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東日本大震災 被災地の復旧・復興に向けて

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原発事故の影響を乗り越えて

厳しい自主出荷基準による検査で、福島の魚を、もう一度消費者へ!
[福島県相馬市・南相馬市・双葉郡 相馬双葉漁業協同組合]


東京電力福島第一原子力発電所事故の影響で、福島県の漁業は大打撃を受けました。漁協は、魚介類の安全を確保するために、可食部1kg当たり50ベクレル超は出荷しないという自主出荷基準を設け、放射性物質を厳重にチェックする体制を確立。3年後の今、県内だけでなく、仙台や東京などへも試験的な出荷を進めています。

「被災直後の相馬市松川浦漁港 陸に打ち上げられた、19tの底びき船。津波による被害の総額は、漁協全体で約23億円に上った
被災直後の相馬市松川浦漁港
陸に打ち上げられた、19tの底びき船。
津波による被害の総額は、漁協全体で約23億円に上った

「こうして漁に出ることで、元の生活に向けて、少しでも前に進みたい」と漁業者のみなさん。漁港は徐々に活気を取り戻しつつある

「こうして漁に出ることで、元の生活に向けて、少しでも前に進みたい」と漁業者のみなさん。漁港は徐々に活気を取り戻しつつある

水揚げされた魚介類は、検査後、検査証明書を付けて出荷され、卸売市場などでせりにかけられる

水揚げされた魚介類は、検査後、検査証明書を付けて出荷され、卸売市場などでせりにかけられる

水揚げした魚介類は、骨や皮を除いた可食部をミンチ状にし、30分かけて検査する。加工品にするタコなどは、生と加工後で2度の検査を実施

水揚げした魚介類は、骨や皮を除いた可食部をミンチ状にし、30分かけて検査する。加工品にするタコなどは、生と加工後で2度の検査を実施

水揚げされた魚

文/吉塚さおり
写真提供/相馬双葉漁業協同組合 福島県水産事務所

津波で、漁港施設や漁船が壊滅、さらに原発事故も……
福島県沖は、黒潮と親潮が交差する好漁場で、そこでとれる魚介類は「常磐(じょうばん)もの」と呼ばれ、質の高さから、市場でも好評価でした。震災前は、底びき網漁でとれるカレイ類や、ひき網漁でとれるコウナゴ、シラス(イワシの稚魚)などをベースに、年間約4万トンの水揚げ量を誇りました。しかし……。

平成23年3月11日、福島の漁業は一変します。津波で、漁港や関連施設が全壊。相馬双葉漁協では、730隻あった漁船のうち570隻が被災しました。さらに、東京電力福島第一原子力発電所からの放射性物質の拡散などにより、操業を自粛することに。

原釜機船底曳網船頭会長の松本浩一さんは「あのときは、もう二度と漁ができないと思いました」と目をつぶります。

相馬双葉漁協は、国の復興支援事業を活用して、市場や漁港施設などを再建。一方、県は、魚介類への放射性物質の影響を確認するために、農業総合センターでモニタリング検査を重ねました。そして、平成24年3月、1万件を超える検査で、安全が確認された魚種を対象に、小規模な操業と販売を行う「試験操業」に向けて、動き始めます。

相馬双葉漁協では、放射性物質の検査専門の職員を養成し、5台の検査器で、水揚げした魚介類を、日ごと、海域ごと、魚種ごとに検査できる体制を整えました。さらに、検査の結果、一定の数値を超えた場合は、県の水産試験場で再検査を行う形に。

また、放射性セシウムの国の規制の基準値は、「可食部1kg当たり100ベクレル超」ですが、漁協では、万が一にも基準値を超えた 魚介類を出荷しないよう、「50ベクレル超」としました。

そして、漁業者に加え、流通業者や大学など外部有識者を交えて、試験操業の計画の安全性を協議したうえで、平成24年6月、漁獲対象を、ミズダコなど3種類に限定し、漁獲海域も限定して、試験操業を開始しました。松本さんは、「漁ができるのは週1回だけ。それでも、もう一度、海に出られて、本当にうれしかったですね」と話します。

あぶらののったカレイや、身の詰まったズワイガニを、全国へ!
モニタリング検査で安全性が確認された魚介類の数は増え、平成25年4月には、操業できる魚種が16種に達しました。

しかし、同年夏に、汚染水漏えいの知らせが入り、試験操業の自粛を余儀なくされますが、県と漁協は、モニタリング検査を繰り返し行い、安全を確認。9月末から操業を再開しました。

平成26年1月現在、漁獲対象種は31種まで増え、試験操業海域も大きく広がりました。とれた魚介類は、安全を確認したうえで県内だけでなく、仙台、名古屋、さらに東京の築地市場などへも出荷されます。

「今は、アカガレイやズワイガニが旬の時期です。あぶらののった安全な魚介類を、みなさんに食べて欲しいです!」と、松本さんは力強く話します。