このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

チャレンジャーズ チーム力で輝け 第81回

  • 印刷

高知県 土佐佐賀くろしお工房

おばちゃんたちの手作り干物と、ぬくもり行商 昔ながらの知恵が今、ひっぱりだこ!


農林漁業生産(第1次産業)と、加工・販売(第2次、3次産業)を一体化させることで、新たな産業を生み出す6次産業。
今回は、夫がとってきた魚を干物にして売り歩く、漁師の妻たちのチーム力に迫ります。

「土佐佐賀くろしお工房」のメンバー。川崎加代さん(手前)、沢田恭子さん、浜岡真知子さん、沢田寧子さん(中列左から)、川崎すみ子さん、寺尾千代さん(後列左から)。干物はすべて1つ300円

「土佐佐賀くろしお工房」のメンバー。川崎加代さん(手前)、沢田恭子さん、浜岡真知子さん、沢田寧子さん(中列左から)、川崎すみ子さん、寺尾千代さん(後列左から)。干物はすべて1つ300円

メンバーは漁や魚の仕分け、かつお漁船の手伝いなどをし、干物はそれらの合間に加工

メンバーは漁や魚の仕分け、かつお漁船の手伝いなどをし、干物はそれらの合間に加工

お客の大半がリピーター。漁港を中心に、半径約30kmの範囲で行商を行っている

お客の大半がリピーター。漁港を中心に、半径約30kmの範囲で行商を行っている

カリッとした食感と、香ばしいエビの香りがやみつきに。地元では、6種類ほどのエビが水揚げされる

カリッとした食感と、香ばしいエビの香りがやみつきに。地元では、6種類ほどのエビが水揚げされる

小サイズのメイタガレイを干物に

小サイズのメイタガレイを干物に
午前8時半。沖に出ていた底びき網漁船が戻ると、高知県黒潮町の漁港はにわかに活気づきます。この日、漁師が獲ってきた魚はタイ、イトヨリ、タチウオなど約20種類。待ち構えていた漁師の妻たちが、魚種や大きさに応じて、手早く仕分けしていきます。「小さいヒメジ、ニロギ、エソ、サメ、アンコウなんかは、市場に持っていってもたいした値がつかないのよ。以前は捨ててしまうか、かまぼこ業者に二束三文で売っていたんだけど、もったいないなあと思ってね」と、沢田恭子さんは言います。

これらの〝雑魚〞を「有効利用しましょう!」と、沢田さんら漁師の妻6人が思いついたのが、干物作り。平成22年、「土佐佐賀くろしお工房」を結成し、取り組みをスタートしました。

臭くて食べられない失敗作も、試作を重ねてヒット商品に!
6人がめざしたのは、家族みんなが安心して食べられる、素材のよさを生かした干物。保存料は一切使わず、うす塩で飽きのこない味を提供しようと意見を出し合いました。「高知名産の〝仏手柑(ぶっしゅかん)〞や〝かぼす〞を調味液に使ったら?」「いつでも手に入る材料じゃないと、作るのが大変よ。シンプルな味で勝負したほうがいいんじゃない?」「振り塩ではなく、塩漬けがいいわよ」「塩干しだけでなく、みりん干しもやってみましょう!」

魚種によって漬け塩の濃度や漬け時間が異なり、その見極めには苦労したといいます。「最初に作ったサメの干物は大失敗でした。他の魚と同じ漬け時間で干したら、それはもう臭くて臭くてねえ」と、川崎加代さんは苦笑します。

何度も試した結果、棒状にさばいて一晩塩漬けにすることで、他の魚同様、ふっくらとジューシーな味わいの干物に。お客さんからは「臭みもなくて、おつまみに最高!」と、たちまちヒット商品になりました。

昔ながらの行商が受けて、売り上げは2年で3倍以上
できあがった干物は、地元の公民館、診療所、保育園などで訪問販売するほか、電話注文のあったお宅に配達も。沢田寧子(ねいこ)さんいわく、「要するに〝行商〞ですよね。一見効率が悪いようでも、お客さんの率直な声を聞くにはこれがいちばん!」

こうした地道な販売が奏功し、最近は町内外から「イベントに出店してほしい」と〝売れっ子〞状態。干物に加えて開発した、小エビの唐揚げも評判が口コミで広がり、隣町の居酒屋に卸すようにもなりました。

売り上げは順調に伸び、平成22年度は136万円だったのが、24年度には約460万円に。「目標はとくにないんですよ。漁の手伝いがメインで、干物作りはその副産物ですから」と、6人の軸足はぶれません。浜岡真知子さんが「力まず、気負わず、無理のない形で少しずつ成長していけたら」と言うと、他の5人もにっこり微笑んで頷きました。

チーム力を発揮する秘訣はコレ!
干物作りが行われているのは、閉園した町立保育園の厨房。港での仕分け作業が終わった昼頃から夕方にかけて、手の空いたメンバーから三々五々、集まってきます。

各自が加工場で作業した時間は、〝1時間1ポイント〞として、経理係の川崎すみ子さんがノートに控え、たまったポイントに応じて月末に給料を支払います。「ポイントがたまっていくのは楽しみですね。でも、なによりもここでみんなとおしゃべりしながら、干物を作る時間が楽しいんです!」と、話すのは寺尾千代さん。勤務時間の厳格なルールはなく、それぞれのペースでゆるやかにかかわれることが、順風満帆の秘訣なのかもしれません。


〈高知県土佐清水漁業指導所〉
高知県土佐清水市西町4-5
  TEL:0880-82-0569


文/久ヶ澤和恵
写真/H.SUGI