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農林水産省

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その2:食料自給率って低いと良くないの?

1.はじめに

前回は食料自給率や食生活の変化などのお話をしました。今回は、日本の自給率について、他の国と比べてどうなのか、低いとどうなのか、上げるためには何ができるのかなどを紹介していきたいと思います。

2.諸外国の食料自給率

先進国の食料自給率をご紹介すると、カロリーベースで100%を超えているのは、カナダ255%、オーストラリア233%、アメリカ131%などです(下図参照)。これらの国は国土面積が圧倒的に広く、広大な農地で小麦や大豆などを大規模に生産できます。そのため、自国で消費する以上の農産物を生産して外国に輸出しています。更に、とうもろこしなどの飼料も大量に生産できるので、牛・豚などの家畜もたくさん生産でき、これらも輸出しています。前回ご説明したとおり、食料自給率とは「国内に供給した食料のうち国内で生産した割合」です。国内生産には輸出した分も含まれるので、たくさん作って輸出すれば100%を超えます。

我が国と諸外国の食料自給率

ヨーロッパに目を向けると、フランス130%、ドイツ95%、イギリス68%、イタリア59%となっています。ヨーロッパでは、昔から小麦(パン・パスタ)や畜産物(肉・乳製品)を食べてきて、現在の食生活も大きく変わっていません。比較的乾燥した気候の中、山脈もありますが概ね平坦な国土であり、基本的には昔から食べてきている穀物や畜産物を自国で生産できるので、食料自給率は比較的高い傾向にあります。

3. 低いと良くないの?

このように、主な先進国の食料自給率は比較的高い中で、日本は38%(令和元年度、カロリーベース)と低くて大丈夫なのか?といった意見を良く聞きます。また、そもそも石油など国内で生産できないものは輸入するしかないし、輸入品の方が安いし、日本は経済的に豊かなのだから外国から買えば良いのでは?という考え方もあります。自給率が低いと何が問題なのでしょうか?

(1) 食料の特殊性

現在、私たち人間が生活する上で必要な物はいろいろあります。水や食べ物はもちろん、着るもの、住むところ、車などの移動手段、携帯電話やパソコンなどの通信手段、その他にも本やテレビなどあげだしたらきりがありません。この中で、生きていく上で本当に必要なものはどれだけあるでしょうか?
衣食住という言葉がありますが、衣類と住居は持っていれば何年も(何十年も)使い続けられます。でも、食料だけは毎日新しいものを入手して食べていかなければなりません。我々人間が必要な物のうち食料だけはすこし特別なものとして考えるべきではないでしょうか。

(2) 輸入のリスク


自給率が38%ということは62%の食料(カロリー)を海外からの輸入に頼っているということになります。現在は安定的に輸入が出来ていますが、未来永劫大丈夫だと言い切れるでしょうか?

食料の生産は農地や水、太陽の光などの自然環境を利用します。そのため、天災や異常気象により不安定になることがあり、過去には日本でも飢饉と呼ばれる不作による飢餓が何度も起きました。最近でも、干ばつや異常気象などにより輸出国の穀物生産量が減少し、国際価格が高騰したことがあります。

そうした場合、日本にはどのような影響があるのでしょう。輸入するときの価格が高くなれば商品価格が高くなりますし、生産量が大幅に減少した場合は、輸入できなくなる可能性もあります。また、国によっては国内への供給を優先し輸出を禁じる措置を実施した取った国もあり、もし日本が輸入している国で禁輸措置が取られれば大変困ることになります。このような輸入のリスクは干ばつや異常気象に限らず、自然災害や家畜疾病の流行、輸出国の政情不安、感染症の流行など様々なことが想定されます。

(3) 世界的な食料需要の増加

世界の人口は1970年には約37億人でしたが、現在は77億人と倍以上に増加しています。食料需要の増加に合わせて食料生産も増やしてきましたが、世界中の農地面積はあまり増えていません。食料生産が増えた理由は、農業技術の発達に伴って単収(単位面積当たりの収穫量)が増加したことにより、増加する食料需要を何とか賄ってきたことにあります。将来、2050年には100億人を超えるという試算もある中で、今後も単収が増え続けていく確証はありません。

また、国が経済的に発展すると(日本もそうであったように)、穀物中心の食生活からお肉を食べるようになります。お肉を生産するためには家畜に与える飼料が必要です。実は、穀物をそのまま食べるよりも、家畜に与えてお肉にしたほうがより多くの穀物が必要になります。ある試算では、お肉を1kg生産するのに、牛肉で11倍、豚肉で6倍、鶏肉で4倍の量の穀物が必要になります。これを踏まえると、途上国の経済発展に伴い、今後必要となる穀物はさらに増えていくことが予想されます。

(4) 食料の安定供給

このように、世界の食料事情は不安定な要素があるため、将来にわたって需要を満たすだけの生産ができる確証はありません。このことは、我が国が確実に輸入し続けられる保証が無いということにもなります。
日本人が食べる食料を、将来にわたって確保していくためにはどうしたらよいのでしょうか? これは、国家が存続していく上で、最も重要なテーマになります。

国では、国民への食料の安定供給は国家の最も基本的な責務と考えており、食料・農業・農村基本法という法律でその考え方が示されています。

食料・農業・農村基本法

簡単に言うと「食料はいつでも輸入できるとは限らないから、出来るだけ国内で作るようにしながら、輸入と、いざというときのための備蓄とセットで考える」ということです。国内で消費する食料は、出来るだけ国内で作るようにする、その指標が食料自給率ということになります。

(5) 不測時の食料安全保障

では、輸入がストップするなどいざという場合になったらどうするのでしょうか?その場合にどう対応すべきかの指針があり、深刻度に応じて国家備蓄(米・小麦)の放出、価格や流通の安定のための買い占め防止等の措置、米・大豆・いもなど熱量効率が高い作物への生産転換など、ありとあらゆる対応を行うことになります。戦時中のように、とにかく国内で作れるだけ作るしかないという場合に備えるためにも日頃から食料自給率を上げ、農地、生産する人、施設などの生産基盤を確保・維持しておくことが重要になります。
これらの対応を「不測時の食料安全保障」といいますが、詳しくは今後の連載の中でご紹介したいと思います。

4. 食料自給率向上に向けた取組み

(1) 関係者の取組み

食料自給率を上げるためには、生産者、食品加工事業者、食品販売者、消費者など食料に関係する全ての人たちがみんなで取り組むことが必要になります。そのため、国では関係者が取り組むべき内容を定めた「基本計画」を作成し、食料自給率の目標を立てています。

食料自給率の目標

この目標の達成に向け、農林水産省では以下のような様々な支援をしています。

  • 需要が減少する米から自給率が低い麦や大豆等へ生産を転換するための支援
  • 品目毎に、将来にわたって農業が続けていけるための支援
  • 効率的・省コストで生産するための新しい技術の導入支援
  • 生産基盤である農地や担い手を確保していくための支援
  • 輸出の拡大にむけ、海外で日本の農産物をPRするための支援 等々

更に、これらの取組みがうまくつながっていくためには、「日本の生産者が美味しいものを生産」し、「消費者が国産品を選択」し、それに対応して「生産者が美味しいものを生産する」という循環が上手く機能することが重要です。
このためには、消費者の皆さんに食の重要性を再認識して頂くとともに、日本の食や農林漁業に対する理解を深めたり、触れる機会を増やしたりすることも重要だと考えます。農林水産省では今年度から官民共同の新たな国民運動を展開する予定ですので、改めて詳しくご紹介したいと思います。

(2) 一人ひとりが出来ること

食料自給率の向上に向けて、私たち一人ひとりができることは何でしょうか。 まずは食に関心を持つことが一番大事だと思います。例えば、今が旬の食べ物はなんだろう、この食材の産地はどこだろう、どうやって調理するのが美味しいのかな、国産と輸入とで味を比べてみよう、などなんでもよいと思います。
そして、スーパーや外食店で選ぶとき何か新しいもの試して頂けたら、それだけ新しい発見があると思います。食卓を囲む誰かと食べもののことを話してみると、それがきっかけで見方が変わるかもしれません。

5. おわりに

世界の食料事情から食卓の話までいろいろありましたが、食料自給率への理解を深めるのに少しでもお役に立てたでしょうか?食料自給率をめぐる事情については、お米・お肉・野菜など品目ごとにも様々なトピックがあるので今後の連載で少しずつご紹介できたらと思います。次回はまず、お米のお話をさせていただく予定です。

お問合せ先

大臣官房政策課食料安全保障室
ダイヤルイン:03-6744-0487
FAX:03-6744-2396