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農林水産省

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チャレンジャーズ チーム力で輝け 第78回

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鳥取県 前田修志さん・純子さん / 松下銀次郎さん

伝説のシェフと、野菜のプロが作った「白ねぎジャム」
ロングセラー目指して、奮闘中!


農林漁業生産(第1次産業)と、加工・販売(第2次、3次産業)を一体化させることで、新たな産業を生み出す6次産業。
今回は、野菜を使ったジャムを商品化した、農家と料理人のチームを紹介します。

左から、フレンチの巨匠、松下銀次郎さんと、農家の前田純子さん、修志さん

左から、フレンチの巨匠、松下銀次郎さんと、農家の前田純子さん、修志さん

原材料は炒めた白ねぎのほか、黒砂糖、梅酒、みそ、レモン果汁、など。食品添加物は不使用。1個525円

原材料は炒めた白ねぎのほか、黒砂糖、梅酒、みそ、レモン果汁、など。食品添加物は不使用。1個525円

前田さんは、2haのほ場で白ねぎのほか、すいか、ながいも、トマト、ほうれんそうなどを栽培している

前田さんは、2haのほ場で白ねぎのほか、すいか、ながいも、トマト、ほうれんそうなどを栽培している

倉庫を改築した、自宅敷地内にある加工所

倉庫を改築した、自宅敷地内にある加工所

倉吉駅前にある店には、前田農園のコーナーが。野菜ジャムシリーズ、ドレッシング、調味料などが並んでいる

倉吉駅前にある店には、前田農園のコーナーが。野菜ジャムシリーズ、ドレッシング、調味料などが並んでいる
  松下銀次郎さん(68)をご存知でしょうか。国内外の一流ホテルで長年、総料理長として腕をふるってきた、レストラン業界にその名をとどろかせる、〝フレンチの巨匠〞です。

一方、鳥取県東伯郡北栄町(とうはくぐんほくえいちょう)で米や野菜を作る前田修志さん(48)は、経営の新たな軸となる、農産加工品の商品化を模索していました。そんな折、妻の純子さんと通う料理教室で、主宰する松下さんと出会ったのです。 「銀次郎さんには〝質の高い本格フレンチの味を、家庭でも手ごろな価格で味わってほしい〞という理念がありました。私には〝良質な食材を生かし、おいしくて、今まで世の中になかったものを提供したい〞という思いがあり、〝伝説のシェフ〞と、将来ビジョンが一致し、一緒に商品化を目指すことになったんです!」と、前田さんは振り返ります。

松下さんが前田さんに提案したのは、肉料理にかけたり、クラッカーやチーズにのせたりする、「白ねぎジャム」のレシピ。さまざまな料理に使えるソースです。早速、前田さん夫婦は試作にとりかかりましたが……。

1g、1ccの妥協も許されない、プロフェッショナルの世界
材料を切るところから、松下さんの檄が飛びました。「ジャムにするからって、ねぎを適当に切っちゃだめ。正確に、2cmの筒切りに!」

さらにこのねぎをしんなりと、飴色になるまで炒めなければならないのですが、そこでも「こがさない、ぎりぎりの火加減を覚えなさい!」「この色、照り、味をしっかり目と舌に刻みつけて!」。容赦ない指導が入ります。

「レシピは、1g 、1cc、1秒、1℃にいたるまで、妥協が許されません。一瞬でも手を抜くと、味が変わってしまうのです」と、前田さんは言います。夫婦で農作業の合間をぬって、 自宅の敷地にある加工所にこもりっきりになる日が続きました。そして平成24年、「白ねぎジャム」がついに完成。トロトロに炒めた白ねぎの香りと、黒砂糖などの甘みがきわ立つ、珠玉の一品です

都内の〝食通マダム〞を中心に高評価
販売に先立ち、都内の高級住宅街にある百貨店で、ランチ・デモンストレーションを開催しました。訪れた人たちからは、「海外のレストランでも味わったことがないおいしさ!」「パンだけじゃなく、ワインやチーズにも合うのねー」などなど、大絶賛の声。舌の肥えた主婦たちの反応だけに、前田さんも確かな手ごたえを得ました。

今年7月から、都内にある鳥取県のアンテナショップや、ホームページを通じて販売を開始。売れ行き好調です。「誰にも真似できない、〝本当においしいもの〞を作りたい。でも、正直いまはまだ勉強中で、それがどんなものなのか、自分でもよくわかってないんですよね。今は銀次郎さんの味をしっかり覚え、20年かけて広めていきたいと思います」と、前田さんは決意をにじませます。


チーム力を発揮する秘訣はコレ!
松下さんがレシピを考え、修志さんに提案。商品化が決まったら、松下さんが純子さんに、すべての手順をつきっきりで伝授します。純子さんはかつて、弁当店を営んでいた経験もあるため、その調理の腕前はチームになくてはならないもの。営業はおもに、修志さんが担当しています。

また、前田さん夫婦は現在も月に2回、車で約1時間かけて、松下さんの料理教室に通い続けています。松下さんも週に1回、前田さん宅を訪れ、商品の品質をチェック。息の長い商品にしていくためには、常に初心を忘れないことが大切と、三者三様の役割分担の中で、互いの信頼関係を継続しています。

<前田農園>
鳥取県東伯郡北栄町妻波677
TEL : 0858-37-5200



文/久ヶ澤和恵
写真/古城 渡