このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

3.中耕・培土

中耕・培土は古くから大豆生産における欠かせない技術とされ、広く推奨されてきている。実際には、中耕と培土は異なる作業であるが、作業が同じ時期に行われたり、作業内容や効果に似た点があるため、中耕・培土と一括りにされる場合が多い。

中耕は本来、[1]除草を最大の目的としているが、[2]土壌を膨軟にして通気性を良くする効果もあり、[3]土壌が株近くに最大10cm程度の高さで寄せられるため、培土の効果もあり、[4]倒伏防止にも役立つ事になる。

一方、培土は、[1]土寄せにより茎下部を土で覆う事が最大の目的で、その結果、[2]除草の効果もあり、[3]土壌を膨軟にして通気性を改善したり、[4]倒伏を防止する効果も大きい。

このように2つの作業は非常に似た効果を持つが、中耕は除草を、培土は土寄せを第一の目的としており、その他の効果は付随的に現れるものといえる。

大豆のコンバイン収穫体系では、培土によって畦ができると、収穫作業中に土壌がコンバインの中に入り、汚粒発生の原因となりやすい。このため、コンバイン収穫体系の場合には、高い培土は障害になりやすい。一方、中耕も除草剤の進歩により、その重要性は以前よりは低下したのではないかと考えられる。

そこで、ここでは中耕・培土が収量増大に有効であるのかどうか、そして、有効であるならば、どのような条件下で有効であるのかを解説する。

1.中耕の効果

(1)除草

中耕の除草効果について、(1)中耕をした場合、(2)無中耕で生育期処理除草剤を散布した場合及び(3)無除草の場合を比較した試験例を表16に示す。
無中耕・無除草では雑草の発生が多く、とくにタデの発生が多かった。生育期処理除草剤はイネ科雑草の防除効果は高いが、広葉雑草への効果は低く、なかでもタデはかなり発生していた。ところが、中耕の除草効果は極めて大きく、広葉、イネ科雑草の両方ともほとんど見られなくなっていた。このように中耕による雑草防除効果はかなり高いと言える。

表16 中耕及び生育期除草剤が大豆畑の雑草に及ぼす影響

(2)倒伏防止

中耕によって大豆の倒伏が軽滅されることは、土壌の種類に関わらず、広く認められている。
例えば、深さ15cmの中耕によって、無中耕では48°であった主茎の傾斜角度が、茨城県農試の試験例では中耕により23°~31°にまで滅少する等、倒伏防止効果が明らかに認められている。

(3)収量

中耕が大豆の収量に及ぼす影響とそのときの土壌、気象条件を表17に示す。
中耕の増収効果が見られたのは土壌水分が豊富で、湿害さえ生じかねないような条件の場合が多い。これらの例では、倒伏防止効果、大豆の発芽時の湿害回避等が主な増収の理由と考えられる。
逆に、増収効果のない場合は土壌が乾燥する条件で起こっている例が多い。この点では中耕の増収効果のメカニズムは培土と類似しており、それについては後の培土の項で説明することにする。

表17 中耕が大豆の子実収量に及ぼす影響

2.培土の効果

(1)不定根の発生

培土は、畦間の土を浅く掘り起こし大豆の株際に寄せることにより、茎下部を通気性と土壌水分に富んだ土壌で覆い不定根の発生を促すとともに、土壌表層の通気性を改善して不定根以外の通常の根の発達も促すことにより、根系と根粒着生数を増大させ、窒素固定と養水分吸収を増大させて、生育収量を高めようとするものである。
このため、培土の増収効果があるかどうかには、培土によって不定根が発生するかどうかが大きく影響する。
大豆では不定根が茎の下部から発生する(図27(GIF:29KB))。不定根は茎の維管束と維管束の間から発生してくるが、それが盛んになるのは、茎の維管束間柔細胞の分裂が盛んになる時期、つまり胚軸の2次生長が盛んな時期である。大豆では、胚軸の第2次肥大生長が発芽後20日後から盛んになり、90日間という長い間続くとされている。
しかし、培土によって不定根が多く発生する期間は比較的短い。不定根(胚軸根)の発生は、播種後25~35日にかけて多く、播種後45日に滅少している。

(2)倒伏防止

培土が倒伏防止効果を持つことは土壌の種類に関わらず、ほとんどの培土試験で認められている。ただ、それがどの程度増収に効果があったのかは試験結果からは明らかでない。
しかし、この効果はわが国の大豆の耐倒伏性が―般的に劣ることに起因しており、耐倒伏性品種が出現すれば、その意義は薄れていくものと思われる。

(3)除草

培土の除草効果は大きく、それが増収の最大原因になっている場合も多い。
排水の良い花崗岩質砂壌土の水田転換畑で、培土が除草と大豆の収量に及ぼす影響を見た試験例を表18に示す。無除草無培土は雑草の量を40%以下に減らし、放任区より20%増収していたが、雑草を10%以下に押さえた完全除草無培土の47%の増収効果には及ばなかった。また、完全除草をしたときには、当然のことながら培土による除草効果はほとんど無く、培土による増収効果は4%弱であった。
このように培土の除草効果は、土壌処理剤による除草がうまく行かなかったような場合には大きい。土壌や気象条件によっては、培土による増収は、ほとんどが除草によってもたらされることも多いと思われる。

表18 除草と培土の有無が大豆の子実収量と残存雑草に及ぼす影響

 

3.土壌条件と中耕・培土の効果

(1)土壌水分

培土による不定根の発生には、土壌水分が大きく影響する。各地で行われた培土の試験をみると、培土による効果が大きく現れているのは、沖積土、砂壌土、洪積土など粘土質の土壌で、水田転換畑である場合が多い。水田転換畑では土壌水分が高く、培土することによって大豆の茎下部は水分が高い土壌に覆われ、しかも、土壌は膨軟になって通気性が良くなるため、不定根発生にとっては極めて望ましい条件ができあがることになる。
ところが、土壌が乾燥していては、培土をしても不定根発生の条件はできにくく、培土の効果は小さくなる。各地の培土の試験をみると、土壌水分保持力が弱く乾燥しやすい火山灰土壌や、水田転換畑でも土壌が乾燥した場合には培土の効果が小さくなっている。これはこのような場合には、培土をしても不定根が発生しにくいためと思われる。

(2)土壌の通気性

大豆では根粒の酸素消費量が多いため、イネ科作物よりも根系の酸素要求量が多い。このため、大豆では土壌酸素が減少すると根系の発達が抑制されやすい。
水田転換畑や粘土分の多い土壌は通気性が劣り、土壌酸素は土壌が深くなるにつれて急激に減少する。このため、大豆の根系は表層に集中しがちで、下層への発達は著しく劣る。とくに水田転換畑では地下水位が浅いため、土壌下層の酸素濃度は低く、根系はより一層浅くなる。
このように土壌下層に向かっての根系拡大が難しい条件では、培土によって茎の下部に不定根を発生させ、根系を上方に向かって拡大させることが、大豆の生育増進に効果的と考えられる。また、培土によって畦間の土壌表層10cmほどが掘りあげられるため、通常の根圏域の土壌通気性が改善され、通気不良によって制限されがちであった通常の根の発達も改善される。こうして培土は大豆根系の発達を促し、大豆の養水分吸収を改善し、生育増進に役立っているものと考えられる。
一方、火山灰土壌は乾燥しやすく通気性も良いため、大豆の根系は下層へ発達できる。また、培土による不定根の発生もそれほど期待できない。このような条件で根系を拡大するには、深耕や深層施肥によって下層へ根系を発達させる方が効果的であり、養分吸収、耐乾性の向上の面からも有利である。
転換畑や粘土質の土壌でも、地下水位が低かったり、土壌が乾燥して培土の効果が認められない場合、深耕により増収することは表19に良く示されている。

表19 海成沖積層植壌土●条の耕盤破壊が大豆収量(kg/10a)に及ぼす影響

(3)土壌の種類別の効果

土壌が比較的重粘で、地下水位が高いような場合には中耕や培土の効果は高く、そのような例は、表17と表20の(A)に示している。しかし、このような土壌でも乾燥した年には、培土による不定根の発生は少なくなり、また、土壌の下層への発達が良好になることなどから、培土の効果は見られなくなる。
一方、火山灰土壌では中耕や培土の効果は小さい。中耕でも、培土でも火山灰土壌で増収効果の見られた例は見あたらない。

表20 培土がダイスの子実収量(kg/10a)に及ぼす影響

4.培土の方法

(1)時期

不定根の発生からみた培土の適期は播種後20~45日である。実際の培土の試験を見ると、多少の変動はあるが、培土は播種後20~35日辺りに行った場合が効果が安定している。時期による培土の効果が変動しているのは、その時期の土壌水分が影響しているものと考えられる。
培土は遅くなるほど、根を切断して生育を逆に阻害する危険性も高まる。このようなことから、培土の適期は大豆の不定根の発生が盛んで、かつ断根の危険性の小さい播種後25~35日辺りである。

(2)回数

培土の回数については、2回行った場合の方が、1回だけに比べて子実収量が若干向上するようであるが、品種によっては逆転している場合もあり、どちらが良いかは判然としない。
培土は大変な作業であることを考えると、播種後20~35日辺りに1回培土を行うことで十分ではないかと思われる。

(3)培土の深さ

培土の深さはその効果にかなり影響する。表21に示す例では、培土の深さは15~20cmくらいが最も効果が高かった。

表21 バイ殿深さが大豆収量(kg/10a)に及ぼす影響

(4)コンバイン収穫に適した培土

高い培土をするとコンバイン収穫の際、土壌が機械に入り込み、汚粒発生の原因となることが指摘されている。一方、倒伏防止や雑草抑制効果という点では、培土はコンバイン収穫作業には望ましい。
培土による汚粒の発生を防ぐためには、あまり培土を高くしないよう、早期培土1回に止めておくのが望ましいと考えられる。

5.今後の中耕・培土

これまで、中耕・培土は必須の技術とされてきたが、全国の試験例では必要ないとする意見も多かった。また、効果が場所、年次により変動するため、増収に有効な技術なのかどうかについて、一定の見解もなかったと云える。

これまでに全国各地で行われた中耕・培土の試験成果を分析したところ、土壌がやや重粘で、湿潤な気象条件の場合に効果が大きく、火山灰土壌のように軽しょうな土壌や乾燥した気象条件では出にくいことが明らかになった。また、中耕・培土の増収効果には、倒伏防止や除草の効果もかなり役立っている。

水田転換畑では、地下水位が高いため土壌水分が高く、土壌も比較的重粘な場合が多いため、中耕・培土はこれからも必要な技術である。また、水田転換畑では土壌処理剤による除草がうまく行かなかった場合、中耕・培土は除草効果が大きいため、必須のものとなる。

一方、普通畑は火山灰であることが多く、土壌も軽く、地下水位も低いため、中耕・培土の効果は雑草の抑制、倒伏防止に重点がある。これらの土壌では、除草剤の発達や、耐倒伏性の品種が出現すれば、中耕はともかく、培土は必要なくなる可能性がある。

お問合せ先

生産局農産部穀物課 
担当者:豆類班
代表:03-3502-8111(内線4846)
ダイヤルイン:03-3502-5965
FAX:03-6744-2523