特集1 養殖技術開発の最前線(2)
知っておきたい養殖業のいま
日本の水産物の生産量が減少する中、安全で品質の高い魚介類を効率よく生産する養殖業の発展は重要です。 日本の養殖魚と研究開発の現状を紹介しましょう。 |
![]() 完全養殖されているヒラメ。成長が早く、サイズも大きなヒラメの育種にも取り組んでいる(Photo:Keita Suzuki) ![]() 完全養殖に成功したウナギ。量産に向けて技術開発を進めている(Photo:Keita Suzuki) |
日本の養殖業の歴史と現状
計画的で安定した生産が可能な養殖業は、水産物の安定供給を図る上で重要な役割を担っています。我が国の漁業・養殖業の国内生産のうち養殖業が占める生産量の割合は、農林水産省「平成23年漁業・養殖業生産統計」によると19%(約90万トン)となっています。私たち日本人になじみ深いウナギ、マダイ、ブリ類はそれぞれ99%、79%、56%が国内生産量のうち養殖によって生産されており、ヒラメも34%と、養殖の比率が高くなっています。また、近年、ブリ類の中でもカンパチの養殖生産が増加しています。 海水魚の増養殖研究の歴史は、マダイの研究が最も歴史が古く、明治43年頃から始まったといわれていますが、本格的に養殖が行われるようになったのは昭和40年以降になってからのことです。ブリの養殖では、初めて事業化に成功したのは香川県の野網和三郎(のあみわさぶろう)という漁業者で、野網氏がブリ養殖に着手したのは昭和初期、魚の養殖といえば、コイやウナギなどの淡水魚に限られていた時代のことでした。ブリ養殖が産業として成立し、その生産量が「農林統計」に掲載されるようになるのはそれから30年近く経ったのちのことです。 平成14年、近畿大学水産研究所がクロマグロの完全養殖に成功しました。クロマグロの養殖研究は昭和45年から始まりましたが、天然の親魚が産卵しなかったり、たとえ産卵やふ化をしても、稚魚のときに全滅してしまい、再び親魚から採卵して育てなければならないなど険しい道のりでした。クロマグロの完全養殖は世界に例がなく、特に大型マグロ類では初めての快挙でした。 また、ウナギの完全養殖については、平成22年4月に独立行政法人水産総合研究センター(以下、水研センター)の増養殖研究所で成功しました(後述の「特集1養殖技術開発の最前線(5)」参照)。 養殖生産技術の開発
味が良く人気の高いクロマグロの養殖も、種苗として天然の若魚(ヨコワ)を漁獲して飼育するため、養殖が盛んになるにつれ、資源の減少が危惧されています。そこで、クロマグロ資源の維持・増殖のために種苗を人工で大量に生産する技術の開発が急務となっていたのです。完全養殖は達成されたものの、クロマグロの成魚は、大きいものでは全長3メートル、体重400キログラムを超えるなど、一般的な養殖魚と比べ桁外れに大きく、コスト面等の課題が残されています。このため、高効率、低コストの完全養殖を目指して研究開発を進め、安定採卵と種苗生産技術の確立に取り組んでいます。完全養殖では、卵から出荷までを人間が管理し、品質のよい魚を安定して生産することができます。代表的な養殖魚のマダイやヒラメは、人工種苗生産等の技術開発が実を結び、現在、完全養殖によって生産されています。 魚介類養殖において、日本は欧米やアジアの国々に比べ、高いレベルの生産技術を保有しています。水研センターは、生産性を向上させるための育種(品種改良)や種苗生産における技術開発や環境対策に関する技術開発を日々進めています。今後も、産官学で連携してこうした取り組みを推進することにより、世界に先駆けて循環型の食料生産体系を実現できる可能性があります。 資料:独立行政法人科学技術振興機構「科学技術月報」第32号・日本における海水魚養殖の来歴と現状 |
我が国漁業・養殖業生産量の推移
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養殖生産割合
平成23年の我が国における漁業・養殖業の生産量は473万3千トンで、前年に比べて57万9千トン(10.9%)減少しました。これは東日本大震災により、漁船や養殖施設等に甚大な被害を受けた地域において海面漁業・養殖業の生産量が大幅に減少したことなどによります。![]() |
独立行政法人水産総合研究センター
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同センターは農林水産省所管の独立行政法人で、水産基本法に述べられている「水産物の安定供給の確保」と「水産業の健全な発展」に貢献するため、水産に関する基礎から応用、実証まで一貫した研究開発とさけ・ます類のふ化・放流などを総合的に行う研究機関です。今回は水研センターの業務のひとつである「持続的な養殖業の発展に向けた生産性向上技術と環境対策技術の開発」の一部を紹介するために、三重県にある増養殖研究所と長崎県にある西海区(せいかいく)水産研究所でお話を聞きました。 |
養殖業をやさしく解説
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![]() ![]() ウォールドくんのお魚大百科 http://www.yoshoku.or.jp/ |
養殖業の振興を図り、養殖の普及や生産拡大に貢献するために発足した養殖業者で構成された組織、社団法人全国海水養魚協会では、養殖魚のおいしさや魅力を広める活動の一環として「ウォールドくんのお魚大百科」という楽しいホームページを開設し、養殖魚の解説や産地の紹介、プロの料理人による養殖魚レシピなど、養殖魚に関する幅広い情報を掲載しています。また養殖業や養殖魚の概要が学べるパンフレット「絵で見る養殖業」やDVDを制作し、学校や消費者団体の関係者に配布しています。 |