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特集2 ほっとするね。おばあちゃんの懐かしご飯(1)

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第8回 八千代おばあちゃんとヒサ子おばあちゃんの「ブリのあら汁」【新潟県佐渡市】


日本海の荒波に浮かぶ佐渡島の沖合は、一年を通じて、おいしい魚がとれる好漁場(こうぎょじょう)。
とくに、12月から1月にかけては、脂がのって、丸々とした寒ブリが旬を迎え、さまざまなブリ料理が、食卓に上ります。
なかでも、“あら汁”は、ブリのうまみが溶け出して、凍てつく海で働く人を芯から温める、ほっとできる汁ものです。

ブリのあら汁

両津湾の地図

午前10時ごろ、船が漁から戻る

午前10時ごろ、船が漁から戻る

船底から魚を引き上げ、市場へ出す

船底から魚を引き上げ、市場へ出す

市場では、まとまった数の魚が入るたび、こまめにせりを行う

市場では、まとまった数の魚が入るたび、こまめにせりを行う

奥の3匹はイナダ。手前は重さ9kgのブリ。このブリはセリの目玉で、港のそばにある料理屋のご主人がせり落とした
             

手前は重さ9kgのブリ。このブリはセリの目玉で、港のそばにある料理屋のご主人がせり落とした

文/篠原麻子
写真/多田昌弘
撮影協力/JF内海府

「あら汁は、大きな鍋を使って、強火で煮立てるとおいしくなるのよー」と、八千代さん

「あら汁は、大きな鍋を使って、強火で煮立てるとおいしくなるのよー」
と、八千代さん


佐渡島が冬を迎えるころ、島の家庭では、「今日は汁?  それとも大根にすっか」という会話が聞こえます。これは、ブリのあら汁と、ブリ大根のこと。〝汁と大根〞というだけで通じるほど、佐渡島のブリ料理の定番です。

伊藤ヒサ子さん(72)と後藤八千代(やちよ)さん(74)は、ともに夫が漁師で、魚料理のスペシャリストと評判です。かつて、ヒサ子さんは漁協でまかないを、八千代さんは、小学校で給食を作っていたそう。

荒れた天候「ブリ起こし」が漁の始まりの目安
11月中旬ごろ、気温がぐんと下がり、冬型の気圧配置になると、北陸に、北西の風が吹き始めます。海は荒れ、波がうねり、雷が激しく鳴り響きます。

佐渡島では、そんな荒々しい天候を「ブリ起こし」と言って歓迎します。ちょうどその時期、北から南下したブリが、荒れた外海を嫌って、島の東側にある、両津湾に入るのです。

湾内には、定置網が仕掛けてあり、ブリが次々とかかります。そのため、悪天候のあとは大漁間違いなし。島の漁港では、ブリが床を埋め尽くさんばかりに並ぶそうです。

日本海を、北から南に泳ぎ続けたブリは、身が引き締まり、脂がのりきった「寒ブリ」になります。佐渡島では、この寒ブリのなかでも、重さ10kg以上、脂質15%以上のものを、ブランドの「佐渡一番寒ブリ」として出荷し、高い人気を得ています。「この季節のブリは、脂のノリがまるで違うの。刺身にすると、しょうゆをはじくほどだよ。孫たちも大好きさ。もちろん、身をさばいた後のあらにも、驚くほど旨味があるの」と、ヒサ子さん。

漁の後に作るブリ料理はしっかり濃い味に
ヒサ子さんが、漁協でまかないを作っていたころ、冬場は毎日のようにブリが揚がるので、ブリ料理のレパートリーが、どんどん増えたそうです。

海に出た男たちは、エネルギーを使い、汗をたっぷりかいているので、こってりして、塩を利かせた料理を好んだそう。天ぷらやブリカツのほか、ブリすきやブリしゃぶが喜ばれたとか。

「主人は、いまも帰港した後は、こってりしたまかないを食べているよ。 だから、私が自宅でブリを使うときは、健康のことを考えて、あっさりした料理にしてるの。つゆ(味噌汁)の実(具)にもするね」と、ヒサ子さん。

  そして、家でもまかないでも、いちばん人気なのが、あら汁やブリ大根。昔から作り続けてきた家庭料理です。

「汁はさ、なんといっても、すぐできるのに、ちゃんとうまい。それも、しみじみする味だから、毎日食べても飽きないんだ」と、ヒサ子さんが言うように、あらには骨や、骨のまわりについた身から出る旨味がたっぷり。骨を割ってから入れれば、短い時間で、深い味わいが出ます。

ヒサ子さんには、いっしょに暮らしている、中学生と高校生の二人の孫が、八千代さんには、小学生と中学生の二人の孫がいます。

「小さい頃は、食べやすい刺身は好きなんだけど、あら汁はいまいちだったの。でも中学生や高校生になると、汁も好きになるみたいだよ。 ちっとは大人になって、魚の本当のおいしさがわかるようになってきたかね」と、ヒサ子さん。一方、八千代さんは、「うちの孫は、ふだん、あんまり魚を食べないみたいだから、遊びに来たときは、わざと出すようにしてんだ。子どものうちに、魚の旨味を、しっかりと舌で覚えておいてもらわんとね」

おばあちゃんの愛情レシピのおかげで、お孫さんたちも、魚が好きになりそうですね。

「ブリをさばくのは、けっこうな力仕事なの。包丁を持つ手に体重をかけて切り分けないとね」と、八千代さん

「ブリをさばくのは、けっこうな力仕事なの。包丁を持つ手に体重をかけて切り分けないとね」と、八千代さん

  「あら汁は、大きな器にたっぷり盛るの。このくらい汁を飲まないと、体があったまらないからね」と、ヒサ子さん

「あら汁は、大きな器にたっぷり盛るの。このくらい汁を飲まないと、体があったまらないからね」と、ヒサ子さん

今日のまかないは、ブリのあら汁にブリ大根、ブリの刺身。内海府漁協のみんなで仲良く味わう。右から、組合長の本田さん、八千代さん、ヒサ子さん、漁労長の清田さん、帳場係の本間さん、スポークスマンの山本さん、料理上手の木村さん

今日のまかないは、ブリのあら汁にブリ大根、ブリの刺身。内海府漁協のみんなで仲良く味わう。右から、組合長の本田さん、八千代さん、ヒサ子さん、漁労長の清田さん、帳場係の本間さん、スポークスマンの山本さん、料理上手の木村さん

食材なるほどメモ 「ブリ」


食材なるほどメモ 「ブリ」
ブリは縁起物の「出世魚」で、稚魚から成魚まで、成長に応じて呼び方が変わります。たとえば関東では、ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ。一方、関西では、ツバス→ハマチ→メジロ→ブリと変化します。また、ブリ類(ヒラマサ、カンパチなどを含む)の漁獲量の60%は養殖で、養殖物は稚魚でも成魚でもハマチと呼ばれます。