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特集2 ほっとするね。おばあちゃんの懐かしご飯(1)

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第2回 由枝おばあちゃんの「かしわめし」【福岡県うきは市】


鶏肉のうまみをたっぷり吸ったご飯をほおばると、どこか懐かしい味が、口いっぱいに広がります。
ほっこりと和む"かしわめし"は、まさにおばあちゃんの味。
今回は、家族だけでなく、農産物直売所のお客さんからも人気のレシピを教えてもらいました。

由枝おばあちゃんの「かしわめし」

「コツはね、かしわをよく炒めること」と話す由枝さん。混ぜたてのかしわめしからは、しょうゆのやさしい香りがして食欲をそそられる。「ほら、どうぞ」

「コツはね、かしわをよく炒めること」と話す由枝さん。混ぜたてのかしわめしからは、しょうゆのやさしい香りがして食欲をそそられる。「ほら、どうぞ」

食べてみらんね!鶏肉のだしがしっかりしみて、おいしかばい!

うきは市では、早いところで5月半ばより、田植えが始まる。おいしい米どころとしても名高く、山手では冷めてもおいしいと評判の『夢つくし』を、平地では『ひのひかり』を主に栽培する 

働き者の由枝さんは、野菜作りにも精を出す

上)うきは市では、早いところで5月半ばより、田植えが始まる。おいしい米どころとしても名高く、山手では冷めてもおいしいと評判の『夢つくし』を、平地では『ひのひかり』を主に栽培する
下)働き者の由枝さんは、野菜作りにも精を出す
水炊きや焼き鳥、筑前煮として知られるがめ煮など、鶏料理が豊富な福岡県。なかでも、鶏をニンジンやゴボウといっしょにご飯に混ぜ込んだ“かしわめし”は、ほっと心休まるふるさとの味です。

“かしわ”とは鶏肉のこと。西日本を中心に一部の地域で、鶏肉全般のことを指し、語源は諸説ありますが、紅葉した柏の葉に羽の色が似ていることから、そう呼ばれるようになったと言われます。

今回、かしわめしを求めて訪れたのは、美しい棚田が広がるうきは市。九州一の大河である筑後川や耳納(みのう)連山などの豊かな土壌を有し、フルーツの里としても有名です。この辺りは古くから稲作を中心とした農業が盛んで、どの家庭でも鶏を貴重な家畜として飼っていました。

「お祝い事やたいせつな来客の際には、その鶏をつぶしてもてなす習慣があったとよ」と、教えてくれたのは、地元でも評判のかしわめしを作る伊藤由枝(いとうゆきえ)さん(73)。笑顔が素敵な元気もののおばあちゃんです。

由枝さんが、伊藤家に嫁いだのは19歳の頃。しばらくは農業の手伝いをしましたが、お舅(しゅうと)さんに「あんたは商売が向いとる」と働きに出ることを勧められました。料理好きだったこともあり、選んだのは地元のうどん屋。長年立派に勤めあげた由枝さんは、21年前、退職するときに店主のご好意でのれん分けしてもらい、家で販売用のうどん作りを始めます。

そして、うどんといっしょに作ったのが、かしわめしでした。かつてお祝いの席で食べられていたかしわめしは、家庭料理として定着しており、由枝さんは、食べやすく、みんなが大好きなかしわめしを本格的に作ろうと決心します。

販売するからには、お客さんに愛されるかしわめしを作りたいと思った由枝さん。これまで家庭で作ってきた味に加え、うどん屋での経験を生かしながら、納得いくまで試作を繰り返します。

「味見はお父さんや子どもたちがしてくれてね。お父さんが喜んでくれるから、作りがいがあったの」

そうしてたどり着いた由枝さんのかしわめしには、おいしさの秘訣がいっぱい。

「かしわは親鶏のほうがいいだしが出るし、鶏の脂身で炒めるとコクが出るとよ。だけん、調味料はしょうゆと隠し味の砂糖だけ」

材料も凝ります。かしわ以外は自分の畑の野菜を使い、家の前の山で採れたタケノコを混ぜ込みます。米ももちろん自家栽培です。

他にも、夏は色を薄めにして見た目にも気を使うなど、食べる人への思いやりを忘れません。そんな、愛情がたっぷり入ったやさしい味にはたくさんのファンがつきました。道の駅や直売所などで販売していますが、由枝さんのかしわめしをお目当てにわざわざ遠方から買いに来る人もいるそう。

なんといってもいちばんのファンは、子どもさんやお孫さんです。

「おふくろのを食べたら、ほかの人のは食べれんもん。味がぜんぜん違うとよ」と、次男の弘敏さんは、自慢げに話します。

かしわめしを作るときは、多めに作り、余った分は、ぎゅっとにぎっておきます。柿畑を営む弘敏さんへは休憩時の差し入れとして。孫の子ども会にはお弁当として、このおにぎりが欠かせません。

「『おばあちゃんのがいちばんやん』って言ってくれるけん、それが嬉しか」と顔をほころばせます。

残していきたいおばあちゃんの味は、しっかりと子どもへ、そして孫へと伝えられています。由枝さんは言います。

「手をかけたほうがおいしかでしょ。わたしのかしわめしは、昔ながらの地域の味。そしてみんなの味なのよ」

ふだんは独り暮らしの由枝さん。かしわめしを食べに近くに住む子どもや兄弟が遊びにくることも多々。右から弘敏さん、由枝さん、妹の財津アヤ子さん

ふだんは独り暮らしの由枝さん。かしわめしを食べに近くに住む子どもや兄弟が遊びにくることも多々。右から弘敏さん、由枝さん、妹の財津アヤ子さん

直売所には、かしわめしのほか、総菜も出荷している由枝さん。ムードメーカーで、スタッフの人気者

直売所には、かしわめしのほか、総菜も出荷している由枝さん。ムードメーカーで、スタッフの人気者
   由枝さんは、JAにじの直売所「にじの耳納の里」に、ほぼ毎日かしわめしのおにぎりを出荷する。4個入り260円。2個入り130円

由枝さんは、JAにじの直売所「にじの耳納の里」に、ほぼ毎日かしわめしのおにぎりを出荷する。4個入り260円。2個入り130円

文/吉塚さおり   写真/寺井信治   撮影協力/JAにじ