明日を担う若い力 チャレンジャーズ 第58回
「フルージック(FRUSIC)」
農業+資源+観光で地域と共生した農業経営を
岐阜県高山市
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渡辺祥二さん。美濃加茂市でアセロラ栽培も行う。 法人名の「FRUSIC」はFRUITSとMUSICの造語。 「風や雨、川の流れなど、自然の音楽を聞きながら育ったフルーツを、 好きな音楽を聞きながら食べる」というイメージから名付けられた |
![]() ドラゴンフルーツの花は5月から11月まで楽しめる。咲くのは一夜限り、観光客にも人気のスポット
![]() サボテンに実るドラゴンフルーツ。品種・外気温により異なるが受粉から25日~2カ月ほどで収穫できる
![]() ドラゴンフルーツはサボテン科の植物。温室ハウスのなかには約1,000本が茂る ![]() ハウス内の床には温泉熱で暖められた循環水が流れている ![]() 洋ナシに似た味や、スイカのようにあっさりとした甘みなど品種により果肉の色も味もさまざま |
温泉熱を利用した環境配慮型農業
原産地は中南米といわれるドラゴンフルーツは、大きなうろこ状の果皮に包まれ、柔らかな果肉には小さい黒ゴマのような種子が点在する。栽培されているのは主に東南アジアや、日本では沖縄県・鹿児島県など比較的暖かい地域だ。この南国のフルーツを、冬場は気温が氷点下になる岐阜県の奥飛騨(おくひだ)温泉郷で作っている人たちがいると聞き、訪ねてみた。 ドラゴンフルーツの栽培をしているのは、渡辺祥二さんが代表を務める農業生産法人「FRUSIC(フルージック)」。奥飛騨温泉郷の温泉熱を有効利用した温室ハウス内でドラゴンフルーツは作られている。当日、外は吹雪いていたが一歩ハウスに入ると別世界、ぽかぽかと暖かい。 それにしてもなぜドラゴンフルーツ? 「よく聞かれますが、自分でも説明できないのですよ。最近ではドラゴンフルーツに選ばれて、僕が広めていく職務を任されたのかと思っています」と渡辺さんは笑う。 10年ほど前、会社員だった渡辺さんは、インターネットでアセロラに関するサイトを見て興味を持ち、海外のサイトの検索中にフロリダスイートというアセロラを知った。名前に惹かれて、10日後にはフロリダに飛んだという。そのフロリダで運命的に出会ったのが、果皮の黄色いイエロードラゴンというドラゴンフルーツだった。「この果実だ」と直感し、2007年に24種類の苗木を輸入して栽培に乗り出した。 奥飛騨を栽培地として選んだのはなぜか。 ひとつはイメージ戦略。ドラゴンフルーツは国内では沖縄県産が多く、それに対抗できるブランド力を持つ地域は、在住している岐阜県内では、飛騨高山以外に考えられなかった。また当時ヨーロッパの農業がCO2削減の方向に進んでいるのを知り、今後はハウスの暖房に灯油をたいてCO2を排出するのではなく、地域資源の温泉熱などを使った、環境に配慮した農業に目を向けるべきではないか、と考えたからだ。さらに、奥飛騨を訪れる観光客に夜咲くドラゴンフルーツの花を見てもらい、珍しい果物を提供することで地元の観光と農業との連携ができ、地域の活性化への貢献もできるのではないか、という理由からだった。 栽培開始当初、輸入した苗木は日本で栽培実績がない新種であったため、手探り状態から始めたドラゴンフルーツも、昨年の収穫は約5トンにのぼった。温室ハウスに併設した売店で購入していくのは観光客だ。ジャムの加工品に加え、ドラゴンイヤー(辰年)にちなんで、新たにドラゴンフルーツのジュースも売り出した。 温泉熱を利用した農業は海外からも注目されており、数カ国から視察も来ているという。 大学卒業後、建設関係の会社に勤務していた、という渡辺さんは異業種から農業へと参入してきた。そうした経験を生かした既成概念にとらわれない発想で、新たな農業のありかたをこれからも提案してくれそうだ。
![]() フルージック(FRUSIC)」 http://www.frusic.co.jp |
Photo:Photo:Keita Suzuki
チャレンジャーズでは、農林水産分野で先進的、かつユニークな活動を行っている人々をご紹介します。