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特集2 ほっとするね。おばあちゃんの懐かしご飯(1)

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第10回 喜代子おばあちゃんの「ガラガラおろし」【三重県鈴鹿市】


専用の〝鬼おろし器〞で、大根を粗くおろし、酢に漬けた煮干し、油揚げなどと和えた「ガラガラおろし」。
江戸時代に、年貢米の取立てに応じられないとき、代わりに藩に献上したのが由来と言われています。
今では、宴席はもちろん、普段でも疲れた胃腸をやさしく癒やす、箸休めの一品として愛されています。

喜代子おばあちゃんの「ガラガラおろし」

ガラガラおろし専用の鬼おろし。端をしっかりつかめるので、安定した姿勢でおろせる

ガラガラおろし専用の鬼おろし。端をしっかりつかめるので、安定した姿勢でおろせる

窪田都さん(左)は、喜代子さんと同じように、幼い頃から、ガラガラおろし作りをお手伝いしていたそう。大きな大根が、みるみるうちにおろされていく

窪田都さん(左)は、喜代子さんと同じように、幼い頃から、ガラガラおろし作りをお手伝いしていたそう。大きな大根が、みるみるうちにおろされていく

喜代子さんは、大根のほか、ほうれんそう、かぶ、さつまいも、里いも、レタスなどを育てている

喜代子さんは、大根のほか、ほうれんそう、かぶ、さつまいも、里いも、レタスなどを育てている

ガラガラおろしは、作ってから2日ほどすると、味がなじみ、いっそうおいしくなる

ガラガラおろしは、作ってから2日ほどすると、味がなじみ、いっそうおいしくなる

地図


文/篠原麻子
写真/多田昌弘
撮影協力/JA鈴鹿

家庭の数だけ、ガラガラおろしの味があるので、みんなが納得いく味になるまで調味。この日は喜代子さんの味をベースに作った

家庭の数だけ、ガラガラおろしの味があるので、
みんなが納得いく味になるまで調味。
この日は喜代子さんの味をベースに作った


お正月、お盆、結婚式……。三重県の鈴鹿市界隈では、人が集う行事を〝人寄り〞または〝人寄せ〞と呼びます。そして、そんなときに必ず作る料理が「ガラガラおろし」。粗くおろした大根に、煮干しと味噌、砂糖などで味をふくらませ、すりごまとゆずで香りをつけます。いかにもごちそう、といった派手さはないですが、食べてみると、さわやかな香りと素朴なうまみが広がります。

専用の特大おろし器は、おじいちゃんが手作り
田中喜代子さんは、ガラガラおろしがよく食べられる久間田地区の出身で、小さい頃からなじみの味でした。21歳で結婚したときの祝いの膳にも、ガラガラおろしがあったそうです。

「みんなの家には、必ずといっていいほど、これがあるに」と見せてくれたのが、驚くほど大きい、ガラガラおろし専用のおろし器。

鬼おろしと呼ばれる、竹製の、刃の部分が粗い三角形になったおろし器ですが、一般的な鬼おろしと比べると、3倍はあろうかという特大サイズ。おろすときも、おろし器をたらいの中に入れ、床に座ってふんばりながらおろします。棒状に切った長い大根を、棒を突くように上から下へ、上から下へと一方向に動かさないといけないので、とても力がいります。この、おろす時の力強い音が「ガラガラ」の由来とも言われます。

鈴鹿市周辺では、ガラガラおろしに似た「ガタガタおろし」や「がり」という料理も作られますが、ここまで大きなおろし器を使うのは久間田地区だけ。〝人寄り〞の料理なので、大根おろしを一度にたっぷり作れるよう、このサイズになったと言われます。

おろし器そのものも、「ガラガラおろし」と呼ばれ、家で手作りしたものを使うことが多いそうです。

「うちのは、大工職人の主人が作ってくれたものだから、しっかりと身の残った、ふんわりした大根おろしができるよ。姪が嫁に行ったときも、持たせたに。ふつうのおろし器だと、大根の水分ばかりが出てしまうからね」と喜代子さん。

受け継いできた我が家の味を、そろそろ孫に……
喜代子さんの友達の、伊藤万里子さんと沢田早苗さんは、嫁いできて初めてガラガラおろしを知り、「最初は、何を作っているのかとびっくりした」そうです。それでも、行事のあるたびに口にし、お姑さんにコツを教わりながら見よう見まねで作るうちに、「わが家のガラガラ」を会得したと言います。

家庭によって作り方はさまざまで、合わせる具は、煮干しと油揚げ、ねぎが基本ですが、煮干しが苦手な家は、代わりにじゃこや焼いたさばを入れたり、ちくわやかまぼこを加えることもあるそうです。

喜代子さんの好きなガラガラおろしは、「煮干しの刻み方は大きめ、ゆずの汁とすりごまはたっぷり、大根はベチャベチャすぎずパサパサすぎずの7割くらいの絞り具合。かまぼこをちょこっと足すのもええが~」とのこと。

祝い事などを、家で盛大にとり行う機会が減ったこともあり、ガラガラおろしを大量に作る機会は減りました。それでも、「霜がおりて大根が甘くなり、ゆずが黄色くなってくる様子を目にすると、あ~、ガラガラが食べたいっと思うね。さっぱりしているから、脂っこい料理の、いい箸休めになるし、酒の肴にもぴったりなんだよ」と喜代子さん。

喜代子さんちのお嫁さんは、ガラガラおろしを初めて食べたとき、「こんなにおいしいもの、知らなかった~」と感激したそう。お嫁さんが名古屋にある実家に帰るときは、喜代子さんにガラガラおろしを作ってもらって、お土産にします。また、11歳になるお孫さんも、ガラガラおろしが大好きなのだとか。

「おばあちゃん、おいしいよ! と言われるに。女の子だから、もうそろそろ、作ってあげるだけでなく、教えてあげんとあかんかな」と、にっこりと笑う喜代子さんでした。

「あ~うんまい!」。みんなで協力して作ったガラガラおろしは、満足いく出来映えに。左から万里子さん、喜代子さん、早苗さん

「あ~うんまい!」。みんなで協力して作ったガラガラおろしは、満足いく出来映えに。左から万里子さん、喜代子さん、早苗さん

食材なるほどメモ 「大根」


食材なるほどメモ 「大根」
大根の歴史は古く、5000年前、エジプトのピラミッド建設のさい、労働者に配られた記録が残るほどです。日本へ伝来した時期は定かではありませんが、一説では縄文時代だとか。江戸時代に入ると、品種改良が進み、各地で多様な品種が作られるように。食用はもちろん、風邪や二日酔い、胃もたれなどに効く薬としても重宝されました。