抗菌剤耐性:動物由来の抗菌剤耐性菌が公衆衛生に及ぼす可能性のある影響に対するリスクアナリシスの方法論
Antimicrobial resistance: risk analysis methodology for the potential impact on public health of antimicrobial resistant bacteria of animal origin
Rev. sci. tech. Off. int. Epiz., 2001, 20(3), 811-827
D. Vose, J. Acar, F. Anthony, A. Franklin, R. Gupta, †T.?Nicholls, Y.?Tamura, S. Thompson, E.J. Threlfall, M. van Vuuren, D.G. White, H.C.?Wegener & M.L. Costarrica(所属は抗菌剤耐性:概論の付録Aを参照)
OIE抗菌剤特別専門家グループが作成したこのガイドラインは、まだOIE国際委員会の承認を受けていない。
要約
OIEが指名した抗菌剤耐性特別専門家グループは、抗菌剤耐性に関するリスクマネージメントの確実な根拠を提供する、客観的で、透明で、防御的なリスクアナリシスの手順を作り上げた。リスクアナリシスの構成要素とリスクアセスメントの可能な異なるアプローチ(定性的、半定量的および定量的)の構成要素を定義してある。この特別グループは以下を勧告している:科学的データに基づく独立したリスクアセスメント;反復するリスクアナリシスの手順;定量的アプローチを考える前に組織だって行われる定性的リスクアセスメント;リスクアセスメント政策の策定;および発展途上国に対する技術的支援の有用性である。
キーワード
抗菌剤耐性 - 耐性の抑制 - 食品 - ヒト医療 - 国際基準 - 公衆衛生 - リスクアナリシス - リスクアセスメント - リスクマネージメント - 獣医療
緒言
この文書は、ハザードの識別、リスクアセスメント、リスクマネージメントおよびリスクコミュニケーションから構成されるリスクアナリシスを、抗菌剤耐性に適用する場合のコンセプトを示す。これらの構成要素の相互関係を説明し、リスクアセッサーとリスクマネージャーのそれぞれ別個の責任を明らかにする。リスクアナリシスの方法論の一例を動物の健康とヒトの健康のそれぞれについて示す。
背景
動物に治療、予防および成長促進の目的で抗菌剤を使用すると、病原菌の感受性が失われるために、動物およびヒトの医療に使用される抗菌剤の治療的価値が減少することがある。このリスクは1つまたは数種の抗菌薬の治療的価値の喪失として認めることができ、多剤耐性菌の発生を含む。
動物由来細菌における抗菌剤耐性のリスクアナリシスの主目的は、動物における抗菌剤の使用による耐性の発現に伴うヒトおよび動物の健康に対するリスクを評価し、管理する客観的かつ防御的方法を、適切なコミュニケーションの手段を含めて、OIE加盟国に提供することにある。この手順は透明で、リスクアセスメントとリスクマネージメントの責任が明らかに分離されているべきである。リスクアセスメントは入手可能な科学的データにもとづくべきである。データはしばしば不確実または不完全であり、すべての証拠文書がないと、事実と価値判断の区別が明らかではないことがあるから、透明性は不可欠である。リスクマネージメントも、すべての利害関係者(たとえば、農業と製薬企業、ヘルスケア提供者および消費者グループ)にリスクマネージメントのコントロール (たとえば、問題の抗菌剤の動物への使用、より厳密な屠殺または加工の要件あるいは抗菌剤で治療された動物からの製品の輸入制限) を分担する明確な理由が提示されるように構成されたアプローチにすべきである。
抗菌剤を規制する当局の政策の枠組みは、リスクアナリシスを実施しなければならない範囲の中で、リスクマネージャーとリスクアセッサーに一貫した一連の法的、規制的および政策的原則を提供するように設定すべきである。
このガイドラインは、動物に抗菌剤を使用することの影響をコントロールするために、透明で、客観的で、防御的なリスクアナリシスを実施するためのガイドラインおよび原則に関するOIE抗菌剤耐性特別グループの勧告を説明し、リスクアナリシスに用いられる用語の勧告された定義を示す。
現在、このトピックに関連するリスクアナリシスに用いられる用語が2組ある。すなわちCodex Alimentarius Commission(Codex)の方法の基礎になっている食品の安全性問題を対象に開発されたUS National Academy of Science(NAS)のシステムと、OIE International Animal Health Codeのリスクアナリシスの基礎になっているCovello-Merkhoferのシステムである。これら2つのシステムは、見かけは違うが、非常に類似しており、ほとんど同じ構成要素を含んでいる。これら2つのシステムのそれぞれにおけるこれらの構成要素の順序付けの方法は取り扱うリスクのタイプに応じて展開される。この文書に示す用語はCovello-Merkhoferのシステムにしたがっている。これら2つのシステムの比較と用語の定義を付録Cに示す。
リスクアナリシスの手順
リスクアナリシスはOIE Codeに「ハザードの識別、リスクアセスメント、リスクマネージメントおよびリスクコミュニケーションからなる手順」と定義されている。これはリスクの問題を適切に扱うための全過程をいうために頻繁に使用される用語である。これはリスクの評価および管理と併せてリスクアセッサー、利害関係者およびリスクマネージャーの間の適切なコミュニケーションを包含する。典型的なリスクアナリシスは以下に詳しく示すように進める。
a) 政策の枠組みはあらかじめリスクマネージャーが設定し、扱う必要のあるリスクのタイプを、なによりもその他のリスクの案件の中におけるそのリスクの順位を含めて説明する。次いで、技術的専門家およびリスクアセッサーと相談して、リスクアセスメントの戦略を系統立てて作成する。政策の枠組みはまた、加盟国の法的および規制の枠組みの下で考えられるリスクマネージメントの選択肢のタイプも用意する。最後に、リスクを評価し、定量化する方法およびリスクのどのレベルを許容できると見るかを含めて、製作の枠組みのリスク判断手順を説明すべきである。
b) リスク案件とリスクを軽減するまたは排除するために採ることができるもっとも可能 性のあるリスクマネージメント措置をマネージメントが識別する。
c) 技術的専門家、リスクアセッサーおよびその他の利害関係者と相談して、リスクの予備 的評価の戦略を、いかにして正確にリスクを評価すべきかを含めて組み立てる。
d) リスクアセッサーは予備的な定性的評価(スコーピングスタディー)を実施し、リスクを 定量的に評価できる可能性および識別したリスクマネージメント戦略についてマネージメントに助言する。この報告書は公開する。
e) マネージャーは、このスコーピングスタディーからリスクがさらなる措置を必要とする に十分な激しさかどうかを、資源(非常に限られていることがある)をこの問題に充当できるかどうかを含めて明らかにする。リスクが十分に重要と考えられ、そして可能なら、リスクマネージャーはリスクアセッサーにリスクおよび考えられるリスク軽減の選択肢のそれぞれによるリスク軽減のレベルの徹底した(定性的におよび/または定量的な)評価を指示することになろう。リスク軽減の選択肢とリスクアセスメントは何回もの繰り返しを経て改善されるであろう。
f) リスクアセスメントは、最終リスクアセスメント報告が作成され、それが公表されるま でに、さまざまな段階で審査されることになろう。リスクコミュニケーションのこの面はリスクアナリシス全体の透明性を確保し、効率的にデータを収集する上でとくに有用である。
g) リスクマネージャーはリスクアセスメントの結果を、予め定めた政策に沿って、問題の リスクをもっとも効率的なやり方で管理するための適切な措置をとるために使用する。
h) 規制当局によるリスクマネージメントの決定は可能な最大限の透明さで公表する。
i) リスクマネージャーはその決定を実行し、これらの決定が予期した結果をもたらすかを評価するために規制およびその他の措置のフォローアップを組織化しなければならない。
j) リスクアナリシスの政策、アセスメントの戦略、科学的アセスメントの結果およびとられた規制およびその他の措置の可能な改訂を行うために、フォローアップで得られたデータを評価しなければならない。
以下の項で、Covello-Merkhoferシステムにしたがって4つの部分に分けたこれらの段階について述べる。各段階が上記の重点のどこに関係するかを示す:
― ハザードの識別(b)
― リスクアセスメント(c,d,e,f)
― リスクマネージメント(b,g,i,j)
― リスクコミュニケーション(c,d,f,h)
ハザードの識別はOIEシステムでは「輸入を考慮している商品に入っている可能性のある病原体を識別する手順」と定義されている。これは「リスク要因」(ハザード)とそれが有害な結果をもたらすかもしれない条件の識別である。抗菌剤耐性菌のリスクの問題について見れば、リスク要因はもっとも一般的には動物における特定の抗菌剤の使用の結果として生じる耐性決定因子の発生である。さらにこの定義は病原性菌種における耐性の発生および病原性である他の細菌に伝達されるかもしれない耐性決定因子の発生を表す。リスク要因が有害な結果をもたらすかもしれない条件は、ヒトまたは動物が耐性決定因子を保有する病原体に曝露され、病気になり、耐性であるためにもはや効果のない抗菌剤でヒトまたは動物が治療されることによる、すべての可能なシナリオを含む。
リスクマネージメントの政策
リスクマネージメントの政策とは「食料生産動物における抗菌剤の使用に伴うリスクをモニターし、測定し、評価し、管理するための規制当局の政策の枠組み」と定義される新しい用語である。リスクアナリシスの手順の重要な前段階は、このような政策の枠組みの作成と一般大衆への説明である。この枠組みは適切なリスクアセスメントを実施するためのガイドラインの提供を目的とし、リスクマネージャーがリスクアセスメントに携わる科学的専門家の技術的支援を受けて作成しなければならない。
この政策の枠組みは食料生産動物における抗菌剤の使用に伴うリスクをモニターし、コントロールすることの背景にある哲学を説明する。新薬の使用承認におけるリスクアセスメント、有害な影響をコントロールし軽減するために適用される可能性があるさまざまな使用規制および薬剤の使用承認を取り消す手続きについて、その方法を説明しなければならない。また、耐性であることによるヒトまたは動物への影響をいかにして測定しようとするか、どの程度の影響を許容できないと考えるか、この情報を新薬の登録にどのように利用するかを説明しなければならない。
政策の枠組みでは、ヒト医療において有効な代替治療がない感染症の治療に必要な特定の抗菌剤の特別な重要性も述べることがあろう。さらに、法律と規制の制限の下で管理のために選択できるリスク軽減措置の範囲を説明すべきである。
枠組みではリスクマネージメント決定の不確かさの影響を説明すべきである。また、抗菌剤使用による定量できないリスクを識別した場合に、どのような措置をとろうとしているかも説明すべきである。
動物における抗菌剤使用の結果として耐性菌のポピュレーションが確立されることは、ヒトまたは動物の健康に対する影響が、動物におけるその抗菌剤の使用を止めても、長期間継続する可能性を意味する。したがって、政策の枠組みは長期的影響をどのように測定するかを説明すべきであり、新薬が利用できるようになって、ある治療薬の価値が低下したことを認識しての打ち切り時期または低減係数などを含めることがある。
しかし、政策の枠組みは、可能性のあるリスクマネージメントの選択肢が規制当局の現行の範囲を越えているかもしれないことを考慮して、必ずしもリスクマネージメントを制限すべきではない。これらの条件の明快な説明は医薬品企業および農業ならびに獣医師およびヘルスケアの職業団体が、予測できる環境における現行および将来の抗菌剤を計画し、試験して、明確な目的を達成するために、それらの使い方を変更することを可能にする。
明快に述べられた政策の枠組みは、リスクアナリシスのリスクマネージメント相における透明性を保証する。人々はリスクに対して非常にさまざまに、しばしば感情的な仕方で、反応する:いかにしてリスクを測定するかおよびどの程度が許容できると思われるかについての政策は、暗黙のうちに、ゼロリスク政策が達成不可能であることを認識させ、偽りの論拠の疑いを大きく減らす。
リスクマネージメントの構成要素
リスクマネージメントは、政策を包括的に理解し、リスクアセッサーと効率よくコミュニケーションができる適当なレベルの技術的背景を持つリスクマネージャーが実施する。OIEはリスクマネージメントを以下の段階から構成されると定義している:
リスク評価
リスクアセスメントで推定されたリスクと加盟国に適当な防御レベルを比較する手順。
選択肢の評価
輸入に伴うリスクを加盟国に適当なレベルに沿うように軽減するための措置を識別し、その有効性、実行可能性および選択について評価する手順。有効性はある選択肢が生物学的および経済的に有害な結果の起こりやすさおよび/または大きさを軽減する程度である。選択した選択肢の有効性の評価はそれをリスクアセスメントに組み込み、その結果として生じるリスクのレベルと許容できると考えられるそれとを比較する繰り返しの手順である。実行可能性の評価は通常、リスクマネージメントの選択肢の実行に影響する技術的、実行的および経済的要素を焦点にする。
実行
リスクマネージメントの決定にしたがって、リスクマネージメント措置が適切に行われることを保証する手順。
モニタリングおよび審査
リスクマネージメント措置を継続的に監査して、意図した結果が達成されていることを保証するための進行中に行う手順。
不十分なまたは不適切なデータがある場合のリスク判断
可能性のあるリスクの問題を合理的に評価するために利用できるデータが不十分または不適切で、そのリスクが十分なデータを得るまで措置を採ることを待てないほど激しい可能性がある場合には、リスクマネージャーがリスクへの曝露を最小限にする一時的リスク回避措置を採るのが妥当である。この状況に直面した場合にきわめて重要な5つの考慮すべき点がある:
1 すべての場合に、とくに国際貿易においては、リスク回避措置は妥当な短い決められた期間内に、リスクの激しさともっとも適当なリスク軽減戦略の評価を助けるであろう必要なデータを取得するという公約とともに、採るべきである。
リスクアセスメントはOIE Codeに「輸入国の領域内に病原体が侵入、定着または伝播する見込みならびにその生物学的および経済的結果の評価」と定義されている。リスクの大きさおよび可能性のあるリスク軽減の選択肢の価値を評価する多数の方法がある。これらは大きく分けると、定性的、半定量的および定量的リスクアセスメントの3つになる。どの方法を採るにせよ、リスクアセスメントはリスクマネージャーが提起する特定の質問に答えるように設計されなければならない。
リスクアセスメントの手順は通常、4つの要素に細分される。すなわち、リスク放出のアセスメント、曝露のアセスメント、結果のアセスメントおよびリスクの推定である。これらの趣旨を以下に説明し、各要素について考慮すべきであろう因子の例を付録AおよびBに挙げる。
放出のアセスメント
OIE Codeに「動物における抗菌剤の使用が耐性菌または耐性決定因子を特定の環境内に放出するのに必要な生物学的経路を説明し、その全過程が生じる確率を定性的または定量的に推定すること」と定義されている。
曝露のアセスメント
OIE Codeに「動物およびヒトが一定の起源から放出されるハザードに曝露されるのに必要な生物学的経路を説明し、曝露が生じる確率を定性的または定量的に推定すること」と定義されている。
結果のアセスメント
OIE Codeに「生物学的因子への個々の曝露とそれらの曝露の結果との間の関連性の説明。曝露が健康または環境に有害な結果をもたらし、それが社会‐経済的結果をもたらすという因果関係が存在しなければならない。結果のアセスメントは一定の暴露が起こす可能性のある結果を説明し、それが生じる確率を推定する。この推定は定性的でも、定量的でも良い」と定義されている。
リスクの推定
OIE Codeに「放出のアセスメント、曝露のアセスメントおよび結果のアセスメントからの結果を総合して、最初に識別したハザードによるリスクの全体的な大きさを示す。このように、リスクの推定はハザードの識別から望ましくない結果に至るリスクの経路の全過程を考慮する」と定義されている。
政策の枠組みはリスクアセッサーにリスクの問題の影響全部とリスク軽減戦略をいかに評価するかのガイドラインを提供する。たとえば、ある動物用抗菌剤の排除は他の抗菌剤が代わりに使用されて悪い結果をもたらす可能性があることを意味する。プラスにせよ、マイナスにせよ、このような二次的影響があれば、そのリスクマネージメント戦略は最適ではなかろう。
リスクアセスメントの最初の計画段階は以下のように行うことができる:
(1) 問題のリスクの論点は説明された問題点にすべての関係者が合意することを確実にするために、公式に表明する。そのハザードが有害な影響をもたらし得ると考えられる機序と経路も説明する。このシステムは、リスクアセスメントチームが理解できるように、1つまたはそれ以上のフローダイアグラムで説明できる。この時点では、ダイアグラムは純粋に概念的であり、データを入れる必要はない。このようなダイアグラムの目的はどんなデータが有用であろうか、どんなリスクマネージメントの選択肢が存在するかという考えに焦点をあて、そのシステムの一般的な知識のレベルを統合し、見直すことにある。訓練には広範囲な関係者を参加させ、広く利害関係者と関連の専門家に知らせることを勧める。
(1) 予備的なデータの探索を実施して、そのシステムのどの要素が適切に定量化できそうかを調べる。含まれるであろう要素は、たとえば;糞便、水または屠体の耐性菌浸潤率;抗菌剤が使用されている動物種;季節および地理的領域による分布;ヒト医療における抗菌剤の使用頻度と抗菌剤の投与を受ける健康状態などである。この段階では、利用できるデータの有無を知っているだけで十分である。このシステムの要素を定量化するのに役立ちそうなデータを利害関係者および関連の専門家に要請することもできる。直ぐには入手できないかもしれないが、おそらくいくらかの研究努力をすれば、妥当な期間内に入手できるようになる有益なデータも強く考慮すべきである。妥当な期間の解釈はそのリスクの緊急性と激しさによる。直ちにどのような即時的措置を採るべきかを評価する意思決定者を助けるために、迅速にリスクアセスメントを完了し、もっとデータが入手できるようになったら、リスクを再評価し、意思決定者が予備的に実施した措置を変更することを認めるのが適当であろう。
(1) リスクアセスメントチームが了解しているように、システムの審査と、併せて要素を定量化できるデータは重要なガイダンスになる。これはリスクマネージメントの選択肢の有効性を正しく評価できることを説明できる。また、リスクアセッサーが、必要なら、データに 基づいてどのようにして定量的リスクアセスメントを行い、そのようなモデルをなんらかの方法でバリデートできるかの指針になる。これは可能なリスクマネージメントの選択肢とそれらの選択肢を評価するのに利用できるデータの組み合わせであり、リスクアセスメントチームに評価の方式を指示するはずのものである。システムの理解が不十分またはモデルを意味のある定量化のために利用できるデータが不十分であれば、定性的リスクアナリシスしかできないであろう。しかし、リスクマネージメントの限られた数の選択肢の評価を可能にするシステムの特定の面を定量化することも可能かもしれない。リスクアセスメントモデルは、考えているリスクマネージメントの範囲の決定を裏付けるために、可能な限り単純にすべきである。モデルの構造は、限られたリスク軽減戦略の有益性をそれでかなり簡単に説明できれば、リスクシナリオの完全な分析経路を含まなくてもよい。モデル化の方法の柔軟性はアセスメントを行うために必要な努力を減らし、モデルに組み込まなければならない可能性のある仮定の数と種類を制限する。しかし、そのモデルは同じリスクの問題に提起される他の質問を扱うには役に立たないかもしれず、リスクを効率的に管理しようとする他の利害関係者の助けにはならないかもしれない。まったく異なる仮定による異なるモデルの構造との間の一貫性を証明することも困難かもしれない。
食料生産動物における抗菌剤の使用に由来する抗菌剤耐性菌のヒトおよび動物の健康に対するリスクの完全なアセスメントは、3つの部分に分けることができる:
1. 抗菌剤使用の結果としての関心のある耐性菌の産生、あるいはもっと特異的には、細菌間で伝達が可能なら、耐性決定因子の産生。(動物における抗菌剤の使用をハザードと考えているなら、いくつかの異なる菌種を考慮すべきかもしれない。)
1. これらの耐性菌または耐性決定因子にヒトが曝露され得る実際的な経路と、併せて曝露の際に摂取する可能性のある細菌負荷の範囲を考察する。
1. 曝露に対するヒトの応答を考察する。
抗菌剤問題のリスクアセスメントは技術的に難しいことがあり、リスク分析のモデル化、微生物学、獣医学および畜産学、ヒトのヘルスケアおよび医療、化学および関連領域にわたる広範囲な専門家のチームでアセスメントをすることが不可欠である。公表された化学的、微生物学的および遺伝的リスクアセスメントがリスクアセスメントの構成要素をモデル化する一般的な例として役に立つ。
定性的リスクアセスメント
定性的リスクアセスメントはOIE Codeに「結果の見込みまたは結果の程度に関するアウトプットが、高い、中等度、低いまたは無視できるといった定性的用語で表されるアセスメント」と定義されている。定性的リスクアセスメントは、それを半定量的または定量的アセスメントに進めるか否かにかかわらず、必ず最初に予備的評価(スコーピングスタディー)の一部として実施される。これは問題のリスクの確率と影響を明らかにするために利用できるすべての情報の検証である。定性的リスクアセスメントは、リスクが起こり得る経路およびそれを論理的に軽減できるために必要な方法を考察する。たとえば、食料生産動物に特定の抗菌剤を使用することがヒトの健康に影響することについてのリスクアセスメントでは、抗菌剤の使用パターン、曝露される細菌の耐性獲得の速度、これらの耐性菌の生態、これらの細菌がヒトに感染する病原菌に直接的または間接的に耐性を伝達するかもしれない経路および動物用抗菌剤と同系統の抗菌剤が感染したヒトに処方される率などの要素が含まれるであろう。
定性的リスクアセスメントはヒト医療用抗菌剤の恩恵の喪失のレベルを考察する必要もある。これらのすべての要因がそれに対して可能なリスク軽減戦略とこれらが提供できるであろう恩恵を考察する下敷きになるリスクシナリオを構成する。付録AおよびBにアセスメントに役立つであろう要素を列挙する。この段階で、たとえば生物学的経路が可能ではないために、または完全なアナリシスが完了し、許容できる程度にリスクが小さいことが明らかにされた他のそれより論理的にリスクが少ないために、リスクが論理的に取るに足らないと決定できることがある。抗菌剤問題についてさらにリスクアセスメントが実施されるとすれば、特定のハザードに伴って起こりそうなリスクについて広範囲な合意がある場合であろう。このような場合には、しばしば定性的リスクアセスメントが必要なすべてである可能性が高い。定性的アセスメントは実施するのに数学的モデル化の熟練を必要とせず、しばしばこのタイプのアセスメントが意思決定に使用される。
すべての容易に入手できる情報が収集されたら、全体像を完成するのにさらに情報が必要である、またはさらに定量的なアナリシスを完了するためにおそらく追加情報が必要であることを助言するリスクマネージャーへの予備的報告が必要である。この段階ではまた、それぞれのリスク軽減戦略を評価するデータがあるかまたは入手可能で、それをリスクマネージャーに連絡してどのリスク軽減戦略に価値があるかを細部まで調査できるか否かを明らかにすべきである。
定量的リスクアセスメント
定量的リスクアセスメントはOIE Codeに「リスクアセスメントの結果が数字で表されるアセスメント」と定義されている。定量的リスクアセスメントの目的はリスクの問題の確率と影響を数的に評価することである。主要な2つの数学的モデルが可能である:もっとも一般的なのはモンテカルロシミュレーションモデルを使用して、リスク事象(ハザードの実際の影響)ならびに不確かさ(知識の不足)および変動性(固有のでたらめさ)を説明する方法である。第2の方法は確率論の代数を使うもので、リスク事象の数式モデルを作る。モンテカルロシミュレーションの方がほとんど例外なく代数法より好まれるが、これは実行がずっと容易であって、とくに最近のソフトウエアを使えば尚更だからである。これはモデル化の融通性にすぐれ、理解、チェックおよび説明が容易であり、モデル作成における人為的誤りが起こりにくい。しかし、まれな事象のモンテカルロシミュレーションは、リスクシナリオのいくつかの単純な部分の計算を組み合わせて残りの部分をシミュレートすることが効率的なことが認められているために、煩わしくなることがある。
定量的リスクアセスメントは可能なリスクマネージメント措置の効果を推定する数学的モデルをもたらす。食用動物の生産と最終のヒトの健康に対する影響との間および両方を含む可能な措置を定量的に評価することが望まれることがある。そうであれば、定量的リスクアセスメントモデルは、リスクマネージメント措置の結果としてシステムに起こり得る変化を評価するために、農場と暴露されるヒトまたは動物の間の重要な微生物学的経路のすべてを十分詳細にシミュレートしなければならない。リスクマネージメントの目的には、リスクマネージメント措置の結果としてヒトまたは動物に生じる変化だけを評価する必要しかなく、基礎にある健康に対するリスクは評価しなくてもよいかもしれないが、基礎にある健康に対するリスクを推定できれば他の目的に有益な情報になることがある。
したがって、十分なリスクアセスメントモデルは広範囲な経路を考慮する必要があろう。たとえば、E. faeciumは本来の宿主から離れても長期間生存できる丈夫な細菌である。可能な経路として、たとえば糞尿溜からの流出または畑地への散布が遊泳者が使う水路に入ること、あるいは糞尿を散布した畑で育てられた野菜の摂取が含まれよう。対照的に、環境が変わると速やかに死滅するCampylobacterには、これらの経路は重要ではなかろう。経路の範囲を識別できないと、一部のリスクマネージメント措置の効果を誤って評価することがある。たとえば、家禽屠体の放射線照射は、肉の摂取が主たる暴露経路であると考えれば、Campylobacterに有効かもしれない。しかし、放射線照射は、生野菜の摂取が主たる暴露経路であるとすれば、E. faeciumには無効であろう。
食品の微生物学的安全性のリスクアセスメントは、時に抗菌剤耐性によってもたらされるそれと非常によく似たリスクとしてモデル化が試みられる。微生物学的リスクアセスメントにはさまざまなモデル化の手法があり、リスクシナリオの確率的シミュレーションの原理に基礎を置いている(14,18,19,22)。「農場から食卓まで」の全体を連続的にシミュレーションして、消費者が細菌の摂取によって影響を受けるか、どのような影響かを知るために、スプレッドシートモデルがモンテカルロシミュレーションと一緒に使われるのが通例である。その他の市販されている動的シミュレーションモデルでも同じ成果の多くを達成できる。さまざまな細菌が異なる環境、とくに異なる時間にわたって異なる水分のレベル、温度およびpHに暴露された場合の発育および消長を推定するさまざまな数式モデルが予測微生物学の分野から入手できる。このように、通常、二項およびポアソン分布による確率数学(11,17)と経験的曲線適合式および時に予測微生物学からの理論にもとづく数式を組み合わせて、暴露事象を特徴ずけることを試みる定量的リスクアセスメントが行われる。食品の微生物学的安全性モデルは屠殺、加工、ハンドリングおよび調理のさまざまな過程における細菌の再分布、発育および消長を考慮する。たとえば、汚染屠体の微生物負荷は適切なハンドリング、屠体のもっとも汚染が激しい部位の除去、熱湯消毒および洗浄によって劇的に減少する。一方、エアロゾール、飛沫、作業員などを介する屠体間の交差汚染によって、屠場に入ってきた汚染動物の比率より、屠場を出て行く汚染屠体の比率の方が高くなることがある。抗菌剤耐性のリスクアセスメントに必要なモデル化の原理の多くは食品の微生物学的安全性のリスクアセスメントに使われるそれと類似している。現在(2000年11月)は公表された抗菌剤耐性のリスクアセスメントは非常に少ないが(http://www.fda.gov/cvm/fda/mappgs/antitoc.html;23)、食品の微生物学的安全性のリスクアセスメントはかなりの数が完成しており、使用した手法が実際に示されている(2,8;; http://www.fsis.usda.gov/ophs/risuk/index.htm; http://www.foodriskclearinghouse.umd.edu/risk_assessments.htm;
http://www.fsis.usda.gov/OPHS/ecolrisk/home.htm; http://www.nal.usda.gov/fnic/foodborne/risk.htm)。
微生物学的リスクアセスメントは微生物負荷の推定に対数目盛を用いるのが普通であるが、これは含まれる数の範囲と細菌の発育および消長が乗数(10a)の性質を持つためである。特定の暴露に起因する感染、発病またはおそらく死亡の確率の以後の推定は、ヒトの健康に対する総合的な影響の最終的な推定をするために用量反応方程式で行われる。農場から最終的な摂取までの完全な微生物学的経路をモデル化するリスクアセスメントは時に「農場からフォークまで」または「農場から食卓まで」のリスクアセスメントと呼ばれるが、他の方法を介する摂取による重要な経路(たとえば、野菜の摂取、土または水を通しての摂取、ヒト-ヒトまたはヒト-動物の伝達)があるから、誤解を招く恐れのある用語ではある。完全な「農場から食卓まで」のモデルは、モデル化されたシステムに固有の複雑さおよびそのシステムの知識の隙間のために、必ず論争になる可能性のある仮説を含む。また、その弱点がよく知られている用量反応モデルの信頼性にも大きく依存する(21)。
一般に、リスクアセスメントのモデルは規制当局が利用できるリスクマネージメントの選択肢を評価するために必要なだけ複雑にすべきで、つまり完全な「農場から食卓まで」のモデルを完結する必要はないかもしれない。たとえば、フルオロキノロン耐性Campylobacterのヒトの健康に対する影響についての米国FDA‐CVMのリスクアセスメント(http://www.fda.gov/cvm/fda/mappgs/antitoc.html)は家禽におけるフルオロキノロン使用中止の影響しか考えていない。このアセスメントは「農場から食卓まで」の経路のモデル作りを避けている。家禽からのフルオロキノロン耐性の影響を受けたであろうキャンピロバクター症のヒト症例数を推定して現在のリスクの推定としている。次の論拠は、家禽からフルオロキノロンを取り除くことが、ヒトへの影響を減らすことになるであろうということであり、これは宿主体外におけるCampylobacterの生存性が低く、耐性菌が速やかに死滅するであろうことによって裏付けられている。アセスメントは次に処理場の最後におけるフルオロキノロン耐性Campylobacter汚染ブロイラー屠体の浸潤率とリスクとを関連づけている。次いで示された論拠は、汚染屠体の浸潤率および/または負荷の変化とヒトの健康に対する影響の対応する変化を図示できることであるとしている。このようなモデルは同じような仮説があてはまる他の国で、その国に適切なデータを用いれば、非常に効率よく使用できる。
定量的リスクアセスメントモデルのすべてのパラメーターは定量されなければならない。批判を浴びることがもっとも少なそうで、もっとも透明性がすぐれたアプローチは、厳しく審査された論文に公表されたデータを用いることである。しかしながら、このようなデータはしばしば入手できず、その代わりに妥当な代用データと代用になる裏づけの論拠を使うことになる。専門家の意見も利用されることがあるが、専門家が意見の根拠にしたデータを代わりに使用できれば、もっと透明性が高くなる(12)。信頼できる情報源からの未発表データも使用できよう。情報源にかかわらずリスクアセスメントに用いるすべてのデータは厳しく審査されなければならない。
定量的リスクアセスメントは、boostrap(5,6)、Baysian の推理(9,20)および古典的統計学(1,10,13)のような方法を用いて、モデルのパラメーターに伴う不確かさを明快にモデル化しなければならない。Baysianの 推理は、観察、それらの観察の解釈およびすべての主観的推定から生じる貢献を明快に記述するのに、とくに有用である。Baysianの 推理はまた、アナリストが異なる情報源からの情報、たとえば集団の汚染についての、検査の感度と特異性が違う無作為に行われた2つ調査からの情報を結びつけることを可能にする。
リスクアセスメントの結果はリスクマネージャーに対する報告にまとめ、使用した方法を説明し、方針に沿った適切な表現でリスクと、併せて評価できたすべてのリスク軽減戦略の恩恵を特徴づける。すべての定量した項目はそれらの不確かさを容易に理解できる形式で報告すべきである。相対頻度分布は不確かさのレベルを視覚的に表示するのにすぐれており、一方、累積分布のプロットはリスクマネージャーが希望するレベルで信頼性を評価することを可能にする。モデルの重要な不確かさのパラメーターを決定するために感度分析を実施し、スパイダープロットやトルネードチャートのような方法を使用して図示すべきである。重要な仮説は明快に説明し、併せて仮説の論拠のバランスのとれた議論およびモデルの予言の不正確さがそれらの仮説を偽りとすることについて考察すべきである。このモデルの不正確さについては厳しく分析し、おそらく科学的実験によって、または他の国々の経験と比較して、それらをバリデートすることが可能な方法を考えなければならない。リスクアセスメントの報告にすべてのタイプの不確かさを包含させ、考察することにより、リスクマネージャーはリスクおよびリスク軽減の選択肢の評価に適当なレベルの保存主義を適用できる。リスクアセスメントの報告に不確かさが適切に扱われていないと、リスクアセッサーはリスクの明快な価値判断ができないことを強調しておくべきである。
半定量的リスクアセスメント
半定量的リスクアセスメントは「その結果の起こりやすさおよびその結果の程度の推定がいくつかのスコア付け方式によって半定量的に表現されるアセスメント」と定義される新しい用語である。リスクマネージャーが直面するリスク問題のポートフォリオのそれぞれについて適切なデータがないために、完全な定量的リスクアセスメントを実施できないことが頻繁にある。このような場合に、それでもリスクの程度とそのリスクに対するリスク軽減戦略の恩恵を比較する方法を持つことが有用であろう。半定量的リスクアセスメントは、適切に実行すれば、リスクの完全な定量化も過度なリスク回避も必要なしに、リスク問題のポートフォリオの効率的なマネージメントを裏付ける透明性のあるアプローチである。半定量的リスクアセスメントは市販のプロジェクトリスクアナリシスに汎用されているが、透明性の維持が難しいため、および適切なガイドラインがないために悪用されやすいので、国際的なリスクの問題には現在のところ広く受け入れられていない。
半定量的リスクアセスメントの原則(22)は、最初に起こり得る結果の確率と大きさを広範囲に、しかしはっきり定義したカテゴリーについて推定し、次にこれらの推定をいくつかのスコア付けシステムを用いてリスクの激しさのスコアに変換することである。さまざまなリスクマネージメントの選択肢はリスクの激しさのスコアをいかに多く減らしそうかによって評価できる。この方法には多くの利点がある:
― リスクを組織的な仕方で比較できる
― 受け入れがたいリスクに激しさの閾値を設定できる
― もし資源があれば、すべてのリスクに対して激しさのスコアを全体として最小限にす る効率的かつ一貫した方針の枠組みを作ることができる。
リスクコミュニケーション
OIE Code に「リスクコミュニケーションは、リスクアセッサー、リスクマネージャーおよびその他の関係団体の間のリスクに関する情報の相互交換である」と定義されている。リスクコミュニケーションにはさまざまな面がある。リスクコミュニケーションに適切な注意を払わないとリスクアナリシスの過程が簡単に失敗してしまうことがある。リスクマネージャーとリスクアセッサーはともにリスクアナリシスのコンセプトによく精通しているべきである。リスクマネージャーは方針を明確に理解しているべきである。同様に、リスクマネージャーはリスクアセスメントの分類と用語に十分精通していて、適切にリスクアセスメントを行うための努力とさまざまな原則を評価できるべきである。リスクコミュニケーションの目標は以下の通りである:
― リスクアナリシスの際には、すべての関係者に考慮中の問題の認識と理解を促す
― リスクマネージメントの判断への到達と実行の一貫性と透明性を促す
― 提唱するまたは実行するリスクアセスメントの決定を理解させるための強力な根拠を用意する
― リスクアナリシスの過程の全体的な有効性と効率を向上させる
― すべての参加者間の作業関係と相互認識を強化する
― リスクコミュニケーションの過程にすべての利害関係者が適切に包含されることを促す
― 問題のリスクに関連する利害関係者の知識、姿勢、価値、活動および認識についての情報を交換する。
1998年にローマで開催された食品規格および安全措置に対するリスクコミュニケーションの適用についてのFAO/WHO合同専門家会議は、この課題について詳細な討議を行った(7)。
アセッサーとマネージャーの間のコミュニケーション
マネージメントは分析しようとするリスクの問題について明確な指示を用意し、併せて好ましい特徴づけの方法(たとえば、病気の人の数・日/年)を示さなければならない。アセッサーはマネージャーがそのアセスメントに妥当な期待を持っていることを確認しなければならず、また、そのアセスメントがマネージメントの意思決定を助けるであろう他の有力な情報を助言できるであろう。アセッサーとマネージャーはアセスメントの過程を通してコミュニケーションを維持し、アセスメントが適時に、必要な資源を利用して完了することを確実にすべきである。
アセッサーと利害関係者の間のコミュニケーション
意図するアセスメントの方法を、モデルの構成および仮説を含めて、可能な早い機会に広く公表することが非常に役に立つ。これによって、利害関係者が情報を入力し、過程の透明性が向上し、アセスメントとその結果であるリスクマネージメントの決定に対する支持が増す。
マネージャーと利害関係者の間のコミュニケーション
リスクマネージャーは通常、実施するリスクアナリシスの開始時に、利害関係者に助言をする必要がある。これはリスクアセスメントに対する政治的および科学的支持を集める機会として、またデータを収集する手段として、この段階で重要な点である。リスクアセスメントが完了したら、アセスメントに大きな誤りがないことまたは入手可能な付け加えるデータがないことを確認するために、報告書を公表し、適当なコメントの期間を設けることが推奨される。World Wide Webがアセスメントの入手を最大限にするすぐれた手段であり、リスクアセスメントのダウンロードが可能で、独立したバージョンにするとよい。受け取ったコメントと、併せてリスクアセスメントおよびリスクマネージメントチームからのすべての対応を公表し、手続きの透明性を強調する。これらにリスクアセスメントの結果と決定されたリスクマネージメントを説明する最終的なリスクアナリシスの文書を含めてもよい。
勧告
抗菌剤耐性のリスクの問題を効率よく扱うために、OIE特別グループは以下のように勧告する:
― リスクアナリシスは客観的かつ防御的方法で行わなければならない
― リスクアナリシスの過程は透明かつ一貫しているべきである
― リスクアナリシスは繰り返しの、かつ継続的な手続きとして実施すべきである
― リスクマネージメントとリスクアセスメントの機能は、意思決定とリスク評価の独立性を確保するために、分離しておくべきである
― リスクマネージメントは規制当局側が設定した政策の枠組みを参照し、考えられるであろうリスク軽減措置の範囲の中で実施すべきである
― リスクアセスメントは強固な科学にもとづき、リスクマネージャーがリスクアセッサーと協力して設定した戦略に応じて実施すべきである
― リスクアセスメントは多領域チームを必要とし、利用できる科学の専門家に広く相談して、実施すべきである
― 必ず定性的リスクアセスメントを実施すべきであり、これは完全な定量的リスクアセスメントを進行することが可能かつ必要かについて情報を提供する
― 抗菌剤耐性問題のリスクアセスメントは、発展途上国では利用できないかもしれない常に特殊な技術的スキルを必要とする。OIEとその加盟国はこれらの国がこれらのスキルを開発するのを助け、またはリスクアセスメントが貿易障壁にならないことを確認するために連絡をとるべきである。
― マネージャー、アセッサーおよび利害関係者の間のコミュニケーションが不可欠である。このようなコミュニケーションを過程の早い時期に確立して、応答の機会を可能にし、リスクアナリシスの過程を通して継続すべきである。
付録A
動物における抗菌剤の使用によるヒトの健康への影響のリスクアセスメント
以下のリストは、ヒトの健康に対する影響のリスクアセスメントにおいて考慮する必要があると思われる要素を、すべてではないが記載してある。
リスクの定義
動物に特定の抗菌剤を使用することによって耐性を獲得した細菌によるヒトの感染症が、そのヒトの感染症に使用された抗菌剤治療の恩恵の喪失をもたらすこと。
ハザードの識別
以下の2つのタイプのハザードが存在する:
― 動物に特定の抗菌剤を使用することによって耐性を獲得した細菌
― 動物に特定の抗菌剤を使用した結果として選択された耐性決定因子
ハザードの識別は抗菌剤のクラスまたはサブクラスについての考察を含まなければならない。
放出のアセスメント
放出のアセスメントは、動物における特定の抗菌剤の使用が耐性菌または耐性決定因子を特定の環境に放出するために必要な生物学的経路の説明、およびこの過程が完結する確率の定性的または定量的な推定からなる。放出のアセスメントは量とタイミングの一連の条件のそれぞれにおいて可能性のあるハザードのそれぞれが放出される確率と、これらがさまざまな措置、出来事および手段の結果として、いかに変化するであろうかを記載する。放出のアセスメントに必要と思われる入力の種類を例示する:
― 問題の抗菌剤で治療される動物種
― 治療した動物数、それらの動物の地理的分布
― 抗菌剤投与方法のバリエーション
― 抗菌剤使用の結果として耐性を発現する細菌
― 耐性の直接的または間接的伝達の機序
― 耐性伝達の能力(染色体、プラスミド)
― 他の抗菌剤との交差耐性および/または共通耐性(co-resistance)
― 耐性菌の存在を調べる動物、動物製品および廃棄物のサーベイランス
暴露のアセスメント
暴露のアセスメントは、動物にある抗菌剤を使用して放出される耐性菌または耐性決定因子にヒトが暴露されるのに必要な生物学的経路の説明、および暴露が起こる確率の定性的または定量的推定からなる。識別されたハザードに対する暴露の確率は、暴露の量、タイミング、頻度、期間、暴露の経路ならびにヒトのポピュレーションが暴露される回数、動物種およびその他の特性に関する個々の条件について推定する。暴露のアセスメントに必要と思われるインプットの種類を例示する:
― 習慣と文化を含む、人口増加と消費のパターン
― 耐性菌に汚染された食品および/または動物環境における浸潤率
― 耐性菌に汚染された動物用飼料における浸潤率
― 消費時点における汚染食品の微生物負荷
― 畜産食品の加工(屠殺、加工、保存、輸送および小売を含む)段階における耐性菌の生存能力と再分布
― 廃棄物の廃棄の仕方とヒトがこれらの廃棄物に含まれる耐性菌または耐性決定因子に暴露される機会
― 食料生産動物由来の食品を消費する場所(専門家の仕出し、家庭での調理)
― サブポピュレーションの消費と食品の扱い方のバリエーション
― 耐性菌がヒトの腸内菌叢に定着する能力
― 問題の細菌のヒト‐ヒト伝達
― ヒトの常在菌に耐性を伝達する耐性菌の能力
― 他の起源からの耐性決定因子への暴露
― ヒトの疾病に対して使用される抗菌剤の量
― ヒトの治療の用量、投与経路(経口、注射)および期間
― 薬物動態(代謝、バイオアベイラビリティー、腸内菌叢への接触)
結果のアセスメント
結果のアセスメントは耐性菌または耐性決定因子への特定の暴露とそれらの暴露の結果との間の関連性を説明することからなる。因果関係を検討する過程は暴露によって健康または環境に有害な結果がもたらされ、それが社会‐経済的な影響を及ぼすかもしれないと考えなければならない。結果のアセスメントはある暴露で起こり得る結果を説明し、それが起こる確率を推定する。この推定は定性的なことも、定量的なこともある。結果の例を以下に示す:
― 用量‐応答関係
― サブポピュレーションの感受性のバリエーション
― 抗菌剤の効力の喪失に起因するヒトの健康に対する影響のバリエーションと頻度
― 抗菌剤の信頼性の低下に起因するヒトの医療の変化
― 食品の信頼性の喪失および付随する二次的リスクによる食品消費パターンの変化
― 付随するコスト
― ヒトにおける従来の第一選択抗菌剤治療に対する干渉
― その薬剤の将来についての認識(時間的関連)
リスクの推定
リスクの推定は放出のアセスメント、暴露のアセスメントおよび結果のアセスメントを総合して最初に識別したハザードによるリスクの全体的な大きさを示すことからなる。したがって、リスクの推定はハザードの識別から望ましくない結果に至るリスクの経路をすべて考慮する。定量的アセスメントの最終的なアウトプットに含まれるであろう事項を以下に示す。
― 発病する人数
― 疾病の激しさまたは期間の増加
― 疾病の人の数・日/年
― 死亡(総数/年;確率/年あるいは人口の無作為な一部の寿命またはとくに暴露の多いサブポピュレーションの寿命)
― その細菌に起因する病態の重要性
― 代替抗菌剤治療がないこと
― ヒトに観察される耐性のレベル
― さまざまなリスクの影響の加重和を可能にする影響の随意な尺度(たとえば、発病と入院)
評価すべきリスクマネージメントの選択肢
以下のリスク軽減措置が実行可能である:
― 新抗菌剤に使用承認を与えない
― 使用承認とラベル表示の見直し
― 承認の取り消し
― 抗菌剤の使用制限(たとえば、特定産業、治療目的に限定)
― 慎重使用ガイドラインの見直し
― 動物用抗菌剤のモニタリングの確立
― 治療ガイドラインの改訂
付録B
動物における抗菌剤の使用による動物の健康への影響のリスクアセスメント
以下に、動物の健康への影響のリスクアセスメントに考慮を必要とするであろう要素を、すべてではないが、列記する。
リスクの定義
動物における特定の抗菌剤の使用によって耐性を獲得した細菌による動物の感染症とその感染症に使用される抗菌剤治療の恩恵の喪失の発生
ハザードの識別
以下のようなハザードの可能性がある:
― 動物における特定の抗菌剤の使用によって耐性を獲得した細菌
― 動物における特定の抗菌剤の使用の結果として選択された耐性決定因子
ハザードの識別には抗菌剤のクラスまたはサブクラスについての考察を含めなければならない。
放出のアセスメント
放出のアセスメントに必要であろう入力の種類を以下に例示する:
― 問題の抗菌剤で治療される動物種
― 治療した動物数、それらの動物の地理的分布
― その抗菌剤の投与法のバリエーション
― その抗菌剤の使用の結果として耐性を生じる細菌
― 耐性の直接的または間接的伝達の機序
― 耐性伝達の能力(染色体、プラスミド)
― 他の抗菌剤との交差耐性および/または共通耐性(co-resistance)
― 動物、動物製品および廃棄物に存在する耐性菌のサーベイランス
暴露のアセスメント
暴露のアセスメントに必要であろうインプットの種類を以下の例示する:
― 疾病の動物における耐性菌の浸潤率
― 耐性菌に汚染された食品および/または動物環境における浸潤率
― その特定の抗菌剤で治療された動物の頭数/%
― 動物からの耐性菌の播種(動物の飼育法、動物の移動)
― 耐性菌に汚染された動物用飼料の浸潤率
― 動物に使用される抗菌剤の量
― 治療(用量、投与経路、期間)
― 摂取時点における汚染飼料の微生物負荷
― 耐性菌の生存能力(混合ポピュレーションにおける競合、環境中の生存、以下の要素を含む可能性のある汚染サイクル:動物、ヒト、動物用飼料、環境、食品、非食用動物、野生動物)
― 耐性菌および耐性決定因子の播種
― 廃棄物の捨て方とそれらの廃棄物中の耐性菌または耐性決定因子に動物が暴露される機会
― 耐性菌が動物の腸内菌叢に定着する能力
― 他の起源からの耐性決定因子への暴露
― ヒトの治療の用量、投与経路(経口、注射)および期間
― 薬物動態(代謝、バイオアベイラビリティー、腸内菌叢への接触)
結果のアセスメント
結果の例を以下に示す:
― 用量‐応答関係
― サブポピュレーションの感受性のバリエーション
―抗菌剤の効力の喪失に起因する動物の健康への影響のバリエーションと頻度
― 抗菌剤の信頼性の低下に起因する獣医療の変化
― 付随するコスト
― その薬剤の将来の認識(時間関連)
リスクの推定
定量的アセスメントの最終的な出力には以下が含まれよう:
― 耐性菌による治療の失敗の数
― 動物の苦しみ(レベルと増加)
― 経済的コスト(抗菌剤治療、獣医師のサービス、飼養管理の増加、収入の減少、市場の喪失)
― 死亡(総数/年、確率/年あるいはポピュレーションの無作為な一部の寿命または暴露のとくに大きいサブポピュレーションの寿命)
― 動物に観察される耐性のレベル
評価すべきリスクマネージメントの選択肢
以下のリスクマネージメント措置が実行可能である:
― 新抗菌剤に使用承認を与えない決定
― 承認とラベル表示の見直し
― すでに使用している抗菌剤の承認の取り消し
― 抗菌剤の使用制限(たとえば、特定の産業、治療目的のみ)
― 慎重使用ガイドラインの見直し
― 動物用抗菌剤のモニタリングの確立
― 治療ガイドラインの改訂
付録C
CODEXとOIEが使用しているシステムと用語の比較
この文書で使用している用語は、Covello-Merkhoferシステム(4)を基礎にしてOIE CodeのSection 1.4(16)に定義されているOIE用語にしたがっている。Codex Alimentarius(3)
は、米国National Academy of Science(15)が設計した、別の、しかし同等に確実なシステムを使用している。食料生産動物における抗菌剤の使用に起因する抗菌剤耐性の問題は動物飼養のOIEの領域と食品の安全性のFAOの領域にまたがる。そこで、この論文で使用している用語の定義についてこれら2つのシステムを比較することは、2つのアプローチを調整するのを助けるために有益と考えられる。
2つのリスクアナリシス用語システム:説明
表IにOIEおよびCodexモデルのリスクアナリシスの構成要素をまとめて示す。
表I.リスクアナリシスの構成要素:CodexおよびOIEシステムの比較
Codexリスクアナリシスシステム
リスクアセスメント
リスクマネージメント
リスクコミュニケーション
|
OIEリスクアナリシスシステム
ハザードの識別
リスクアセスメント
リスクマネージメント
リスクコミュニケーション
|
表IIにOIEおよびCodexモデルのリスクアセスメントの構成要素をまとめて示す。
表II.リスクアセスメントの構成要素:NASモデル(Codexが使用)
およびCovello-Merkhoferモデル(OIEが使用)の比較
Codexモデル
ハザードの識別
ハザードの特徴づけ
暴露のアセスメント
リスクの特徴づけ
|
OIEモデル
リスク放出のアセスメント
暴露のアセスメント
結果のアセスメント
リスクの推定
|
NASモデルにもとづくシステム(ここでは‘Codexモデル'と呼ぶ)はリスクアナリシスに3つの要素しかなく、一方、Covello-Merkhoferモデルに基礎をおくシステム(ここでは‘OIEシステム'と呼ぶ)には4つの要素がある。両方のシステムに、リスクアナリシスの構成要素として、リスクアセスメント、リスクマネージメントおよびリスクコミュニケーションを含む。しかし、OIEシステムはリスクアナリシスの要素としてハザードの識別を含み、Codexシステムではハザードの識別をリスクアセスメントのサブ要素として含めている。リスクマネージメントとリスクコミュニケーションの用語は両システムが同等である。
NASシステムは最初、化学物質への暴露による健康に対するリスクを評価するために開発された。Covello-Merkhoferシステムは最初、可能性のあるあらゆるハザードに由来する多岐にわたるリスクを評価するために開発された。表IIIで説明する個々の用語にこれらの相違が見られる。
第1の相違は両モデルにおけるハザード識別の位置に集中する。NASモデルの最初の報告(15)はハザードの識別を主要な仕事と説明している。この定義はとくに化学物質に関連し、この場合にも、NASは因果関係に関して入手可能な証拠ならびに特定の化学物質の影響の程度に関連する証拠の重み付けを含むことを指摘している。これは本質的に相当な重要性を持つ定性的段階である。動物とその生産物に多数の病原体のハザードの可能性があるとすれば、ハザード識別段階を別にしてあるOIEリスクアナリシスシステムの方が病原体のリスクマネージメントに適している。
第2の相違はOIEシステムに、Codexシステムにはない放出のアセスメントと呼ばれる段階が存在することである。Covello and Merkhoferは、問題の環境中にリスク因子が放出されることについて、あるシステム(たとえば、企業群、肉の加工場、または他のリスク源)の確率を説明するためにこれが不可欠であると主張している。彼らはリスクの正確な理解を得るために、この段階が必要であると考えている。実際的な見地から、これは特定の起源または過程に由来する特定のハザードによるリスクを評価したいあるいはそれらの起源または過程に対して放出軽減のセーフガードをおくことのコスト‐ベネフィット分析を行いたい場合に、明らかに必要な段階である。
‘放出'は実際の暴露事象において暴露の可能性より前に発生する。そこで、Covello-Merkhoferシステムは放出のアセスメントの後に可能性のある暴露経路のそれぞれについて暴露の確率の評価を置いている。両モデルの第3の相違は、NASシステムが暴露のアセスメントを用量‐応答(ハザードの特徴づけ)段階の後に置いていることである。正確な定義にもわずかな違いがある。
第4の相違は2つのモデルにおける結果の位置と意味にある。暴露は次に結果-ハザードを考えれば望ましくない結果-をもたらし得る。したがって、Covello-Merkhoferシステムは結果のアセスメントを暴露のアセスメントの後に置き、起こり得るすべての結果を考慮し、その確率を評価できるように広く定義している。しかし、NASシステムは問題の化学物質の用量のバリエーションの結果、すなわち用量‐応答アセスメント(ハザードの特徴づけとも呼ぶ)だけを調べる。
引用文献
1. Casella G. & Berger R.L. (1990). ? Statistical inference. Brooks/Cole Publishing Company, Pacific Grove, California, 650 pp.
2. Cassin M.H., Lammerding A.M., Todd E.C.D., Ross W. & McColl R.S. (1998). Quantitative risk assessment for Escherichia coli O157:H7 in ground beef hamburgers. Int. J. Food Microbiol., 41 (1), 21-41.
3. Codex Alimentarius Commission (Codex) (1999). Principles and guidelines for the conduct of microbiological risk assessment, CAC/GL-30. Food and Agriculture Organization, Rome, 6 pp. Website: ftp://ftp.fao.org/codex/standard/volume1b/en/GL_030e.pdf (document accessed on 13 September 2001).
4. Covello V.T. & Merkhofer M.W. (1993). Risk assessment methods: approaches for assessing health and environmental risks. Plenum Press, New York and London, 334 pp.
5. Davison A.C. & Hinkley D.V. (1997). Bootstrap methods and their applications. Cambridge University Press, Cambridge, 582 pp.
6. Efron B. & Tibshirani R.J. (1993). An introduction to the bootstrap. Chapman & Hall, New York, 436 pp.
7. Food and Agriculture Organization (FAO) (1998). The application of risk communication to food standards and safety matters. Food and Nutrition Paper No. 70. Report of a Joint FAO/World Health Organization Expert Consultation. FAO, Rome, 46 pp.
8. Food and Agriculture Organization (FAO) (2000). Joint FAO/WHO Expert Consultation on risk assessment of microbiological hazards in foods. Food and Nutrition Paper No. 71. FAO, Rome, 54 pp.
9. Gelman A., Carlin J.B., Stern H.S. & Rubin D.B. (1995). Bayesian data analysis. Chapman & Hall, London, 526 pp.
10. Groebner D.E. & Shannon P.F. (1993). Business statistics: a decision-making approach. Macmillan, New York, 1,119 pp.
11. Jeffreys H. (1961). Theory of probability, 3rd Ed. Oxford University Press, Oxford, 470 pp.
12. Kaplan S. (1999). Beyond the domain of direct observation: how to specify a probability distribution that represents the state of knowledge about uncertain inputs. Risk Analysis, 19, 131-134.
13. Levin R.I. & Rubin D.S. (1994). Statistics for management. Prentice Hall, New Jersey, 1,024 pp.
14. Morgan M.G. & Henrion M. (1990). Uncertainty: a guide to dealing with uncertainty in quantitative risk and policy analysis. Cambridge University Press, New York, 332 pp.
15. National Academy of Sciences National Research Council (NAS-NRC) (1983). Risk assessment in the Federal Government: managing the process. NAS-NRC Committee on the Institutional Means for the Assessment of Risks to Public Health. National Academy Press, Washington, DC, 191 pp.
16. Office International des Epizooties (OIE) (1999). International animal health code: mammals, birds and bees, 8th Ed. OIE, Paris, 468 pp.
17. Olkin I., Glaser L.J. & Derman C. (1980). Probability models and applications. Macmillan, New York.
18. Ripley B.D. (1987). Stochastic simulation. Wiley, New York, 252 pp.
19. Rubinstein R. (1981). Simulation and Monte Carlo methods. Wiley, New York, 278 pp.
20. Sivia D.S. (1996). Data analysis: a Bayesian tutorial. Oxford University Press, Oxford, 189 pp.
21. Teunis P.S.N. & Havelaar A.H. (2000). The beta Poisson dose-response model is not a single-hit model. Risk Analysis, 2 (4), 513-520.
22. Vose D. (2000). Risk analysis: a quantitative guide. Wiley, Chichester, 418 pp.
23. Wooldridge M. (1999). Risk assessment report: qualitative risk assessment for antibiotic resistance. Case study: Salmonella Typhimurium and quinolone/fluoroquinolone class of antimicrobials. Annex IV. In Antibiotic resistance in the European Union associated with the therapeutic use of veterinary medicines: report and qualitative risk assessment by the Committee for Veterinary Medicinal Products, 14 July 1999. European Agency for the Evaluation of Medicinal Products, London, 41 pp.
表III.リスクアナリシスの用語の定義:CodexおよびOIEシステムの比較
用語 |
OIEの定義 |
Codexの定義 |
許容可能なリスク
Acceptable risk |
加盟国がその国内の動物の保護および公衆衛生と両立できると判断したリスクレベル |
対応する定義なし |
結果のアセスメント
Consequence assessment |
生物体に対する特定の暴露とそれらの暴露の結果との関連性の説明。暴露が健康または環境に有害な結果をもたらし、それが次に社会経済的結果を招くという因果関係の経過が存在しなければならない。結果のアセスメントはある暴露によって起こる可能性のある結果を説明し、それらが起こる確率を推定する。この推定は定性的なことも、定量的なこともある。 |
Codexの用量‐応答のアセスメントに同じ |
用量‐応答のアセスメント
Dose-response assessment |
OIEの結果のアセスメントに同じ |
化学的、生物学的または物理的因子への暴露の程度(用量)と付随する健康への有害な影響(応答)の激しさおよび/または頻度との関連性を明らかにすること-ハザードの特徴づけを参照 |
暴露のアセスメント
Exposure assessment |
ある起源から放出されるハザードに動物およびヒトが暴露されるのに必要な生物学的経路を説明し、その暴露が起こる確率を、定性的にまたは定量的に推定すること。 |
生物学的、化学的および物理的因子の食品を介する摂取の起こりやすさならびに他の起源からの暴露の定性的および/または定量的評価 |
ハザード
Hazard |
Codeとの関係でいえば、商品の輸入に有害な結果をもたらすことがあるすべての病原体 |
有害な健康への影響を及ぼす可能性のある食品中の生物学的、化学的または物理的因子あるいは食品の状態 |
ハザードの特徴づけ
Hazard characterization |
OIEの結果のアセスメントに包含されている |
食品中に存在する可能性のある生物学的、化学的または物理的因子による有害な健康への影響の性質の定性的および/または定量的評価。化学的因子については、用量-応答のアセスメントを実施すべきである。生物学的または物理的因子については、データが取得できれば、用量-応答のアセスメントを行うべきである。 |
ハザードの識別
Hazard identification |
輸入を考慮している商品に入り込む可能性のある病原体を識別する過程 |
特定の食品または食品群に存在するかもしれない、有害な健康への影響を及ぼす可能性のある生物学的、化学的および物理的因子の識別 |
実行
Implementation |
リスクマネージメントの決定を受けて、リスクマネージメントの措置が行われることを保証する過程 |
対応する定義なし |
モニタリングとレビュー
Monitoring and review |
それによってリスクマネージメントが行われ、意図した結果が達成されていることを保証するために継続的に検査が行われる進行中の過程 |
対応する定義なし |
選択肢の評価
Option evaluation |
その加盟国に適当な保護レベルに合うように輸入に伴うリスクを軽減するために、手段を識別し、有効性と実施の可能性を評価し、選択する過程。有効性はある選択肢が有害な生物学的および経済的結果の起こりやすさおよび/または激しさを軽減する程度である。選定した選択肢の有効性の評価は、それらをリスクアセスメントの過程に組み込み、結果的に許容可能と考えられるリスクのレベルと比較することを含む繰り返しの過程である。実施の可能性の評価は通常、リスクマネージメントの選択肢の実行に影響する技術的、作業的および経済的因子に集中する。 |
対応する定義なし |
定性的リスクアセスメント
Qualitative risk assessment |
結果の起こりやすさまたは結果の激しさに関する出力が、高度、中等度、低度または無視できる程度といった定性的用語で表現されるアセスメント |
対応する定義なし |
定量的リスクアセスメント
Quantitative risk assess-
ment |
リスクアセスメントの出力が数的に表現されるアセスメント |
|
放出のアセスメント
Release assessment |
動物に抗菌剤を使用して耐性菌または耐性決定因子を特定の環境に放出するために必要な生物学的経路を説明し、その過程が完結する確率を定性的または定量的に推定すること |
対応する定義なし |
リスク
Risk |
特定の期間中に輸入国の動物またはヒトに有害な事象が発生する確率および結果の起こりそうな程度 |
食品中のハザードによる有害な健康への影響の確率の関数および影響の激しさ |
リスクアナリシス
Risk analysis |
ハザードの識別、リスクアセスメント、リスクマネージメントおよびリスクコミュニケーションから構成される過程 |
リスクアセスメント、リスクマネージメントおよびリスクマネージメントの3つの構成要素からなる過程 |
リスクアセスメント
Risk assessment |
輸入国の領域内に病原体が侵入し、定着し、伝播される確率と生物学的および経済的結果の評価 |
以下の段階からなる科学にもとづく過程:(i)ハザードの識別、(ii)ハザードの特徴づけ、(iii)暴露のアセスメント、および(iv)リスクの特徴づけ |
リスクの特徴づけ
Risk characterization |
OIEのリスクの推定と同じ |
ハザードの識別、ハザードの特徴づけおよび暴露のアセスメントにもとづいて、ある集団における既知のまたは可能性のある有害な健康に対する影響が発生する確率および激しさを、付随する不確かさを含めて、定性的および/または定量的に推定すること |
リスクの推定
Risk estimation |
放出のアセスメント、暴露のアセスメントおよび結果のアセスメントの結果を総合して最初に識別したハザードによるリスクの全体的な大きさを示すこと。したがって、リスクの推定は識別されたハザードから望ましくない結果に至るリスクの経路の全体を考慮する。 |
Codexのリスクの特徴づけに同じ |
リスクの評価
Risk evaluation |
リスクアセスメントにおけるリスクの推定を加盟国に適当な保護のレベルと比較する過程 |
Codexのリスクマネージメントに包含 |
リスクマネージメント
Risk management |
リスクのレベルを軽減できる手段を識別し、選択し、実行する過程 |
政策の選択肢を秤にかけ、すべての関連団体と協議し、リスクアセスメントと消費者の健康保護および公平な貿易の促進に関係する他の因子を考慮して、適切な予防とコントロールの選択肢を選ぶ、リスクアセスメントとは別個の過程 |
感度分析
Sensitivity analysis |
定量的リスクアセスメントにおいて、モデルの出力に対する個々のモデルの入力のバリエーションが及ぼす影響を検証する過程 |
対応する定義なし |
透明性
Transparency |
リスクアナリシスに使用されるすべてのデータ、情報、仮定、方法、結果、考察および結論の総括的資料。結論は客観的、かつ論理的な考察に裏付けられているべきであり、資料には十分な参照資料を付すべきである。 |
対応する定義なし |
不確かさ
Uncertainty |
定誤差あるいは評価しているシナリオの構築時に必要な段階およびハザードからリスクに至る経路についての知識が欠如していることによる入力の価値の正確な認識の欠如 |
対応する定義なし |
バライアビリティー
Variability |
ある集団における自然の多様性によって入力の数値が同じではない現実世界の複雑さ |
対応する定義なし |
表VI.この文書に導入した新たな用語の定義
用語 |
定義 |
リスクマネージメントの政策
Risk management policy |
食料生産動物における抗菌剤の使用にかかわるリスクのモニタリング、測定、評価および管理についての規制政策の枠組み |
半定量的リスクアセスメント
Semi-quantitative risk assessment |
結果の起こりやすさと結果の程度の推定を、なんらかのスコア付け法によって半定量的に表現するアセスメント |