特集2 ほっとするね。おばあちゃんの懐かしご飯(1)
第6回 ヤヱおばあちゃんと廣子さんの「だまこ鍋」【秋田県南秋田郡】
秋田県八郎潟の東に位置し、肥沃な平野が広がる湖東地域。 豊かな大地が育んだ米と地鶏、地野菜をたっぷり使った「だまこ鍋」は、もともと、林業従事者の昼食でした。 その後、新米の収穫を祝う料理として、家庭でも作られるように。 いまでも家族や仲間が集まると、みんなで囲む、“ほっこり”温かいお鍋です。 |
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![]() 湖東地域は、春から秋にかけて昼夜の寒暖の差が大きく、良質なお米が育つ ![]() ![]() 一関家の農作業の中心は、今もヤヱさん。畑では、キャベツやなす、枝豆、ゴーヤなどを作っている。一方、田んぼでは長年、「あきたこまち」を栽培する ![]() 1年に何回も作るだまこ。「おしゃべりしながら丸めてると、気持ちもまあるく落ち着いてくるんだ」とヤヱさん 文/篠原麻子 写真/松木雄一 撮影協力/JAあきた湖東 |
「だまこ」とは、ごはんをすりつぶして丸めた団子のこと。丸いという意味の「だま」に、秋田方言の「こ」がついたものといわれています。 そのだまこを、地鶏と野菜のうまみが溶け合ったコクのあるスープで煮るのが「だまこ鍋」。秋田県湖東地域の人々が代々受け継いできた家庭料理です。 きりたんぽよりさらに古い、秋田の味
今も毎日農作業にいそしむ一関(いちのせき)ヤヱさん(86)にとって、だまこ鍋は小さい頃から、ずーっと食べ続けてきた定番の一品です。 明治・大正期に家庭でも作られるようになり、昭和34年、この地を訪れた三笠宮殿下がだまこ鍋を気に入られたことから、地域の名物料理となりました。 盆や正月は、お孫さんと仲良くだまこ作り
「田舎から出ていった子どもたちが久しぶりに帰ってくると、今夜はだまこ鍋! とリクエストされますね。だまこは加熱してもやわらかいままなので、赤ちゃんからおばあちゃんまで家族全員が食べられるのもいいんです」と、一関家のお嫁さんの廣子さん(63)。親戚中が集まる盆や正月は、大量にだまこを作る必要があります。そんなときは、子どもや孫たちが、率先してだまこをだまける(丸める)手伝いをしてくれます。ごはんをつぶしたり、丸めたり、砂遊びにも似てとても楽しそう。思わずパクリとつまみ食いする子も多いとか。だまこ作りの手順はシンプルですが、上手につぶし、きれいに丸めるためには、力とコツの両方が必要です。 「おばあちゃんのだまこは、とにかく早くてきれい。白玉みたいにツルンとしていて、鍋で煮ても崩れない。口の中に入れて初めて、ほんわりほどける絶妙の具合なんです」と、廣子さん。2人で仲良くだまこを作り続け、43年になるそうですが、まだまだヤヱさんのだまこにはかなわないのだとか。 だまこは一度にたくさん作っても、いろんな食べ方ができるので、食べ飽きることがありません。 「残っただまこを鍋に入れて、次の日までおくと、たっぷりと汁がしもって(しみて)、うめえんだ~」と、ヤヱさん。温めないで、そのまま食べたり、だまこだけを焼いて食べるなど、“ゆうべのだまこ”の楽しみ方はよりどりみどりです。 具やスープの味つけは、季節によって違うそうですが、いろんな食材の旨みを存分に吸い込んだだまこ鍋は、一年を通して欠かせない料理。これからも湖東地域の食卓をにぎやかに彩ることでしょう。
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食材なるほどメモ 「うるち米」
私たちが普段食べているお米が、うるち米です。これに対し、もち米はお赤飯やおこわにするほか、お餅の原料として使われます。日本では現在、地域ごとの気候風土に合わせ、品種改良されたうるち米が作付けされています。最も作付け面積の多い品種は「コシヒカリ」。次いで「ひとめぼれ」「ヒノヒカリ」となっています。また、県別の収穫量では、1位が新潟県、2位は北海道で、3位が秋田県です。 |