このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

チャレンジャーズ トップランナーの軌跡 第85回

  • 印刷

前ページで紹介した「 ディスカバー農山漁村(むら)の宝」。
今回は、本年5月に選定された23団体のうち、2つの団体の取組を紹介します。


「せいわの里 まめや」の前に集まったメンバー。平成15年の設立時は10人だった従業員も今では38人に

「せいわの里  まめや」の前に集まったメンバー。平成15年の設立時は10人だった従業員も今では38人に

豆腐、味噌以外にもおからドーナツや豆乳寒天などを開発。注目を集め、地元に足を運んでもらうため、今では東京のデパートにも進出している

豆腐、味噌以外にもおからドーナツや豆乳寒天などを開発。注目を集め、地元に足を運んでもらうため、今では東京のデパートにも進出している

浸漬した大豆をすり潰した後、煮釜で40 ~ 50分かけてとろ火で炊いていく。すべて手作業で時間もかかるが、この方法だからこそ引き出せる旨味や甘味があるそう

浸漬した大豆をすり潰した後、煮釜で40 ~ 50分かけてとろ火で炊いていく。すべて手作業で時間もかかるが、この方法だからこそ引き出せる旨味や甘味があるそう

おからサラダや、五穀米おはぎなど、地元産野菜を使った料理が約30種類以上並ぶ人気の農村料理バイキング

おからサラダや、五穀米おはぎなど、地元産野菜を使った料理が約30種類以上並ぶ人気の農村料理バイキング

農業法人 せいわの里 まめや [三重県]
大豆が届ける地元の魅力
一粒の可能性を無限大に変える「せいわの里まめや」
早朝5時。農業法人「せいわの里まめや」の工房では、大豆を炊く甘い香りが漂います。地元産の大豆「フクユタカ」100%で作る豆腐は甘みたっぷりで、ほろっととろけるような食感のよさが評判の逸品です。三重県のほぼ中央にある多気(たき)郡多気町丹生(にゅう)地区(旧勢和村)。「せいわの里まめや」は10年以上、地元の大豆を使用した加工品を販売しています。

設立は平成15年のこと。代表の北川静子さんは、当時をこう振り返ります。「最初は地元女性たちで味噌を作っていたのですが、そのうち新たに参加してくれる若い人がいないと気付いたんです。過疎化や高齢化が進んでいたし、丹生地区の農村文化を守るために何かしなくてはと思いました」

そこで目を付けたのが大豆でした。勢和地域は昔から大豆の栽培が盛んな場所。地域の農家や農産加工業者に声をかけて『せいわの里まめや』を開業。大豆を使った加工品の開発販売や農村レストラン、体験工房という構成で、勢和地域の豊かな農村文化を発信する取組を始めました。現在は県内外から年間30万人近い来客があり、オリジナル商品も70種類を超えるほどになりました。

地元産大豆を徹底的に活かすことで地域は活気づきましたが、一方でその加工技術が若い世代に伝わってないという課題もありました。そこで20代から80代まで、幅広い年齢層に声をかけ、培ってきた技術や魅力を若い世代に伝え、その世代が次に教える仕組を確立。確実に知識や技術を地域で共有しています。

「各世代で活躍する場を作っていることも、活力の源かもしれません。高齢者が大豆や野菜をおいしく食べる知恵と技を伝え、中高年層がそれを商品や料理にして受け継ぎ、若い人たちが流通や宣伝方法などを考える。それぞれ力を発揮しているので、地域が年々元気になっていると思います」と北川さん。

また、子どもたちへの食育にも力を入れています。豆腐や味噌等を学校給食に提供したり、地域の子どもたちに、農村料理を伝える料理教室を開催したり。子どもたちも親しみをもって食べてくれるので、残す子もいないそうです。

地元産大豆への愛情と、幅広い世代にわたる地域の絆。これが、地域活性化の大きな原動力となっているのかもしれません。


〈農業法人 せいわの里まめや〉
三重県多気郡多気町丹生5643
TEL:0598-49-4300


文/野上知子
写真/中橋博文

観光協会直営のイタリアンレストラン「ajikura」のスタッフのみなさんと、邑南町観光協会常務理事の寺本英仁さん

観光協会直営のイタリアンレストラン「ajikura」のスタッフのみなさんと、邑南町観光協会常務理事の寺本英仁さん

「メディアの集客力は大きい。取材に来てもらう戦略を」という寺本さん。邑南町には取材が年間100件以上舞い込んでおり、とくに地元紙と連絡を密にするのが大事と話す

「メディアの集客力は大きい。取材に来てもらう戦略を」という寺本さん。邑南町には取材が年間100件以上舞い込んでおり、とくに地元紙と連絡を密にするのが大事と話す

今年4月、「耕すシェフ」制度で広島市内から移住してきた南原(なばら)悦子さん。「素材を生かすいろんな料理を学んで、将来はこの町で起業したい」と意欲満々

今年4月、「耕すシェフ」制度で広島市内から移住してきた南原(なばら)悦子さん。「素材を生かすいろんな料理を学んで、将来はこの町で起業したい」と意欲満々

「ajikura」の料理は食材の95%以上が町内産。燻製ハムや、ドレッシング、パンもすべて手作りしており、初年度から年間3000人の来客があった。今なお伸び続けている

「ajikura」の料理は食材の95%以上が町内産。燻製ハムや、ドレッシング、パンもすべて手作りしており、初年度から年間3000人の来客があった。今なお伸び続けている

一般社団法人 邑南町観光協会 [島根県]
A級グルメの町おこし「邑南(おおなん)町」
希少価値、高級さで逆転の発想!
ご当地のアイデア料理で盛り上がりを見せているB級グルメ。しかし、島根県中部にある邑南町は、B級ならぬ〝A級グルメのまち〞という触れ込みで、地域おこしに大きな成果をあげています。

「生産者が自信と誇りを持って育んだ地元産食材、それを使ったここでしか味わえない料理。これを“A級グルメ”と呼んでいます」と話すのは、この取組の仕掛け人である一般社団法人邑南町観光協会常務理事・寺本英仁(えいじ)さん。邑南町では石見和牛肉やキャビアなど、高級な食材を生産しています。約10年前、観光協会はこれらを使ったPRを考えました。そして思いついたのが、高級食材がゆえに大量生産できない「弱み」を逆に「強み」にしようという“A級グルメ”。高級さ、希少性を付加価値にする逆転の発想でした。

しかし、当初は生産者たちも自信がなく、 “A級”の真意が伝わらなかったそう。そこで、生産者の意識改革のため、栽培・飼育法の発表会や、食材の魅力を引き出す料理教室を開催。見慣れたものがかけがえのない「宝」だったと気づき、町民にも次第に自信がついてきたのです。

それ以来、ネットショップなどの売上も伸び、平成23年には観光協会直営のイタリアンレストラン「ajikura」を開店。「海外の三ツ星レストランは、食材豊富な田舎にあります。僕らも東京に売り込むのではなく、町内にレストランを作り、生産から加工、消費まで完結させる究極の6次産業化に転換しました」と寺本さん。

ところが、町には担い手となるシェフがいませんでした。そこで、次に立ち上げたのが“耕すシェフ”という研修制度でした。これは都市部から食や農に関心のある人に、町に定住してもらって、食材の生産から経営まで教えるもの。3年前から制度が始まり、「ajikura」などでシェフは修行を積んでいます。

また、次世代への技術伝承にも力を入れています。「今年の春には、100年先の子どもたちに町の食文化を伝える〝食の学校〞も開校しました。町民の学びの場として、料理教室などを開きます」という寺本さん。

A級グルメ立町を打ち出して約4年。I・Uターンが増え、新規オープンの店は5軒以上と、着実な成果を上げてきた邑南町の取組。この町の魅力は今後さらに受け継がれていくことでしょう。


〈素材香房「ajikura」〉
島根県邑智郡邑南町矢上3123-4
TEL:0855-95-2093


文/柿野明子
写真/前田博史