第5節 都市農業の振興
我が国の都市農業(*1)は、新鮮な農産物の生産・供給、防災空間の確保、良好な景観の形成、国土・環境の保全、農業体験の場の提供等、多様な機能を発揮しています。
以下では、都市農業が有する多様な役割や都市農地の状況、都市農業の持続的な発展について記述します。
(都市農業が有する多様な役割)
都市農業は、消費地に近い利点をいかし、直売所等を通じて消費者へ新鮮な農産物を供給しているほか、農業体験・交流活動の場の提供、都市住民の農業への理解の醸成等、多様な役割を果たしています(図3-5-1)。

市街化区域(*1)に農地のある市町村は、これら都市農業の多様な機能について農業体験・交流活動の場の提供や地産地消(*2)による新鮮で安全な食料の供給といった機能に大きな期待を寄せています(図3-5-2)。
また、都市住民を対象に行ったアンケート調査でも、都市農地の保全を求める意見が8割弱を占めています(図3-5-3)。このような中、都市農地の保全や都市農業の安定的な継続を図るとともに、良好な都市環境の形成に資することを目的として、平成27(2015)年4月に都市農業振興基本法(以下「基本法」という。)が施行されました(図3-5-4)。この基本法においては、都市農業の振興に関する基本理念として、「都市農業の多様な機能の適切かつ十分な発揮と都市農地の有効な活用及び適正な保全が図られるべきこと」、「良好な市街地形成における農との共存に資するよう都市農業の振興が図られるべきこと」、「国民の理解の下に施策の推進が図られるべきこと」を明らかにするとともに、必要な施策推進が図られるよう、都市農業振興基本計画の策定が義務化されています。現在、農産物供給機能の向上、防災機能の発揮、的確な土地利用計画策定等のための施策や税制上の措置など基本的施策の具体的な検討が進められています。

(都市農地の状況)
現在の都市農地の状況についてみると、市街化区域内の農地面積は、我が国の農地総面積の約2%にあたる約8万haです(図3-5-5)。都市農地は宅地等への転用需要が大きく、農地面積は一貫して減少しているものの、生産緑地地区(*1)の農地については、おおむね一定の面積が維持されています。また、市民農園の数は、土に触れ、野菜や草花を育ててみたいという都市住民の需要の高まりを受け、都市的地域(*2)を中心に年々増加しており、近年は農業者の指導付き農業体験農園や高齢者の生きがいづくり・健康づくりの場等、利用者のニーズを踏まえた多様な農園が誕生しています(図3-5-6)。
また、都市農地は災害発生時の避難場所や火災の延焼防止等の防災機能を発揮する貴重な空間にもなっています。このことから、農家や農業協同組合、地方公共団体の間で都市農地を防災協力農地として位置付ける協定の締結が進められており、平成27(2015)年3月現在、三大都市圏特定市の7都府県56地方公共団体において、農地を緊急時に避難場所として利用すること、災害復旧用の資材の置場等として利用すること等を内容とした協定が結ばれています。
都市部でも進行しつつある人口減少や高齢化に伴い、都市の開発需要も減少することが見込まれます。このような状況の下、農業が多様な機能を発揮し、宅地と農地が共生するまちづくりを推進することが重要となっています。
事例:都市農業の多様な役割
(1)都市近郊の若手農業者グループの活動
神奈川県横須賀市(よこすかし)の20歳代の地域農業の後継者6人は、平成24(2012)年11月に農業者グループ若耕人’s(わこうず)を結成しました。地域特産のキャベツ等を生産する傍ら、生産地と消費地が近い都市農業の利点をいかし、消費者と積極的に交流を行い、農作物を地域の農産物直売所や飲食店等に出荷しています。地域では、顔がみえる若耕人’sが生産した野菜を指名買いする消費者や、「若耕人’sの野菜を使ったメニュー」として販売する飲食店が生まれており、生産者、消費者いずれにもメリットが生じる関係を構築しています。ブログやSNS(*)等を積極的に活用して、若手農業者の視点から情報発信を行う、都市近郊の若手農業者グループとして注目されています。
(2)都市部の小学校の農業体験学習
東京都練馬区(ねりまく)の小学校では、身近に存在する都市農地や農業に関心を持つことを目的として、3年生と5年生の児童を対象に農業体験学習を実施しています。
この体験学習では、児童が小学校近くの農地を訪問し、農家から農地の役割や農作業の説明を受け、実際に栽培されているだいこんを収穫するなどし、都市農地・農業への理解を深めています。また、収穫された野菜がどのように販売されているかなど、直売所やスーパーを訪問して学習しています。児童からは、「近くの畑で収穫された直後の野菜は新鮮である」、「町並みに溶け込んだ都市農地が地域の景観を作り出していることに改めて気づいた」等の感想がありました。
同様に東京都足立区(あだちく)の小学校では、学校給食に伝統野菜であるこまつなを提供する生産農家で農業体験学習を実施するなど、都市農地の果たす役割が身近に感じられる事例として注目されています。
(3)農業者が指導する農業体験農園
大阪府大阪市(おおさかし)にあるニコニコ農園は、一般の区画貸しの市民農園と異なり、農業者からの営農指導付きの農業体験農園です。
平成26(2014)年度に全30区画を開設し、現在は24区画で30歳から69歳までの利用者が家族や友人と農作業を体験しているほか、隣接する保育園の園児の農作業体験の場としても活用されています。同農園では、一般的な品種に加えて田辺大根や天王寺蕪(てんのうじかぶら)等の伝統野菜の作付けや、農業者からの専門的な栽培技術指導の実施に加えて、休憩施設やトイレ等附帯施設の整備も行ったことから、利用者からはおおむね高い評価を受けています。
新規利用者の中には安全・安心な農産物を食べたいとの思いから「有機栽培で作付けしたい」との希望もありますが、指導側の農業者としては、まずは一般的な栽培方法で農業を体験し、化学肥料や農薬の使い方、作物への影響を知ってもらうことで、農業への理解が一層深まることにつながると考えています。
都市農地における体験農園は、農業者と利用者及び利用者相互のコミュニケーションを図りながら作業を進める点において、一般の市民農園と異なっており、農作業の大変さや収穫の喜びを通じて農業への理解の醸成につながっています。
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