第3節 地域資源の積極的な活用
農村地域の活性化を図るためには、農村地域の豊かな地域資源を活用した新たな価値の創出や農業関連産業の導入等を通じて、地域全体の雇用の確保と所得の向上を図ることが重要です。
以下では、再生可能エネルギー等の地域資源の積極的な活用を通じた雇用や所得の向上等、農村地域の活性化に向けた取組について記述します。
(再生可能エネルギーの現状)
我が国の総発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合は、平成26(2014)年度の時点で12.2%となっています。
第四次エネルギー基本計画(*1)を踏まえて平成27(2015)年7月に策定された長期エネルギー需給見通し(*2)では、平成42(2030)年度に総発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を22%から24%程度まで高めることが示されたところです。
国土の大部分を占める農山漁村は、森林資源等のバイオマス(*3)、水、土地等の資源が豊富に存在し、再生可能エネルギー源として高いポテンシャルを有しています。一方で、農山漁村はエネルギーの地域外への依存度が高い状況にあり、再生可能エネルギー源を地域主導で活用することで、農山漁村に新たな価値を創出し、地域内経済の循環を図るとともに、そこで発生する利益を農林漁業の発展につなげることにより、農山漁村の活性化を図ることが重要です。
事例:農家自らが取り組んだ市民ファンドによる太陽光発電
香川県高松市(たかまつし)で農業を営む伊藤伸一(いとう のぶいち)さんは、農家個人として太陽光を活用して発電を行う、うさんこやま電力合同会社を設立し、平成27(2015)年2月に発電出力273kW、年間発電電力量32万kWhで運転を開始しました。
事業開始に当たっては、ため池隣接地への太陽光パネル設置等に約9千万円の建設費が必要となりましたが、そのうち約3千万円を一般市民からのファンドにより調達しました。この市民ファンドへの配当の一部は、地域で生産された無農薬栽培小麦等の農産物や黒にんにく等農産加工品により行われ、また、うどん打ち体験ツアーも配当として提供されているなど、太陽光発電事業を中心とした地域農業の活性化にも結び付いています。
(小水力発電)
水力発電には、太陽光発電や風力発電と比較して、天候による発電量の変動が少ないという利点があります。特に農業用ダムや農業用水路等の落差等には多くの水力エネルギーが存在していることから、これら農業水利施設(*1)と一体的に小水力発電施設の整備を図ることで、そのエネルギーを有効に活用することが可能となります。
平成27(2015)年5月現在、農業農村整備事業等により45地区で小水力発電施設が整備され、出力合計約2.6万kW、年間約1億2,700万kWhの発電が可能となっています(図3-3-1)。また、81地区において小水力発電施設が計画・建設中であり、農業水利施設の維持管理費の軽減を通じた農業生産コストの削減や農業者の所得向上等につながる取組を推進しています。
事例:小水力発電等による農業生産コスト削減への取組
栃木県那須塩原市(なすしおばらし)の那須野ヶ原(なすのがはら)土地改良区連合は、農業水利施設の落差工を始めとした未利用エネルギーの有効活用により、農業水利施設の維持管理費の軽減や地球温暖化防止に貢献する取組を行っています。同土地改良区連合では、平成4(1992)年に第1号となる小水力発電施設(那須野ヶ原発電所)を整備して以降、順次整備を進め、現在は太陽光発電施設を含む合計9基(発電出力計1,900kW)を稼働させており、年間910万kWhの発電が可能となっています。
これらの電気を、同土地改良区連合が管理する農業水利施設へ供給等することで、施設の維持管理費が大幅に軽減され、農業生産コストの削減につながっています。
(太陽光発電)
太陽光発電施設は、平成27(2015)年5月現在、農業農村整備事業等により全国83地区で整備が進んでおり、主に農地法面(のりめん)や農業用施設の屋根等に太陽光パネルを設置するなどし、農業用施設等の電力として利用されています。また、営農を継続しながら農地に支柱を立てて、上部空間に太陽光パネル等を設置する発電設備等の技術開発やその実用化も進んでいます。このようなケースでは周辺農地における営農や農業水利施設の機能等に支障がないように配慮し、パネル下部の農地における継続的な農業生産を可能とすることで、農家の所得向上につなげるべく活用することが重要です。
(農山漁村再生可能エネルギー法活用の動き)
地域資源の有効活用を進める一方、食料供給や国土保全等の農山漁村が持つ多面的機能の発揮に支障を来すことのないよう、農林地等の利用調整を適切に行うとともに、再生可能エネルギーの導入と併せて地域の農林漁業の健全な発展に資する取組を促進することも重要です。このため、農林水産省では、平成26(2014)年に施行された農山漁村再生可能エネルギー法(*1)に基づき、地域が主体となって協議会を設立し、農山漁村の健全な発展と調和のとれた形での再生可能エネルギー発電の導入を図る取組を促進しています。平成27(2015)年12月時点で、12市町村が同法に基づく基本計画を作成して取り組んでいます。
事例:再生可能エネルギーを活用した戦略的な地域づくり
同町は人口減少とともに高齢化が進み、耕作放棄地(*)も増加していることから、優良農地を確保して農産物生産を維持しつつ、未利用地、耕作放棄地の有効活用を模索していました。そのような中、再生可能エネルギーの導入に向け、発電事業者や資金調達の専門家参加のもとで協議会を設置し、事業性等を評価した上で、平成27(2015)年に町と風力発電会社との共同出資で、特別目的会社「よこはま風力発電株式会社」を設立しました。今後、町内に発電出力2.3MWの風力発電設備を計14基設置し、平成30(2018)年から発電を開始する予定です。
(再生可能エネルギーの地産地消)
地域資源から生み出された再生可能エネルギーの電力や併せて発生する熱を、地域内の農林漁業施設等で活用する「再生可能エネルギーの地産地消」を進め、農林漁業のコスト削減や地域の活性化を図ることが重要です。平成28(2016)年度からの電力小売全面自由化の機会を捉え、地域の関係者が主体となって意思決定を行う小売電気事業の取組を促すための支援を行います(図3-3-2)。

(バイオマス産業を軸とする地域活性化の動き)
バイオマスは、木質、家畜排せつ物、食品廃棄物、下水汚泥等の動植物に由来する有機性資源で、発電、熱、燃料、素材等幅広い用途に活用できる、地域に密着した身近な資源です。また、大気中の二酸化炭素を増加させないカーボンニュートラル(*1)と呼ばれる特性により、その活用は地球温暖化対策に有効であるとともに、天候に左右される太陽光、風力に比べて安定的なエネルギー源とされています。農林水産省、経済産業省、環境省では農林漁業に由来するバイオマスを活用して持続可能な事業を創出し、ここから生み出された経済的価値を農業振興や地域活性化につなげる活動を推進(*2)しています。また関係7府省(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)は地域の特色をいかしたバイオマス産業を軸とする環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指すバイオマス産業都市の構築を推進しており、平成27(2015)年度までに34地域(52市町村)がバイオマス産業都市に選定されています(図3-3-3)。また、平成25(2013)年度にバイオマス産業都市に選定された北海道別海町(べつかいちょう)では、酪農から供給される家畜排せつ物を原料とした国内最大規模のバイオガス発電施設が平成27(2015)年度に運転を開始するなど、地域の雇用創出や活性化につながる動きがあります。

事例:地域資源を活用したバイオガス発電施設
北海道別海町(べつかいちょう)は、乳牛約11万頭を飼育する日本有数の酪農地域です。
平成25(2013)年6月には、関係7府省によりバイオマス産業都市に選定され、平成27(2015)年度には、別海町(べつかいちょう)バイオマス産業都市構想の中核事業として、地域から供給される家畜排せつ物を原料としたバイオガス発電施設が完成しました。
この発電施設の計画発電量は年間約9,600MWhとしており、別海町(べつかいちょう)全6,360世帯の電力消費量の44.2%に相当し、家畜排せつ物を原料としたバイオガス発電施設としては国内最大規模の施設となっています。
さらには、発酵過程において副産物として発生する消化液や敷料を地域の酪農家へ販売し地域酪農経営に寄与することとしています。
別海町(べつかいちょう)は、引き続き発電事業者と協力して地域雇用の創出や地域活性化を図り、別海町バイオマス産業都市構想の実現を目指しています。
(地域の農産物等を活かした新たな価値の創出)
農業の振興や農村の活性化を図るためには、地域の農業者が自ら生産した農産物をそのまま出荷するだけではなく、その副産物を含め、消費者や実需者のニーズに対応した加工、直売等を行い、高付加価値化を図るほか、地域の特性に応じて、観光農園、農家レストランや農家民宿等の多様な取組と融合した事業展開を図るなど、地域資源を最大限活用し、農業を起点として新たな価値を創出する6次産業化(*1)を推進する必要があります。
農林水産省では、これら6次産業化に向けた取組を推進しており、例えば、自ら生産した農産物や地域の食材を調理し、地域ならではの料理を提供することにより、農産物の高付加価値化や地域文化の提唱等が行える農家レストランの年間販売額は、平成25(2013)年度で約310億円となり、前年度に比べて38億円増加しています(図3-3-4)。
(農村への農業関連産業の導入等による活性化)
農村の活性化を図るためには、農村地域の住民が引き続き農村地域において生活をしていくための所得を確保するとともに、農村地域に人を呼び込む観点から、農村において就業機会を創出していくことも重要です。
農村地域において就業機会を創出するための制度として、農業構造改革と工業等の導入を一体的に推進することを目的とする農工法(*1)が制定されています。平成26(2014)年3月時点で約9千社が操業し、約62万人が雇用されているとともに、市町村からも企業誘致による雇用機会の増大等が評価されるなど、農村地域における就業機会の創出に一定の効果があるところです(図3-3-5)。一方で、整備された工場用地の中には、企業の撤退等により活用されていない用地(遊休工場用地(*2))も存在しています。このため、地方創生の一環として、平成27(2015)年8月には地域再生法の改正が行われ、遊休工場用地の有効活用を促進するための措置が講じられたところです。また、有識者からなる「農村における就業機会の拡大に関する検討会」を農林水産省に設置し、幅広い視点から就業機会の拡大に向けた総合的な施策の検討を進めています。
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