チャレンジャーズ 明日につなぐ夢 第67回
山梨県山梨市 農業生産法人 株式会社hototo
「農体験」で都会を支え、地域も賑わう新農業スタイルを提唱
![]() 収穫後のブドウ畑に集まった、農業生産法人株式会社hototoのスタッフと、宿泊施設を支援してくれている農家のご夫婦(後列右側)
![]() 「農業の楽しさを多くの人に伝えたい」という、水上篤さん ![]() ブドウ棚が続く牧丘の里山風景。こんな風景に魅せられて農業にはまる若者もいる
![]() 9月には山梨市から借り受け、リトリートを目的とした宿泊施設「保健農園ホテル フフ山梨」をオープンさせた。東京ドーム5個分の広大な敷地と、目の前の富士山が自慢の宿だ ![]() 現在の生徒は約100名ほど。卒業生の中には支援を受けて農家になった人や外国の農場に研修に出た人もいて活動の輪がますます広がっている 山梨県山梨市牧丘町杣口1010 TEL.0553-35-2678 http://hototo.jp/ |
初心者も農家志望者も自由に学べる週末農業
山梨県の甲府盆地北側、緩やかな丘陵にブドウ棚が広がる山梨市牧丘町(まきおかちょう)は「にほんの里100選」にも選定された、のどかな里山だ。この丘を上り詰めた杣口(そまぐち)地区に、農業生産法人株式会社「hototo(ホトト)」(以下「hototo」)がある。設立は平成21年。当初から力を入れているのは「週末農業」というユニークな活動だ。一度農業をやってみたいという都会の若者を対象に、週末の1日(土曜日または日曜日、全12回)農作業を指導する「週末農業スクール」と、さらに本格的に農業を学びたい人のための、週末1泊2日を使った「年間農業コース」が主軸。そのほか親子連れや子どものための体験イベントなども定期的に企画されている。都心から約90分という好立地のためか、この「週末農業」はネットや雑誌などを通じて評判を呼び、夫婦やカップル、女性グループ、親子連れなどが次々訪れる人気のスクールに急成長している。週末を田舎で過ごして家庭菜園を楽しむ感覚の人、本格的な農業を学ぶ足がかりにする人など、その目的は実に様ざまだ。直接的な就農支援活動と一味違う、この「hototo」の緩やかなスタイルは、代表取締役の水上篤(みずかみあつし)さんが自らの体験と、そこから得た人生観を体現したものである。「人が生きていくためには農体験は欠かせない。生きていく希望は田舎にこそある!」という信念だ。 都会生活の中で農的生活の素晴らしさを確信
水上篤さんは、「hototo」のある杣口地区のブドウ農家の長男である。しかし実家を継ぐ気はさらさらなく、大学では建築を学ぶ。卒業後は東京の建築設計事務所で約3年働いたのち、渡米。ニューヨークの事務所で活躍する間に、アメリカの富裕層が週末を田舎で過ごす「リトリート」というスタイルに出会う。著名なビジネスマンや大富豪が無心に土いじりに興じ、収穫物に歓声を上げるのだ。「そこでは、どんなにお金を儲けても、人間は幸せにはなれないと気づきました。人間には物を作って食べる行為が必要であり、またそれにいちばんふさわしい場所が自分の実家、山梨にあるとわかったのはなんだか皮肉ですけれどね」と水上さん。本気で「農的な生活に戻ろう」と決意したのは、家を出て14年後のことだったという。 しかし、意気込んで帰った故郷は、昔とは大きく様変わりしていた。近隣の農家に跡継ぎはほとんどなく、耕作放棄地は2倍に増えていたのだ。 「しかし、使われていない農地ならば我われが使おう。また高齢の農業熟練者には無農薬や有機栽培の先生になってもらうチャンス、と受け止めました」と水上さん。そんな彼の熱意が伝わり、「hototo」の設立や週末スクールの開校には近隣の農業法人や篤農家(熱心で研究的な農家)のネットワークも支援してくれたという。 今、水上さんが嬉しいのは、この土地に人が集まることだ。家庭菜園気分で集まった生徒も、無農薬、低農薬で作る野菜作りを通して、ワラも野菜くずもムダにしないエコで持続可能な農業の素晴らしさに関心を持ってくれる。小さな子どもが泥んこになって遊ぶ姿は、日本の将来の希望の光に見える。 「今、スクールの他にもブドウ園を主体とした観光業、ブドウの製品化、宿泊施設の経営など様ざまな試みがあります。この土地でできる可能性をいろいろ試したいですね」と、水上さん。土と人とのつながりを考える「hototo」の活動はさらに大きな一歩を踏み出している。
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Photo:Koji Sugawara
チャレンジャーズでは、農林水産分野で先進的、かつユニークな活動を行っている人々をご紹介します。