4 農村地域の活性化
-農業の多面的機能と農村資源の保全・活用-
農業の有する多面的機能
農業は、食料を供給する役割だけでなく、その生産活動を通じた国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等様々な役割を有しており、これらの役割による効果は、地域住民をはじめ国民全体が享受し得るものです。
農業は、農山漁村地域のなかで林業や水産業と相互に密接なかかわりを有しており、特に、農林水産業の重要な基盤である農地、森林、海域は、相互に密接にかかわりながら、水や大気、物質の循環に貢献しつつ、様々な多面的機能を発揮しています。
「美しい国、日本」の原風景でもある農村環境の保全・活用に向けた取組
農村には、農地・農業用水、豊かな生態系、美しい農村景観といった多様な地域資源が存在しています。里山や棚田、農業用用排水路は、美しい農村景観を創出し、地域住民への憩いや安らぎの空間の提供や、地域コミュニティの醸成をはじめとする様々な役割を有する、貴重な地域の財産でもあります。各地域では、その保全・活用に向けた様々な取組がみられます。
「農地・水・環境保全向上対策」の実施
農地・農業用水等は、食料の安定供給の確保や、農業の多面的機能の発揮に不可欠な社会共通資本です。これら地域資源は、農家を主体とする集落の共同作業等を通じて一体的に維持保全が図られてきましたが、農業集落の構造的な変化に伴い、その維持保全が困難となってきています。また、環境保全を重視した農業生産への転換が求められています。
このため、国民共有の財産である農地・農業用水等の資源と、そのうえで営まれる営農活動を一体として、国民の理解を得つつ、その質を高めながら将来にわたり保全していくため、19年度から「農地・水・環境保全向上対策」が実施されます。
【P158参照】
-都市と農村の共生・対流の促進-
都市と農村の共生・対流の多様な形態
活力ある農村の実現には、都市と農村に住む双方の人それぞれが互いの良いところを取り入れた新しいライフスタイルを作り上げ、「人・もの・情報」が循環する都市と農村の共生・対流を促進することが重要です。現在、農村での一時的滞在から定住まで、都市住民の多様なニーズに合わせて様々な形態での交流が行われています。
若者や団塊世代等が有する農村への定住ニーズ
20~29歳層と団塊世代(*1)を含む50~59歳層を中心に、都市と農村の共生・対流への関心や定住等への願望が高くなっています。これらを具体的な動きにつなげ、農村地域の活性化に結び付けていくことが重要です。行政、関連団体、民間企業を始め多様な主体による、共生・対流の促進を支援する様々な取組が行われています。
*1 昭和22~24年生まれの世代で、その人口は、17年9月30日現在、683万人である。第二次世界大戦直後に生まれた出生数が突出して大きいこの人口グループは、堺屋太一氏によって「団塊の世代」と呼称された。
グリーン・ツーリズムの促進と農業・農村体験学習等への取組
都市住民は、農業・農村とのかかわりに関し、ゆとりや安らぎの享受、安全・新鮮でおいしい農産物の入手のほか、多様なニーズを有しています。地域の創意工夫により、地域資源の活用による魅力ある交流体験プログラムの提供等を通じたグリーン・ツーリズムや、子どもに収穫の喜びや自然、食についての理解を深める農業・農村の体験学習等の取組も進められています。
都市と農村の共生・対流の促進を通じた地域の再チャレンジ
都市と農村の共生・対流の促進には、行政・地域住民とNPOとの連携や、UJIターン者の活躍等が期待されます。また、地域ブランドの育成や地域の課題を捉えた新ビジネスを展開するなど、活性化に向けた取組を進展させていくため、リーダーとなる人材の育成確保や、女性、高齢者も含め多様な人々が幅広く参画した新たなネットワークの構築も重要です。
また、都市と農村の双方が有する人材、知見、技術等をより広範に活用していく必要があり、農村の活性化に向けて、大学や企業の有する人材・技術や団塊世代が現役時代に蓄積した知見等を、地域の再挑戦に必要な力として取り込んでいくことが重要です。地域のなかには、外部の人材、知見、技術を導入し、新たな発想で商品開発を行うなど、地域活性化に向けた取組が成果をあげている事例もみられ、こういった取組が広まっていくことが重要です。
事例:外部の人材活用による最新技術の導入や新たな商品開発を通じた地域活性化の取組
島根県海士町(あまちょう)では、専門家の招致や企業等への人材派遣により、新しい冷凍技術の活用方法や伝統製塩方法を習得し、地域産業の振興、雇用の創出に取り組んでいる。また、熱意のある外部人材を呼び込み、農協婦人部の協力によりさざえカレーを商品化するなど、新たな発想で島の資源を活用した商品開発を進めている。島内への定住促進のため住宅の受入れ態勢の整備も進められ、Iターン・Uターン者と地元漁業者が協力し、岩ガキの生産・販売を行うなど、外部の人材や技術の有効活用を図ることで成果をあげている。あわせて、学生等の離島生活体験や、ニートを対象とした就業体験プログラムを実施するなど、様々な形態で都市農村交流を進めている。
【P169参照】
-農業と農村地域の活性化を目指して-
規模拡大や法人化等を通じて効率的経営を実現し、地域の活性化に貢献する取組
農業の活性化とともに、活力ある農村を実現するため、効率的な農業経営や地域住民によるむらづくりなどの先進的事例が多くみられます。
このうち、その内容が抜群で広く社会の賞賛に値するものについては、毎年、秋に開催される農林水産祭において天皇杯や内閣総理大臣賞が授与されています。18年度天皇杯と内閣総理大臣賞の受賞者の概要を紹介します。
18年度天皇杯受賞者
<農産部門>稲作複合経営(水稲・麦・大豆)
農事組合法人和多農産(わだのうさん)(代表 和多 昇(わだ のぼる)氏)
石川県能美市(のみし)
<園芸部門>野菜経営(ブロッコリー)
吹原 繁男(ふきはら しげお)氏 吹原(ふきはら) ちあき氏
長崎県雲仙市(うんぜんし)
<畜産部門>酪農経営
柴田 輝男(しばた てるお)氏 柴田 誠子(しばた せいこ)氏
秋田県由利本荘市(ゆりほんじょうし)
<蚕糸(さんし)・地域特産部門> 茶経営
有限会社 深緑茶房(しんりょくさぼう)(代表 松本 浩(まつもと ひろし)氏)
三重県松阪市(まつさかし)
<むらづくり部門>
ふき活性化協議会(かっせいかきょうぎかい)(代表 小川 寛治(おがわ かんじ)氏)
大分県豊後高田市(ぶんごたかだし)
資料:(財)日本農林漁業振興会「栄えの受賞に輝く」
18年度内閣総理大臣賞受賞者
<農産部門>経営(麦)
竹内 峰夫(たけうち みねお)氏
北海道小清水町(こしみずちょう)
竹内氏は、北海道小清水町において、同氏夫妻、長女とその夫の4人による家族経営により31haの大規模畑作経営を行っている。てん菜→でん粉原料用ばれいしょ→秋まき小麦といった望ましい輪作体系を導入し、経営作物全体で安定した高い生産性、収益性を実現している。
<園芸部門>経営(クレマチス)
有限会社渡辺園芸(わたなべえんげい)(代表 渡邉 偉(わたなべ たかし)氏)
静岡県長泉町(ながいずみちょう)
(有)渡辺園芸は、渡邉氏が昭和54年に設立し、クレマチスの大量増殖技術と周年出荷技術を確立した。現在、クレマチスの苗生産で全国シェア60%を占め、経営面積はクレマチス145アール、クリスマスローズ70アールで、生産量はクレマチス鉢花約2万5千鉢、クレマチス苗約42万本、クリスマスローズ鉢花約3万鉢等(16年)となっている。
<畜産部門>経営(肉用牛一貫経営)
佐古 保(さこ たもつ)氏
岐阜県下呂市(げろし)
佐古氏は、昭和45年に肉用牛肥育経営を始め、昭和54年からは肉用牛一貫生産を開始した。その後、放牧採草地、肥育牛舎等を整備し、増頭を図り、繁殖雌牛72頭、肥育牛93頭を飼養している(17年2月現在)。また、中山間地の狭小な遊休地を借地した自給飼料生産を行うとともに、平均25か月齢という経済肥育に取り組んでいる。
<蚕糸(さんし)・地域特産部門>経営(こんにゃく)
有限会社松井農産(まついのうさん)(代表 松井 庄次郎(まつい しょうじろう)氏)
群馬県沼田市(ぬまたし)
松井氏は、昭和38年に後継者として就農し、昭和46年に父より経営移譲を受けた。同59年には地域に先駆けて新品種「あかぎおおだま」へ切り替えるなど、先進的なこんにゃく栽培に取り組んできた。5年には松井農産を設立し、現在、家族社員5名、常時雇用2名、臨時雇用7名、経営耕地面積5.5haで法人経営を行っている。
<むらづくり部門>
共栄地区(きょうえいちく)を良(よ)くする会(かい)(代表 森本 浩史(もりもと ふみひろ)氏)
和歌山県印南町(いなみちょう)
主幹作物である夏みかんの価格が低迷するといった状況のなか、若い世代が中心にむらづくり組織を立ち上げた。水稲裏作の新品目を導入し、農業技術の高位平準化を進め、農業所得の向上と安定化に努めた結果、ブロッコリーやエンドウ類の栽培を確立した。また、地区の農家・非農家を問わず、老若男女すべてが構成員として参画している。
資料:(財)日本農林漁業振興会「栄えの受賞に輝く」
お問合せ先
大臣官房広報評価課情報分析室
代表:03-3502-8111(内線3260)
ダイヤルイン:03-3501-3883