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テンサイシストセンチュウの解説
| 本線虫は、テンサイ等のふだんそう属、あぶらな属植物等に寄生し、特にテンサイに甚大な被害を与えるシストセンチュウ類の一種であり、欧州、米国、豪州等に生息している。シストセンチュウ類は植物の根に寄生し、雌成虫が自らの体内に産卵し、乾燥等の過酷な環境下でも長期間生き残ることができるシスト(包嚢)を形成する。 我が国は、本線虫の発生国・地域からの寄主植物(栽培の用に供するもの)の輸入に関して、輸出国での栽培地検査を要求している(植物防疫法施行規則別表2の2の項目9を参照)。 また、2017年9月に長野県諏訪郡原村の一部のほ場において、本線虫が我が国で初めて確認され、まん延防止対策を講じているところである(詳しくはこちらを参照)。 |
![]() (ゼラチン状の卵嚢物質を排出する雌成虫(左)と幼虫(右)) |
1. 学名
Heterodera schachtii
2. 英名
Beet cyst nematode (Sugar beet nematode)
3. 発生国・地域
韓国、パキスタン、イスラエル、イラク、イラン、ヨルダン、トルコ、欧州、ロシア、セネガル、南アフリカ、米国、カナダ、メキシコ、チリ、ペルー、豪州、ニュージーランド等
詳しくは発生国・地域一覧を参照。
4. 寄主植物
テンサイ等のふだんそう属、キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、カリフラワー等のあぶらな属、しょくようだいおう、ダイコン、トマト及びほうれんそう
5. 形態
シストの外形はレモン形で、茶褐色~褐色。その形態には変異があり、シストの体長(頸部を除く)は0.5~0.9mm、体幅は0.3~0.6mm。シストの表面には網目状の構造がある。雌成虫は体長・体幅ともシストとほぼ同じで、レモン形。成熟雌成虫の体色は白色。
雄成虫の体形は糸状で、体長1,119-1,438µm、体幅28~42μm、口針長29μm、交接刺長34~38μm。第2期幼虫の体形は糸状で、体長は435~492μm。最大体幅は21~22μm、口針長24.4~25.7μm。尾は円錐状で、尾長は38~60μm、尾端透明部長は20~30μm。
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| 図1 シスト | 図2 シスト及び雌成虫 | 図3 シストから出てきた卵及び第2期幼虫 |
6. 生態
本線虫は雌雄が存在し、有性生殖を行うと考えられるが、詳細は不明である。雌成虫は、体外にゼラチン状物質を排出し、その中に1~200個程度の卵を産卵し、その後、内部に数個~600個の卵及び幼虫を内包したまま死亡すると、体表皮は硬化してシストとなる。シスト内の卵は寄主植物の根から分泌される物質に反応して孵化し、幼虫がシストから出て、根に寄生する。シスト内の卵内幼虫は寄主植物から分泌される孵化促進物質がない状況下では容易に孵化しない。また、土壌中にシストの状態で6年以上の生存が可能である。年間世代数としてドイツ北部の気象条件では3回。
7. 移動・分散方法
土壌中における本線虫の移動距離は、第2期幼虫で1年間又は一生のうちに数~数十cmと考えられている。また、孵化した第2期幼虫が根に寄生後、根に定着し移動しないが、雌成虫が死亡後にシストとなると雨風によって分散する。また、本線虫を含む土壌や農機器具の汚染等の人為的な移動により分散する。
8. 被害の特徴
根に寄生した幼虫が植物に多核質細胞を形成させることによって、植物体への養水分の吸収が阻害され、生育不良、黄化症状、地上部のしおれ等が見られ、枯死する場合もある。また、テンサイでは、多数寄生した場合、ひげ根が異常に増え、収量が著しく低下する。
なお、ほ場への侵入から作物に被害が出るまでに5年以上かかり、発見までに長期間を要する場合もある。
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| 図4 ハクサイの生育不良 | 図5 キャベツの根に付着しているセンチュウ |
9. 識別のポイント
本線虫を含むシストセンチュウ類は、属毎にシストの形が異なる。本線虫が属するHeterodera属はレモン形で、ジャガイモシストセンチュウ等が属するGlobodera属は球形である。詳しい識別手法は、侵入調査マニュアルを参照。
また、本線虫と同属で在来種のダイズシストセンチュウは、珠胞(シスト後端付近の内部にある付属物)が細長い指状で入り組んでいるが、本線虫では奥歯形の珠胞が特徴である(本誌第93号を参照)。
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| 図6 レモン形 (テンサイシストセンチュウ) |
図7 球形 (Globodera属センチュウ) |
10. 発見した場合の対応
可能であれば本線虫の写真を撮影の上で、最寄りの植物防疫所又は都道府県の病害虫防除所にお知らせください。本線虫が寄生している又は寄生の疑いのある植物(根回りの土壌を含む)がある場合は、分散防止のために植物をビニール袋等に入れて密封した上で、上記連絡先までお知らせください。
11. 防除
メチルイソチオシアネート・D-D油剤、D-D剤、クロルピクリンくん蒸剤等のくん蒸剤やイミシアホス粒剤、ホスチアゼート粒剤等の非くん蒸剤による化学的防除のほか、輪作や休作等の耕種的防除が行われている。海外の発生国では、抵抗性品種(テンサイ)の使用や太陽熱消毒等の物理的防除も有効とされている。
12. 経済的影響
本線虫によるテンサイの被害は、土壌中の線虫密度の増加に伴う収量の減少である。英国の調査では、線虫密度が土壌1g当たり5、10、20、30、40卵であった場合、1ha 当たりの減収は、それぞれ8.5、14.7、22.5、26.8、29.0トンと試算されている。フランスでは、感染率に違いはあるものの、2008年には40,000~60,000haのテンサイほ場が汚染され、その多くで15%の収量低下が見られたが、地域によっては30%になることもあった。
13. 海外のニュース-本線虫の防除-
韓国では、2011年に太白市のハクサイほ場での初発見後、緊急防除を実施しているが、2013年には、旌善郡及び三陟市でも発見された(Kim et al., 2016)。その後も防除区域の面積(2011年:11.6ha、2014年:51.3ha、2018年:85.4ha、2020年:97.6ha、2022年:118.1ha)は徐々に拡大している(韓国当局プレスリリース)。
参考・引用文献
- Heterodera schachtii(テンサイシストセンチュウ)に関する病害虫リスクアナリシス(PRA)報告書
- 侵入調査マニュアル(シストセンチュウ類)
- 重要病害虫発生時対応基本指針(平成24年5月17日付け24消安第650号消費・安全局長通知)
- Kim et al., 2016 Characterization of 15 microsatellite loci and genetic analysis of Heterodera schachtii (Nematoda: Heteroderidae) in South Korea. Biochemical Systematics and Ecology, Volume 64, February 2016, Pages 97-104.
- 韓国当局プレスリリース(2023年7月12日付け):상세보기 < 보도자료 < 새소식 < 정책홍보 < 농촌진흥청 (rda.go.kr) (accessed on 17 June 2024)
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