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農林水産省

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映画『リトル・フォレスト夏・秋』公開記念座談会

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生きること、食べること、そして、食料をつくること ―

“食”と“農”の本質的な繋がりを多くの人に感じて欲しい
林 農林水産大臣 × 森 淳一さん(映画監督) × 伊勢崎まゆみさん(農業女子メンバー) / コーディネーター 沼尾ひろ子さん(フリーアナウンサー)


今年8月30日より、東北の大自然の中で生きる力を充電する女性の姿を描いた映画『リトル・フォレスト 夏・秋』が、農林水産省もタイアップして公開されます。そこで、この映画を監督した森淳一さんと、映画の主人公のように都会から農村に移り住んで農業者に転身した伊勢崎まゆみさんをお招きして、林農林水産大臣との座談会を開催。フリーアナウンサーの沼尾ひろ子さんがコーディネーターを務め、映画のテーマ「生きる」「食べる」「つくる」について語り合いました。

「食育月間」スペシャル座談会

林農林水産大臣

もり・じゅんいち。東京都出身。テレビドラマの助監督を経て、自身の脚本『Laundry』が2000年サンダンス・NHK国際映像作家賞日本部門を受賞。同作品で監督デビュー。これまでに映画『アマレット』『重力ピエロ』などの話題作を手がける。

もり・じゅんいち
東京都出身。テレビドラマの助監督を経て、自身の脚本『Laundry』が2000年サンダンス・NHK国際映像作家賞日本部門を受賞。同作品で監督デビュー。これまでに映画『アマレット』『重力ピエロ』などの話題作を手がける。

いせざき・まゆみ。神奈川県出身。東京でアパレル関連の仕事に従事した後、岩手県遠野市に移住。現在は、遠野市の「風土農園」で、お米を中心とした作物を自然栽培で育てるほか、発酵食や馬搬など地域の伝統を伝える活動にも取り組む。「農業女子プロジェクト」メンバーとしても活動。

いせざき・まゆみ
神奈川県出身。東京でアパレル関連の仕事に従事した後、岩手県遠野市に移住。現在は、遠野市の「風土農園」で、お米を中心とした作物を自然栽培で育てるほか、発酵食や馬搬など地域の伝統を伝える活動にも取り組む。「農業女子プロジェクト」メンバーとしても活動。

ぬまお・ひろこ。栃木県出身。民放アナウンサーを経てフリーに。現在は栃木県宇都宮市で農業に携わり、健康、エネルギー再生、農育を軸にした豊かな生き方「篠井里山モデル」を提案。「農業女子プロジェクト」サポーターとしても活躍中。

ぬまお・ひろこ
栃木県出身。民放アナウンサーを経てフリーに。現在は栃木県宇都宮市で農業に携わり、健康、エネルギー再生、農育を軸にした豊かな生き方「篠井里山モデル」を提案。「農業女子プロジェクト」サポーターとしても活躍中。

林農林水産大臣

森 淳一さん(映画監督)

文/塚田有香
写真/松木雄一

自然をそっくりいただくのが日本食のすばらしさ
沼尾(敬称略、以下同)  今回は8月30日に公開される映画『リトル・フォレスト  夏・秋』で描かれている「生きること」「食べること」「食料をつくること」というテーマについて、皆さんからお話を伺います。

これは人間が生きていく上でとても大事なテーマです。農林水産省がこの映画とタイアップしたのは、やはり大臣もそうした部分に共感されたからでしょうか。

大臣  そうですね。人間は食べないと生きていけないですし、その食べるものをつくっているのは農業です。

昨年、和食がユネスコの無形文化遺産に登録されましたが、和食が他の料理と違うのは、素材をそのまま活かすことです。旬のものをおいしくいただくための味付けをし、自然をそっくりいただくのが日本の食のすばらしさです。その意味で、農と食がすっと繋がるようなイメージを映像でいろいろな方に見ていただくのは、とても大事だと思っています。盛りつけの美しさなども、活字にしてもなかなか伝わりにくいのですが、こうしてビジュアルになって、食べるところだけの都会の人が、「農があって食べ物ができている」ということに、自然と思いを寄せてもらえるのは、非常に大きな意味があると思います。

沼尾  食べ物って、野菜でもなんでも、お店で売っているのに、自分でつくるのが生き方としていいと思って、伊勢崎さんは飛び込まれたんですよね。実際どうでしたか。

伊勢崎  私も8年前までは東京で暮らしていて、自分が買っている野菜がどんな種から育つのか、それが生長したあとにどんな種を残すのか、といったイメージがまったくありませんでした。でも、岩手県の遠野に移り住んだ今は、自分たちがつくったものを食べてくれる人の笑顔を想像しながら作物を育てて、生きることや食べることを毎日肌で感じています。

沼尾  もうお二方が、この映画の真髄を語っていただいたように感じますね。

森監督  そうですね。生きるために食べることは、行為として簡単ですが、「つくる」が入った瞬間に、ハードルが上がるように思います。僕がこの映画を撮りたいと思ったきっかけには、定年を迎えた両親が小さな土地で農業を始めたのもあります。僕は最初、野菜はスーパーへ行けば買えるのに、どうして自分でつくるのか解らなかったのですが、そのうち日本人のDNAや本能の中には、育てる喜びを見出せる何かが根付いているのでは、と思うようになりました。だから、そうした人間の本質的な部分を、映画で表現したいと思っています。農業には難しさもあって、きれいごとだけを映すのではなく、命をいただいたりすることも含めて、映像化しないといけないと思っています。


伝統的な行事や風習を通じて集落を守る大切さが伝わる
沼尾  映画の中では、農業を通じて伝承される地元の知恵も、たくさん描かれています。農村に住み、文化を受け継ぐことも大切なことではないでしょうか。

大臣  日本によくある春祭りや秋祭りなどの行事の多くは、農業に由来しています。また、お正月に食べるお雑煮は、地域によってお餅が丸かったり四角かったり、汁の味付けもすべて違いますよね。これも、その地域で何がとれるのかといった農の話にからんでいます。収穫も実際自分でやってみたら、喜びもひとしおだと思いますね。そして「地元のお祭りにはこんな意味があったのか」「故郷にはこういうつながりがあるんだな」と感じてもらうことで、集落を守る大切さも自然と伝わっていくのだと思います。特に農業は共同作業をするところがありますから、集落やコミュニティの大事さも自然と伝わるのではないでしょうか。

沼尾  お祭りのような伝統に加えて、農村の景観を受け継いでいくことも大切ですよね。

大臣  田園風景は、農業がきちんと営まれていないと荒れてしまいます。水がちゃんとあって、CO2が吸収され、生物多様性が維持されて、「多面的機能」を農村や農業が果たしているからこそ、あの風景があるのです。ただ、それを維持するには、水路を掃除して泥上げしたり、草を刈ったりしなくてはいけない。きれいごとではない大変な作業です。今は高齢化が進んで、昔は当たり前にやっていた作業もできなくなっています。今年度からは※「多面的機能支払交付金」を創設し、※「多面的機能発揮促進法」も、国会で成立しました。地域全体で取り組む共同活動を支援し、直接お支払いをすることで、美しい農村を維持していきたいと考えています。

沼尾  農家にとっては、うれしいことですね。監督は、この映画を岩手県で1年間撮影されたと伺いました。

森監督  はい。岩手県奥州市での1年間オールロケです。夏前から、暑い夏、寒い冬、春と、田園の四季の美しさを体感しました。特に印象的だったのは、春を迎える喜びの大きさです。木々が芽吹き、花が咲いて、虫や動物たちが活動し始めるのを肌で感じて、東京で暮らしている時の何十倍もの喜びを、撮影隊の僕らも、知ることができました。

沼尾  伊勢崎さんは、季節を感じて春が待ち遠しかったという経験はありますか。

伊勢崎  春一番の花たちが咲き出すとウズウズしますね。私の夫は「馬搬(ばはん)」という遠野ならではの、冬に山で切った木を馬で運び出す仕事を始めています。今も遠野で「馬搬」を営んでいる人は、80代のお二人しかいません。伝統を廃れさせないよう、技術を受け継いでいきたいですね。

女性の農業への参画は活性化の原動力になる
沼尾  地域が元気になっていく原動力に、女性がいるというのはとても重要ではないでしょうか。

大臣  そうですね。日本の農業人口の平均年齢が66歳で、農村全体が高齢化していますが、そこに伊勢崎さんのような若い人が一人来るだけで、雰囲気ががらっと変わります。その人の同世代の仲間も来てくれるかもしれないし、次の世代の展望も見えてくるので、地域が非常に活気づくんですね。しかも女性役員、管理職がいる経営体のほうが、売上や収益が向上する傾向にあるというデータがあります(日本政策金融公庫調べ)。6次産業化などの多角経営に取り組む傾向も強いですね。言われてみれば、買い物に行ったり、毎日の献立を考えるのは女性が多いわけですから、もともと女性農業者の方たちは皆さんが買ってくださるようなものをつくるということを自然にやっていらっしゃる。女性が参加することで、活性化の原動力になると思います。

私たちも昨年から「農業女子プロジェクト」を展開しています。例えば、「現場にトイレがあったほうがいいよね」「農作業着や農業用機械って男性仕様だよね」といった色々な意見をお聞きし、民間企業とタイアップして商品やサービスをつくっているのですが、かなり盛り上がっていましてね。現在、基幹的農業従事者の約4割が女性で、新規就農者も2割が女性です。女性が入っていって、需用者からみていいものをつくっていく、マーケット・インの手法によって、付加価値の高いものが生まれるだろうと期待しています。

今あるものをおいしくいただくという充実した生活が、農村や里山の強みとなり、次の世代の人たちが来てくださるという循環も回り始めています。都会と田舎の二者択一ではなく、両方楽しめるところが増えてきます。私たちも色々な施策で後押しできたらと思います。

森監督  今回の映画撮影でも、実際に行くまでは、農作業の邪魔をしてしまうのではと心配したのですが、行ってみると地元の人たちに本当によくしていいただきました。僕らが農業のことを聞きに行ったりすると、お宅を訪ねるごとにお菓子やお土産をいただいて、皆さんおもてなしの中で暮らされています。田舎で暮らす方たちは、僕たちが思っている以上に、都会から来る者を受け入れる体制ができているんじゃないかと感じました。

沼尾  「生きる」「食べる」「つくる」が農村でできる、それが生き方として、人が増えていくことにつながるのですね。

大臣  はい。地元の空き家をリフォームして、都会から来る人に提供している自治体もありますね。こうした施策は、人口の社会増につながります。私の地元の山口県でも、出て行く人より入ってくる人のほうが多くなったという市町村が出てきています。こうした地道な取り組みが地域にとってもプラスになるのだという認識を持って、日本全国へと広げていってもらいたいと思っています。

沼尾  皆さんのお話を伺って、映画の公開がますます楽しみになりました。皆さん、本日はありがとうございました。

「多面的機能支払交付金」とは、農業・農村の多面的機能を維持・発揮するための地域の共同活動に対して支援を行う。「多面的機能発揮促進法」とは、この多面的機能支払等の取組を定めた法律。

公開記念座談会のようす

映画 『リトル・フォレスト  夏・秋』
映画 『リトル・フォレスト 夏・秋』

2014年8月30日(土曜日)より全国ロードショー
『リトル・フォレスト  冬・春』は、2015年2月14日(土曜日)に公開予定
監督・脚本:森 淳一
原作:「リトル・フォレスト」五十嵐大介(講談社「アフタヌーン」所載)
出演:橋本 愛、三浦貴大、松岡茉優、温水洋一、桐島かれん

舞台となる“小森”は、東北のとある小さな集落。主人公・いち子(橋本 愛)は、一度都会に出たが再び、ここに帰ってきた。自然の恵みを受けながら、自給自足に近い暮らしをするいち子は、生きる力を充電していく……   
舞台となる“小森”は、東北のとある小さな集落。主人公・いち子(橋本 愛)は、一度都会に出たが再び、ここに帰ってきた。自然の恵みを受けながら、自給自足に近い暮らしをするいち子は、生きる力を充電していく……
© 2014「リトル・フォレスト」製作委員会

四季折々の豊かな自然の美しさが、作品全体を彩る。また、いち子が畑や周りの野山で採ってきた、旬の食材を使ってつくる食事も見どころの一つ。1年間のオール東北ロケに、少数精鋭のスタッフとキャストで挑み、ていねいにつくられた作品

  四季折々の豊かな自然の美しさが、作品全体を彩る。また、いち子が畑や周りの野山で採ってきた、旬の食材を使ってつくる食事も見どころの一つ。1年間のオール東北ロケに、少数精鋭のスタッフとキャストで挑み、ていねいにつくられた作品

四季折々の豊かな自然の美しさが、作品全体を彩る。また、いち子が畑や周りの野山で採ってきた、旬の食材を使ってつくる食事も見どころの一つ。1年間のオール東北ロケに、少数精鋭のスタッフとキャストで挑み、ていねいにつくられた作品  
四季折々の豊かな自然の美しさが、作品全体を彩る。また、いち子が畑や周りの野山で採ってきた、旬の食材を使ってつくる食事も見どころの一つ。1年間のオール東北ロケに、少数精鋭のスタッフとキャストで挑み、ていねいにつくられた作品
© 2014「リトル・フォレスト」製作委員会

農業女子プロジェクトってなに?

農業女子プロジェクトは、女性農業者が日々の生活や仕事、自然との関わりの中で培った知恵を、様々な企業のシーズ※と結びつけ、新たな商品やサービス、情報を社会に広く発信するものです。

プロジェクト活動を通して、農業内外の多様な企業・団体と連携し、農業で活躍する女性の姿を様々な切り口から情報発信。社会全体での女性農業者の存在感を高め、さらには、職業としての農業を選択する、若い女性の増加を図ります。

シーズとは、企業がもつ技術、ノウハウ、アイデアなどのこと

農業女子プロジェクト

http://nougyoujoshi.jp/ http://www.facebook.com/nougyoujoshi.project