特集1 未来の食を支える 農業に夢をかけよう!(4)
脱サラして農園の主に
水耕栽培でおいしいトマトを作りたい
「いつか自然に囲まれて、家族で農業を営みながら暮らしたい」。 そんな独立就農の夢をかなえるためにサラリーマンを辞め、ミニトマトの水耕農園を開設した人がいると聞き、愛知県大府市(おおぶし)を訪ねました。 |
![]() 「これからネット販売もしていきたい」と語る林口直樹さん
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![]() 大府市北崎地区「大府みどり公園」の近くに建つ林口農園のハウス。出荷・直売の準備は別のハウスで行っている ![]() ハウスの半分(10アール)が収穫時期を迎え、残りの半分(10アール)で成育中のミニトマトを栽培している ![]() たわわに実を付けたミニトマトの木。品種は「ココ」。フルーティでほど良い酸味が身上。皮まで果肉のようなうま味があると評判だ ![]() 種まきから収穫までだいたい150日。「毎日の観察が大切です」という林口さん 林口農園 愛知県大府市北崎町5-19 TEL.090-5852-7651 http://www9.ocn.ne.jp/~h-tomato/ |
いつか家族で営農したい
愛知県大府市は知多半島の北端に位置し、名古屋市、豊明市、刈谷市、東海市などに隣接する工業都市である一方、名古屋市に生鮮野菜を供給する農業地域でもあります。訪ねたのは、東海道本線大府駅からバスで20分ほど走った大府市北部、北崎地区にある林口農園です。農園主である林口(はやしぐち)直樹さんは、昭和53年生まれの35歳。就農するまでは、普通高校から情報処理関係の短期大学に進み、卒業後はその技術を生かした職場に就職します。生まれも育ちも農業とは無縁の生活でした。「もともと自然が好きだった」と言いますが、サラリーマンを続けていくうちに、自然と触れあう仕事がしたいという気持ちが強くなり、就農を決意したそうです。 29歳で結婚してからは、具体的に夢への道を切り開いていきました。奥さんを説得して夫婦で何軒かの農家に出向き、実際に見聞を広げていくなか、熱心にアドバイスをしてくれる普及指導員に出会えたことが、就農を成功させたキーポイントのひとつだと林口さんはいいます。 普及指導員は農業技術がなかった林口さんに農業研修を勧め、知識や技術の修得と並行して、農地を探し、資金調達の目処を立てるよう、指導してくれました。 脱サラして農業研修へ
独立就農する際に、もっとも難儀をするのが農地の確保だと聞きます。たとえ潤沢な資金があっても、露地栽培をするにしても、施設園芸をするにしても、農地が確保できなければ営農できません。大府市内には休耕地が少なかったため、すぐには貸し手が見つかりませんでした。しかし、幸運にも栽培用のハウス6棟を建てても余裕のある農地を貸してくれる人が見つかったのです。林口さんがサラリーマンを辞め、弟子入りしたのは水耕栽培でミニトマトを作っている農家でした。土作りの知識がなかった林口さんにとって、水耕という栽培方法はとても新鮮で、斬新なものに映りました。水耕栽培で季節ごとにそれぞれのうま味が楽しめるミニトマトを、安定して生産している師匠の農業への真摯な姿勢に感銘を受け、また、師匠が作ったミニトマトの味に感動した林口さんは「自分も水耕栽培で、消費者が喜ぶおいしいミニトマトを作りたい」と強く思ったといいます。研修先の農園は規模が大きかったため、林口さんは春夏秋冬それぞれにトマトの生育を観察し、学ぶことができました。 こだわりの栽培ができる喜びをかみしめて
30歳から農業技術の修得に励み、農地を確保することができた林口さんは、32歳でいよいよ独立して就農を果たします。水耕栽培の場合、連作障害もなく、毎年の土地改良は必要ありませんが、遮光カーテンや水の循環設備、ハウス内の温度を保つための燃料代など、施設やその運営に資金が必要となります。林口さんは水にもこだわり、栽培にはミネラルを豊富に含み、水質や水温が安定している地下水を使用しています。そのため井戸も掘りました。高い糖度とほど良い酸味が調和した味の濃いミニトマトを作り上げるためには、やはり投資が必要でした。 そこで林口さんは「青年就農給付金(経営開始型)」(13ページ参照)を申請しました。この給付を受けることができ、「収入が不安定な時期にとても助かります」と話していました。 1歳と3歳のふたりの子どもと過ごす時間もたっぷりとれ、夫婦二人三脚で農園を経営する今の生活が、林口さんの求めていた暮らしだといいます。「毎日一本一本の木の状態をていねいに見てやりながら、完熟した実だけを一粒一粒、真心こめて収穫しています」と語る林口さんの笑顔は充実感に溢れていました。 林口直樹さんの一日
![]() 午前中は林口さんが収穫に専念し、奥さんが直売・出荷の準備。お昼には手作りのお弁当を食べ、午後は栽培管理。夕方は日没とともに仕事を終え、帰宅後は子どもたちと過ごすことが何よりの楽しみだそうです。「サラリーマンだったら、こんなに子どもの面倒をみられる時間はなかったと思います」
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Photo:Eri Iwata |