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農林水産省

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  • aff03 MARCH 2022
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「その土地ならでは」の魅力を保護し、世界へ 地理的表示(GI)を知る

「十勝川西長いも」と「鹿児島の壺造り黒酢」の画像

日本には、各地で長年育まれてきた伝統的な生産方法や、気候、風土などの自然条件と結びついた「その土地ならでは」の高品質な農林水産物や食品が数多く存在しています。こうした産品は、日本ならではの特産品として海外での差別化が期待できます。今回は、こうした産品の名称を知的財産として保護する「地理的表示(GI)」に関するQ&Aと、それらの輸出に向けた取り組みについて、「鹿児島の壺造り黒酢」と「十勝川西長いも」を事例として紹介します。

江戸時代から続く
歴史と製法
“鹿児島の壺造り黒酢”

画像:「鹿児島の壺造り黒酢」の伝統的な醸造

写真提供:坂元醸造(株)

長い熟成期間を経て色づいた美しい琥珀色が印象的な「鹿児島の壺造り黒酢」は、鹿児島県霧島市で古くから薩摩焼の壺を使った伝統的な方法で醸造されてきました。その特徴的な生産方法や輸出に向けた取り組みについて、鹿児島県天然つぼづくり米酢協議会事務局を務める坂元醸造(株)の前田知英さん、税所篤正さんにお話を伺いました。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール画像

鹿児島県天然つぼづくり米酢協議会
事務局長

右:前田 知英 さん(坂元醸造(株))
左:税所 篤正 さん(坂元醸造(株))

鹿児島県霧島市の壺づくり米酢を生産する8社から構成されている鹿児島県天然壺づくり米酢協議会。同協議会で事務局を務める坂元醸造(株)の壺畑には、約52,000本もの壺が並ぶ。同社の前田さん、税所さんは、毎日の習慣として、黒酢20ミリリットルを炭酸や、野菜ジュース割で飲んだり、日々の料理に使用しているのだとか。

Q1

「鹿児島の壺造り黒酢」の
歴史や特徴について
教えてください。

A1

鹿児島県霧島市福山町および隼人町では、1年を通じて温暖で寒暖の差が小さい気候を活かし、江戸時代の末期から屋外で薩摩焼の壺を使用して米を原料とした食酢を醸造してきました。戦後多くの醸造業者が廃業をしましたが、壺酢の伝統製造技術を守り続けてきました。1975年に坂元醸造がこの壺造りの米酢を「くろず(黒酢)」と名づけ、全国普及に努めて今に至ります。原料は蒸し米、米麹(黄麹)、地下水の3つだけ。壺の中に米麹、蒸し米、地下水の順番で原料を入れ、最後に水面を米麹で覆います。この作業を春と秋の2シーズン行い、さらに発酵から熟成まで微生物と太陽エネルギーの力を借りて1年以上かけて造り上げます。長期熟成特有のまろやかな酸味とコクのある風味が特徴です。

ひと壺ひと壺、丁寧な手作業で仕込みが行われている。
写真提供:坂元醸造(株)

Q2

GI登録を考えたきっかけと、
登録産品になったことによる
効果について教えて下さい。

A2

伝統的な製造方法で造られた黒酢を、世界にも発信したいと考え、差別化を目指してGI登録しました。GI登録は国からの認証ですので、国のお墨付きをもらったという意識を持てましたし、実際に大手百貨店のバイヤーから声がかかるなどの変化がありました。

壺が並び黒酢を造る場所を「壺畑」と呼ぶ。
写真提供:坂元醸造(株)

Q3

輸出をはじめたきっかけや、
主な輸出先について
教えてください。

A3

1978年にハワイ在住の日系人の方からの要望で現地の日系スーパーへの輸出をはじめたことがきっかけです。ハワイでの人気がアメリカ本土にも広がり、日系のスーパーをはじめとした現地のストアにも置いてもらっています。現在は台湾、香港、シンガポールやヨーロッパ諸国からも引き合いがくるようになりました。現地の和食店では、黒酢を評価頂き、使って頂いているところもあるようです。

海外での展示会の様子。
写真提供:坂元醸造(株)

Q4

印象に残っている出来事について
教えてください。

A4

コロナ禍になる前に、アメリカ・ニューヨークの星付きフレンチレストランのシェフご本人が壺畑に足を運んでくださり、黒酢の製造方法や味を実際に確かめ、納得頂いたうえで、ご自身のレストランで提供する料理にご利用頂きました。その後も、国内外の多くのシェフの皆様にお越しいただいています。有名レストランで使っていただけていることは、壺造り黒酢の認知度の向上にもつながっていると思っています。

画像:黒酢をコップに入れている

写真提供:坂元醸造(株)

Q5

今後取り組みたいことについて
教えてください。

A5

日本では料理はもちろん、健康を意識して黒酢を飲むことが定着していますが、欧米をはじめとする海外ではまだほとんど浸透していません。「鹿児島の壺造り黒酢」を現地の方々の普段の食生活に取り入れていただけるように努めて参りたいと考えています。

黒酢の醸造技師の皆さん。伝統製法を守り続け、毎日壺のフタを開けて発酵や熟成状況を確認している。
写真提供:坂元醸造(株)

台湾の薬膳ブームが輸出のきっかけ。
“十勝川西長いも”

画像:JA帯広かわにしHP 畑

写真提供:帯広市川西農業協同組合

北海道十勝の雄大な大地で生産されてきた「十勝川西長いも」。1990年代後半の台湾への輸出を皮切りとして、現在では北米や台湾など、さまざまな国や地域への輸出拡大に向けた取り組みを精力的に行っています。その生産や取り組みについて、帯広市川西農業協同組合青果部の藤岡和博さんにうかがいました。

今回教えてくれたのは・・・

プロフィール画像

帯広市川西農業協同組合
青果部

藤岡 和博 さん

雄大な北海道道十勝平野のほぼ中央に位置し、帯広市の農畜産業を支える。同組合は、第46回農林水産祭における天皇杯、平成27年度6次産業化優良事例表彰食料産業局長賞、平成28年輸出に取り組む優良事業者表彰農林水産大臣賞など、受賞歴も多数。青果部の藤原さんは、部の統括をしながら、長いも事業では主に輸出部門を担当。藤岡さんおすすめの十勝川西長いもの食べ方は、輪切りにしてバター焼きにすること。

Q1

「十勝川西長いも」の
特徴について教えてください。

A1

十勝川西長いもはヤマノイモの一種で、約50年前からこの地で生産されています。現在の生産量は、年間およそ24,000トンから25,000トンです。特徴は、きめ細かく真っ白な肉質と粘りだと思います。こうした特徴は、十勝地域の気候や土壌と深い関わりがあります。十勝地域は冷涼で夏場の日照時間が長く、昼夜の温度差が大きいことで、急激な成長が抑制され、長いもがじっくりと成長することができます。このため、澱粉をはじめとする成分含量が多くなり、粘りが出ます。また、夜間の気温の低さが呼吸を抑制し、褐変の原因となるポリフェノールの生成を阻害するため、白い肉質がもたらされるのです。また、この辺りの土地は火山灰で、砂利のないさらさらとした黒ボク土なので、下に伸びていく長いもの成長が阻害されないことも特徴です。

収穫された十勝川西長いも。十勝川西長いもの種いもは、従来の品種より多収である新品種「とかち太郎」を、この地の栽培環境に適合し、その特性を引き出すために選抜を繰り返してきたもの。栽培面積にあわせて必要量のみを配布し、厳格に管理している。

Q2

収穫方法にも、
この地域ならではの
特徴があるそうですね。

A2

通常長いもは、春に植え付け、秋に収穫(秋掘)します。しかし、十勝川西長いもは、冬の間土の中で寝かせておいて、翌年の春に収穫する「春堀」という方法でも収穫を行っており、通年での出荷を実現しています。「春堀」ができるのは、畑に雪が降り積もることで、冬の間土の中を「天然の冷蔵庫」として貯蔵ができるからこそ。たくさんの冷蔵庫を持たなくても、一年中出荷することができるというのは、この土地ならではのメリットだと思います。

十勝川西長いもの生産においては、日頃の作業工程の中で留意すべき点をチェックリストとしてまとめて管理し、自己点検を行いながら改善につなげる「十勝型GAP」を実践している。
写真提供:帯広市川西農業協同組合

Q3

GI登録を考えたきっかけと、
登録産品になったことによる
変化を教えてください。

A3

「十勝川西長いも」という名前が全国に広まる中で、より付加価値をつけて出荷し、産地を活性化したいと考えたことがきっかけです。国のお墨付きをもらったことで、生産者のモチベーションは上がりましたし、生産工程や品質管理などに関する関係者の意識も高くなりました。現在、十勝川西長いもには10の農業協同組合、270戸の生産者が携わっていますが、自分たちで品質に関するルールを統一しながら、安心安全で高品質な長いもを出荷しようという意識が芽生えているのも、GI登録がきっかけだと思います。

選果場での箱詰め作業の様子。同選果場は、平成20年に、食品衛生に関する国際規格であるHACCP認証を土もの野菜としては世界で初めて取得するなど、徹底した品質管理を行っている。
写真提供:帯広市川西農業協同組合

Q4

「十勝川西長いも」の輸出の
きっかけを教えてください。

A4

1996年から1997年にかけて大豊作となり、価格が大暴落したことで、良い品質の長いもが収穫できているにも関わらず、生産者の方々の利益が下がってしまうという状況を打破したいと考えたことがきっかけです。豊作になると太物(4L規格)が増えますが、太物はカット販売されるため規格外品並みの価格でしか国内では販売できません。そこで、国内市場以外への販路を探し、太物の評価が高く、薬膳食材の一種として長いもを食べる文化がある台湾への輸出を試験的に始めました。現地の富裕層から高い評価をいただいたことをきっかけに、本格的な輸出が始まりました。

出荷準備の様子。出荷する長いもは生産履歴のデータベース化や点検、残留農薬の自主検査を行うなど、安全・安心に向けた取り組みを行っている。湿度と白い外観を保つため、おが粉を封入して箱詰めされる。

Q5

現在の主な輸出先や、
輸出状況について
教えてください。

A5

現在の主な輸出先として最も多いのがアメリカ西海岸で、次いで台湾、シンガポール、カナダ、香港です。ヨーロッパ諸国の一部にも輸出はしているものの、主にこれらの国や地域への輸出がメインです。特にアメリカはヘルシーブームや和食ブームもあり輸出量が増えています。現在は西海岸地域がほとんどですが、ニューヨークをはじめとする東海岸への輸出も積極的に行なっていきたいと考えています。

台湾で開催された「十勝物産展」。

Q6

今後取り組んでいきたいこと
について教えてください。

A6

課題としては、輸出工程での品質保持の精度を高めることでしょうか。長いもは出荷前に水洗いをすることにより劣化が始まり、輸送中に商品価値が下がることがあります。船舶による輸送なので、より長い期間品質を保持するための方法について、専門家も含めてディスカッションしながら、梱包の工夫をするなど常にブラッシュアップしています。
一方で、十勝川西長いも洗浄選別施設は、2017年にSQF(Safe Quallity Food)認証*を取得しています。この認証を得ることで、安全・安心な品質であることをより明確にすることができ、海外へもアピールしやすくなりました。今後は輸出工程に関する課題をクリアにしながら、さらなる輸出拡大を目指していきたいと考えています。

*食品の安全と品質を保証する米国のFMI(食品マーケティング協会)が管理する認証規格。

2008年にHACCP認証、2017年にSQFを取得した、長いも洗浄選別施設。
写真提供:帯広市川西農業協同組合

地域の共有財産として
ブランド価値を守る
地理的表示(GI)に
ついて知ろう

今回紹介した鹿児島の壺造り黒酢や十勝川西長いもは、その地域ならではの気候や、長い歴史の中で育まれた伝統的な製法と結びついた魅力を有しています。こうした産品のブランド価値を守り、地域共有の財産として保護することを目的とした制度が、2015年から導入された、地理的表示(Geographical Indication)です。今回は、Q&A形式で、GIについて学んでいきましょう。

Q1

地理的表示(GI)とは、
どのようなものですか?

A1

地理的表示(GI)とは、農林水産物、食品等の名称で、その名称から産地を特定でき、その確立した特性*が、自然条件や伝統的な製法など、産地と結びついているということを特定できる名称の表示をいいます。

*その特性が確立しているかどうかは、「その特性を有した状態で概ね25年の生産実績があるかどうか」で判断されます。また、ここでの「特性」とは「おいしい」、「美しい」などの抽象的な表現だけでなく、科学的なデータや文献などに基づく説明ができる産品の品質特性や社会的評価をいいます。

Q2

地理的表示(GI)には、
どのような目的があるのですか?

A2

地理的表示(GI)には、大きく分けて2つの目的があります。
1つ目は、生産者の利益の保護です。地理的表示(GI)は、生産地と結びつきがある特性をもつ産品のみに使用することができるため、登録されていない産品の名称使用を禁止し、不正使用については国が取り締まることで、登録産品のブランド価値や、生産者の利益を保護しています。
2つ目は、消費者の利益の保護です。GI登録された産品のみ、その名称を使用することができるため、表示された名称を信頼して購入した消費者やバイヤーにとっては一定の品質が保証されており、安心して購入することができます。

Q3

GIマークについて教えて下さい。

A3

GIマークとは、GI登録を受けた産品に対し、地理的表示とあわせて使用が認められるマークです。GIマークを使用することで、輸出先の国や地域においても、日本の真正なGI産品であることを明示することができ、差別化することができるため、日本ならではの特産物の海外展開につなげることができます。

GIマーク

GIマークは、大きな日輪を背負った富士山と水面をモチーフに国旗の赤や伝統・格式を感じる金色を使用することで、「日本らしさ」を表現するデザインになっています。

また、海外において、日本のGIマークの模倣品が造られたり、第3者が勝手にGIマークを商標登録することがないように、主要な輸出先においては、GIマークの商標登録を行っています。現在、ミャンマー、ラオス、台湾、ニュージーランド、カンボジア、フィリピン、オーストラリア、韓国、EU、インドにおいて、商標登録が完了しています。また、中国においては、著作権として登記がされています。

Q4

GI登録されている産品は
どのくらいあるのでしょうか?

A4

令和4年3月23日現在で、40都道府県の112産品、2カ国の3産品の計115産品が登録されています。

GI登録されている個々の産品については、こちらのページで紹介していますので、
ぜひご覧ください。

【地理的表示産品情報発信サイト】
https://gi-act.maff.go.jp/

Q5

日本のGI制度において
登録されたら、
海外においても
保護されるのでしょうか。

A5

日本と同等のGI制度を持つ国*との個別の国際協定により、個別産品ごとに相手国でGI登録されなくても、海外におけるGIの相互保護が可能となります。現在、2019年2月にEUと、2021年1月に英国との間で発効した経済連携協定(EPA)により、EUおよび英国との間でGIの相互保護が行われています。2022年3月現在、日EU間では日本の95のGI産品とEUの106のGI産品が、また日英間では、日本の47のGI産品と英国の3つのGI産品が、それぞれ互いに自国のGIと同様に保護されています。

*地理的表示保護制度は国際的に広く導入されており、100カ国以上で導入されています。

EU及び英国で保護されている我が国のGI産品について、さらに詳しく知りたい方は、
こちらをご覧ください。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/protection_abroad/protection_abroad.html

GI制度に関して、さらに詳しく知りたい方は、こちらで紹介していますので、
ぜひご覧ください。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/index.html

おいしさを世界へ 日本産食材の輸出

編集後記

私、長芋大好きなんです。とろろ蕎麦、とろろご飯、長芋の漬物、長芋の梅和え、でも、品質劣化が水洗いから始まっているなんて、これっぽっちも知りませんでした。自分が好きな食べ物でも、実はよく知らないってこと、みなさんもありませんか?(広報室YT)

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