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印刷版:Xylella fastidiosaの解説(PDF : 421KB)

Xylella fastidiosaの解説

本細菌は、ぶどう、みかん、オリーブ等に感染し、大きな被害をもたらす植物病原細菌である。米国、中南米、台湾等で発生していたが、欧州では2013年にイタリアのオリーブ生産園地で初確認されて以降、フランス、スペイン等でも確認されており、まん延が警戒されている。欧州の発生状況は本誌106号及び126号を参照。
我が国は、本細菌の発生国・地域からの宿主植物(栽培の用に供するもの)の輸入に関して、輸出国での血清学的診断法又は遺伝子診断法による検査を要求している(植物防疫法施行規則別表2の2の第23項を参照)。
     
      感染して壊死したぶどう葉

1. 学名

Xylella fastidiosa

2. 英名

Pierce’s disease of grapevines、alfalfa dwarf、almond leaf scorch、citrus variegated chlorosis、dwarf lucerne、oleander leaf scorch、pear leaf scorch、pecan leaf scorch、periwinkle wilt、phony disease of peach、plum leaf scald等

3. 発生国・地域

台湾、イスラエル、イラン、イタリア、スペイン、フランス、ポルトガル、米国、カナダ、アルゼンチン、エクアドル、コスタリカ、パラグアイ、ブラジル、ベネズエラ及びメキシコ

4. 宿主植物

ぶどう、みかん、オリーブ、もも、アーモンド、さくらんぼ、アボカド、なし、きんかん、カエデ属、ニレ属等
詳しくは宿主植物一覧を参照。

5. 生態

本細菌は、グラム陰性で直径0.1~0.5μm、長さ1~5μmのかん状細菌で、べん毛を持たない。木部導管内に存在し、難培養性である。宿主植物ごとに異なる病名が付けられており、便宜的に宿主植物の違いによる系統(ブドウ系統、アーモンド系統、モモ系統等)分けがされていたが、2010年以降は分子系統解析により亜種が報告されている。種より下位の分類は未だ途中であり、研究が進められている。

6. 移動・分散方法

本細菌は、ベクター(媒介生物)により伝搬する。ベクターは、木部を吸汁加害するヨコバイ科、アワフキムシ科及びセミ科が確認されている。また、感染植物から採取した穂木を健全植物に接木すること等の人為的な移動によって分散する。

7. 病徴

宿主植物ごとに以下の病徴を示す。

ぶどう 葉に退緑斑が見られ、ひどくなると周辺組織の萎ちょう、乾燥が始まる。健全部との境が黄色又は赤色に変わり、葉は葉柄を残したまま早期に落葉する。本病に感染した樹は、翌年からの生育が遅れ、つるはわい化し、最初に展開する4~6葉では葉脈部が濃くなる症状が現れる。夏の終わり頃からは、葉枯れや萎ちょう乾燥等の症状が現れる。
みかん属、きんかん、からたち 葉の表面の葉脈間に不均一な退緑斑が見られ、症状が進むと葉の裏面にわずかに盛り上がった褐色の斑点が見られる。
オリーブ 樹の上部での葉焼けや枝枯れの散発、感染初期では節間の短縮が見られる。葉の先端と脈間がくすんだ黄色から茶色に変色し、枝の枯死を招く。時間が経つにつれ、症状は進展し、全体が白化して見える。幹、枝及び小枝の断面では導管、辺材部及び形成層に退変が見られる。
なし 葉焼け症状が見られ、葉焼けの周辺部が黄色く縁どられることもある。葉焼けは葉の先端部又は周辺部から始まることが多く、中央部まで広がっていく。感染した若枝は萎ちょう・枯死する。
もも、すもも、せいようすもも、さくらんぼ
ももの場合、枝の節間が短縮し、多くの側枝が伸長する。葉は暗緑色となり濃密に生ずる。このため、樹全体は葉が多く、緑色が濃く、樹冠は平らになり樹形はコンパクトな外観となる。もも以外(すもも等)の場合、葉焼け症状が見られる。

なお、上記以外の多くの植物は感染しても病徴を示さない場合がある。

図1   葉の退緑斑(ぶどう) 図2   葉の退緑斑(みかん) 図3   葉焼け症状(オリーブ)


その他の写真はこちらを参照。

8. 防除

感染植物の除去や健全な穂木の生産が実用的な防除方法である。ベクターの防除は、分散を防ぐ有効な方法である。海外では、宿主植物への農薬散布等の化学的防除は野外では有効ではないとの報告がある。

9. 診断、検出及び同定方法

血清学的診断法又は遺伝子診断法により検出可能である。

10. 発見した場合の対応

本細菌の感染が疑われる植物及び周辺状況の写真を撮影した上で、最寄りの植物防疫所又は都道府県の病害虫防除所にお知らせください。試料を採取した場合は、散逸しないように厳重に梱包して上記連絡先までお知らせください。

11. 経済的影響

米国では、本細菌の発生地域において、本細菌に感染しやすいヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)及びアメリカブドウ(V. labrusca)は栽培できず、代わりにV. rotundifoliaや抵抗性品種が利用されている。
スペインでは、2016年にバレアレス諸島で初確認され、その後、同諸島における約125万本のアーモンド樹の79.5%が感染した。

12. 海外のニュース

欧州では、発生が確認された場合、EU規則に基づき、根絶又は封じ込めの緊急防除措置が講じられている。当該措置においては、発見地点の半径50m圏内を感染地域として設定し、その地域の全ての宿主植物を除去する。さらに、少なくとも半径1~5km圏内を緩衝地域として設定し、宿主植物の移動制限等を講じている(European Commission Home page)。


写真は全て「EPPO」出典

参考・引用文献



Xylella fastidiosaの宿主植物一覧

Xylella fastidiosaの被害写真

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編集責任者   三角   隆