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農林水産省

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aff 2019年8月号
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漁業の新潮流(2)夫婦で取り組む産地直送

噴火湾鮮魚卸龍神丸(北海道八雲町)

噴火湾鮮魚卸龍神丸(北海道八雲町)

舘岡勇樹さん:噴火湾鮮魚卸龍神丸の代表。北海道八雲町出身。北海道八雲高校を卒業後、漁師に。舘岡志保さん:噴火湾鮮魚卸龍神丸の営業・広報担当。東京都江東区出身。看護師資格を取得し、在宅医療の事業所で営業をメインに勤務後、水産業に転じるため2014年、北海道に移住。

太平洋と日本海に面した唯一の町で

北海道の南西部にある八雲町は日本海と太平洋に面する唯一の町です。太平洋岸側に広がる内浦湾は、近くに有珠山や北海道駒ケ岳などの火山を望めることから噴火湾(ふんかわん)とも呼ばれます。多くの川から豊富な養分が流れ込み、プランクトンが多く、魚の宝石箱とも称されてきた湾です。

舘岡勇樹さんは、この湾で海中に網をカーテンのようにたらし、網目に魚の頭を入り込ませる刺し網漁を行う漁師です。

噴火湾に面した落部漁港。刺し網漁の他、ホタテガイの養殖も行われている。
噴火湾に面した落部漁港。刺し網漁の他、ホタテガイの養殖も行われている。

捕獲の対象のひとつが噴火湾の名物であるアカガレイという種類のカレイです。落部(おとしべ)漁協はこのブランディングを行っており、勇樹さんは、地域の漁業の活性化に貢献したい、という思いから「桜鰈(さくらかれい)」という商品を作っています。

また勇樹さんは、噴火湾の魚介類のおいしさを広く知ってもらい、新鮮で安全安心な魚を消費者に届けたいと船上で鮮度保持処理の方法である血抜きや神経締めを行い、水揚げ後の管理にも注意を払い、付加価値をつけたうえで直販を行っています。

「直販を行うようになってから、魚を食べてくださるお客さんのことを思いながら漁をするようになり、魚に対する意識も変わりました」

子どものころから見慣れていて、ただ獲って売るだけのモノのように見ていた魚を大切に扱うようになり、「傷のある魚も捨てず、きちんと扱って価値をつけよう」という思いから加工品にしていると言います。

樹眼の無い側がうっすら赤くなり、桜の花びらのような形をしていることから「桜鰈(さくらかれい)」の名が付いた。
眼のない側がうっすら赤くなり、桜の花びらのような形をしていることから「桜鰈(さくらかれい)」の名が付いた。
落部でブランディングを行っている「桜鰈(さくらかれい)」。
落部でブランディングを行っている「桜鰈(さくらかれい)」。朝獲れのアカガレイを下ごしらえしたものに、桜の葉の塩漬けをのせ、風味付けした商品も展開。

こだわりを持つ消費者に届ける

落部の漁師の家に生まれ、子どものころから休日は船に乗って父親を手伝い、「父に、お前は長男だから将来は漁師だ、と言われていた」と言う勇樹さんは高校卒業と同時に漁師になりました。

漁師としての転機は手術を受けるため、東京の病院に入院したことでした。勇樹さんは当時、看護師をしていた志保さんに悩みを打ち明けたのです。

「食べてくださる人と直接お会いするようになってから漁師としての視野が広がりました」と言う勇樹さん。
「食べてくださる人と直接お会いするようになってから漁師としての視野が広がりました」と言う勇樹さん。

──北海道の海も海水温の変化で見慣れない南の魚が揚がるようになった。サイズも小さいものが増えて良い値がつきにくい。魚の良さを評価してくれる人に直接買ってほしいが、どうしたらいいだろう。

悩みを聞いた志保さんは、水産業について調べてみて興味がわいた、と言います。「今後こだわりのあるものを求める消費者が増えていくはずです。漁師が外に目を向け、そうした人たちとつながれば、水産業が良い方向へ変化していくのではないか。それを手伝ってみたい、と思いました」

舘岡さんが所有する7.6トンの龍神丸。
舘岡さんが所有する7.6トンの龍神丸。10年ほど前、中古を600万円で購入した。

看護の仕事で人生に悔いを残しながら亡くなっていく人を多く見てきた志保さんは、一度きりの人生に悔いを残したくない、と北海道に渡ることを決意します。

2人は2014年4月に「噴火湾鮮魚卸龍神丸」を創業しました。志保さんは飲食店などに営業をかけ、東京や大阪などを中心に販売先を開拓していき、やがて全国にお得意さんもできました。

2月の休業期には勇樹さんも営業に同行します。志保さんは「敬語も使えなかった無骨な海の男が、お客さんのことを思うようになり、どうすれば魚の価値を上げられるか真剣に考えるようになっていく。成長する姿を見ているうちに楽しくなり、結婚につながった感じです」と笑顔を見せます。

頑張る人に力を貸す漁師の社会

「彼女なくして販路は開拓できませんでした」と感謝を口にする勇樹さん。「漁業は男社会ですが、女性が活躍することで、消費者目線で需要に合う加工品を発想するなど新しい風を入れてくれるものと期待しています」と言います。

志保さんは経験を生かし、漁業プロデューサーとして水産物の6次産業化や商品開発、販路開拓などのコンサルティングを行うようになり、魚食についての食育の活動も行っています。

2018年11月には、漁業・水産業で女性の力を生かすための水産庁の「海の宝! 水産女子の元気プロジェクト」の一員になっています。

漁業プロデューサーとしても活躍する志保さん。
漁業プロデューサーとしても活躍する志保さんは、「自分の口にする魚のことや、それを獲った漁師のことに興味を持ってほしい」と訴える。

志保さんは「漁師のブランド化」を目指していると言います。「どんな漁師が、どのように獲っているかが分かる関係を築き、漁師の顔が見える魚を届けたいです。遠い存在で、無口でごつい。そんな漁師のイメージを変えることで消費者の漁業や魚に対する見方を変えられたら、と思います」

2019年3月に、舘岡さん夫婦は、道内の若い漁師たちと手を結び、「蝦夷新鮮組(えぞしんせんぐみ)」を発足しました。消費者とともに漁業の在り方を考え、豊かな海を守っていく活動に取り組むための団体です。

札幌で開催された「蝦夷新鮮組」の発足式。
札幌で開催された「蝦夷新鮮組」の発足式。カラフルな胴長姿の漁師が集まった。

「新しいことをしたいけれど、やり方がわからない、と悶々としている若い漁師は少なくありません。浜は違っても、小さいころの豊かな海に戻したい、という思いは同じはずです」

そう話す勇樹さんは、漁師になりたい人へのメッセージとして「漁業の世界には一子相伝のような感覚が残っています」としつつ、「漁師の弟子になって真面目に働き続ければ、仲間として受け入れてくれるはずです。頑張れば頑張っただけ認められる。頑張る人に力を貸すのが漁師の社会です」と言います。

地元の落部小学校で課外授業の先生役を務めた勇樹さん。
地元の落部小学校で課外授業の先生役を務めた勇樹さん。「漁師になりたい、と言ってくれる子どもがいてうれしかったですね」

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