上まで野沢菜を詰めたら、蓋と重石をのせる。重石は20キロくらいの重さが目安だ

5.樽の上まで野沢菜を詰めたら、蓋と重石をのせる。重石は20キロくらいの重さが目安だ

  大豆油

6.手前が今日漬けた樽。奥は、3日前に漬けたもの。蓋を開けると最初上まであった水があっという間にひいて見えなくなる。「こうして食べるたびに重石を取って蓋を開けると中の水が動くでしょ。この繰り返しで塩分が均等に回り、さらにおいしくなるの」


「今年のお菜はよくできた」と喜ぶ宇内さんと清子さん
種菜は、「おぼろ月夜」にも歌われた菜の花畑に
野沢菜は約60日で成長するため、漬ける時期から逆算して9月下旬に播種(はしゅ)しますが、その「種」をとるための種菜は、もう少し遅く播(ま)きます。漬物用より若く丈が低い段階で、雪の下に埋もれさせ、雪解けとともに新しい茎を伸ばして花を咲かせるのです。里山一面を黄色に染める菜の花の風景は大正・昭和の文部省唱歌「おぼろ月夜」に歌われました。

「お菜洗い」は野沢温泉村の冬の風物詩

「お菜洗い」は野沢温泉村の冬の風物詩

Photo:Keita Suzuki
「お菜洗い」は野沢温泉村の冬の風物詩
野沢温泉村では、野沢菜の収穫時期になると、村内に13か所ある公衆浴場のほとんどが、2日間だけ開放され、自由にお菜洗いをします。温泉のお湯は、温かくて作業しやすく虫ばなれもよいのだとか。開放の日程は地元住民の方々が毎年協議して決定。その2日間は未明から、野沢菜の束を運ぶ人々がひっきりなしに浴場に向かいます。野沢温泉村ならではの冬の風物詩。ぜひ来年は日程を調べて訪ねてみてはいかがでしょう。