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ミカンコミバエ種群の解説(印刷版)

ミカンコミバエ種群の解説

本虫は、多様な植物の果実に甚大な被害を与える重要な害虫であり、東アジア、東南アジア等に生息している。我が国では南西諸島及び小笠原諸島に発生していたが、関係機関が連携し、18年の歳月と約50億円の防除費用をかけ、1986年に根絶を達成した(本誌第19号を参照)。一方、台風等の強風に乗って、東アジア、東南アジア等から毎年数頭~数十頭程度が我が国へ飛来してくることが確認されているため、平時より植物防疫所及び都道府県が連携し、本虫のトラップを設置して侵入を警戒しており、トラップで誘殺が確認された場合は、直ちに防除対策を実施している。 ミカンコミバエ種群成虫

1. 学名

Bactrocera dorsalis species complex

2. 英名

Oriental fruit fly species complex

3. 発生国・地域

インド、インドネシア、タイ、カンボジア、シンガポール、ベトナム、台湾、中国、フィリピン、エチオピア、ケニア、南アフリカ、ハワイ等
詳しくは発生国・地域一覧を参照。

4. 寄主植物

かんきつ類、りんご、ぶどう、いちご、なし、かき、もも、さくらんぼ、マンゴウ、パパイヤ、グァバ(ばんじろう)、すいか、メロン、トマト、きゅうり等
詳しくは寄主植物一覧を参照。

5. 形態

成虫の体長は7~8mm。胸背は褐色から黒色で、2本の黄色の側縦帯がある。小楯板は基部の細い黒色帯を除き黄色。翅は透明で、前縁脈沿いと臀脈沿いに細い褐色帯がある。蛹は長さ 3.8~5.2mmで黄褐色。幼虫は1齢から3齢までの発育段階があり、1齢は体長1.2~1.3mmで半透明、2齢は体長2.5~5.8mmで乳白色、3齢は体長7.0~11.0mmで中期までは乳白色で、後期には淡黄色になる。卵は長さ0.8~1.37mm、幅0.2~0.24mmで白色から黄白色。

ミカンコミバエ成虫   ミカンコミバエ蛹   ミカンコミバエ幼虫   ミカンコミバエ卵
         図1   成虫            図2   蛹            図3   幼虫                     図4   卵

その他の写真はこちらを参照。

6. 生態

成虫の総産卵数は1,200~1,500個。1回の産卵数は5~20個であるが、他の雌の産卵孔を利用して産卵することがあり、1個の果実に100個以上産卵することもある。幼果よりも熟果に好んで産卵する。 卵は、夏季は産卵後1日以内に孵化し、幼虫が果実の内部を加害する。幼虫期間は6~35日間で、土中で蛹化し、10~12日後に成虫となって出現する。成虫は1年を通じて発生し、1~5か月生存する。

7. 移動・分散方法

成虫が飛翔により移動する。飛翔距離は265kmの範囲で報告されている。近年の国内における誘殺事例は、台湾やフィリピンなど発生国・地域からの気流に乗った飛来と考えられている。また、本虫が寄生した果実の人為的な移動により分散する。

8. 被害の特徴

成虫は果実の果皮下に卵を産み、孵化した幼虫が果実内を加害する。加害された果実は腐敗・落下し、防除をしていない場合は収穫が皆無になることがある。果実表面には産卵痕が生じるが、寄生初期段階では発見が困難である。

メス成虫による果実への産卵      図6 幼虫による果実(左:マンゴウ 右:グァバ)への加害幼虫による果実(左:マンゴウ 右:グァバ)への加害
図5   成虫による果実への産卵      図6   幼虫による果実(左:マンゴウ   右:グァバ)への加害

その他の写真はこちらを参照。

9. 識別のポイント

本虫と形態的によく似たミバエとして、在来種のミスジミバエ及びカボチャミバエがある。特徴的な違いは、本虫の胸背には2本の黄色の側縦帯がある一方、ミスジミバエ及びカボチャミバエは2本の黄色の側縦帯に加え、中央縦帯がある(本誌第30号を参照)。より詳しい識別手法は、侵入調査マニュアルを参照。

         ミカンコミバエ(胸背の中心に黄色の中央縦帯(黄色い線)がない)                                                  ミスジミバエ(胸背の中心に黄縦帯あり)      カボチャミバエ(胸背の中央に黄縦帯あり)
      図7   ミカンコミバエ                                            図8   ミスジミバエ            図9   カボチャミバエ
胸背の中心に黄色の中央縦帯(黄色い線)がない                     胸背の中心に黄色の中央縦線(黄色い線)がある

10. 発見した場合の対応

可能であれば本虫の写真を撮影(又は捕殺)の上で、最寄りの植物防疫所又は都道府県の病害虫防除所にお知らせください。幼虫や卵が寄生している又は寄生の疑いのある果実がある場合は、分散防止のために果実をビニール袋等に入れて密封した上で、最寄りの植物防疫所又は都道府県の病害虫防除所にお知らせください。

11. 防除

本虫の発生が確認された地域においては、生産園地周辺の藪地の葉や幹にベイト剤(殺虫剤+たん白加水分解物)をスポット散布する。そのほか、誘殺板(殺虫剤+メチルオイゲノール)の設置による雄除去法、寄生果実の除去等が行われる。本虫の直近の緊急防除の実施に関する情報は本誌第110号を参照。

12. 経済的影響

本虫の寄主範囲が広く、防除をしない果実は100%の被害に達する場合もある。本虫の我が国での根絶前の調査によれば、沖縄県でかんきつ類4.1~36.4%、もも14.7~40.8%、パパイヤ19.0~27.2%、トマト0.2~4.9%、グァバ30.8~63.8%の被害果が、鹿児島県奄美群島でかんきつ類0.3~15.4%、もも19.5~39.8%、グァバ13.7~97.4%の被害果が確認された。

13. 海外のニュース ー本虫の発生状況ー

中国では、1934年に海南島での発見以降、1980年代には南部地域(北緯26度以南)まで分布を拡大した(Liu et al., 2019)。中国研究機関による2022年の報告によれば、気候変動、輸送活動等の影響により分布域は北京や河北省まで北上している(Zhu et al.,2022)。
南アフリカでは、東ケープ州において根絶を目指していたが、2021年5~8月の調査による本虫の多数の発見を受け根絶活動の継続は困難と判断した(IPPC Pest report)。

参考・引用文献

ミカンコミバエ種群の発生国・地域一覧表

ミカンコミバエ種群の寄主植物一覧

ミカンコミバエ種群の形態の写真

ミカンコミバエ種群による被害の写真

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