第2節 農林漁業者等による体験活動の促進
食や農林水産業への理解増進は重要であり、そのため、農業者団体等が生産現場に消費者を招き、一連の農作業等の体験の機会を提供する教育ファーム等農林漁業に関する体験の取組を推進しています。
教育ファーム等農林漁業体験は、自然と向き合って日々仕事をしている農林漁業者に直接指導を受けることによって、地域の農林漁業への関心や理解を深め、自然の恩恵、農林漁業者への尊敬の念、農業の多面的機能の理解、健全な食生活の実現など様々な効果が期待されるものです。
例えば、消費者に酪農のことを理解してもらいたいという酪農家の願い、酪農体験を通じて子供たちに食や生命の大切さを学ばせたいという教育関係者の期待、これら双方の思いが一致し、各地で酪農教育ファームの取組が行われています。実際の活動では、子供たちが訪問先の牧場において、乳牛との触れ合い、餌やりや掃除による牛の世話などの酪農体験に取り組む体験学習を行っています。
この取組は、平成10(1998)年、社団法人中央酪農会議の提唱により、酪農教育ファーム推進委員会が設立され、平成13(2001)年に酪農教育ファーム認証制度が創設されたものです。平成17(2005)年以降、全国的な活動の更なる普及と支援体制を整備するため、全国9地域に地域推進委員会が設立され、平成28(2016)年3月現在、全国の認証牧場数は295牧場に達しています。活動内容の充実を目指して、酪農家を対象としたスキルアップ研修会の開催、酪農家や教育関係者に向けた支援資材の開発、学校を舞台にした出前授業「わくわくモーモースクール」の開催、実践事例集の制作・配布等を行っています。
このほか、稲作りやじゃがいも、キャベツなどの様々な野菜作りを通して、農業の楽しさ、面白さ、大変さに加え、田畑の生き物、生命の大切さ、地域農業・資源について子供や消費者が学び、農業のよき理解者になってもらう体験活動が行われています。学校付近の水田を借りて、種もみ播きから田植え、水管理などの中間管理作業や収穫まで一貫して行う取組や畑を貸し出して消費者が播種から収穫までを体験する取組、企業の社会貢献活動等によりNPO法人と連携して、耕作放棄地を開墾し、棚田に戻す取組等が行われています。また、きのこや山菜などの採取を行いながら森や林業などへの理解を深める林業体験、定置網の網あげ、地引き網、養殖等の作業体験のほか、漁業の現場見学や市場などの施設見学も行う漁業体験も行われています。
農業生産の大切さや農林漁業についての理解増進は重要であり、これら農林漁業体験の取組を広く普及していくため、農林水産省では、
〈1〉教育ファーム等の地域における農林漁業体験活動への支援
〈2〉これから始める方、既に実践している方がより効果的な農林漁業体験を提供するための『運営の手引き』の普及
〈3〉学校における教育ファーム等農林漁業体験の推進のため、理科・社会をはじめとした教科等と関連づけた教育ファームの教材の普及
〈4〉子供だけでなく幅広い世代に推進するため、企業のCSR(企業の社会的責任)や研修等で農林漁業体験が活用されるよう、企業向け導入マニュアルの普及
〈5〉どこでどのような体験ができるのかを一元的に集約した教育ファームのデータベースの周知や食と農林漁業体験の情報を発信するメールマガジンの発行
〈6〉教育ファーム等農林漁業体験活動が農林水産業への理解増進、食生活の改善、国産農林水産物の消費拡大にどの程度効果があるかの検証
などを行っています。
事例:「震災復興」をテーマに、学生たちが被災地の農産物を用いて
食のイベントを開催
早稲田大学
早稲田大学では平成7(1995)年より居住環境論の研究室を設置し、江戸東京伝統野菜である早稲田みょうがを広げる活動「早稲田みょうがプロジェクト」などの食育プロジェクトを開始しました。取組開始より10数年、農山漁村に興味を持つ学生も少なくない一方、農村地域について体系的・実践的に学ぶ機会が限られていました。そこで、早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンターは全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)と協働し、寄附講座「<農>を中心に東北の未来を考える」を震災翌年の2012年4月よりスタートして、学生たちの学ぶ意欲に応える仕組みを作りました。
この講座は、学生が実際に岩手、宮城、福島の東北沿岸地域の被災地に赴き、現地で生産者の方々の協力の下、農業体験をしたり、「震災復興」や「農村社会」を通じて「絆」や「助け合い」の重要性を学んでいく中で、共に問題を考え協働することを目指しています。
4年目の平成27(2015)年度は、「東北復興のまちづくり―農からの地域創生―」を開講しました。今年度は授業の一環として、食を起点に復興支援を呼びかけるイベント「東北キッチンat早稲田」を、1か月の期間限定で開催しました。イベント実施に先駆け、学生たちは福島(いわき市)、東北沿岸部などの合計3回のフィールドワークを実施し、各地の特産品を研究しました。それを経て、学生が大学近辺の7つの飲食店に働きかけ、被災地農産物を用いたメニューを提案し、実際にお店で数日から1か月間提供してもらいました。また、11月17日には、「東北キッチンat早稲田」のメインイベントとして学生が厳選した被災地の農産物をビュッフェ形式で振る舞ったほか、会場では農産物と被災地をつなぐ物語や産地の映像風景なども紹介しました。
授業終了後の学生の、食や消費生活への意識が明らかに高まっています。調査でかかわった東北地域の生産者を休暇中に再訪問する人、独自に東北支援の食のイベントを企画・開催する人など、一過性ではない意識の高まりがみられ、担当教員の想定をはるかに超えた広がりができています。また、飲食店からは、被災地の農産物メニューに対して好評を得ています。
東北でのアクションリサーチ(生産者と学生で課題を協同探求し、問題解決する)を継続しつつ、東北の農山漁村「訪問&聞き書き」小冊子シリーズの作成、発行を考えています。また、イベント「東北キッチンat早稲田」は今後も継続、拡大していく予定です。
コラム:農林漁業体験と食生活への意識
農林水産省が食生活や食料消費の実態を把握するため20歳以上の男女1万人を対象に平成27(2015)年度に行ったアンケート調査によると、農林漁業体験の経験がある人は、経験がない人と比較して、普段の食生活において「野菜を多く食べるなど栄養バランスのとれた食事を心がける」人が1.2倍、「住んでいる地域や自分の生まれ故郷ならではの食べ物を日々の食卓に取り入れる」人が1.3倍多く、食生活への意識がより高い傾向にあることが分かりました(図表-65)。
また、教育ファームで農作業等の体験活動に参加したことがある人の多くで、体験をきっかけに「なるべく日本産のものを選んで食べる」、「食事はなるべく残さず食べる」などの行動について、機会の増加や意識が高まったなどの変化がみられています(図表-66)。
このように、農林漁業体験と食生活への意識には関係があると考えられます。
農林水産省では、より多くの方に農林漁業体験に参加して食への理解を深めていただくため、啓発資料「探しに行こうよ!食べ物のふるさと」を作成しました。親子で楽しく読んでいただける構成で、農林漁業に加え、食品工場や市場についても紹介しており、生産から加工・流通に至る各段階での体験や見学について提案しています。今後、この資料を農林水産省ホームページに掲載すること等により、広く活用していただくこととしています。
お問合せ先
消費・安全局消費者行政・食育課
担当者:食育計画班
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