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近畿農政局

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平成30年度「食育セミナー」概要

  平成30年6月29日(金曜日)に、コープイン京都(京都市)において、平成30年度「食育セミナー」を開催しました。
  このセミナーは、農から食を考え、食や食にかかわる人々の様々な活動への感謝の念や農林水産業への理解を深めることを目的に開催し、89名の方にご参加いただきました。


  以下にセミナーの概要をご紹介します。

基  調  講  演
   新潟県上越市立飯小学校  教諭  舘岡  真一  氏

活動事例報告
  NPO法人 花と緑のネットワークとよなか  理事長  高島  邦子  氏

  ピースフードジャパン  代表  宮谷  有希子  氏

  にしき恋   神戸大学生  作田  幹樹  氏

活動事例報告の講評
   コメンティーター  新潟県上越市立飯小学校  教諭  舘岡  真一  氏
  

基  調  講  演

上越市立飯小学校  教諭  舘岡  真一  氏

「『いただきます』から『ごちそうさま』まで、食べるでつながる自分を見つめる」

前半は「いただきます」、後半は「ごちそうさま」の実践についてお話しする。
15年前、給食の残食を減らせないかと、学校で豚を養豚業者から借り受けて飼育して出荷する取組をしたところ、養豚業者の方から自分たちで食べませんかと提案を受けた。当初の計画と違ったため、私たちも驚き、話し合いをしたが、子供たちは食べられないと言い、保護者からもそこまで考えさせるのは残酷ではないのかと批判の声をいただいた。ところが、ある子が「僕たちの努力を何も知らない人が食べれば、おなかいっぱいだといえば捨てるだろう。そんなことなら、僕が食べてあげたい。」と言った。この意見から子供たちの話し合いは大きく変わった。食べることが大切なのではなく、食べることの意味を考えることが大切だと話した。8割の子供が食べることになった。食べるかどうかは各自で判断して、冬休み中に各家庭で食べるということにした。
肉を食べた子の感想で、「肉を食べるのは勇気がいった」、「一切れだけ食べた」というのがあり、一切れしか食べてないのにどうしておいしいと言うのかを聞くと、おいしさには口で味わうおいしさと心で味わうおいしさの2つあるからと子供たちは結論づけた。しかし、食べることと命の繋がりを感じてくれたが、給食の残食は減らなかった。理由を聞くと、スーパーなどで売られているものは自分に関係ないから心で思うおいしさはないという。関係ないと言いきってしまうことは衝撃的で、子供たちの食べることへの意識を変えることの難しさを痛感した。
   舘岡先生の基調講演

2年後に、また5年生を受け持ち、今度は関係ないと言わせないぞという思いで、食べると言うことで自分はいろんなことに繋がっているんだと気付くような学習に取り組んだ。
苗作りからお米作りを始め、生産者の方には、苗踏みをして苗を強くすることを「しつけ」として、「根っこの強い丈夫な苗を育てるんだよ」と子供たちに米の一生を人間の一生のようにわかりやすく教えてもらった。神社の春祭りは、豊作を祈願したり、地域の人たちが仲よくするためにするものだということがわかって、自分たちもダンボールで神輿を作って参加し、お茶とお菓子で酒盛りならぬ茶盛りをして、稲作は一人ではなく地域みんなで力をあわせてやる、草刈りもみんなでやることを学んだ。用水はどこからくるのかを調べると10km以上離れた用水、さらにたどると40km離れたブナ林に行き着き、食べるということは人と地域と自然に繋がっていることを学んだ。
こうして初めて自分で作ったお米を食べた子供は「いつもは一粒一粒を味わって食べていないけど、きょうやっと味わって食べてみました。」と、食べるではなく、味わうという言葉を使い始めた。
このお米を文化祭で販売しようということになり、私は売れ残ったら処分するという条件を出した。子供たちは「食べ物を粗末にしたくない。」と怒りをあらわにしたが、給食の残食の写真を見せると、自分も捨てていたことに気づき、自分の育てたものが捨てられるというのがどういうことかを理解した。
売れ残りをなくすために、パンフレットを作って500人に配り、お客さんを確保しようということになった。ところが配りにいくと、米を作っている農家では米はたくさんあるから行かないよと断られてしまうこともあった。地域の皆さんのおかげで、商売として人様からお金をいただくことの大変さを子供たちは感じとることができた。
また、おにぎりの値段を決める話し合いでは、調べた玄米の値段から算出すると1コ約10円になり、「農家の米の値段より初心者の私たちの値段が高いのはいけないから10円」と言う意見と、「特別栽培米と同じで、すべて手作業でしているので40円」という意見で半分に分かれたため、お客様に値段を決めていただくことにした。文化祭では、パンフレットを配った方々が来て、どうして値段を決められないのかを書いた資料を読んでくださり、500食が完売した。「また、食べてみたい」「よくがんばったね」とお客様に言ってもらい、感想では、子供たちは誰も値段のことは言わず、自分たちの作った物が皆様に喜んでもらえることに価値があることを感じていた。
しかし、給食の残量は減らなかった。理由は給食のお米は特徴のない普通の米だからと言う。そこで、給食のお米を作ってくださる生産者に来ていただいた。給食のお米は、生産者の方がコシヒカリをふるさとの味として食べてほしいと寄贈してくれていた物であることを知り、翌日から給食のご飯は全く残らなくなった。それでも、おかずは残るので理由を聞くと「おかずは誰が作ったか知らないから」との返事だった。
このときも、前回と同じように出荷用の豚を育てて、肉を食べるかどうかは各自で判断することにしていた。豚を出荷する日、キーキーと泣き叫んで出荷されていく豚を見てショックを受け、涙を流す子供たち。翌日から給食の残食は無くなった。食べた子の感想は
「お肉を手に取ったとき、私は、うれしい気持ちと悲しい気持ちがまざり合っているような気持ちになりました。「豚さんごめんね」と心に中で何回も言っていました。日曜日はトンカツにして食べました。なぜか焼き肉にしたときよりも悲しさがありました。何でこんなに悲しい気持ちがあふれて来るんだろうと思いました。
「豚さんありがたくいただくね。」と心の中で言ってから食べました。一口食べた瞬間、肉汁がたくさん出てきました。そのときいきなり悲しくなってきました。おいしいという言葉は使ったけれど、悲しい気持ちは表には出ませんでした。一生 忘れられないことになりました。(一部抜粋)」この子たちは卒業するまで2年間、給食の残食はなかった。
ある日の学校給食の残飯は550名で1日4kg、一人あたりでは約8gだが、自分たちが半年かけて育てたお米をご飯にした一人あたりの量と同じで、子供たちは少ない量ではないと感じていた。
これが「いただきます」のためにどんなことが行われているのかを学んだ実践である。

昨年は、ごちそうとは何なのか、食材を生産地に行って生産者の方から買うことで由来を知って、自然教室、文化祭、親子活動でごちそうを作って食べて考える学習をした。何を作るかプレゼンをして上位になれば実際に食べることができることにした。
自然教室では、生産者のところでジャガイモ、玉葱を収穫し、カレーを作って食べた。
翌日は竹を切り、流しそうめんをした。流しそうめんを一緒に食べた生産者の方から、地域の人たちが自然環境を生かし、助け合って安全な作物を作っていることを学んだ。
振り返りの授業で、自分にとってごちそうって何かと聞くと、地域の人たちと一緒に食べたから流しそうめんがごちそうと言う子供がいた。子供たちはごちそうとは自分がおいしいと言うのではなく誰かがおいいしいと言ってくれる物ではないかと考え始めた。
10月の文化祭では、地域の人をおもてなしするということで、65人を海彦チームと山彦チームに分けて地域のごちそうを探しに行った。海彦は漁村でカマスの干物とメギスのつみれ汁、山彦は山村できのこ汁と焼きおにぎりの作り方を教えていただいた。
文化祭では、大勢の地域の方にきていただき、学んだ料理を振る舞った。とてもおいしかったと言って貰っておもてなしをしたはずなのに自分が温かい気持ちになったり、おじいちゃんとおばあちゃんに座って貰うために立って食べているお客様の姿を見たりして、子供たちは、ごちそうは作る人と食べる人が互いに協力しあって初めてできると考えた。
1月の親子活動では、6年生の節目の年を自分たちでおせちを作り、お世話になった方を招いてお祝いした。
食材のレンコンは、生産者が氷が張っているところに入って手探りで取る。「寒くないですか」との子供たちの質問に「楽しいよ。お金になるとうれしいから」という返事。ついつい教育だとお金のことをタブー視するが、子供たちは農業がお金になると言うこともこういう方々から教わっていく。伊達巻きを作ろうということで平飼いで飼っている養鶏場に行くと、「鶏にも人間と同じものを食べさせている、ゲージで飼っていると1年で足が弱って立てなくなるけど、うちの鶏は3年は元気」と教えてくれた。黒豆では会社経営している若手の社長さんの所に行き「最初は農業には就きたくなかった。でも今はお客様のおいしいの声が俺の励みになって、とても楽しくやっている」と言う話を聞いた。社会科の教科書だけで農業を学んでいると若干、暗い感じで終わる。課題山積みだが、自分たちの身近なところで、こんな若い方が農業を頑張っている、そして経営として成り立っていることを新潟に生きていく子供たちに知って貰いたいと思う。
また、お米を食べるだけでなく農業を文化として残したいと、稲わらを取っておいて、どんと焼きも体験した。

この体験が子供たちのどんな学びに繋がったかということで、昨年の「宮沢賢治さんは幸せだったか」という授業を紹介する。
「賢治の元に教え子が訪ねてきた。賢治は、井戸水につるしておいた冷ご飯とお味噌汁、たくあんの昼食を一緒に食べた。」という文を読んだ子供たちは、最初「かわいそう」「こんな料理出されたら引く」と言う意見だった。でも、ある子が「これは、賢治さんができた精一杯のご飯だった。だったら、それはごちそうじゃないの。だって、文化祭で食べて貰ったカマスとかだって豪華な食事では無いけれど、お客さんたちはあんなに喜んでくれた。だから、これを食べた教え子さんも嫌な気持ちにはならなかったんじゃないの」と言った。
人の幸せは外見で判断するものではないということを子供たち一人一人が考えた。
最後に「今年食べたあなたにとってのごちそうは何」というテーマの作文を紹介する
「私は総合学習の最初、揚げパンやハンバーガーがごちそうだと思っていた。理由は自分がおいしいと思うものだから。自然学習で流しそうめんをした。地域の物でできた食事、地域の人と私たちが笑顔になれた大切な時間。流しそうめんを食べて、自分や家族だけではなく、地域の人たちもおいしいと思ってくれる食事がごちそうではないかと思った。文化祭では自分たちで食材を集めて作った料理を食べていただいた。それを食べた人が言ってくれる優しい言葉。ごちそうかどうかをきめるのは食べる側の人なんだということを、私は文化祭で学んだ。冬休みには、ペットボトルで育ててきたお米を家族で食べた。大切な家族がおいしいと笑顔で言ってくれることがとてもうれしかった。1年間を通して、ごちそうとは、作る側の思いが相手に伝わり相手が幸せに思うこと、それが自分にとっての幸せ。お互いの幸せがあることがごちそうだと考えている。(一部抜粋)」
地域の皆さんのおかげでこのような学びをさせていただいた。

活動事例報告

NPO法人 花と緑のネットワークとよなか  理事長  高島  邦子  氏

「給食のリサイクルたい肥でつなぐ食育」

花と緑のネットワークとよなかは、平成11年に生ゴミ堆肥化実験プロジェクトとして始まった。実験の成功とともに人の繋がりや人の環が広がり、事業化の提案をすることになり、提案を受けて平成14年に市が学校給食センター(市内39校)から排出される生ゴミと豊中市内の街路樹の剪定枝を混合・発酵熟成させたリサイクル堆肥(愛称とよっぴー)の製造を始めた。平成15年にとよっぴーの配付活動等を担うため、NPO法人化して花と緑のネットワークとよなかに名称変更し、現在は製造から袋詰め・配布・有料頒布まで行っている。
平成17年からは、子どもたちの食べ残しを減らすためには作物を作って土にふれることこそ、野菜に興味を持つ大事な活動だと農業体験なども行っている。堆肥化施設に隣接する用地をとよっぴー農園として活用し、一般公募による親子、児童や市民団体などを対象に野菜の植え付け、ミニ田んぼでお米づくりなどをしている。とよっぴ-フェスタでは1000株のさつまいも収穫、土曜日開催のファミリーファーム活動では採れたて野菜のもぐもぐ試食会や大量に同じ野菜がとれたときの漬け物講習、無農薬、無化学肥料の野菜づくり実践塾などでは毎回家庭から生ゴミを持ってきて貰ってぼかしで土に戻すなど、多様な活動を行っている。
  高島氏の発表
     

出前環境学習(米づくり学校)としては、給食の野菜を納入している農家と学校に出向き、主に5年生を対象に田植えからご飯を炊いて食べるまでの体験学習を実施。学校内の田んぼなので非常に狭いが、「1株でも田植え」ということで子供たちにとって一生に一度の経験をしてもらう。一連の経験をすると1粒のお米も大切にするようになる。
プロでは無いけれど小学校に出向き、食のリサイクルや米や農業の資源循環に関する出前環境授業もしている。子供たちに「お米の消費量」「食料自給率」など色々な質問をする。最近の集中豪雨など身近なことを話の中にいれて、とよっぴーの話や、食品ロスが日本は多いこと、食料が限りあるものであること等、どうしたら食料も含めた環境問題を自分のこととしてとらえてもらえるか、知恵をしぼってやっている。日本はいつでもどこでもお金さえあれば、食材だけで無く、今すぐ食べられるものがある。生まれたときから便利な環境に育っている子供たちに食べ物を大切にといってもすぐには伝わらない。農業に興味や関心を持ってもらうことで、日本の自給率向上にも繋がるのではないかと考えている。
3年前に野菜の皮や根っこにこそファイトケミカルなど栄養があるという内容の講演会を開催した時に、豊中市走井学校給食センターの方が来られていて、根菜類を皮付きで給食に使用していけるかを検討していくことになった。今は衛生面をクリアして、調理くずを減らすという発想ではなく、皮や根に栄養があるという発想で、皮付きの野菜を使っての給食調理を行っている。同センターは西日本一大きい巨大給食センターで、大きいことで課題もあるが、カット野菜も使わず、出汁もとっている。子供たちのためにやっていることを子供たちに伝えて行ければと思う。


ピースフードジャパン  代表  宮谷  有希子  氏

「命が輝くための食」

 

私は大阪市内で「自然食ラボ ピースフードキッチン」という自然食の料理教室を主宰している。一物全体身土不二ということで、皮をむかない、根っこを捨てない、できるだけ素材そのものの命を生かす調理法というのを伝えている。加工品に頼らない家庭料理を大切にしている。自分たちの食べているもの、毎日食卓に並ぶものがどこから来たのか、どこで、誰が、どのような思いで、ゼロからここに至るまでを作ってくださっているのか、ということを考え知ることは、消費者である自分もまた、その循環の中の一つであるということに気づくことであり、とても大切なことと考えている。そのために、私自身は生産者さんを知り、繋がることを大切にしている。  
もっとたくさんの方と土に触れる機会を作りたいと、農作業体験も活動の一環として実施しており、その中の一つとして、2014年から2015年にかけて実施した「大豆の一生プロジェクト」をご紹介させていただく。

   宮谷氏の発表

この取組は、奈良県大和郡山で自然農法の畑をされている生産者と、同じく奈良県で食育活動をされている歯科医師のご賛同をいただき、三者の共同プロジェクトとして行った。
土を耕し、畝を作り、1つの穴に3粒ずつ大豆を蒔くところから始まって、それが芽を出し、花が咲き、実をつけ、収穫、翌年2月の味噌づくりに至るまでの様々な工程を、10組の家族やグループの皆様と一緒に体験した。自然は自分の思うままにはならないことや、命が育まれて自分たちの食卓に並ぶ食べ物ができているということを体験を通して心で感じてもらいたいと1年を通した農業体験とし、次の命に繋いでいくということで、収穫した大豆を翌年に蒔いて、また大豆が収穫できたことも皆様に報告した。
活動は土日のいずれかに、大豆の成長をみながら、フェイスブックを使って参加者に随時連絡するという形で進めたが、天候や参加者の日程にあわせた枝豆収穫などは、実がまだ成長していなかったりもした。参加者からは「前もってスケジュールを教えてほしかった」という感想もあった。一方で「楽しいだけではなく、暑い中で草抜きなどをすることによって、お百姓さんの大変さがわかった」という声や「子どもが食事の前に『これはどこで育ったの?』と聞くようになった」などの嬉しい声もいただいた。スーパーに行けばたいていの物が当たり前に並んでいる。当たり前ではないこと、育つということ、実ができるということ、食べられるということに感謝の気持をもっていただけたらと思う。農作業で感じた土の手触り、風の匂い、収穫の喜びを子供たちが覚えていて、自分たちの子供の世代にも体験させてあげたいと思ってもらえたらと願っている。
私共の理念である「良い食を未来につなぐ」ことは私一人でできることではない。皆様方のそれぞれのお立場で、命の源である、土、水、大気、種のことに思いを寄せて、輝く命のために楽しく明るく元気よくご尽力いただきたい。2030年に今生まれる子がどんな社会で生きているのかを想像して、今私たちができることを考えることで未来は良くなる。そう考えて良いものを作る生産者のかたわらに寄り添う消費者でありたいと思う。


にしき恋   神戸大学生  作田  幹樹  氏

「農業ボランティアから食を考える」

 

地域密着型サークルにしき恋は、兵庫県篠山市西紀南地区で毎週末活動し、5年間で延べ5001人が参加している。2011年に7人からスタートし、現在200人を超えた大きなサークルになっており、大きく分けて農業ボランティアと地域交流の2つの活動をしている。
農業ボランティアは、単なる労働力としての協力ではなく、農家との会話を大切にする交流の場となっている。農家の知識や地域課題について、農家に直接お話を伺うことができたことで、私の食に関する考え方は大きく変わった。私は大阪で生まれ、農作業を見たことがなかった。農作業は簡単なことで野菜ごとに決まっている通りに作っており、機械化が進み手作業はなく、冬は来年の準備のみをしていると思っていた。実際は、農家によって育て方は少しずつ違い、毎年試行錯誤していることを知った。稲が倒れている時などは田んぼに機械が入れないので手刈りをしたり、冬は収穫した黒豆を運ぶ作業があり、家の中で来年の準備にいそしんでいるのではないことを知った。これは消費者には見えない世界だと思った。

   作田氏の発表
 農業ボランティアで生まれた農家との繋がりを生かして、にしき恋ファームと地域交流による料理教室で、私たちが生産者となり、直接消費者に見えない食を伝える活動をしている。
にしき恋ファームでは、耕作放棄地をお借りして、特産品である丹波黒大豆の播種、追肥、草刈り、収穫までの栽培をし、大学で学んだことを生かして農家に栽培方法を提案している。この提案で販売方式が変わった農家もあり、新しい栽培方法や販売方法を実践する学生の挑戦の場にもなっている。さらに、収穫した黒枝豆を宝塚や新大阪などのエキマルシェで、ブースの外装や黒枝豆のパッケージを学生が自ら作成して販売している。販売するまでの過程で、黒枝豆の選別を行うが、基準を満たさない駄豆が大量に発生することを知った。中には6割以上が駄豆の植物体もあり、こんなに多くの捨てられたり安く売られている物があることを知った。
また、菜園を借りて、地域の農家の知識をいただきながら、失敗の大変さ、成功の喜びを直に感じて野菜の栽培に取り組んでいる。収穫した野菜を使った小学生交流や料理教室を地域の人たちと行い、農家だけでなく、幅広い世代と親交を深めている。料理教室では、生産者である私たちが地域の方々と直接顔をあわせ、お互いが農業に対する理解を深め、地産地消のメリットを生かして規格外の旬の野菜を使った交流をすることができた。
私は、農業ボランティアや料理教室を経験する前は、食というと「できあがった料理」を思いついていた。食べ物ができるまでのストーリーを知ることができなかった。にしき恋の活動を通じて、普段見える食は目に見えない大量の作物の中のごく一部で作られていることを知った。広大な田畑の作物が全て目に見える食になるわけではないことを知った。このような食の全体が消費者に見えないのは、生産者が直接消費者に出会う機会が少ないことが原因だと思われる。
にしき恋の考える食は、ストーリー性をもつ作り手の思いがつまったもので、ストーリーを通して作り手の思いを伝えるために、他大学の農業系サークルと協力して、各団体が生産した野菜や商品を学生が売り手となって販売するマルマルシェという企画を計画した。生産者であり売り手の私たちが消費者と繋がることで、食の楽しさや大切さを感じて貰い、食をもっと知りたいということが、食を買う理由になったら素敵なことだと思う。 


活動事例報告の講評

コメンティーター : 上越市立飯小学校  教諭  舘岡  真一  氏

 

皆様の取組は、私が意識して取り組んだ実践と完全に共通していると感じた。
私は教師という立場で、高島様は一生活者として、宮谷様は活動団体の方として、作田さんは学生として、立場が違っても、自身が生産者と消費者の間にたって繋げると言うことがいかに大事かということを伝えている。

繋げることで一番大事なのは実際に会うということである。私は必ず事前に農家の方に会うが、農家の方は「俺なんてなんにも話せることはない」とたいてい言われる。しかし、「どうして合鴨で」「どうしてこの作物を」等聞いていくと心を動かされる話をしてくださり、今の話をぜひ子供たちにしてくださいと言うことになる。
山の学校で棚田の後継者不足の深刻さを伝えたいと生産者と会った時に、ある子供が、「後継者不足で作業が大変なのに、自分の作ったお米は日本一と仕事に誇りを持っているのがとってもかっこいいと思いました。」と言った。子供たちは生産者に会ったときに大人が意図していないところまで学んでくれる。

高島様のお話は「私はプロじゃないんだけれど、子供たちにお話させて貰っています。」というのが非常に印象深かった。農家の減少やご飯を食べるのが少なくなった事実を教師が話すのと生活者の方が経験を交えて話すのとでは子供たちの認識が全然違う。
子供は知識だけではなく気持ちとともに学ぶ。一緒に米作り体験をして、一株の稲に思いを寄せたときに、農家の減少が大きな問題であると気づく。このことで自分たちの米を食べる量が少ない食生活をなんとかすることが農家の減少に関わるんではないかと自分のことに繋がって見えてくる。
これからも、ぜひ生活者の目線やご自分の経験を踏まえた話を一人でも多くの子供たちに伝えていただきたい。

宮谷様の大豆の一生プロジェクトは、学校では時間が足りなく田植えと稲刈りのみになりがちな農業体験を、地域で種まきから味噌づくりまで取り組んでいることに感激した。これからの時代、子供たちの教育は学校の中だけでは収まらない。学校の中で足りないところでも、我々教師がこのような活動をしている方を知って繋げることができれば、もっと活動を深めることができるかもしれない。宮谷様は生産者、歯医者さんとともに活動をされているが、身の回りの農業体験等に興味を持っている方と繋がって活動を展開していくことは大切だと考える。
スライドの子供は、身を乗り出して逆立ちして豆をみている。「僕の大豆少ないんじゃないの?」と自分の物意識をもつからこそ大事にする気持ちが生まれる。大豆の命の始まりから味噌として自分の命になるまでの体験の後、残した豆が次の年の大豆に繋がっていく。繋がりの中で生きてきて繋げていくことを、こんな小さい子供も見事に体験することができるのだということを教えていただいた。

作田さんが言われた「食べ物にはストーリーがある。」ということこそ、私が子供たちに知ってほしかったこと。
にしき恋では、学生自身が一農家として、「いま食卓に上っている食は広大な畑や田んぼの一部なんだ」ということを実感されている。これは心には突き刺さる言葉で、私自身はここまで教えることができない。
にしき恋の活動は農業支援だけでなく、祭りなどにも取組んでおられ、その話をもっと聞きたいと思った。私は、祭りを6年生の総合学習のテーマにしていて、修学旅行では能登半島に行って、限界集落で体育館に置いてあったキリコ(巨大な燈籠)を担いだ。農家が減ることは文化そのものにも直接影響する。祭りが消えていく悲しさを体験した人たちは、食と農は単に食べ物の確保だけではないということがはっきりわかる。

一人一人がそれぞれの立場で生産者と消費者を繋ぐ。生産者に会い、生産者のストーリーを知ってる方が消費者に繋ぎ、それを子供たちに伝えることで、日本の食と農には明るい希望もたくさんあることを子供たちに伝えることが私たち大人の仕事と考える。

お問合せ先

消費・安全部消費生活課
担当者:食育班
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