特集2 食材まるかじり(1)
季節の恵みをとじ込めた ジャム
四季折々の島の果実を生かして
パン食が普及した当時、ジャムといえば、トーストにぬるイチゴやリンゴジャム、マーマレードがほとんどでした。 最近ではブルーベリーやブドウ、アンズ、キウイフルーツといった果実や、トマト、 ルバーブなどの野菜類、バラの花など、日本各地の特産品を加工したおいしいジャムや、 ギフトにしたいおしゃれなジャムが店頭にたくさん出回っています。 多彩なジャムの情報や、作り方、おいしい食べ方などをご紹介しましょう。 |
![]() 売場に併設されたカフェコーナーでは、瀬戸内の海を眺めながら、ジャムを使ったお菓子やデザートが楽しめる。
季節のジャム3種を使った「ジャムトースト」はプチヨーグルト付きで460円 (写真のジャムは大島みかんとはちみつリンゴのジャム/島のラムイチゴジャム/黒大豆と東和金時のジャム) |
![]() 「果実それぞれの旬の時期を知り、特徴を生かして一番おいしく仕上げるには、果実生産者やキッチンスタッフとの対話が欠かせません」という松嶋さん ![]() 白い砂浜に面して建つショップの庭で、潮風に吹かれながらのティータイムはいかが 瀬戸内ジャムズガーデン 山口県大島郡周防大島町日前331-8 TEL.0820-73-0002 水曜日定休 http://www.jams-garden.com/ Photo:Akira Taniguchi |
四季折々の島の果実を生かしてここにしかない手作りのジャムをつくる
「瀬戸内ジャムズガーデン」は、瀬戸内海の西の端に浮かぶ島、「周防大島」にあるジャム屋さん。穏やかな瀬戸内の浜風と陽光を、ふんだんに浴びて育った島の柑橘類を中心にした手作りのジャムが人気で、県外からもこのジャム目当てに訪れるお客が絶えない、人気のお店です。山口県・周防大島(すおうおおしま) 瀬戸内ジャムズガーデン 松嶋匡史(まつしまただし)さん そもそも、この店が誕生したきっかけは、今から11年前、松嶋さん夫妻が新婚旅行で訪れたフランス、パリでのこと。町のコンフィチュール(フランス語でジャムのこと)専門店にずらりと並んだジャムの種類の多さや、ただパンに塗るだけでなく、多彩な食べ方で1つのデザートとして扱う食文化に匡史さんがいたく感動したのだとか。しかしその当時、名古屋で会社員をしていた匡史さんには、ジャムづくりの知識は全くないし、奥さんの智明(ちあき)さんにしてみれば「会社員と結婚したはずなのに、まるで冗談みたい(笑)」という心境だったとか。しかし、匡史さんの作った堅実な事業計画を見て、奥さんやご家族も納得。夢のジャム屋開店を目指し、夫婦で長野県のジャム工房などで週末研修を始めました。すると真っ先に共感してくれたのは、奥さんの実家がある周防大島の果樹農家のみなさんでした。店の第1号商品となった「イチジクジャム」の原料をはじめ、無農薬や減農薬、ワックスを使っていないイヨカンやハッサクを提供する契約農家が次第に増えていきます。ジャムづくりの命である新鮮な果実が、産地直結で手に入ることは、何よりのメリットです。2007年にお店が完成し、通年営業を始めてからは、キッチンで働くスタッフも増員。「手作り」を目指す松嶋さんたちにとって、それは柑橘類の皮をむいたり、小鍋でコトコト煮るという手のかかる作業を続けるのに欠かせない、頼もしい仲間です。 こうして年を重ねるごとに、この島の特産品を使ったジャムやマーマレードは種類を増やし、今ではリンゴとブルーベリー以外は近隣の原料で賄い、年間で110種類もの商品を販売しています。 今、松嶋さんは、ここにしかないジャムづくりのための果樹栽培に挑戦しています。店の隣の土地に「体験型ブルーベリー農園」を開設。裏山や耕作放棄地に、この島では手に入りにくい柑橘類の畑を作りました。すると「いっしょに栽培がしたい」と声を上げる農家も集まるようになったといいます。 11年前、たった1組の夫婦が夢に描いた「おいしいジャム屋さん」は今、周防大島の農業そのものを活性化させ、スタッフや観光客として若者を呼び込むなど、地域のビジネスリーダーになりつつあります。
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