特集1 夏野菜を 食べよう!(4)
新鮮な夏野菜を、消費者の手元に届けたい!
夏秋きゅうりの一大産地 福島県須賀川市・岩瀬郡を訪ねて
東北地方は夏野菜の大産地。なかでも、きゅうりの産地として有名な福島県須賀川市・岩瀬郡の生産者や選果施設、直売所を訪ね、消費者に新鮮野菜を届けるために、日々奮闘する人々の姿を追いました。 |
[生産農家]
乾燥が大敵で、肥料を与えすぎると苦くなる。毎年1年生の気持ちで、きゅうりと向き合う 谷津光一さん |
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![]() 風通しの良い圃場を移動しながら、実の様子や葉の茂り具合をチェック。「葉が風でこすれるときゅうりに傷が入るから、こまめに葉を取り除くんです」と谷津さん ![]() ![]() 「みずみずしいきゅうり、そのままはもちろん、塩麹で和えてもおいしいよね」と話す谷津夫妻 |
福島県の中南部に位置する須賀川(すかがわ)市・岩瀬郡。ここは夏の高温気候と北西からの冷たい風の影響が比較的少ない秋の気候により、きゅうりの生育に適した地域で、40年来の夏秋きゅうりの一大産地です。 「今の時期はちょうど収穫が始まったばかり。7月10日すぎになるとたくさんきゅうりが下がって、それは見事な風景になりますよ」と話すのは、きゅうりを栽培して40年、JAすかがわ岩瀬野菜協議会会長も務める谷津光一さんです。 きゅうりは生育スピードが速く、5月末に苗を定植するとどんどんつるを伸ばします。黄色い花が咲いてしぼんだ後は、1週間ほどで親指サイズから20cmの長さに成長します。 形良く味もよいきゅうりを育てるには、水やり、追肥、葉を整えたり間引いたり、という日々の手入れが欠かせません。 「きゅうりは90%以上が水分といわれるくらい、水を必要とする野菜です。乾燥は大敵だし、肥料を与えすぎると苦くなる。気候も年によって違うから、毎年、1年生という心構えで育てています」と谷津さん。 収穫作業は朝と夕方の1日2回。 「太陽光を浴びたきゅうりは味が濃く、歯ごたえも良く、塩をふるだけでおいしい。私たちも農作業の合間に水分補給がわりにかじっているんですよ」と妻の千代子さんも話します。
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[大型選果施設]
1日最大90トンを選別。箱詰めなどの負担を減らし、農家が栽培に集中できるように JAすかがわ岩瀬大型自動選果施設「きゅうりん館」 |
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![]() 農家が運び込んだコンテナはIDカードによって認識され、コンベアーに載って予冷庫へ ![]() コンテナからきゅうりが1本ずつ流れ始めると、手作業でさらに整える。 |
「日本一の産地を日本一の選果施設で支えたい」とJAすかがわ岩瀬が、平成8年に稼働したのが自動選果施設「きゅうりん館」です。 建物は2階建てで、1階は「荷受け」の場所。農家は、収穫したきゅうりを「ハウス栽培」「露地栽培」「防虫ネット栽培」など作型ごとに色分けした専用コンテナに詰めて運び込みます。ID番号を打ち込むと、コンテナは自動的に予冷庫に移動し、冷却後に「選果場」へ移動します。 2階が選果場です。選果ラインでは、専用カメラがピントを合わせ、1秒間に3本という速さできゅうりの長さ、太さ、傷などをチェック。8種類の規格に選別され、箱詰めされます。総面積が東京ドーム約1.2個分の大型施設で1日の処理能力はなんと90トン。利用する300戸の農家はすべて、環境に配慮したエコファーマー認定を取得しています。JAすかがわ岩瀬営農部園芸課の関根康夫さんは、「農家の選果や箱詰め作業の負担をなくすことで、きゅうりの栽培管理に、より力を注いでいただけます」と話します。箱詰めされたきゅうりは県内だけでなく、京浜や阪神の卸売市場を経て、食卓へと運ばれます。
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[直売所]
毎朝、農家が採りたて野菜を持ち込むから、新鮮そのもの。鮮度を生かした食べ方も、食育ソムリエがアドバイス JAすかがわ岩瀬農産物直売所「はたけんぼ」 |
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![]() まもなく最盛期を迎えるきゅうりコーナーは産地だけあって棚のスペースがたっぷりと確保されている ![]() 新鮮な野菜、果物、手作りの加工品が常時4万5000点並ぶ ![]() 曲がったり傷の入った規格外きゅうりは加工品に。手前右から須賀川産きゅうりの搾り汁・乾燥きゅうり粉末・米粉を練り込んだ乾麺「きゅう麺ぼ」、麺にのせて食べる「こだわりみそ」、奥右から「和風きゅうりドレッシング」、きゅうりを原料にした「胡瓜美水」(化粧水)、「胡瓜美潤」(クリーム) |
生産者の名前がわかり、新鮮な農産物を手に入れられることから近年人気の農産物直売所。須賀川の地元市民に親しまれているのが、開店10周年を迎えるJAすかがわ岩瀬農産物直売所「はたけんぼ」です。 農産物の搬入は毎朝7時ごろにピークを迎えます。野菜を台車に載せた農家の方たちが挨拶をかわしながら店内に野菜を運び、手早く棚に並べていきます。はたけんぼ店長の佐藤貞和さんは、 「きゅうり1袋、だいこん1本でも販売でき、小規模農家でも手軽に出荷できると好評です。もちろん圃場管理はきちんとしていただき、出荷前の農産物の放射性物質検査も、施設内でしっかりと行っています」 9時の開店とともに、お客で大にぎわいのはたけんぼ。売り場では赤いエプロン姿の「食育ソムリエ」が食べ方の提案などをしながら接客。 「この店には毎日新鮮な野菜が並んでいます。家庭の冷蔵庫をのぞいて、足りないものがあったら買い足す感覚で気軽に利用してほしい。それが農家のやりがいを増やし、地域の農業や景観を守っていくことにつながっていくのだと思います」と佐藤さんは話してくれました。
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