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PDF版:Eutypalata(PDF : 391KB)

Eutypa lataの解説

 本菌は、ぶどう等に枝枯れや立ち枯れを引き起こす重要病原菌である。本菌の発生により、米国、フランス、イタリア及び豪州では、大きな減収が確認されている。我が国は、本菌の発生国・地域からの宿主植物(栽培の用に供するもの)の輸入に関して、輸出国での栽培地検査を要求している(植物防疫法施行規則別表2の2の項目14参照)。
     

1. 学名

Eutypa lata

2. 英名

Eutypa dieback

3. 発生国・地域

米国、カナダ、フランス、イタリア、オーストリア、スペイン、ドイツ、ノルウェー、アルジェリア、南アフリカ、チリ、ブラジル、メキシコ、豪州、ニュージーランド等。
詳しくは発生国・地域一覧を参照。

4. 寄主植物

ぶどう、あんず、さくらんぼ、いちじく、ざくろ、オリーブ、びわ等。
詳しくは寄主植物一覧を参照。

5. 生態

本菌は、葉、枝、生きている又は枯死したつるや樹に感染し、樹内で長く生存する。本菌は、子のう菌類に属し、枯死した樹上で、子座及び子のう殻を形成する。この形成の過程は植物組織が枯死してから2年以上かかる。子座は数年間生き残り、毎年新しい子のう殻を形成する。

6. 移動・分散方法

枯死した樹上に形成された子のう殻から飛散する子のう胞子により伝染する。子のう胞子は風により50km以上移動すると考えられており、主に宿主植物の剪定痕から侵入する。また、感染植物の人為的な移動により分散する。一方、ベクター(媒介生物)や種子による伝搬は知られていない。

7. 病徴

ぶどうでは、感染後2~3年間は症状が現れず、6年以上症状が現れない場合もある。初期症状として、春季に芽の発育不全が現れる。感染した芽は通常の半分の長さにもならず、葉は黄化し、カップ状に反った形状を示す。枝の表面には、かいよう症状が現れ、それはやがて幹に達し、つる全体が立ち枯れを起こす。感染した幹の内部にはV字型の褐変した病斑が見られる。果実には症状は現れないが、感染した枝からは果粒の大きさが不揃いな房が生じることがある。 あんずでは、感染後に約18か月で症状が現れる。初期症状として、夏季に急速な枝枯れが生じる。葉は、枝にぶら下がったまま、萎縮し枯れる。剪定痕の周りにはかいよう症状が現れる。多くのかいよう症状からは多量のガム状の物質が生成される。

            
         

        
        
図2  枝枯れによる葉の黄化
     (ぶどう)
   図3   カップ状に反った葉
        (ぶどう)
図4   幹の内部の褐変した病斑
      (ぶどう)
   図5   果粒の矮化(ぶどう)

その他の写真はこちらを参照。

8. 防除

有効な防除として、感染植物や枯れ枝の除去等の衛生管理の実施、適切な剪定作業、剪定痕の殺菌剤保護がある。剪定後の2週間が最も本菌が感染しやすいことから、剪定直後の殺菌剤散布が推奨され、豪州では、フルアジナム、テブコナゾール等の殺菌剤が登録されている。

9. 診断、検出及方法

病斑上に子座又は子のう殻が認められた場合、実体・生物顕微鏡で菌体の形態を確認する。血清学的診断法又は遺伝子診断法でも検出できる。

10. 発見した場合の対応

本菌の感染が疑われる植物及び周囲の様子の写真を撮影した上で、最寄りの植物防疫所又は都道府県の病害虫防除所にお知らせください。試料を採取した場合は、散逸しないように厳重に梱包してお知らせください。

11. 経済的影響

米国ミシガン州のぶどう栽培では、重度に発病した園地で80%、中程度の園地で35%の収量の減少が報告されている。 豪州南部の複数のぶどう園地では、樹齢15~20年のシラーズ種の8%以上が本菌に感染しており、それらは10年以内に枯死すると考えられている。また、世界中の、本菌に感染した植物の植替え費用は年間約150億ドルを超えると見込まれる。

12. 海外のニュース -発生状況-

本菌は、主要なぶどう生産地域である米国、欧州、豪州等で発生していたが、2016年にはチリのぶどう園地から採取されたサンプルから本菌が初めて確認された(Lolas et al., 2020)。


*写真は全て「The South Australian Research and Development Institute」出典。

参考・引用文献

Eutypa lataの発生国・地域一覧表

Eutypa lataの寄主植物一覧

Eutypa lataによる病徴の写真

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編集責任者   三角   隆