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農林水産省

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特集1 養殖技術開発の最前線(4)

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育種研究

特有の病気に強いブリの家系を作る


おいしさや高い生産性、寄生虫や病気への強さなど、消費者や生産者が望む優れた特性をもった品種を作り、維持・繁殖させることを育種(品種改良)といいます。養殖業者を悩ます病気への抵抗力があるブリを育種するための研究を取材しました。

ブリの個体別にハダムシ寄生数をカウントする地道な作業。共同研究機関である東京海洋大学の学生たちと一緒に
ブリの個体別にハダムシ寄生数をカウントする地道な作業。共同研究機関である東京海洋大学の学生たちと一緒に

増養殖研究所の業務概要を話す業務推進課長の皆川昌幸さん。もともと大気海洋科学を専門としてきたという研究者(Photo:Keita Suzuki)

増養殖研究所の業務概要を話す業務推進課長の皆川昌幸さん。もともと大気海洋科学を専門としてきたという研究者(Photo:Keita Suzuki)

遺伝子解析の説明をしてくれた増養殖研究所の尾崎照遵さん。細菌性疾病等に抵抗性を持つヒラメ品種の作出技術の開発も行っている(Photo:Keita Suzuki)

遺伝子解析の説明をしてくれた増養殖研究所の尾崎照遵さん。細菌性疾病等に抵抗性を持つヒラメ品種の作出技術の開発も行っている(Photo:Keita Suzuki)

目的の遺伝型を持つブリ親魚候補をID電子タグによって個体を確認する

目的の遺伝型を持つブリ親魚の採卵作業。藤加菜子博士研究員が奮闘中


写真提供:独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所
DNAマーカーによる選抜育種
ブリは天然の稚魚を採捕し養殖を行っており、養殖魚の中でも最も生産量の多い魚種です。

養殖業者に大きな被害をもたらすのが、ブリに多く見られるハダムシ寄生症です。

ハダムシと呼ばれる寄生虫が体表に付着することで皮膚が傷つき、病原菌に冒されたり、潰瘍ができたりします。淡水浴、薬浴による治療も有効ですが、養殖業者にとっては多大な労力や時間、費用がかかり、大きな負担となります。そこでハダムシに対する抵抗性のあるブリの家系を作る育種研究が始まったのです。

水研センター増養殖研究所で、その研究に携わってきた養殖技術部育種研究グループの尾崎照遵(あきゆき)さんにお話を聞きました。

まずハダムシに抵抗性のある家系を作るには、目的とする性質を持っている個体を選ぶことから始まります。これを「選抜」と呼びますが、その選抜をより容易に、かつ正確に行うために開発されたのが、DNAマーカーによる選抜(識別)手法です。この選抜方法はコメや果樹の品種改良にも用いられています。

ハダムシに強い親魚の誕生
すべての細胞の遺伝子は、成長しても変わらないので、好ましくない性質をもっている個体、あるいは目的とする優れた個体が早い時期に分かれば、種苗の育成過程で選抜することができます。

ハダムシへの抵抗性のある形質と関連が高いDNAマーカーが見つかれば、それを持つ子孫を選んでいくことで、ハダムシに抵抗性のあるブリの品種作成を効率よく進めることができるようになります。

遺伝子の模式図やハダムシ感染実験によるデータ収集など、地道な作業を繰り返さなくてはなりませんでしたが、すでにニジマスにおける伝染性ウイルス性疾病のDNAマーカー選抜育種を成功させた経験がある尾崎さんは、その経験を活かし、ブリのハダムシの抵抗性遺伝子領域の特定に成功しました。

現在、水研センターにはハダムシに強い2世代目の親魚候補群が飼育されており、さらなる実証実験を重ね、実用化に向けた成果が期待されています。

尾崎さんは「現在の養殖魚は天然魚と比べても遜色なく、むしろ味については安定したおいしさを提供しています。養殖業者が育てやすく、消費者が喜ぶ魚を育種することを目的としていますが、育種研究そのものが、応用研究、産業研究として"養殖産業に新しい価値観を与える育種研究"に進展していく必要性を感じています」と話してくれました。

人工授精のために親魚候補を陸上水槽へ移送して成熟調整を行う

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   目的の遺伝型を持つブリ親魚の採卵作業。藤加菜子博士研究員が奮闘中

目的の遺伝型を持つブリ親魚候補をID電子タグによって個体を確認する

海上生け簀での淡水浴によるハダムシ駆除作業を終え、個体別の寄生数を数える

海上生け簀での淡水浴によるハダムシ駆除作業を終え、個体別の寄生数を数える
   淡水浴によるハダムシの駆除作業後、陸上へ戻って個体別に淡水浴をした時にネットに残ったハダムシの数を数える吉田一範研究開発職員

淡水浴によるハダムシの駆除作業後、陸上へ戻って個体別に淡水浴をした時にネットに残ったハダムシの数を数える吉田一範研究開発職員

ハダムシに人工感染させた個体の淡水浴後のハダムシ数を計測したり、DNAサンプルを採取するために瓶に移す

ハダムシに人工感染させた個体の淡水浴後のハダムシ数を計測したり、DNAサンプルを採取するために瓶に移す
    


選抜育種のサイクル

選抜育種のサイクル 育種とは、必要とする目的の優れた遺伝子を持つ個体を選抜し、次世代を作るというサイクルを繰り返すことで、その性質を固定化した品種を作り上げることです。