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農林水産省

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チャレンジャーズ トップランナーの軌跡 第87回

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岩手県 農事組合法人おくたま農産

「無借金経営」「コスト削減」「効率化」を徹底追求!
これにより低コスト生産を実現し、全国でも注目の的!


岩手県一関市奥玉地区にある農事組合法人おくたま農産は、飼料用米の直播(ちょくはん)や、農薬散布用の水田用無人ホバークラフトの導入などで、中山間地でありながら、米の生産コスト“60kgあたり約1万円”を実現。平成25年には、効率的な営農が評価され、「全国優良経営体表彰」の農林水産大臣賞を受賞しました。

おくたま農産の役員のみなさん。後列左が代表理事組合長の佐藤正男さん、後列右が理事総務企画部長の金野良悦(こんのりょうえつ)さん。前列右から及川ミエ子さん、菅野正子(かんのまさこ)さん、小山(こやま)京子さん

おくたま農産の役員のみなさん。後列左が代表理事組合長の佐藤正男さん、後列右が理事総務企画部長の金野良悦(こんのりょうえつ)さん。前列右から及川ミエ子さん、菅野正子(かんのまさこ)さん、小山(こやま)京子さん

おくたま農産で製造・販売する米粉320円(500g)、麹520円(500g)、味噌520円(800g)

おくたま農産で製造・販売する米粉320円(500g)、麹520円(500g)、味噌520円(800g)

おくたま農産のマーク。円内、お互いの手を取り合うのはおくたま農産のあり方“協業”を意味する。また奥玉地域にある「豊ほう潤じゅん璞あら玉たまの郷土」という言葉にかけてみんなで璞あらたまを磨き発展していく団体であるという意味も込められている

おくたま農産のマーク。円内、お互いの手を取り合うのはおくたま農産のあり方“協業”を意味する。また奥玉地域にある「豊潤璞玉(ほうじゅんあらたま)の郷土」という言葉にかけてみんなで璞(あらたま)を磨き発展していく団体であるという意味も込められている

女性メンバー10人で運営される農産物加工工房「あらたま」では、生産する大豆に付加価値をつけるため、味噌づくりを行う。昨年は3tを近隣のスーパーで販売、今年は4tを販売する予定。今後は新製品の開発、インターネットを通じた販売も考えている

女性メンバー10人で運営される農産物加工工房「あらたま」では、生産する大豆に付加価値をつけるため、味噌づくりを行う。昨年は3tを近隣のスーパーで販売、今年は4tを販売する予定。今後は新製品の開発、インターネットを通じた販売も考えている

コンバイン3台を1か所のほ場に集中投入することで、モミ運搬トラック、コンバインの待機時間の短縮が可能になり、作業費が3割以上低減。作業の効率化とともにコストダウンも実現した

コンバイン3台を1か所のほ場に集中投入することで、モミ運搬トラック、コンバインの待機時間の短縮が可能になり、作業費が3割以上低減。作業の効率化とともにコストダウンも実現した

ホバークラフトの導入で農薬散布を効率化。無線操縦のヘリコプターはオペレーターの資格が必要だが、ホバークラフトは必要とせず、人家への除草剤の飛散も防げる。購入費用は1台約60万円

ホバークラフトの導入で農薬散布を効率化。無線操縦のヘリコプターはオペレーターの資格が必要だが、ホバークラフトは必要とせず、人家への除草剤の飛散も防げる。購入費用は1台約60万円
第一歩は、金融機関に頼らない初期資金の確保から
かつて、一関市の奥玉地区では過疎化・高齢化などから離農者が多く、耕作放棄地が目立っていました。そうした状況を憂えた佐藤正男さんほか、農家の有志は解決策を探り、話し合いを重ねました。

平成19年、ほ場整備をきっかけに、佐藤さんたちは、効率的な営農を実現するため、地域の農家をまとめ、農事組合として法人化することに。当時は、住民の意識もまちまちで、「設備投資で借金だらけになって3年も持たない」という人もいたそうです。

そんな中、発足にあたって掲げた経営理念が「無借金経営」「コスト削減」「効率化」の三つでした。

一つ目の「無借金経営」について、佐藤さんは、「農事組合法人の9割は、初期投資で、金融機関などから多額の資金を借り入れ、その返済に苦労しています。いかに借金なしでスタートするかが、大きな課題でした」と話します。そんな折、国による近隣河川の改修工事があり、用地として、農道や農業公園を売却。これにより、約1億円を調達し、自前の資金での設備投資が可能になりました。

二つ目の「コストの削減」では飼料用米を直播することで、種苗費を通常購入と比べ、10aあたり5分の1以下にまで抑えました。また、いちばんコストがかかる主食用米の種苗や農薬、肥料などの購入に際しては、すべて相見積もりを取り、少しでも安いところから仕入れています。さらに、機械管理部を設置し、可能な限り自分たちで農機具のメンテナンスを行い、修繕費を節約しています。

三つ目の「効率化」では、全組合員から土地を借り上げ、農地の一元管理を実現。これにより、田植機やコンバインなどを、効率的に使えるようになりました。また、田の除草剤の散布には、水田用無人ホバークラフトを導入しました。「除草剤の散布は、以前は1haで4時間もかかっていたけど、ホバークラフトだと20分程度で終わるんですよ」と佐藤さんは話します。

効率化で生じた人手を使い6次産業化にも挑戦中!
さまざまな工夫の積み重ねにより、おくたま農産は、中山間地域にあるにもかかわらず、平成24年度の米の生産費を60kgあたり約1万円に抑えています。これは、経営規模15ha以上の農家の全国平均である60kgあたり1万1444円を下回る水準です。

また、生み出された利益は、積極的に組合員に還元しており、現在、組合員は、労賃のほかに、農地10aあたり1万3000円の借地料と、管理費として2万~2万5000円を受け取っています。

さらに、効率化で生じた余剰労働力を活用するために、工房「あらたま」を開設。ここでは、農家のお母さんたちが味噌などの製造・販売に取り組み、年々、売り上げを伸ばしています。

「おかげさまで、平成25年には、『全国優良経営体表彰』の農林水産大臣賞を受賞しました。今後も、組合員340人一丸となってコツコツと利益を上げることで、耕作放棄地を減らし、後継者を確保して、ふるさとを守っていきたいですね」と佐藤さん。

この地道な前進こそが、おくたま農産の強みといえそうです。

おくたま農産の取り組み
トップランナーを支えた力!
「できる工夫は何でもします。新しい技術やアイデアもどんどん取り入れますよ。とにかく徹底的にチャレンジすることではないでしょうか」と佐藤組合長は話します。  現在、おくたま農産が取り組んでいるのは、平成30年までの作物栽培のシミュレーションです。水田ごとに利益率を算出し、将来的に、米作りが赤字になる可能性があれば、積極的に大豆などに転作します。


文・写真/(株)ブーン