このページの本文へ移動

農林水産省

メニュー

(1)農業・農村の持つ多面的機能の維持・発揮


(農村における人口減少)

農村は、食料の安定供給を担う空間であるとともに、農業者を含めた地域住民の生活や就業の場になっています。そして、農村を支える農業集落は、地域に密着した水路・農道・ため池等の農業生産基盤や共有林の保全・管理、農機具等の共同利用、収穫期の共同作業・共同出荷等の農業生産面のほか、集落の寄り合いといった協働の取組や冠婚葬祭、伝統・文化の継承等、生活面にまで密接に結び付いた共同体として機能しています。

国立社会保障・人口問題研究所による将来人口の推計結果によると、平成52(2040)年の総人口は全ての都道府県において平成22(2010)年を下回るとともに、市区町村別でみても平成22(2010)年を上回る自治体は80(全自治体の4.8%)のみで、その他の自治体の人口は減少し、特に中山間地域において減少率が高くなっています(図3-1-1)。

さらに、同推計結果について、農林漁業従事者数が占める割合別にみると、農林漁業従事者割合が高い自治体では減少率が高くなっていることがうかがえます(図3-1-2)。

このように、農村地域では将来的に人口減少の加速化が予測されており、永きにわたって培われてきたこれらの農業生産活動や共同活動が弱体化し、地域資源の荒廃や定住基盤の崩壊につながることが懸念されています。


 

また、国土交通省が推計した将来人口の全国分布をみると、平成62(2050)年の人口は6割以上の地点において平成22(2010)年の半分以下に減少するとともに、居住地域の2割が無居住化するなど、国土全体での人口の低密度化と地域的偏在が同時に進行することがうかがえます(図3-1-3)。

一方、多くの市町村において、事務事業の見直し、組織の合理化等により職員数が減少する中、特に農林水産関係の職員数が減少しているほか、市町村予算における農林水産業費についても大きく減少しており、将来にわたって農政の推進体制を確保することが必要です(図3-1-4)。


図3-1-3 平成62(2050)年の人口増減の全国分布状況(平成22(2010)年比での割合)



図3-1-4 市町村における部門別職員数及び普通会計決算額の推移

データ(エクセル:37KB)                データ(エクセル:33KB)


(農業・農村の持つ多面的機能)

農業・農村は、食料を供給する役割だけでなく、その生産活動を通じ、国土の保全、水源の涵(かん)養、生物多様性の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等、様々な役割を有しており、その役割による効果は、地域住民をはじめ国民全体が享受しています(図3-1-5)。

また、農山漁村地域において、農業、林業及び水産業は、それぞれの基盤である農地、森林、海域の間で相互に関係を持ちながら、水や大気、物質の循環等に貢献しつつ、様々な多面的機能を発揮しています。

このため、農業・農村がこれらの多面的機能を十分に発揮できるよう、各種施策や取組を通じて、その持続的な発展に努めていくことが重要です。


図3-1-5 農業・森林・水産業の多面的機能

(多面的機能の発揮を図る取組)

農地は、農業が営まれることで様々な機能を発揮しており、農業用水や雨水の一部が水田や畑に浸透して流域の地下水となり、下流域では涵(かん)養された良質な地下水を生活用水等に利用しています(図3-1-6)。

さらに、畦畔(けいはん)に囲まれている水田は、雨水を一時的に貯留し、時間をかけて徐々に下流に流すことによって洪水の発生を防止・軽減させます(図3-1-7)。水田に張られた水は風雨から土壌を守り、畑地の作物は被覆効果を発揮して、下流域への土壌の流出を防ぎます。

また、水田や畑には多様な生物が生息しており、水田や畑が適切かつ持続的に管理されることで、植物や昆虫、動物等の豊かな生態系を持つ二次的な自然が形成・維持され、多様な野生動植物の保護にも大きな役割を果たしています。


図3-1-6 水源涵養機能(地下水涵養機能)
図3-1-7 洪水防止機能
 

一方、農村地域においては、農業が営まれることにより、大地に育った作物と農家の家屋、その周辺の水辺や里山が一体となって美しい田園風景を形成しています。

また、全国各地に残る五穀豊穣を祈る伝統行事や収穫を祝う祭り等は、稲作をはじめとする農業に由来するものが多く、地域において永きにわたり受け継がれています。

歴史や伝統ある棚田・疏水・ため池等は、地域で育まれてきた文化を背景に、美しい農村景観を形成しており、将来に残すべき豊かな地域資源として保全・復元し、次世代に継承していくことが重要です。

例えば、棚田は急傾斜地を利用した水田であることから、平地と比べて生産条件が不利であることに加え、中山間地域の過疎化や高齢化の進行に伴って耕作放棄がみられる一方、地域の有志によって棚田を保全・復元する取組も行われています。水田や農業水利施設(*1)の保全・更新に取り組むほか、田植・収穫といった農作業や美しい景観に親しんでもらう取組、「棚田オーナー制度」の導入等により、農村と都市の交流を図るとともに、棚田で生産された米の高付加価値化等によって、地域の活性化に結び付ける取組等が行われています。

*1 [用語の解説]を参照。



事例:棚田の保全・復元と棚田を活用した地域活性化の取組
(1)都市に近接した棚田の復元と地域活性化の取組
横瀬町
美しい里山景観を形成する寺坂地区の棚田
美しい里山景観を形成する寺坂地区の棚田

埼玉県横瀬町(よこぜまち)寺坂(てらさか)地区は、荒廃した棚田をホタルが舞う美しい棚田に復元するため、棚田の再生と保全に取り組むとともに、棚田オーナー制度の導入を通じて地域活性化に取り組んでいます。

同地区では、昭和50(1975)年頃まで約50戸の農家が稲作を営んでいましたが、平成10(1998)年頃には4戸にまで減少し、棚田の荒廃が深刻化していました。

このような中、棚田の所有者有志が、都市住民の参加を得て「寺坂棚田学校」を開校し、農家の指導を受けながら、かつての美しい棚田の再生に取り組むとともに、同校の卒業生を対象とした棚田オーナー制度を導入し、常備された農機具をオーナー自らが駆使して全ての作業を行っています。

また、都心から最も近い棚田として、ホタルや彼岸花等の地域資源を活かした観光イベントの開催や子供の農業体験等による地域の活性化にも取り組んでいます。

(2)棚田の景観保全と自然栽培米による高付加価値化の取組
長門市
日本海に浮かぶ漁火と東後畑地区の棚田
日本海に浮かぶ漁火と
東後畑地区の棚田

山口県長門市(ながとし)東後畑(ひがしうしろばた)地区の棚田は、日本海を背景に美しい景観を形成しており、平成11(1999)年に「日本の棚田百選」に認定されています。特に日本海に浮かぶ漁火(いさりび)と棚田が調和した景観は、多くの写真愛好家や観光客を引きつけています。

同地区では、棚田の維持・保全に当たって、農作業の受託や石垣の補修等を営農組合が行うほか、自然栽培(無農薬・無化学肥料)による棚田米の高付加価値化に取り組んでいます。

また、廃校となった小学校校舎をNPO法人(*)の活動拠点として活用し、子供の体験学習や大学と共同で情報発信を行うなど、都市住民との交流を通じた地域の活性化に取り組んでいます。

*「用語の解説」を参照。

(世界農業遺産の認定)

世界農業遺産(GIAHS(ジアス)(*1))とは、近代化が進む中で失われつつある伝統的な農業・農法、生物多様性が守られた土地利用、農村文化、土地景観等を地域システムとして一体的に維持保全し、次世代へ継承していくため、平成14(2002)年に国連食糧農業機関(FAO)により始められた取組です。

平成25(2013)年5月、石川県七尾市(ななおし)において開催された世界農業遺産国際会議において、静岡県掛川(かけがわ)地域の「静岡の茶草場(ちゃぐさば)農法」(*2)、熊本県阿蘇(あそ)地域の「阿蘇の草原の維持と持続的農業」(*3)及び大分県国東(くにさき)半島宇佐(うさ)地域の「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」(*4)の取組が世界農業遺産に認定されました(図3-1-8)。

これまで、日本では、平成23(2011)年6月に新潟県佐渡市(さどし)の「トキと共生する佐渡の里山」と石川県能登(のと)地域の「能登の里山里海」(*5)が世界農業遺産に認定されており、これらと併せて5地域の認定となりました。また、今回は、世界農業遺産に認定された地域で初めて開催された会議となりました。

世界農業遺産の認定を受け、今後もこれらの地域システムが維持保全され、生物多様性の保全等の多面的機能が持続的に発揮されるとともに、農業の担い手の確保や地域活性化に結び付くことが期待されます。

*1 Globally Important Agricultural Heritage Systems の略。
*2 静岡県掛川地域の4市1町(掛川市、菊川市、島田市、牧之原市、川根本町)で構成する「静岡の茶草場」世界農業遺産推進協議会が申請。
*3 熊本県阿蘇地域1市3町3村(阿蘇市、小国町、南小国町、産山村、高森町、南阿蘇村、西原村)で構成する阿蘇地域世界農業遺産推進協議会が申請。
*4 大分県国東地域4市1町1村(豊後高田市、杵築市、宇佐市、国東市、姫島村、日出町)で構成する国東半島宇佐地域世界農業遺産推進協議会が申請。
*5 能登地域4市4町(七尾市、輪島市、珠洲市、羽咋市、志賀町、中能登町、穴水町、能登町)で構成する能登地域GIAHS 推進協議会が申請。平成25(2013)年5月、協議会に宝達志水町が加入し、4市5町で構成。

図3-1-8 世界農業遺産の認定式(石川県七尾市) 図3-1-8 世界農業遺産の認定 お茶の生産と結び付いた草地管理により、維持されてきた生物多様性、茶草を利用した文化の継承(静岡県掛川地域) 図3-1-8 世界農業遺産の認定 カルデラ周辺の草原を利用した持続的農業により、二次的自然の維持と生物多様性・景観を保全する取組(熊本県阿蘇地域) 図3-1-8 世界農業遺産の認定 豊かな農林産物・生態系をもたらすクヌギ林とため池による循環型農林業と豊かな農村文化の継承(大分県国東半島宇佐地域)



 ご意見・ご感想について

農林水産省では、皆さまにとってより一層わかりやすい白書の作成を目指しています。

白書をお読みいただいた皆さまのご意見・ご感想をお聞かせください。

送信フォームはこちら


お問合せ先

大臣官房広報評価課情報分析室
代表:03-3502-8111(内線3260)
ダイヤルイン:03-3501-3883
FAX:03-6744-1526