このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

指定前の公示(第118号)

更新日:令和3年12月22日
担当:輸出・国際局 知的財産課
下記の名称について、指定前の公示をしたのでお知らせします。

East Kent Goldings(イースト ケント ゴールディングス)


1 指定前の公示の番号  第118号
2 指定をした場合に締約国の名称として公示されることとなる国の名称  グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(英国)
3 農林水産物等の区分  第1類 農産物類 前各号に掲げるもの以外の農産物類(ホップ)
 第5類 農産加工品類 前各号に掲げるもの以外の農産加工品類(ホップペレット、ホップ調整物、ホップオイル) 
4 農林水産物等の名称  East Kent Goldings(イースト ケント ゴールディングス)
5 農林水産物等の生産地  イギリス

 以下の各地域:
 トンジ、ボーデン、リンステッド、ノートン、テイナム、バックランド、ストーン、オスプリング、フェイヴァシャム、ボートンアンダーブリーン、セリング、チャーサム、チルハム、ハーブルダウン、カンタベリー、ベークスボーン、ブリッジ、ビショップスボーン
6 農林水産物等の特性、生産の方法その他の当該農林水産物等を特定するために必要な事項 (1) 特性
  「イースト ケント ゴールディングス」は、最高級のエールやビールの醸造に使用されるホップである。「森のオオカミ」の名としても知られるホップの雌株に毬花が形成される。毬花は軟組織の「苞葉」で構成されており、苞葉の内側にルプリン腺が存在する。ルプリン腺には粘り気のある油性物質ルプリンが含まれており、ビール造りに必須となる精油成分や樹脂成分となる。

樹脂成分          アルファ酸:        4.0 - 6.0重量%
         コフムロン:        25 - 30重量%   
         ベータ酸:           1.5 - 3.3重量%   
精油成分          総油分量:           0.6 - 1.0 ml / 100 g
         ミルセン:           総油分量の20 - 26 %
         フムレン:           総油分量の33 - 45 %
         H:C比:              > 3
         カリオフィレン:   総油分量の10 – 15 % 
         ファルネセン:      総油分量の 1 % 未満     
         セリネン:            総油分量の 3 % 未満

  毬花は主に醸造に使用され、軽くて甘いレモンのような繊細でフローラルな芳香をもたらす。毬花の形は長細く楕円形で、大きさは1.25cmから2.5cm程である。毬花は濃い緑色で、薄い苞葉の内側に、種子の基部を取り囲むように明るい黄色のルプリンが生成される。毬花の手触りについて、収穫時になると粘着質な、油でべたつく感触だが、保存のために乾燥すると苞葉に黄色のルプリン腺がはっきりと見えるようになる。香りは柑橘類や、レモン、フローラルの香りが合わさった芳香である。最後に、乾燥した本産品がビールに加わると、豊潤なマーマレードのような風味をもたらす。
  主要な精油成分は、季節や地域によって異なるため、本産品と他の品種を区別することができる。ただし、微量の精油成分は環境や季節により変化する可能性がある。これらの化合物は、あまり特徴はないが、本産品に独特の香りと風味を与えている。

(2) 生産方法
  「イースト ケント ゴールディングス」は単一の種子から栽培され、形態や二次副産物の化学組成等、すべての特性において、他のホップ植物とは異なる性質をもつ成木に成長する。商業品種は、固有原種の苗から、株分け、ランナー(多年生の新芽)又は緑枝挿し等クローン増殖によって生産される。このように、新品種は無性繁殖法により増殖するため、元の苗と遺伝的に同一となる。その結果、全ての苗が更なる繁殖のための基礎株として使用することができる。
  ホップは宿根多年生植物である。
  ホップの品種は、例えばFuggle種やWhitbread Golding種等偶然生まれた品種もあるが、大抵は植物の育種家によって生み出された品種であることが多い。
  植物の育種家が品種を確立した最初の種苗以降については、ホップはストラップ挿し又はミスト装置下で若芽から繁殖する。元の苗を病気にならないように管理すれば、何年もの間ホップを栽培することが可能である。

 〇準備:(冬期の作業)
  植物の健康状態を確認する。土壌に肥料を与え、不足している窒素やリン酸塩、カリウム、マンガンを補給する。ホップの生育に必要な高さ5メートルの複雑なワイヤーで構成された支柱が安全に組み立てられているか確認する。
 〇つる紐張り(2月/3月)
  ホップのつるが支柱の紐に絡み、ホップが毬花をつけるまで成長できるように、地面から支柱までココヤシ皮でできたつる紐を結びつける。「つる紐張り」は伝統的には支柱を作業員が渡り歩いて行っていたが、現在は地上にいる作業員が長い棒を使ってつるが付いたワイヤーを支柱の上部に固定する。
 〇発芽、巻き付け、選芽(3月~5月)
  新芽(つる)は、4月上旬に地下の根株から成長し、新芽は、1株あたり最も元気の良い2、3つの新芽だけを残し選芽する。新芽をつる紐に巻きつけ、残りの新芽は取り除く。
 〇成長(6月~8月)
  ホップがつる紐をつたい上っていく様子を、生産者やスタッフが毎日観察する。もし病害が認められた場合は、化学規制局(CRD:Chemical Regulation Directorate)により承認された、抗菌スプレー又は同等のものを散布する。再感染を防ぐため、しおれたホップを除去し、滅菌、隔離する。アブラムシとダニに対しても、CRDに承認されたスプレーを使用する。つるの成長とともにホップも成長していく。
 〇収穫(9月)
  収穫に最適なタイミングは熟練した栽培者の判断に委ねられるが、ルプリン含有量が3.5~7.5の範囲、平均4.7%のアルファ酸が収穫の目安となる。成熟度は、朽ち葉色の外観やルプリン腺の形状が完全で膨らんでいる状態になること、気象条件によって判断される。支柱の上部に位置するホップのつるは約1.3mの高さで切断され、摘み取り小屋に運ばれ、ここでホップをつるから摘み取り、葉の断片も取り除かれる。この工程は労働集約的かつ天候にも依存するため、気象条件と労働資源、収穫量のバランスを見極める判断力が必要となる。毬花は、乾物量が20%になるまで乾燥される。経験豊富な栽培者は、毬花の色と触感、種子の色と硬さ、毬花の中心軸のもろさによってこれを判断することができる。
 〇乾燥、梱包(9月)
  ホップに熱風を吹き込むことで、熱によるダメージを与えることなく、ホップの含水率を80%から10%に減らすことができる。ホップは、細長い薄板状の板の上に敷いた分厚い麻布又はプラスチック製の布の上に静置する。送風機と熱源は、この板下のプレナム室に設置される。全ての生きている植物原料には水分が含まれているため、ここでホップを乾燥させて、水分含有量を80%から10%に下げて保存する。ルプリンの炭化や焼成を防ぐため、ホップは水平に置かれる。最後に、「ポケット」又はベールといった麻布製の袋に梱包される。
 〇保管、販売(10月以降)
  自然のまま、若しくは4℃の低温で冷蔵保管し、醸造所へ輸送、ホップペレットに圧縮加工して安定性を維持するために真空パックに梱包、又はホップ調製物/ホップオイルへと加工される。
  本産品は、Verticillium albo-atrumによる萎凋病や、Sphaerotheca humuliによるうどんこ病、Pseudoperonospora humuliによるべと病を含む、いくつかの真菌病原体に感受性をもつ。更に、害虫、特にホップアブラムシ(Phorodon humuli)と2つの斑点をもつハダニ(Tetranychus urticae)からの被害を受けやすい。したがって、本産品の栽培中には、厳格な衛生状態を含め、害虫や病気に対し注意深く管理する必要がある。ホップには、害虫や病気を防除するために殺菌剤と殺虫剤のスプレーすることができるが、スプレーの材料は、CRDによって規制されている。Verticillium albo-atrumは、風や、車、又は人間の靴裏によって広がり、感染した植物からも伝染する。不意の訪問者がホップ畑に踏み入れることがないように厳格に隔離すること、畑に入る前に消毒剤で靴裏を消毒すること、ホップ畑を定期的に検査すること、疑わしい植物を除去すること、エリア内に芝生を植えることで、ホップ畑をトラブルから守る必要がある。

  全生産工程及び準備工程は指定地域内で行われる。本産品は指定地域で栽培、収穫、乾燥、梱包されて「準備済み」と定義される。乾燥ホップを含めて、ベール又はポケットには、栽培者の名前、品種、栽培地域名、収穫年、EU番号を記載したラベルが貼り付けられる。栽培者は畑での収穫日と収穫したホップのベール番号又はポケット番号を記録しておかなければならない。消費者は上記番号からホップに関する情報を遡ることができる。

 (検査機関)
 Chris Daws

 (3) 農林水産物等の特性がその生産地に主として帰せられるものであることの理由
  「イースト ケント ゴールディングス」の風味の特徴は、栽培に理想的なpH6.5~7.0となる石灰層に沖積土が積層しているイーストケントの土壌と、テムズ川河口から吹く塩分を含んだ冷風に影響を受けており、特に季節要因や品種によってホップの特性が確立される3月においては強く影響を受けている。旧ワイ大学における研究では、2月と3月の土壌温度の低下は、ホップの収穫量の増加と強く相関しており(Department of Hop Research Annual Report、1980年、ワイ大学)、3月の温度はル プリン腺の樹脂の苦味含有量に関係している可能性がある(Department of Hop Research Annual Report、1982年、ワイ大学)ことが報告されている。更に、ルプリン腺で検出される化合物の一部の前駆体は、3月時点の新芽や若枝の組織でも検出される(Rossiter、Imperial College)ことが報告されている。

  下記表に示すように、本産品は、Fuggle種(ファルネセン含有量が高い)やChallenger種(セリネン比含有量が高い)等、遠縁の他ホップ品種とは明確に区別される。本産品の主要な精油成分の構成は、血統が近縁である品種と構成は似ているが、区別することは可能である。例えば、Northern Brewer種はミルセンの含有量が高く、Northdown種はファルネセンの含有量が高くなっている。セリネン後のマイナーピークには、品種ごとに大きな変動がある。

  英国産ホップにおける主要精油成分の標準的な組成(単位:%)
品種名 ミルセン カリオフィレン ファルネセン フムレン セリネン
Goldings 25.2 11.2 0.5 36.2 2.7
Fuggle 29.4 10.2 7.5 30.8 2.5
Challenger 33.1 8.1 1.5 23.5 12.0
NorthernBrewer  36.4 10.8 0.1 32.7 2.2
Northdown 23.5 13.7 1.3 39.4 3.1

 これら化合物の相対存在量によってホップの品種を区別することができ、研究によれば、本産品は独特の特徴があることが確認されている。

 ホップは世界中で栽培されているが、原産地で栽培されたものが最も収穫量が多くなるということが、1960年から1978年までに行われた、ホップ品種の国際比較試験の結果で判明した(Neve、1983年、J. Inst. Brew、89巻、P98-101)。主な理由として、収穫量に影響する開花日がどこで栽培されるかによって左右されるため考えられている。このことは、下記の通り2006から2009年のイーストケントで栽培された本産品と他の地域産品との単位当たりの収穫量を比較することで確認されている。

イーストケントで栽培された本産品 他地域で栽培されたGoldings種
年次 面積(ha) 平均収量(Ztr./ha) 面積(ha) 平均収量(Ztr./ha)
2009年 76.19 37.58 198.69 26.76
2008年 80.04 32.55 199.95 25.92
2007年 82.55 33.47 192.37 26.69
2006年 76.18 34.45 181.40 28.40

  ノースダウンズ丘陵の斜面下端を覆う厚い沖積土の堆積物層が本産品の特徴に影響を及ぼしている。また、土壌に保湿性があることも重要で、イーストケントのダウンズ地区の年間平均降雨量は約635mmで、他のイギリス国内のホップ栽培地域よりも湿度は低い。

  現在イーストケントで栽培されている本産品は、1890年代と1920年代にケントにあるワイ大学と、1940年代にケントのイースト・マリング研究所によって作られた種子が由来となっており、権威のある両機関ともに種子の起源を立証している。更に、現在の品種の形態は、1800年代初頭以降の栽培者や農学者、科学者が行った説明と正確に一致している。精油成分の組成を最新の方法で分析した結果、全ての本産品が一貫した化学的特徴を持っていることが確認された。したがって、現在の本産品は、1790年代初頭にCanterbury Whitebine種のクローン変異体としてゴールディング氏が選抜したものと間違いなく同じ品種である。
  ゴールディングは、1790年頃にケント州ウェスト・マリングのゴールディング氏によって古いCanterbury Whitebine種から選抜されたもので(Percival、R.A.S.E Journal、1901年)、1800年代初頭までに、ゴールディング種のホップはイーストケントで栽培されていた。そこでは、土壌が「成長に最もよく適応している...石灰質の下層土が深い豊かな土壌である」(Rutley、R.A.S.E Journal、1848年)との記録が残っている。メードスートン近郊で栽培されたホップよりも優れていると考えられたため、イーストケントで栽培されたホップはより高い価格で販売されていた。この地域の農産物を区別するために、イーストケントの農産物として販売され(ホップファーマー、E・J・Lance、1838年、ロンドン)、「イースト ケント ゴールディングス」いう名前がつけられることとなった。19世紀の間に、Bramling種(1865年)、Rodmersham種又はMercers種(1880年)、Cobbs種(1881年)、Petham種(1885年)、Early Bird 種(1887年)、Eastwell種(1889年)等、いくつかの地域品種又はクローン品種が、イーストケントで選抜された。
  ホップは異系交配で繁殖する雌雄異株植物である。そのため、ホップ種の繁殖構造は雌雄が分かれて子孫を作り、それぞれが別の個体となる点で人間と非常に似ている。家族のような類似性があるかもしれないが、遺伝的に全く同じ個体は存在しない。同様に、ホップは自家受粉することが不可能であるため、必然的に新しい個体は2つの異なる親の遺伝子の組換えの結果として生まれてくるのである。

  イーストケントは、歴史的にも大規模な臨時労働力があったロンドンに隣接している。現在は作物の栽培や、ホップ用の支柱建て、機械設備のメンテナンスのために正規雇用されている。春先の新芽の選芽や収穫時には、臨時労働者が多く雇用される。例えば、100haのホップ畑の場合、5名の正規スタッフ、5月の新芽時期には25名の臨時スタッフ、9月の収穫時には120名の臨時スタッフが必要となる。

  本産品の繊細な香りは、イギリスと米国の両方で、エールとビールの醸造者により認識され、高く評価されている。醸造業者は、コンテナのラベルに本産品の名称をよく使用する。本産品は、定期的に独自の原材料を特別価格で販売している。毬花は軽くて甘いレモンのような繊細でフローラルな芳香をもたらす役割をもつ。ホップは非常に優雅な役割を果たす面がある一方、ビールにバックボーンと骨組みを与えるミネラルの特質も備えている。受賞歴のあるビールとエールとして、フラーズ1845、ホップバック サマー ライトニング、それに、米国のボストン ブルーイング エール等が挙げられる。
  毎年収穫の開始時期には、恒例のホップフェスティバルがフェイヴァシャムで開催される。様々な国からの多くの訪問者がホップを見学し、完成品を試飲する。また、カンタベリーでは、毎年収穫の初めに「ホップフーデニング」と呼ばれる儀式が行われ、ホップを祝福し、収穫の終わりには、地元の教会で特別な礼拝を行い収穫に感謝を捧げる。

7 法第29条第1項第2号ロの該当の有無等 
(1)商標権者の氏名又は名称  -
(2)登録商標  -
(3)指定商品又は指定役務  -
(4)商標登録の登録番号  -
(5)商標権の設定の登録の年月日  -
(6)専用使用権者の氏名又は名称  -
(7)商標権者等の承諾の年月日  -
8 公示の年月日  令和3年12月22日
9※ 意見書提出期間
(公示開始日から3か月間)
 令和4年3月22日まで
※縦覧及び意見書提出についてはこちら

お問合せ先

輸出・国際局知的財産課

担当者:地理的表示保護制度担当
代表:03-3502-8111(内線4285)
ダイヤルイン:03-6744-0234
FAX番号:03-3502-5301