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農林水産省

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チャレンジャーズ 伝統の底力 第89回

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北海道 齋藤農園×伏古商店街振興会

生産量が減少し、“幻のタマネギ”といわれる「札幌黄(さっぽろき)」。
独特の甘さに惚れ、4代に渡り栽培を続け、今再びブレイクの兆し!


約100年前、北海道のタマネギ栽培の土台となった品種「札幌黄」。
今では「幻のタマネギ」と呼ばれるほどに生産量が減少しましたが、平成19年に「食の世界遺産」に登録されたことをきっかけに、あらためて注目を集めています。

商店街を支える振興会のメンバー。前列右が大江康博さん、左が生産者の齋藤重博さん

商店街を支える振興会のメンバー。前列右が大江康博さん、左が生産者の齋藤重博さん

“幻のタマネギ”といわれる「札幌黄」

120年以上の伝統を持つ「札幌黄」の栽培を続けている齋藤農園。現在、畑の広さは約2ha

120年以上の伝統を持つ「札幌黄」の栽培を続けている齋藤農園。現在、畑の広さは約2ha

収穫した札幌黄を選別する齋藤さん。札幌黄は柔らかく傷つきやすいため、細心の注意を払う

収穫した札幌黄を選別する齋藤さん。札幌黄は柔らかく傷つきやすいため、細心の注意を払う

採種用の母球と、採種した種。札幌黄は、各農家の好みで代々選抜・改良されている

採種用の母球と、採種した種。札幌黄は、各農家の好みで代々選抜・改良されている
“もの好きが作るタマネギ”と呼ばれるほど、手間がかかって
都道府県別のタマネギの収穫量がもっとも多い北海道。そのタマネギ栽培の歴史は、明治4年に、札幌農学校の教師がアメリカから持ち込んだ品種「イエロー・グローブ・ダンバース」から、本格的に始まったといわれます。品種改良を重ね、後に「札幌黄」と命名されたこのタマネギは、歯ごたえの柔らかさと強い甘みから人気を集め、札幌周辺はタマネギの一大産地となりました。

昭和40年代には、札幌市内全体で1000ha以上も作付けされるほどでしたが、昭和50年代に病気に強い「F1種(※1)」が登場すると、札幌黄の生産量は急速に減少。さらに札幌市の市街地化が進み、札幌市のタマネギ畑も徐々に消えていきました。

今では「幻のタマネギ」とも呼ばれる札幌黄ですが、十数戸の農家がその歴史を絶やすことなく守り続けてきました。平成19年には、「食の世界遺産」とも呼ばれる、スローフード協会国際本部(イタリア)の「味の箱舟(※2)」にも選ばれました。

札幌市東区で、4代に渡って札幌黄を栽培している齋藤農園の齋藤重博さんは、「札幌黄はF1種のように、種苗会社から種を購入するのではなく、自家採種で栽培します。そのため、農家ごとに独自の個性があるんです。うちのは、とくに甘みが強いんですよ」と話します。

ただ、F1種に比べると、形が不揃いで選別に手間がかかるなど、栽培には大変な苦労があるそう。齋藤さんも、何度も栽培をやめようと考えたといいます。

「“もの好きが作るタマネギ”なんていう別名もあるくらい、生産者泣かせの品種ですから。それでも、札幌黄の歴史を絶やすものか! という使命感で続けてきました。うれしいことに、最近はレストランなどからの注文も少しずつ増えています。食べたいと待ってくれる人がいる限り、作り続けたいですね」と齋藤さん。

独特の甘さを生かすなら……そうだ! アイスクリームにしよう
近年、札幌市内では、札幌黄の魅力を、少しでも多くの人に伝えようと、生産者や飲食店が一丸となって、パンやラーメンなど、札幌黄を使った加工品作りに取り組んでいます。

平成25年、齋藤農園と同じ札幌市東区にある伏古商店街では、なんとアイスクリームの開発に乗り出しました。

「齋藤さんの札幌黄の甘さを生かして、子どもにも大人にも人気の出る商品を作りたかったんです」と話すのは、同商店街振興会会長の大江康博さん(64)。タマネギ独特の生臭さを消すために、札幌黄をジャムにしてアイスに混ぜ込むなど工夫を重ね、平成26年7月、「玉ちゃんアイス」として発売しました。

その意外性のある美味しさはたちまち評判に。「子どもたちを中心に、どんな味がするのか、興味津々で手に取ってくれます。食べると“タマネギだ!”と驚かれるんですよ」と大江さんは笑います。

ここ数年、再び注目を集めている、札幌黄。この先、どのように実力を発揮していくのか、今後も期待が高まります。

※1 「F1種」とは、系統の異なる親同士を交配してできた雑種第一代のこと。スーパーなどで一般的に売られている野菜の大部分はこれにあたる。
※2 「味の箱舟」とは、消滅の危機にさらされている在来品種を守るための国際的なプロジェクト。世界共通のガイドラインで品種などを選定。プロモーション活動などで支援する。

カップアイスは120ml(250円)。パフェアイスはイチゴとチョコレート味があり、各180ml(350円)

カップアイスは120ml(250円)。パフェアイスはイチゴとチョコレート味があり、各180ml(350円)


伝統を支えた力
齋藤さんは、生産した札幌黄のほとんどを、自宅近くにある直売所で販売しています。「わたしの札幌黄を心待ちにしている“常連さん”が何人もいるんですよ。種を選抜するときなどは、彼らの『もうあなたのタマネギ以外食べられない』といった言葉を思い出して、少しでも甘みの強い札幌黄になるよう、試行錯誤しています」と齋藤さん。お客さんの生の声に触れることが、より高品質な札幌黄を作り続ける原動力となっています。


文/八幡智子
写真/久保ヒデキ