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農林水産省

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巻頭スペシャル企画 「攻めの農林水産業」実行で農村に“にぎわい”を

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西川公也農林水産大臣に聞く

聞き手・フリーアナウンサー 小谷あゆみさん


本年9月に、これまで、農林水産分野を中心に取り組んでこられた西川公也大臣が就任されました。
「攻めの農林水産業の実行」を掲げておられる西川大臣に、今後の抱負、東日本大震災からの復旧・復興の取り組みなどを語ってもらいました。

西川公也農林水産大臣と小谷あゆみさん
西川公也農林水産大臣と小谷あゆみさん

西川公也農林水産大臣

西川公也農林水産大臣

こたに・あゆみ

こたに・あゆみ
兵庫県出身。フリーアナウンサー。
石川テレビのアナウンサーを退職後フリーに。「食料・農業・農村政策審議会」「畜産部会」「農業農村振興整備部会」の臨時委員や農業ジャーナリストとしても活躍。「ベジアナ」と名乗り、野菜を愛好するアナウンサーとして、フェイスブックやブログなどで情報を発信。講演会活動なども行う。

9月下旬に訪問したミャンマーで、テイン・セイン大統領と

9月下旬に訪問したミャンマーで、テイン・セイン大統領と
写真/時事通信フォト

4年ぶりに出荷を再開した福島県川俣町の花農家を視察

4年ぶりに出荷を再開した福島県川俣町の花農家を視察
攻めの農林水産業を実行するために、まずは、“農家の所得をいかにあげるか”これに尽きると思います
農業と農業の周辺産業を活性化して農村に“にぎわい”を取り戻す
小谷(敬称略、以下同)  西川大臣は農政がご専門とお伺いしましたが、改めて、農林水産大臣としての抱負をお聞かせいただけますか。

大臣  私、農政一筋でやってきましてね。今回、農林水産大臣に就任して、攻めの農林水産業の実行、狙いは、農家の所得を上げて、農村のにぎわいを取り戻す。これに尽きると思いますね。一方、農家の所得が上がり、個々の経営規模が大きくなれば、農業から離れていく人も出ますから、その人たちの就業機会を作らないといけません。できれば、農業に関係した周辺産業で農家と一緒になって働いてもらい、一緒に努力をして、農村のにぎわいをね。こういうことを努力していきたいと思っています。

EU、アメリカ市場を焦点に輸出額1兆円目標を超えていきたい
小谷  農家の所得を上げるということですが、どのようにして取り組むのでしょうか。

大臣  今、農業就業者の平均年齢が67歳です。所得が上がらなければ若い人は来てくれません。そのために、農産物の付加価値を上げる、周辺産業と組んで、加工や流通を行う6次産業化を進めます。経費も、10年間で、米の生産費を4割下げていく。両方うまくいかないと農業に魅力が出ません。さらに海外に目を向け、農林水産物・食品の輸出額を、今の5500億円から、2020年に1兆円に増やし、さらにこれを大きく超えていきたいと考えています。輸出先についてもEUの約5億人、アメリカの約3億1000万人に焦点を持って行きたいです。

小谷  輸出を増やす農産物というのは、どういう品目をお考えでしょうか。

大臣  まず、日本では米が余っています。余ると水田が耕作放棄に直結してしまい、今、耕作放棄地が日本の農地459万haの8.6%に相当する39万6000haになっていますが。そういう中、日本の60kg当たり1万5000円の米を海外に売っていきたい。シンガポールなどでは、日本の米は、60kgで3万円から3万5000円、ヨーロッパだと、良い米は大体60kgで6万円が相場だそうです。スペインとかイタリア産です。質のいい日本の米は売り方によってはいくらでもヨーロッパやアメリカに売れると思います。

それから牛肉。日本のように、きれいにサシが入った肉はどの国行ってもありません。これも輸出して、海外の人に食べてもらわないといけませんね。

果物もですね、糖度の高さ、甘さではもう日本が一番ですよ。なぜこれまで売る努力をしなかったのかと、反省させられますね。日本の自動車会社がなぜ世界で冠たる企業になったか、売ることに努力したからですよね。だから私は、2万2000人強の農水省の職員に、みんなで輸出やろう、と言っています。

その時に農産物だけじゃなくて、例えば家具に使われる板、壁材、こんなきれいなもの世界中にありませんから、売ること、輸出に全力をあげていきたい。それで日本の農林水産業、元気づけていきたいですね。

先日、ミャンマーに出張し、大統領とお話する機会がありました。ミャンマーは農林水産業が中心の国なので、高い品質のものを、付加価値をつけて売り、農家の所得を上げるという私の考え方に、大統領からも大きくご賛同いただきました。


日本の農産物は競争できる発想を転換して売り方に努力を
小谷  売る努力をしてこなかったということでしょうか、売れなかったではなくて。

大臣  売る努力はした。努力はしたけれども、山を乗り越えるまでのものではなかった。日本は、国が豊かになった、お金もあったから買えば良いと、こういう考えが強かったと思います。しかし、農業はそういうわけにいきません。我が国の国土3770万ha強のうち、農地が459万ha、12%強も農家が使っている計算になります。これまでは、すぐに需給を調整すればいい、補助金出せばいいって、競争にさらさなかったですよね。日本の農産物は競争できます。海外を見て思いましたが、やっぱり売り方です。今、日本はこんなすばらしい農林水産物を、世界で一番安心できる、一番うまいものを作っている。発想を転換しなければいけません。

小谷  攻めの農林水産業といえば、輸出がイメージしやすいですが、国内についてはいかがでしょう。

大臣  そうですね。日本人が米を一番食べていた時の量は、1341万t、今は800万tを割っています。早く他のものに切り替える、例えばいくら作っても足りない家畜のエサ用の米とかですね。これからはインセンティブを働かせて、切り替えていかないといけませんね。

今年の米は、価格が下がるかもしれないと言われますけれど、国では「収入減少影響緩和対策」(ナラシ対策)という保険的な仕組みがあります。この対策では、基準収入があって、実際の卸売業者への販売収入とは差が出ますが、それによる収入減のうち9割は補てんしますから、現実には、米では農家にそう影響はありません。

また、これまでは、「攻めの農林水産業」といっても具体的に何をやるか決まっていないところがあった。例えば、米は何t、残った土地は何に使いますか、野菜も、果樹も、何をどれだけ作りますか、こういう議論がみんなを方向付けるまで来ていなかった。今、これを、「食料・農業・農村基本計画」として、来年3月に向けて全力で検討しています。

小谷  方向付けができれば、国内の農村が活性化し、地方創生にもつながりますよね。

大臣  はい。農業の大規模化と同時に、農業から離れる人達の働く場所の確保も重要です。かつて、昭和46年に「農村地域工業導入促進法」という法律を作って、農家の人に地域の他産業で働いてもらい、当初成功しました。そのうち円高で日本の工場が海外に移転した。近年は円安となり、日本に工場があった方がいいという人も出てきていますね。そこで、農業の周辺産業に来てもらって、地域で働ける場をつくる。わかりやすいところで言えば、6次産業化で缶詰やジャムをつくるとかですね。

福島産品の安全性をもっと理解してもらうべき
小谷  地方といえば、東北で、震災の影響で未だに風評被害も聞かれますけれども、この東北の復旧・復興についてはいかがでしょうか。

大臣  風評被害というのは、実際わからないから風評なんですね。もう安全なんですよ。この間も福島の被災地の現場で、復旧・復興の状況を見てまいりましたけれど、米は「全袋検査」、出荷する全ての米の放射性物質検査をやっています。放射能の影響は出てません。それから、復旧・復興するときに、せっかくですから、最先端の農家を育てたい。品質がどこにも負けないような。被災地の魚市場を見ても思いましたが、日本の魚を世界に売らない手はない。政府の「水産日本の復活」という政策方針の名前は私がつけましたが、昔は、日本は世界一の水産国だったのが、今は違います。それから、林業。最近は、「直交集成板」といって、木の繊維の方向を縦、横、垂直に組み合わせて接着した建築部材があります。ものすごく強くて、軽くて、燃えにくい。素晴らしい板なんですよ。2年後の平成28年に、建築基準ができて、この直交集成板を使った木造建物が建てられることになる予定です。国産材はもう伐採の適齢期が来ていますから、木をもっと使ってもらって、林業の活性化につなげていきたいです。

大臣の地元、栃木県の食の魅力とは
小谷  農林水産省のお仕事は、農業、林業、水産業と、幅が広いですね。私も野菜を作っているアナウンサー、「ベジアナ」って名乗っているんですけども、大臣のご出身、農業が盛んな栃木の食の魅力やおすすめを教えていただけませんか。

大臣  栃木はイチゴが有名ですね。最近では、「スカイベリー」という品種を売り出しています。1パック800円ぐらいしますが、大きいんです。皆さんに御紹介していますが好評で。あと、私の地元のさくら市では、「温泉パン」といって、1個食べると、お腹いっぱいになるパンが名物です。イースト菌が少ないからかな、ずっしりしています。

農業を経済効果だけで考えたら、棚田はいらなくなってしまう
でも、それでは国家は成り立ちません
地元はアイデアを持っているもっと儲けていい
大臣  私は昔、栃木県庁に勤めておりまして、その時代に、巨峰を中心としたぶどう団地を作ってうまくいきましたね。これからは、農協でも農事組合法人でも一つの企業だと思って、売り込み、稼いでもらわなければいけません。地元はみんなアイデアをものすごく持っていますよ。もっと儲けていい。

小谷  私は日本の美しい棚田風景というのも、ひとつの農的価値だと思っています。黄金色の美しい田んぼとか、そういう日本らしい小さな農業っていうのも大事だと思っているんです。

大臣  農業を経済効果だけで考えたら、保水するのに棚田はいらない、ダムつくるからいいだろう、という話になります。それで国家は成り立ちません。美しい風景も、自分の郷土も大事にしたい。そうすると農業政策には二つ柱が立ちます。一つは、条件不利地域は、平地との差で不利な分は政策的に支援していい。そうでないと、地方で棚田やる人なんていなくなっちゃうから。もう一方、平地の人は、収入が減少したときの収入保険制度があればいいと思います。この二本を考えて、安心して農業をやってもらって、そこで稼いでもらう。風景を守り、郷土も守れる。そうしたいですね。

小谷  ありがとうございます。大臣から、どんな質問でも「大丈夫」ってお返事をいただいて、私も安心いたしました。

大臣  大丈夫、大丈夫。魅力のある農村と農業にしますから、必ず。

小谷  ますます安心しますね。本日はありがとうございました。