このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

連載26 こぐれひでこ の いただきもの絵日記

  • 印刷

お餅


フグ

文・イラスト こぐれひでこ

こぐれひでこ
profile
イラストレーター&エッセイスト。『こぐれひでこのおいしい画帳』(東京書籍)、『こぐれひでこのごはん日記』春夏篇・秋冬篇(早川書房)、『私んちにくる?』(扶桑社)、『こぐれの家にようこそ』(早川書房)ほか、著書は30冊を超える。現在は、女性向けの人気情報サイト『カフェグローブ』で、ごはんをテーマにした『こぐれひでこの毎日ごはん』を、また遊び心をテーマにした情報サイト『あそびすと』でも連載中。

『こぐれひでこの毎日ごはん』
http://www.cafeglobe.com/travel/kogure/
私の生家では12月28日の早朝から餅つきをしていた。餅の中で一等賞なのは、なんといってもつきたての餅にしょうゆを混ぜた大根おろしをからめて食べる辛味餅だ。あれは本当においしかった。

中学時代から餅つきの餅をひっくり返す役を任されていた姉の話では、最初につく餅で作るのは辛味餅だったという。最初の餅は神様にお供えする鏡餅にするべきだと思えるのだが、水に浸してからしっかり洗ったつもりでも臼にはゴミが残っている。その臼でついた餅には当然ながらゴミが混じるので鏡餅にはせず、辛味餅にして家の者が食べてしまうのだという。神様の毒味役? それとも神様の露払いだったのか? なるほどである。しかしゴミの混じった辛味餅だったにせよ、あのおいしさは格別だった。今でもあの味を懐かしく思い出す初老の私。ああ、あの辛味餅をもう一度食べたい。

臼のゴミを辛味餅に吸い取らせた後で、大小の丸い鏡餅を作り、床の間に飾る。鏡餅が作られた後は、あんころ餅やのし餅や青のりを混ぜ合わせたかまぼこ形ののり餅などが次から次へと作られていった。二日ほど経って餅が少しばかり硬くなってきた頃、のし餅を角型に、のり餅はくし形に切り分ける。あんころ餅はそのまま保存。角餅は雑煮や焼き餅に、のり餅は焼いたり油で揚げたりして食べた。硬くなったあんころ餅も焼いて食べた。

元旦は雑煮。生家からわが家に伝わる雑煮は鰹だしのしょうゆ味で、大根、人参、里芋、鶏肉、三つ葉、焼いた角餅を入れたもの。長い間、日本中の雑煮はみんな同じだと思っていたのだが、クルミだれ、白味噌仕立て、昆布だしの味噌仕立てなど、地域によっていろいろな味付けがあり、雑煮の具にも鮭やブリや海苔や蛤などを使うということを知ってびっくり。イチバン驚いたのは香川県の雑煮だ。なんと、白味噌仕立ての汁にあん餅を入れるというではないか。

正月に限らず岩手県一関地方では、冠婚葬祭、季節行事、農作業の節目などに餅つきをして、納豆、沼エビ、シイタケとショウガ、肉やゴボウのそぼろ、クルミ、胡麻あんにからめた餅など300種類以上もの餅料理があり、本膳にはさまざまな餅料理が並ぶのである。変化に富んだ味を持つ餅料理はおいしい。この地方が誇る餅文化と餅の秘められた力に感動すること必至である。

餅ひとつとってもこんなに違う食文化があるのだから、日本はちっとも狭くない。だから面白いんだなあと私は改めて思うのである。