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農林水産省

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3.貯蔵施設 ― 貯蔵と品質 ―

大豆の収穫時期は主に10月~11月であるが、大豆は、豆腐、納豆、味噌、煮豆等その大部分が加工工場で加工され出荷される加工原料であることや豆腐、納豆等は食品としての消費期間が短いことから、産地、問屋及び加工工場の各段階で効率的に貯蔵され、年間を通して安定供給される必要がある。

冬期間の貯蔵については低温・低湿度環境が子実水分を若干低下させるが、粗蛋白、粗脂肪、全糖、粗灰分については一年を通じて時期的なばらつきは少ないと言われている。しかしながら、これを常温で保管すると夏期の高温期において、微生物や害虫などによるカビ粒・虫害粒の発生、呼吸による成分の損耗、油脂の酸化などにより大豆の品質が低下することが報告されている。大豆貯蔵の目的は高温・多湿な夏場以降から新穀が入手できるまでの6ヶ月間に劣化を最小限に止めることである。

大豆交付金制度は平成12年産大豆から、これまでの不足払い制度を廃し定額助成制度になるため、販売価格の差がそのまま農家所得に反映することになる。このため、産地においても実需との安定した取引体制を構築することが重要であり、貯蔵条件の適正化を図る必要がある。

(1)微生物、害虫の発生等に起因する品質低下

品質劣化の要因は、梅雨期及び夏期高温期における環境条件に起因するが、貯蔵庫内の温度が20℃を超えると呼吸作用が旺盛となるため、成分の損耗が起こり、また、貯蔵庫内の温度が25℃を超えるくらいから病害虫の繁殖が最盛期を迎えると言われている。

図3-1は東京都内の倉庫における大豆の穀温の変化をグラフ化したものであるが、穀温が20℃を超えるのが5月末から10月中旬であり、低温貯蔵を計画する場合はこの時期を目安にする必要がある。
しかしながら、年毎に気温差があることや、低温倉庫を米と共有している場合が多く、米の収穫期の方が大豆の収穫期より早いことから、入庫は5月上旬、出庫は9月中に終了することを目途に地域の条件に応じた施設の利用体系を組む必要がある。(図3-2)

図3-1  常温区及び低温区の穀温の変化
図3-1  常温区及び低温区の穀温の変化


図3-2  低温貯蔵期間
図3-2  低温貯蔵期間

(2)貯蔵条件による成分の変化

大豆の貯蔵条件が品質に及ぼす影響についての研究が十分されているとは言い難いが、それは今後の関係者のご努力を待つとして、ここでは昭和53年に行われた平らの研究結果を紹介する。

  1. 貯蔵条件
    貯蔵試験は、自然乾燥・加温乾燥など乾燥条件の異なる水分約15%の大豆を使用し、貯蔵は2月から1月までの12ヶ月間、庫内温度15℃と30℃で相対湿度65%と75%及び常温(東京)の5条件下で行った。なお、この貯蔵条件の設定理由は、15℃は現在穀類の低温倉庫で用いられている温度条件であり、30℃は夏期に長期間にわたり起り得る条件である。また、相対湿度65%と75%は、大豆の平衡水分が10%~15%の範囲に入り得る湿度を考慮した条件である。
  2. 原料大豆の水分含量の変化
    庫内温度15℃の場合では、相対湿度65%貯蔵では、貯蔵開始時に13%~15%の範囲内にあった大豆が4ヶ月後には11~12%となり、その後はやや減少しながらほぼ一定した水分値で経過した。相対湿度75%貯蔵では4ヶ月後に16%~18%まで上昇したが、12ヶ月後には14~15%まで減少した。
    一方、庫内温度30℃の場合では、相対湿度65%貯蔵では水分含量の低下が著しく、1ヶ月後には11~12%まで低下し、4ヶ月以降は10%台の水分含量で経過した。また、相対湿度75%貯蔵では、1ヶ月後に14%台の水分含量となり、12ヶ月後まで大差なく推移した。
    常温貯蔵では、2ヶ月後までに11%台に低下し、12ヶ月後には8%台まで低下した。なお、30℃・70%貯蔵の4ヶ月経過(6月)の大豆の種皮に、黒色のカビの存在が肉眼的にみられ、貯蔵日数の増加に伴い増殖した。
  3. 原料大豆の発芽率
    一般に、発芽率は生命力や鮮度判定の指標となる項目として重要視されており、大豆への乾燥処理条件による差異が大きい。また、発芽率が低下すると大豆を浸漬したとき溶出固形分が増加する。
    庫内温度15℃の場合では、相対湿度65%貯蔵では徐々に低下するが、低下率は低い。また、75%貯蔵においては大豆への乾燥処理条件による違いが大きく、20℃以上で加温乾燥した場合4ヶ月後から急激に低下した。
    一方、庫内温度30℃の場合では相対湿度65%貯蔵では6ヶ月後、75%では4ヶ月後には発芽は全て失われた。また、常温貯蔵では東京で夏期を迎える6ヶ月後まで徐々に低下したが、その後急激に発芽がなくなった。
  4. 蒸煮大豆の重量増加率
    蒸煮大豆の重量増加率の変化は、原料大豆に対する味噌、納豆、煮豆の収率の指標となることから重要である。15℃・65%及び75%、常温などの貯蔵に比べ、30℃・65%及び75%貯蔵の変化は著しく、貯蔵条件としては不適当である。
  5. 蒸煮大豆の硬さ
    庫内温度15℃の場合、相対湿度75%貯蔵でやや硬くなったが特に問題とはならない。一方、庫内温度30℃の場合、相対湿度65%貯蔵では12ヶ月後には感覚的にも硬さを感じられる程度にまで、75%貯蔵では12ヶ月後には測定不能になるまで、常温貯蔵では6ヶ月後(夏期)以降急に硬くなった。
  6. その他の加工適性評価
    試験では、この他吸水率、浸漬液中の溶出固形物とタンパク質の増加、タンパク質抽出率の低下、豆乳のpHの低下、水分含量の増加、色調の劣化としてみられ、この影響は15℃・75%貯蔵では少なく、さらに、65%貯蔵では激減した。また、30℃・65%貯蔵では一部に、75%貯蔵では影響が顕著に認められた。一方、常温貯蔵においては、6ヶ月(夏期)以後の吸水率、発芽率、浸漬液中溶出固形物とタンパク質・蒸煮大豆重量増加率に影響が認められたほかは、影響が少なかった。
    これらの結果を総合すると、貯蔵の影響は豆腐の加工適性への影響よりも味噌・納豆・煮豆等の加工適性への貯蔵の影響が大きいものと考えられる。

    庫内温度 相対温度 発芽率 蒸煮大豆
    重量増加率
    蒸煮大豆硬さ その他の
    加工適正
    15℃ 65℃
    70℃
    (加湿乾燥の
    場合低下)
    30℃ 65℃ × × × ×
    70℃ × × × ×
     常温(夏期) × × × ×

    図3-3  庫内温度、相対湿度と大豆品質の関係

(3)油脂の酸化

一般に大豆は貯蔵により脂肪酸を生成し酸価が高くなるが、国産大豆の酸価は輸入大豆のそれに比べて低く、低温貯蔵大豆においては大きな経時的変化は見られないとの報告がある。

これは、国産大豆の脂肪割合が輸入大豆のそれに比べて相対的に低いことによると考えられるが、油脂の酸価が加工適性にどのように影響するかについては試験報告が少なく、今後の研究成果に期待する分野でもある。

お問合せ先

農産局穀物課
担当者:豆類班
代表:03-3502-8111(内線4846)
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