特集1 地域力の向上をめざして「農」の未来の設計図を描く ~人・農地プラン~(4)
地域のだれもが納得する方法を模索して
農地の集約化がもたらした大きな成果(2)
![]() ![]() 竹林ボランティアによって定期的に竹林が整備されるため、平沼田集落には放置竹林はない。 ![]() 竹林ボランティアの名札。26~27人の竹林ボランティアは地区内の人と地区外の人が半々で、多いときは年に10回も活動している。 ![]() ![]() 伐り出した竹は竹釜で竹炭にしたり、ブドウ棚に活用(上・下) |
将来を見すえて上手な世代交代を
山陽小野田市役所農林水産課の長井さんが、「後継者の問題にしても、父親が元気なうちは次の世代に譲ろうとしません。それでもいいのだけど、父親ができなくなって初めて息子の代に譲るのでは遅いのです。地域農業の活性化には、上手な世代交代もポイントだと思います」 と指摘すると、村上さんが法人組織について語ってくれました。 「今回、法人化するにあたって、組織化はするけれどもその代わり、近い将来、世代交代が必ずできる態勢を作っておくことを念頭に置きました。法人化しようと思ったら、それなりの形にはできる。でも今携わっている人の多くは60~70代です。5年先、10年先まで続けられるでしょうか。 『和の郷』は僕を入れて理事が6名います。平均年齢は67歳。これだけだったら、おそらく長く持たない。だから、理事全員に、次に地域を牽引していく若い世代を補佐につけたのです。あなたがこの人の後継だよ、今のうちにいろいろ勉強しておきなさいよと。補佐の平均年齢は47歳です。普段は勤め人で、それこそ初めて田植えをしたという人もいるけれど、若い人たちはちょっと教えればすぐこなしてくれますよ」 地域のあるべき姿を描き実行に移すことが大切
加えて平沼田集落では、都市部や地区外の人たちとの交流も進めています。村上さんは「田舎の集落はとかく保守的になりがちです。外から人や物が入ってくることに慣れておかなくてはいけません。どこの地域でもそうですが、新規就農者を受け入れるなら、受け入れる側も柔軟でないと円滑にいきませんからね」と言いました。平沼田集落における地区外の人との交流事業のひとつが、平成18年から始めた「竹林ボランティア」です。竹林の整備をする代わりに、登録した会員は自由にタケノコ刈りを楽しめ、そば打ち大会や田植えに参加することもあります。 また、村上さんはほかの地域との情報交換も積極的に行っています。 「先進的な取り組みをしている地域に聞きに行くのはいいけれど、僕は問題になったことだけを聞きます」と村上さん。「成功事例を聞いても地域ごとに規模も人も違うから、あまり参考にならないけれど、問題になることはおそらくどこの地域でも起こりうることなので、それを聞いて参考にし、自分の地域に照らし合わせてどう解決するかを考えたほうがためになる」のだそうです。 ここまで専心できるのは「この地域が好きだから」と村上さんは笑いましたが、おそらくだれもが自分が生まれ育った地域を大切に思っていることでしょう。将来的に地域がどうあってほしいかを思い描かなくては何も始まりません。地域農業の再生が日本の農業の再生につながることを改めて理解することが大切です。 |
![]() 大久保農場の広大な農地。大久保さん夫婦はエコファーマーの認定者でもある ![]() 将来、養豚業と畑作を両立させたいと思っているそうだ ![]() 昨年から栽培品目に加わったズッキーニ。順調に収穫している ![]() 大久保さん家族。長男は今年6年生、次男は3年生になった (写真提供:大久保農場) |
マッチングが生んだ新規就農の成功例
北海道で開花した就農の夢 農業を引退して農地を譲りたい人と都市部からの就農希望者の思いが結ばれた事例を紹介しましょう。 北海道東北部の紋別郡(もんべつぐん)遠軽町(えんがるちょう)白滝地区にある大久保農場は、52ヘクタールの農地でジャガイモや小麦、てんさい、トウモロコシ、カボチャ、ズッキーニなどを生産する大規模農家です。農場の主は平成12年に神奈川県横須賀市から移住し、新規就農を果たした大久保淳(じゅん)さん・真由美さん夫婦。当時淳さんは29歳、真由美さんは31歳でした。 北海道での就農を希望していた大久保さん夫婦は、「北海道農業担い手育成センター」から、合併して遠軽町になる前の白滝村で後継者を探していた農家を紹介されます。その方には後継者がなかったため、農地を譲る人を探していたのでした。当時の白滝村は新規就農者の受け入れに熱心で、助成金給付等の制度が整備されていたそうです。後継者を探していた先代と独立就農を希望していた大久保さん夫婦、そして白滝村の施策がマッチしたことに加え、当時の農協や関係機関、地域の先輩農家の後押しもあり、農業研修や農地の譲渡を円滑に進めることができたのです。 研修を終えた平成15年、農場や農機具、住宅などをそっくり譲り受け、大久保農場として独立。認定農業者(農業経営改善計画を作成して市町村長の認定を受けた個人・法人)となり、貸付当初5年間の金利負担が軽減されるスーパーL資金を活用するなど計画的に営農を進め、今年で10周年を迎えました。 この間2人の息子に恵まれ、また時には農地を譲ってくれた農業の大先輩が生きた知恵を授けてくれたり、繁忙期には手伝いにも来てくれます。 この春、3頭の子豚を手に入れました。豚の飼育は今年で4回目。「跡取りの息子たちのことも考え、多角化を視野に入れて養豚の勉強をしているのです。飼料はうちの作物で、豚の糞は堆肥にする循環型農業を確立したいと思っています」と真由美さんが将来の希望を語ってくれました。 大久保農場 http://www.ookubo-nojo.com/ |