(1)地球温暖化対策の加速化 ア 地球温暖化による食料生産への影響
(温室効果ガスの大気中濃度増加により、地球温暖化現象が進行)
地球の気温は、日射により暖められた地面から放出される赤外線の一部を水蒸気、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)等の温室効果ガス(*1)を含む大気が吸収・放射し、地表や下層大気を加熱するという仕組みにより、生物の生存に適した水準が保たれている(*2)(図1-34)。
ところが近年、人間活動の拡大に伴い、二酸化炭素やメタン等の大気中濃度が増加し、吸収・放射される赤外線が増加することで、地球規模で気温が上昇する地球温暖化現象が進行している。
*1 [用語の解説]を参照
*2 この仕組みにより平均気温は14℃に保たれているが、仮に温室効果ガスが全く存在しない場合、地球の平均気温はマイナス19℃となると推定される(IPCC第4次評価報告書)。
*2 この仕組みにより平均気温は14℃に保たれているが、仮に温室効果ガスが全く存在しない場合、地球の平均気温はマイナス19℃となると推定される(IPCC第4次評価報告書)。

(二酸化炭素は最も地球温暖化に影響)
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書(2007年11月)によると、大気中に長期間とどまる温室効果ガス(二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、ハロカーボン類及び六ふっ化硫黄)のうち、地球温暖化への寄与度(*4)が最も高いのは二酸化炭素であり、これらのうち63%を占めている(図1-35)。
*4 1750年から2005年までの温室効果の増加量に占める温室効果ガス別の影響力の割合
(二酸化炭素の排出量・大気中濃度は過去最高水準)
温室効果ガスのうち、石油等化石燃料の燃焼により発生する二酸化炭素の排出量は、100年前と比べ12.7倍に、特にこの40年間で3倍に増加している(図1-36)。また、2006年には大気中の二酸化炭素の平均濃度は、産業革命以前よりも36%増加して過去最高水準に達している(*1)。
*1 世界気象機関(WMO)「WMO温室効果ガス年報」 データ(エクセル:20KB)
世界中に影響を及ぼす地球温暖化
私たち自身が排出した温室効果ガスによって、地球上の多くの人々が影響を受けるということは、容易に想像できます。しかし、その影響は平等ではありません。
私たちは、私たち自身だけでなく、遠く離れた国や地域の人々、特に貧しい人々に、大きな影響を与える立場にあるという事実を認識し、責任ある行動をとる必要があります。
(1)イヌイットの生活の変化
IPCCによると、北極圏は最近数十年間、地球全体平均の2倍の速さで気温が上昇しています。
実際、近年、カナダ北部の北極圏に住むイヌイットの生活が激変しています。薄くなった氷が割れ、命を落とす事故が増加し、イヌイットの言葉にはない「イルカ」が北極海で目撃されるようになっており、これらはすべて地球温暖化の影響であるという研究者らによる指摘もあります。
(2)貧しい国で大きな被害
国連環境計画(UNEP)によると、温室効果ガスの大半を排出している先進国よりも、貧しい国・地域において、より大きな被害が出ることが予測されています。例えば、アフリカは1人当たりの二酸化炭素排出量は日本の10分の1ですが、近年大規模な干ばつ等の異常気象が発生し、食料不足が深刻化しています。IPCCによると、今後、温暖化の影響で2020年までにアフリカの一部の地域で降雨依存型農業(農業に用いる水を降雨のみに依存する農法)での農産物収穫量が50%程度減少すると予測されています。
(世界に深刻な影響を与えている地球温暖化)
IPCC第4次評価報告書によると、地球温暖化により、1.この100年で世界の平均気温は0.74℃上昇(図1-37)、2.最近12年(1995~2006年)のうち1996年を除く11年の世界の地上気温は、1850年以降で最も温暖な12年の中に入る、3.20世紀中に平均海面水位が17cm上昇、4.世界各地で異常気象が頻発(暴風、干ばつ等)といった影響が既に現れている。実際、異常気象に伴う気象災害は長期的に増加傾向にある(図1-38)
(地球温暖化対策は今後20~30年の緩和努力と投資が鍵)
また、同報告書は、今後予想される影響として、化石エネルギー源を重視する「高成長社会(*1)」を仮定した場合、21世紀末までに平均気温が2.4~6.4℃上昇し、平均海面水位が26~59cm上昇し、大雨、干ばつが増大すると予測している。
さらに、同報告書は、既存技術と今後数十年で実用化される技術により温室効果ガス濃度の安定化は可能であり、今後20~30年の緩和努力と投資が鍵としている。英国財務省の試算によると、温暖化対策に必要な費用は世界全体の毎年のGDPの1%であり、対策を行わなかった場合に予測される被害額は毎年のGDPの20%以上とされている(*2)。
*1 6種類の排出量シナリオのうち最も排出量が多いシナリオ。急激な経済成長と世界人口の増加が21世紀半ばまで続き、2100年における温室効果ガス等が二酸化炭素換算で1,550ppmに達すると仮定
*2 英国財務省「STERN REVIEW:The Economics of Climate Change」
*2 英国財務省「STERN REVIEW:The Economics of Climate Change」
(地球温暖化の進展は世界の食料生産に様々な影響)
一方、同報告書では、食料生産への影響についても予測しており、世界の潜在的食料生産量は、地域の平均気温の上昇幅が1~3℃まででは増加する地域と減少する地域があり、全体としては増加するとされているが、それを超えて上昇すれば減少に転じるとされている(図1-39)。

(多くの地域で地球温暖化の悪影響を予測)
温暖化による食料生産への影響は地域によって異なるが、特に気候の変化に対してぜい弱な開発途上国において大きな被害が予測されている。例えば、アジアの開発途上国の一部では、穀物の生産量の減少に加え人口の増加により飢餓の危険性が予測されている(図1-40)。

(我が国でも地球温暖化の影響とみられる現象を確認)
我が国では、この100年で年平均気温が1.1℃上昇(*1)しており、特に1990年代以降高温となる年が頻出している。IPCC第4次評価報告書に基づく整理結果(*2)によると、21世紀末までに我が国の平均気温は最大で4.7℃上昇し、大雨や猛暑日がふえると予測されている(*3)。
このようななか、我が国の一部の農作物で高温障害等の発生が問題化しており、例えば、水稲では白乳化したり粒が細くなる「白未熟粒」が多発し、特に九州地方で深刻化している(表1-9)。また、日本近海の海面水温も上昇しており(*4)、主に東シナ海等で捕れる「サワラ」が東北地方の太平洋側でも捕れるようになるなど、魚類の生息域の変化をうかがわせる事例もみられる。
*1 気象庁「平成19(2007)年の世界と日本の年平均気温について」。2007年には、埼玉県熊谷市(くまがやし)と岐阜県多治見市(たじみし)で最高気温40.9℃を観測し、74年ぶりに国内最高気温が塗り替えられた。
*2 IPCC第4次評価報告書で取り扱われた17研究機関23種類の全気候モデルによる温暖化実験に基づく整理結果
*3 第2回環境省地球温暖化影響・適応研究委員会資料
*4 気象庁「海面水位の長期変化傾向(日本近海)」によると、2006年までの100年間の九州・沖縄海域、日本海の中部・南部、日本南方海域の海面水温上昇は0.7~1.6℃であり、世界全体の海面水温上昇0.5℃を上回る。
*2 IPCC第4次評価報告書で取り扱われた17研究機関23種類の全気候モデルによる温暖化実験に基づく整理結果
*3 第2回環境省地球温暖化影響・適応研究委員会資料
*4 気象庁「海面水位の長期変化傾向(日本近海)」によると、2006年までの100年間の九州・沖縄海域、日本海の中部・南部、日本南方海域の海面水温上昇は0.7~1.6℃であり、世界全体の海面水温上昇0.5℃を上回る。

(地球温暖化は我が国の農業にも大きく影響)
将来の地球温暖化が我が国の農業に与える影響については、これまでの研究結果から、一部地域における水稲の潜在的な収量の減少、果樹の栽培適地の移動等が予測されている(図1-41)。

(温暖化によって栽培適地が大きく移動する可能性)
水稲については、2060年代に全国平均で約3℃気温が上昇した場合、潜在的な収量が北海道では13%増加、東北以南では8~15%減少することが予測されている。
また、りんごは、栽培適地が北上し、将来は新たな地域が栽培可能になる一方、現在の主要な産地が気候的に不利になる可能性がある(図1-42)。

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