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特集1 世界遺産条約採択40周年 世界自然遺産を守る林野庁の取り組み(2)

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樹齢数千年のスギが生き続ける島

屋久島


屋久島は、平成5年12月、白神山地とともに日本で初めて世界自然遺産に登録されました。
日本の世界自然遺産を世界の宝として守っていくために何が必要か、屋久島の現状を通して、改めて考えてみましょう。

鹿児島県熊毛郡屋久島町。

[DATA]
鹿児島県熊毛郡屋久島町。
宮之浦岳を中心とした島の中央山岳地帯に加え西は国割岳を経て海岸部まで連続し、南はモッチョム岳、東は愛子岳へ通じる山稜部を含む区域。
面積107.47km2

左から屋久島森林環境保全センターの日比野誠也さん、森林保護員の安藤修二さん、同センターの自然遺産保全調整官の樋口浩さん、森林保護員の平尾勝美さん、同センターの江口頼雄さん

左から屋久島森林環境保全センターの日比野誠也さん、森林保護員の安藤修二さん、同センターの自然遺産保全調整官の樋口浩さん、森林保護員の平尾勝美さん、同センターの江口頼雄さん

植生のモニタリングのほか、雨量計(左)や川の温度計などを設置して気象に関するモニタリングも実施

植生のモニタリングのほか、雨量計(左)や川の温度計などを設置して気象に関するモニタリングも実施

ヤクシカは小柄で愛くるしい

ヤクシカは小柄で愛くるしい。しかし近年、ヤクシカの生息数の増加に伴って食害も増加。そのため関係機関と連携して植生保護柵の設置や個体数調整などを行っている

森林保護員は巡視中に手すりなどの破損箇所を発見すると、すぐにできる限りの補修を行う

森林保護員は巡視中に手すりなどの破損箇所を発見すると、すぐにできる限りの補修を行う

世界自然遺産地域の入り口に設置されている案内板

世界自然遺産地域の入り口に設置されている案内板。森林保護員の安藤さんはいつもここを訪れた人たちに「私たちはこの世界の財産を次の世代にきちんと手渡す義務があるのですよ」と話すそうだ

登山道で倒木の危険がある場所では、場所をGPSなどに記録し、注意喚起のため関係機関へも情報提供する

登山道で倒木の危険がある場所では、場所をGPSなどに記録し、注意喚起のため関係機関へも情報提供する
屋久島の自然
標高2,000mに迫る九州最高峰の宮之浦岳を有し、「洋上のアルプス」と謳われる屋久島は、亜熱帯性植物を含む海岸部の暖温帯から山頂付近の冷温帯や高層湿原に及ぶ植生の典型的な垂直分布が見られる、北半球の温帯地域では他にほとんど例のない生態系を有しています。

世界遺産地域の約96%が国有林野です。ヤクシマダケ(ヤクザサ)やヤクシマリンドウなどの固有種が自生し、ヤクシカやヤクシマザル(ヤクザル)、ヤクシマカケスやヤクコマガラなど、多様な動植物が生息しています。

作家の林芙美子が『浮雲』に「屋久島は月のうち、三十五日は雨」と書いたとおり、屋久島の山岳部の年間降水量は1万mmといわれています。大量の雨が多様な広葉樹とツガ、ヤクスギなどの針葉樹が混生する森林を育み、たくさんの滝や美しい渓流をつくりだしてきました。高湿度が保たれた森の中には、着生植物(他の植物や岩の上などに着いて生育する植物)が絡まり、苔むした木々が生い茂る独特な風景が広がっています。特に屋久島のシンボルともいえる、樹齢2,000年以上の「縄文杉」「紀元杉」などのヤクスギは圧巻です。

屋久島のシンボル ヤクスギの不思議
そんな屋久島を訪れた日、幸いにも天候に恵まれ、林野庁九州森林管理局の屋久島森林環境保全センターの自然遺産保全調査官、樋口浩さんら職員と森林保護員(通称「グリーン・サポート・スタッフ」)が行う国有林野内の巡視に同行させてもらいました。樹木医でもある樋口さんが、屋久島の森林植生について細かく説明してくれました。

なぜ屋久島に生育するスギが、数千年にも及ぶ樹齢を持つことができるのか、そんな疑問をぶつけてみました。

「屋久島は、約1,400万年前、新生代の造山活動によって海面に花崗岩が隆起してできた島です。花崗岩由来の土壌は栄養分が少ないため、屋久島のスギは成長が遅いのですが、緻密に年輪を重ね、幹にたくさんの樹脂を蓄えるため腐りにくくなり、年間を通した豊富な降雨もあって、1000年以上も生き続けることができるのです」

しかし、数千年という樹齢を誇る縄文杉は、昭和41年に一般に紹介されてから、多くの登山者によって根元の周囲を踏まれ、土壌が流出し、根が露出してしまいました。現在では登山者が近づけなくする一方、展望デッキを設置して展望場所を確保しています。世界自然遺産に登録されてからはさらに縄文杉を見に訪れる登山者が増え、近年は年間10万人近くにのぼります。

森林生態系を守る取り組み
屋久島森林環境保全センターでは所長をはじめ7名の職員が一丸となって、世界遺産の厳正な保護・保全を推進しています。特に登山者の増加に対処するための植生回復や、ヤクシカの増加に対応するためのヤクシカ被害対策に力を入れています。登山コースを巡視中に、倒木の恐れがある箇所や危険箇所などを発見した際には、直ちに対応できる処置を行い、対応できない場合はその場所をGPSで記録し、関係機関とも情報を共有するなど、対策を講じています。これらの対策と併せて、植生や気象などに関するモニタリングを研究機関などと連携しながら継続的に実施しています。

たくさんの人が訪れれば、中にはマナーの悪い登山者も少なからずいます。登山道から外れて貴重な植物を踏みつけたり、ゴミを置いていったり、また決められたトイレを利用せずに森の中で用を足すなど、森林生態系への影響が懸念される行為が目立つようになりました。

自然遺産地域を守るため、関係行政機関では地域住民、団体などの協力を得て、巡視活動を行っています。このうち地元で公募した6名の森林保護員が、国有林野内の巡視だけでなく、登山者への利用マナーの指導や危険行為の防止及び普及啓発活動などに携わっているのです。取材当日は、16ある巡視コースのひとつ、淀川登山口から黒味岳に抜けるコースを途中まで同行させてもらいました。

森林保護員は2人1組で行動し、植生の荒廃、植物や土石の盗掘、樹木の損傷などの状況把握、不法投棄、一般登山者のゴミ等の状況把握とゴミ拾い、森林火災、虫害、鳥獣害、土砂流失、土砂崩壊等の状況把握、標識など施設の破損状況の把握と補修などを行いながら、登山道を進みます。

この日巡回していたのは、安藤修二さんと平尾勝美さんです。2人は木道の手すりの破損を見つけるとすぐ、手際良く修理をしたり、小さなゴミも見落とさずに拾ったりしながら、軽快に山道を登り降りしていました。

植生の垂直分布

植生の垂直分布
屋久島では亜熱帯性植物を含む海岸部の暖温帯から山頂付近の冷温帯や高層湿原に及ぶ植生の典型的な垂直分布が見られ、北半球の温帯地域では他にほとんど例のない生態系を有しています

自然の姿を後世に残すために
世界自然遺産地域に限らず、たくさんの人々が山や森林に入ることで発生する象徴的な現象として、トイレの問題が挙げられます。例えば、ゴールデンウィーク中、多い日には1日に1,000人以上の人が訪れることがある縄文杉やウィルソン株の歩道入口にあるトイレは、利用するのに1時間待ちということもあると聞きました。

屋久島の山岳部にはトイレが12カ所設置されていますが、山中のトイレの維持・管理はとても大変です。森林保護員の安藤さんは「トイレにおむつを置いていってしまう人もいて、困ってしまう」と言っていました。し尿の搬出には労力と費用もかかります。屋久島に限らず、山中に数多くのトイレを設置することはできません。だからといって登山者に野外で用を足されては、自然環境を汚染することになります。

屋久島の山岳部では自然環境を保全するため、山岳部のトイレし尿の人力搬出や携帯トイレの利用促進、登山道の補修などを行っており、この費用として「山岳部保全基金」の協力をお願いしています。

また、歩きにくいという理由から、登山ルートにかぶさるように伸びた枝を安易に切ってしまう登山者がいるといいます。自然遺産保全調査官の樋口さんも森林保護員の安藤さんも、それには顔を曇らせていました。「登山ルートは屋久島の自然遺産地域の豊かな自然を満喫するためのものと受けとめるべきです。危険木処理などの手入れは必要ですが、登山者優先の考え方は、自然遺産地域をできるだけあるがまま保全していくという観点からは疑問が残ります」と安藤さんは言います。

日本の素晴らしい自然は、私たち日本人共通の財産です。そして世界自然遺産は、世界の人々の共通の宝です。日本にある世界遺産はほかの国の人々に代わって、私たち日本人が守っていかなくてはなりません。私たち一人ひとりがそれを自覚して、自然の姿を守り、後世に伝え、残していこうという意識を持つことが大切です。

屋久島森林環境保全センター https://www.rinya.maff.go.jp/kyusyu/yakusima_hozen_c/
屋久島世界遺産センター https://www.env.go.jp/park/yakushima/ywhcc/index.htm

屋久島のシンボル

紀元杉

紀元杉
推定樹齢3,000年。高さ19.5m、幹周りが8.1mあり、唯一車道から見られる巨木。ヒノキ、ヤマグルマ、ヤクシマシャクナゲ、ヒカゲツツジ、ナナカマドなど着生樹が多いことも特徴だ

縄文杉

縄文杉
推定樹齢2,170年~7,200年。高さが25.3m、幹周りが16.4mあり、現在確認されている最大のヤクスギ
ウィルソン株

ウィルソン株
切り口の直径が4m以上ある屋久島最大の切り株。中は空洞で十畳ほどの広さがあり、泉が湧いている。およそ400年前に、ヤクスギを豊臣秀吉に献上した際に伐られたと言い伝えられている
花之江河

花之江河
屋久島の中央部、黒味岳の入り口の標高約1,600mに位置する高層湿原。ミズゴケ類が多く、周囲は盆栽状、白骨化したヤクスギ、ミヤマビャクシン、ヤクシマシャクナゲなどに囲まれて独特の景観が楽しめる
  白谷雲水峡

白谷雲水峡
世界遺産地域外の標高600~1,000mにある自然休養林。林の中は珍しいシダやコケ類に覆われ、清らかな水の流れとヤクスギと照葉樹が織りなす神秘的な風景が見られる
   

Photo:Koji Kinoshita